小さな円卓会議、クロ包囲網作戦
夜も深まり、屋敷の一角に用意された小さな部屋には、ぽつぽつと柔らかな灯りがともっていた。
テーブルの上にはハーブティーと、小さな魚の干物や野草のサラダ。
女の子たちにぴったりの夜更かしセットだ。
話題はひとしきり盛り上がり、自然と“あの猫”の話に移っていった。
「それでね、その時クロ様ったら――“こんな所で油を売ってないで帰りなさい”って私を叱るんですのよ?」
鈴音がちょっとむくれたように言いながら、尻尾をぴんと立てた。
「まぁ、それって逆に心配してくれてるって事じゃないの?」
麟が茶を口にしながら笑う。
「優しいのよ、あの子は。言葉足らずで不器用だけどね」
リリーが少し目を細めながら言った。
「え? じゃあ、リリーさんは昔からクロのこと知ってるの?」
「ええ、もうずいぶん前になるわね。あの子、昔はもっとトゲトゲしてて、誰とも群れようとしなかったのよ」
「うそっ、今のクロからは想像できない!」
麟が驚きの声をあげる。
「ほんとですの? 今でもちょっと冷たい感じはしますけど、そこまでだったとは……」
「そうなの。でもある時、北町で事件があって――それをきっかけに彼、少しずつ変わったの」
リリーの表情が少しだけ遠くを見るようなものになる。
「事件……?」
「詳しくは言えないけどね、命を張って誰かを守ったことがあったの。その後しばらく姿を見なかったけど、戻ってきた時には別猫みたいに落ち着いてて」
「まるでドラマみたい……」
麟が思わずうっとりした声を漏らす。
「でも、不器用なのは相変わらずでしょ? ああ見えて、女の子からの好意に全然気づかないのよ」
リリーは少し苦笑する。
「それ! わたくしもですわ! ちゃんとアピールしているつもりなのに、いつも『そろそろ帰ったほうがいい』って言われるんですの!」
鈴音がテーブルに前足を叩きつけるようにして抗議すると、麟が大爆笑する。
「やばい、それ完全に空気読んでないやつだ!」
「ほんとうに、もう……困った猫ですわ」
「でも、そういうところがクロのいいところなんじゃない?」
リリーが少しだけ微笑む。
「誠実で、真面目で、不器用で――」
「うん。だからこそ、なんか……放っておけないよね」
麟もこくりとうなずく。
「そう……だから好きになってしまうのよね、放っておけないクロ様に」
鈴音は、少し頬を染めながら、ぽつりとつぶやいた。
「……あらあら、じゃあ、これは恋バナに突入かしら?」
リリーがくすっと笑い、女子会はますます盛り上がりの気配を見せていた。
女子会の部屋には、再びお茶の香りがふんわりと広がっていた。
先ほどまで盛り上がっていた“クロ様裏話”から自然と話題は一つのテーマへとまとまっていく。
「……というわけで、つまりクロ様は誰からも好かれているけれど――」
「誰のことも“特別”には見ていない、ってことよね」
リリーと鈴音の言葉が重なる。
「じゃあさ、ここらで本気出して“落とす”作戦、考えてみない?」
麟のその一言に、場が一瞬静まり、次の瞬間、女子たちの目が輝く。
「わたくし、参加いたしますわ!」
鈴音が即座に宣言。
「面白そうね。どうせなら、クロが照れるくらい本気でいってみる?」
リリーも少し笑って乗ってきた。
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第一作戦:クロの“苦手”を知る!
「まずは敵を知る、ですわ。クロ様の苦手なものは……?」
「うーん、女子の押しに弱いところはあるよね?」
「あと、強引にくる子には妙に敬語になる傾向があるわね」
「わたくし、もしかして……効果的?」
鈴音が目を輝かせる。
「うーん、でもやりすぎると逆に逃げちゃうかも?」
麟がちょっと悩んだ表情を見せた。
「やっぱり、さじ加減が大事ってことね」
リリーが頷いた。
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第二作戦:ギャップ攻撃!
「いつもとは違う一面を見せるっていうのはどう?」
麟の提案に、鈴音が乗ってくる。
「例えば、普段は甘えん坊だけど時折きっぱりとした一言を言ってみるとか……?」
「わたくしが……ですの? 急にしっかり者キャラ……?」
「それがいいのよ、意外性ってやつ」
「リリーさんはどうですか? 何かギャップあります?」
「そうね……普段は冷静だけど、実はおっちょこちょいなのよ。今日だってお茶碗ひとつ割っちゃった」
「えっ、そんなことあったんですか!?」
麟が驚くと、リリーはいたずらっぽく笑う。
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第三作戦:好きなことを一緒にする!
「クロって、あんまり趣味とか語らないじゃない? でも前に屋根の上で月見してたの見たことあるのよ」
リリーがそう言うと、麟が目を輝かせる。
「じゃあ、星を見るのが好きなのかも! あ、星夜って名前、けっこうピッタリだったんだね!」
「ふふ、じゃあ“月見作戦”決行ね。夜、そっと声かけて誘ってみるの」
「クロ様、月でも見に行きませんか? ……って!」
鈴音が両手(前足)を頬に当てて妄想にふける。
「キザすぎて引かれないようにね……」
リリーの冷静なツッコミに皆が笑う。
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最終確認
「じゃ、まとめると――」
麟が指を折りながら確認する。
1. クロの反応をよく観察する(苦手把握)
2. ギャップを意識して行動する
3. 趣味に絡めて自然に接近
4. 一気に詰めず、少しずつ距離を縮める
「……これ、ただの恋の指南書になってきたね」
リリーがにやりと笑うと、皆も釣られて笑った。
「でも、どうなるか楽しみですわね。クロ様を本気にさせる時が、きっと来ますわ!」
その夜、クロの知らぬところで――
彼の運命を左右する、恋の包囲網が静かに張り巡らされていた。




