白と金
屋敷の広間では、猫たちが集まり、いつもとは違った賑やかさに包まれていた。
今夜は、北町から来た二匹の美しい猫――リリーと鈴音を迎える、ささやかな歓迎会である。
玄関先では、町の猫たちがきっちり二手に分かれて整列し、まるで王宮の式典のような出迎えがなされた。
屋敷のいつも散らかっている床も、信じられないほどピカピカに磨かれ、艶やかな飾りつけまで施されている。
その光景を見た麟は、唇を尖らせてつぶやいた。
「私が来たときと……扱いが全然違うじゃないのよ」
クロはバツが悪そうに視線を逸らした。
「な、なにしろ今日は北町でも有名な……その、一・二を争うくらいの……」
「言い訳しないっ!」
そんなやりとりも、会場を和ませる良いスパイスだった。
会の開始を知らせる鈴の音が鳴り響くと、議長がにこやかな顔で前へと進み出た。
「本日は、遠路よりようこそお越しくださいました。リリー殿、鈴音殿。この町の猫一同、心より歓迎いたしますぞ」
「ありがとうございます、議長様。こちらこそ、温かいおもてなしに感謝いたしますわ」
リリーが優雅に頭を下げ、鈴音もそれにならう。
「とても素敵な町ですね。来てよかったと思っていますわ」
拍手と歓声の中、屋敷の空気はますます温かく、そして華やかになっていった。
歓迎会も中盤を迎え、屋敷の一角では、落ち着いた灯りのもとで
リリーと鈴音、そして麟が円卓を囲んで静かに座っていた。
外では他の猫たちがおしゃべりやお茶を楽しんでいる。
その喧騒から少しだけ離れた空間――それが、女子会の始まりの場所だった。
「ふぅ……なんだかようやく静かになったわね」
リリーが湯気の立つ猫用ハーブティーを口にしながら、優雅に言った。
「ほんとほんと! 歓迎会って言うより、なんかお祭り騒ぎだったよね」
麟は笑いながら頬を膨らませた。
「うふふ、でも素敵な歓迎でしたわ。さすがクロ様のお屋敷。皆さん温かくて」
鈴音は笑みを浮かべながらも、どこかクロの姿を探している様子でちらりと辺りを見回した。
「クロなら、さっき星夜の寝かしつけに呼ばれて行っちゃったわよ」
リリーがさらりと言うと、鈴音の目がほんの少しだけ鋭くなった。
「まぁ……お優しい方ですこと」
「なんか、あの子はクロにやたら懐いてるみたいだもんねぇ」
麟が茶を飲みつつ、星夜のことを思い出して微笑む。
「でもね、麟さん。あの子、本当に良い名前をいただいたのね。“星夜”――まるで星空のような輝きを持つ目をしてる」
リリーの言葉に、麟は照れたように肩をすくめた。
「ありがと、まだ悩んでるけどね。クロに“その名前は良い響きだ”って言われたとき、ちょっと嬉しかったかも」
「クロ様の一言で決まった名前……なんてロマンチックなのかしら」
鈴音がぽや〜っとした目をしてうっとりする。
「はいはい、鈴音さん。クロへの愛はほどほどにね」
リリーが冷静にツッコミを入れると、麟が吹き出した。
「なんか、リリーさんと鈴音さんって正反対なのに、妙にバランス良いね!」
「そうかしら? 私から見ると、鈴音ったらとにかく一直線すぎて危なっかしくて……目が離せないのよ」
「失礼ね、私はただ、心に正直なだけですの」
「それを“猪突猛進”って言うのよ」
「ちょっとー、ふたりとも面白すぎ!」
麟はテーブルを叩いて笑い出す。
その笑い声に、さっきまでの喧騒とは違う、あたたかな余韻が部屋に広がっていく。
そしてリリーがふと静かに言った。
「でもね、こうやって女の子だけでのんびり話せる時間って、久しぶりかも」
「うん、私も。なんか……嬉しいな。こういう時間、大事にしたいよね」
「ふふっ、じゃあ今夜は女子会って事で、話したいこと、たくさん話しましょうか?」
「賛成ですわ! クロ様の話も、た〜っぷり聞かせてくださいましね」
「それは……ほどほどに、ね」
笑い合う三人の声が、夜の屋敷に穏やかに響いていく。
こうして、猫たちの小さな女子会が、静かに幕を開けた――。




