星の夜のささやき
星が瞬く夜空の下、屋敷はようやくその喧騒から静寂を取り戻していた。
歓迎会も終わり、猫たちは思い思いの寝床へと散っていった。
屋敷の一角、ふかふかの布が敷かれた小部屋で、リリーと星夜が寄り添って眠る準備をしていた。
窓から月明かりがそっと差し込み、白い毛並みのリリーを柔らかく照らしている。
「リリーおねーちゃん、今日は来てくれてありがとう」
星夜はふと、リリーの毛に顔をうずめるようにして小さな声で言った。
「ううん、こちらこそ呼んでくれて嬉しかったわ。星夜、もうすっかり元気そうね」
「うん、もう全然いたくない。いっぱい食べたし、遊んだし、ぜんぶリリーおねーちゃんとおねーちゃんのおかげだよ」
「ふふ、そっか。よかった」
リリーはそっと星夜の頭を撫でた。
その手はまるで母猫のように、優しく、あたたかい。
星夜はくすぐったそうに身をよじったあと、ぽつりと尋ねた。
「ねえ、リリーおねーちゃん。リリーおねーちゃんは、なんでぼくのこと、そんなにやさしくしてくれるの?」
「……そうね」
リリーは少し考えるように視線を宙に泳がせた。
「たぶんね、あの日、病院で眠っていた星夜の顔が、昔の私に似てたの。あの頃の、寂しかった自分に」
「え……?」
「私もね、昔は北町で、ひとりぼっちだったのよ。いつも誰かの後ろに隠れていて、人と話すのが苦手で、笑うことも少なかった。けど、ある日、出会ったの。今の先生――武先生とね」
「武せんせいに?」
「ええ。先生は私を拾ってくれて、ご飯をくれて、お話をしてくれた。何もできなかった私に、“ここにいてもいいんだ”って思わせてくれたの」
「……」
「だから、星夜を見て、私、放っておけなかったの。あのときの私を助けてくれた先生のように、今度は私が誰かを助けてあげたいって、そう思ったの」
リリーの目が月明かりに照らされて、淡く潤んでいるように見えた。
星夜はその話を黙って聞きながら、小さな声で言った。
「……ありがとう、リリーおねーちゃん」
そして、少し笑って付け加えた。
「ぼく、リリーおねーちゃんみたいな猫になりたいな。つよくて、やさしい猫に」
リリーはその言葉を聞いて目を細めた。
「うん。きっとなれるわ、星夜。だって、君はもう、誰かのために泣ける子だもの」
星夜は照れくさそうに笑いながら、ごろりと身を丸めた。
「おやすみ、リリーおねーちゃん」
「ええ、おやすみなさい」
部屋は静かになり、外から聞こえる風の音が子守唄のように響く。
リリーはそっと星夜のそばに身体を寄せ、眠りについた。
一方そのころ、別室では――
「ふぅ……なんだか今日は、色々と疲れましたわ」
鈴音は大きく伸びをしながら、持ち込んだクッションに体を沈めた。
「やっぱり、クロ様を追いかけて来たのは、ちょっと強引でしたかしら……?」
反省のような、照れ隠しのような独り言をこぼすと、ふと天井を見上げる。
(でも……クロ様がここにいる限り、きっとまた波乱が起きるでしょうね)
そう思うと、不思議と胸が高鳴った。
騒動のあとの静けさが、むしろ心地よい。
そして――
「また、会いに行く理由ができましたわね。ふふっ」
そんな言葉をこぼして、鈴音も静かに目を閉じた。
やがて、屋敷中が深い眠りに包まれる。
星空は静かにきらめき、猫たちの心に新しい希望の灯をともしていた。




