人喰い森で薬草を探すおっさん冒険者
「グフ先輩!教えて下さい!薬草のありかを。ヒドいじゃないですか。嘘を書いて辞めるなんて!」
俺は冒険者、薬草探しのグフ。
最近、元いた職場の支店長と後輩のエードリッヒがやってくる。
俺が商会に納めていた薬草がどうやっても手には入らないそうだ。
いつも言っていた。俺じゃないと多分無理な場所だと。
だが、彼らは人の話を聞かない。
どっかで交易をしていると思っている。
まあ、そんなものだ。
俺が追放を宣告されたときに、きちんと申し送りで書いた。
場所は。
「聞いたぞ。グフ君、魔の森の中のルクク山だと!冒険者に依頼したら鼻で笑われたぞ!人喰いオーガがいて森の中にはいるのにも大規模なクランが必要だってな」
「そうですよ。先輩は一体どこで手に入れているのですか?」
「だから、魔の森ルクク山としか言いようがない。月夜に光る薬草だからすぐに分かるよ」
季節は。
「それに、季節は春が少し過ぎた先だって!困るのだよ。今、グレーリ男爵様のご令嬢が病気になっている。いつも、君が持って来た薬草でないと薬を作れないんだ!」
「そうです。ヘンムリート商会の信用にかかわります」
俺は。
「なら、外国からでも手に入れたらどうですか?」
こう返すしかない。
今なら、ギリギリ間に合うか?
「手に入れて下さい!仕事を依頼します!」
「そうだ。金貨10枚払おう。これでもギリギリだ」
そうか、俺が命をかけて薬草を採りに行ったのにな。市場価格を知った。金貨100枚以上にまで膨れ上がっている。
大分、中抜きをされた。
まあ、良い。ご令嬢のためならエンヤコーラだ。
俺は無言で去った。薬草を採りに行くが、こいつらに納めるとは言っていない。
俺は野菜や果物を多量に仕入れて・・・これは俺の分の食料は背負えないな。ビスケットだけ持っていこう。肉は厳禁だ。
俺は食堂で食いだめをして。
冒険者ギルドに魔の森に入る事を申告した。
「あ、その冗談つまらないですから」
メガネの受付嬢にそう言われた。
しかし、一応、書類は出しておく。
ポイッと捨てられた。
魔の森に入る。
一週間寝ずに歩き続ければ大丈夫だ。
と言っても皆はポカンとする。これは大変キツい。
1日目、2日目が経過した。休憩を挟みながら森に進んだら、一角グリズリーに出会った。
目を見ながら、背中を見せずにゆっくり後ずさりをした。
この季節、一角グリズリーは凶暴でない。夏は緑だらけだが、木々は実をつけない。
だから凶暴になるそうだ。そして、秋は冬眠に備えて凶暴になる。
冬眠から醒めた直後も餌を求めて凶暴になる。
そして、お腹がいっぱいになりがちな春の終わりかけが丁度良いのだ。
更に進むと、川沿いでドレスを着た女が立っていた。
人族に擬態している。
この森の中で真っ黒なドレスを着ている。髪は白髪だが、口から細く二本に割れた舌がチョロリョロ出ている。瞳は縦に細い。まるで蛇だ。
蛇獣人か。
袖の長いドレスで鱗を隠しているのか。これで人族に擬態しているつもりらしい。目が合い話しかけてきた。
「これ、そこの旅の者、我は人族の高貴な身分の者であるぞ」
自分で言うか?
しかし、合わせる。
「それはそれは失礼しました。お嬢様、如何されたか?」
「この贈り物をこの先の滝に住まう友人に届けて欲しいぞ」
「はい、喜んで」
「開けてはならんぞ。この袋に入っているのが御礼だ」
茶菓子ぐらいの箱と小さな袋を渡された。
そして、女が見えなるまでの所についたら、袋の中を見た。
小鳥の死骸だ。一応、礼らしい。
箱を開けた。異臭が漂う。
「ウグ・・」
箱は人の鼻だったり。これは、イチモツか?人族の体の断片だ。
そして、手紙があった。
この文字は魔族文字だ。
俺はだいたい読める。記号のようなものだ。
解読すると。
‘’足りない分は、この人族でお願いします。森の主様’’
と書かれていた。
そうか、俺は魔物の献上物にされたか。
俺は書き換えた。
・・・・・・・
川沿いに進むと、滝に到達した。俺の姿を水面に映すと、滝壺から女が出てきた。
水色の髪の女だ。水の上に立っている。これで人族に擬態しているらしい。
「誰じゃ」
「はい、白髪の貴婦人からこの箱を渡すように頼まれました」
「うむ」
手紙を見ると、水色の貴婦人は不思議そうな顔をしている。
「少し、待て」
「はい」
バチャン!
水の中に潜り。水竜の鱗を持って来た。
「ほれ、礼じゃ」
「はい、有難うございます」
数枚だ。これで武具を作ればかなり強力な物になる。
これでしばらく川沿いのルートは通れないな。
魔物界も入れ替わりが激しい。しかし、油断は禁物だ。
グガー!グガー!
空には子牛ほどの大きさの怪鳥が舞う。
俺が寝たらさらう気だ。
だから、寝られない。
やがて、ルクク山の山頂に到達した。
怪鳥も諦めて去った。
この山は高くない。山頂は湖になっていて、周りに木が生えている。
木の下に人喰いオーガの貴婦人がいた。木に背を預け座っている。
「よお、人族の男よ・・・よく、来たな」
「ご婦人、お久しぶりでございます」
ガタン!
ここで力尽きた。
目が覚めるとオーガの貴婦人の顔が飛び込んで来た。金髪が鼻にかかる。痩せているが、美人だろうな。
膝枕をされていた。
「はっ、失礼しました」
「良いのじゃ・・・このまま話を聞いてくりゃらんせ」
「はい」
・・・妾はオーガの姫じゃった。
オーガというても滅多に人は食べない。
人族との交わりも可能じゃ。
妾は森に来た木こりに恋をした。
カーン!カーン!と斧を振るう木こりを木に隠れて、ずっと見ていた。
禁断の恋じゃ。
角は帽子で隠したのじゃ。妾のは可愛い小さな角じゃったからのう。
ある日、思い切って彼の前に出た。
『え、こんな森の中にご令嬢が?迷われたのですか?』
恥ずかしくて、コクッと頷く事しかできなかった。
一緒に山小屋に住むことになってな。
子供も生まれた。男の子じゃ。
「オギャー!オギャー!」
「ヨシ、ヨシ、可愛いのう」
「この犬歯は、お母さん似だな」
幸せな毎日だった。
妾は街にはおりなんだ。
旦那様も妾に合わせて森の中に住むようになったのじゃ。
どこかで政変が起きて、隠れなければならない令嬢だと思い込んだのじゃ。
ある日な・・・・
「グスン、グスン、ウウウウ、ワー!」
泣き出した。俺はこの話を何回も聞いている。
しばらく泣いてから話を続けた。
旦那様が怪我をしたのじゃ。
ほんの小さな傷で血が数滴流れていたのじゃ。
「大変じゃ、治療しなければならないのじゃ!」
「大丈夫だよ。ツバでもつけておけば」
「なら、妾が舐めるぞ!」
ほんの少しの血を吸ったら・・・妾の瞳は緋色になって、
「美味い!美味い!美味い!」
「オギャー!オギャー!オギャー!」
旦那様を食うてしもうたのじゃ。
「ハッ!」
我に返ったら旦那様は骨と血肉だけになっておった。
【アアアアアアアアーーーーー!】
妾は坊やを放り。逃げ出した。
全てが怖くなり嫌になり。この山まで逃げてきたのじゃ。
オーガの里でも人を殺す事はいいが、食べるのは禁忌じゃ。
もう、どこにも戻れない。
この森は人を食べた魔物が追放されて住まう森じゃ。自ら追放場所に選んだ。
途中で蛇獣人と水竜が仲間になって人を食おうと誘ってきたが。
妾は半殺しにした。
「以来、この山に籠もり。肉食を禁止にしたのじゃ。人の肉は美味じゃ。麻薬のように食べ続けたくなる。
魔物も人を襲っても食さない。これは・・・女神がか弱い人族を守るために授けた毒のようなものかもしれん」
俺は黙って話を聞いた。何回も聞いたが。
こうやって話す事で気が晴れれば良い。
「ご婦人、また、魔物文字を教えて下さい」
「おお、ええのう。こうやって、坊やに教えてやりたかった。今度は少し高度な物を教えてやろう」
野菜と果物をあげる。
「お土産でございます」
「ありがとう・・・この地に生えている薬草は採って良いぞ」
「有難うございます。提案です。トマットの種を持って来ました。植えていいですか?」
「・・・好きにするがよかろう」
彼女は、木をジィと見ている。果実が落ちてくるのをただ待っている。落ちてくる果実だけを食べると決めたそうだ。
採集すらやらないと決めたそうだ。
彼女の心が晴れれば良いと心から願う。
そして、また、普通に暮らして欲しい。
帰りは別ルートで帰った。
冒険者ギルドで薬草を買い取ってもらうか?
水竜の鱗の買い取りをお願いした。
「はあ?グフさん。偽物だったら、F級から見習いに降格しますよ。でも、一応鑑定に回します。偽者だったら鑑定料を請求します」
しばらくして、奥から驚きの声が上がった。
あの受付嬢は大慌てだ。
「どこで拾ったのですか?まあ、ラッキーでしたわね。大金貨3枚でどうですか?」
「ああ、それで良い」
「ちょっと、どこで拾ったか言いなさい!」
「だから、申請を出した魔の森ですよ」
「はあ、魔の森では、水竜と、蛇獣人族の戦争が始まっているわよ。嘘、仰い!」
あ、これは、俺のせいか?
これで共倒れをすれば魔の森は人族に取っては安全になるかもしれない。
しかし、薬草はどうするか?男爵と面識がない。
ここで売っても不愉快な思いしかしない。
街の商会に行っても門前払いをされた。
「裏口から回って!」
「いや、買取り客だが」
「今はしょっぽい買取りはしていないの。月光がなくて困っているのだ」
「はあ、その月光を持って来ました」
「馬鹿らしい!冒険者は嘘ばかり言うからな」
これは本当だ。素材を偽って売る冒険者も対策しなければならないほど存在する。
街を歩く。
小さな商会があった。
一応、ここでも買い取りを打診するか。
「いらっしゃいませ!!ミミリー商会にようこそ!何をお求めでしょうか?」
「ああ、お茶だ」
「はい、お茶をいっぱいお待ち!」
これは当たりかもしれない。お茶がスーと出てきた。
俺の小汚い姿を見て態度を変えない。王都の有名商会のようだ。
お茶目的で来る客もいるぐらいだ。
「買い取り希望だが」
「はい、何をお持ちでしょうか?」
「薬草だ。見てくれ」
「これ・・・見たこと無いわ。ラリー、このお客様にお茶のお代わりと焼き菓子を出して、すみません。鑑定士を呼んできます」
「ああ、そうしてくれ」
・・・・・・・・
「・・・これは高級ボーションの材料、月光に間違いない・・・ヘンムリート商会が扱っていて、去年から急に市場から消えた薬草だぁ!」
「ウヒョー!ワーイ!」
騒がしい娘だ。薬草を手に持ち空にあげ。小躍りしている。小さい背でピョンピョン飛び跳ねている。
金髪が眩しい。胸が・・・揺れている。目を背けた。
「お客様!オークションに出すことをおすすめします!我が商会が落札価格から手数料を頂きます。より大もうけできますよ。
ですが、グレーリ男爵様のご令嬢が魔力枯渇の病にかかっていて、その分だけでも買取りさせて下さい!」
「ああ、それで良いよ」
「少々、お待ち下さい。現金をお渡します。それでオークションまでどこにお住まいですか?」
「いや、宿だよ」
「なら、うちの二階に下宿してくださぁい!お願いしますよ~旦那様~!下宿代いりませんから」
騒がしい娘だ。行商から店舗持ちに成り上がった才覚持ちだ。
オークションの結果、俺は大金貨数千枚を手にした。
「ウヒョー!やった!やった!」
ミミリーは大喜びだ。ミミリー商会も大もうけ出来た。
「おい、抱きつくなよ!」
やがて、親に挨拶をしなければならない関係になった。
「グフさんのお母様はどこに住んでいるの!」
「ああ、それは・・・」
言葉を濁した。
俺は・・・・
☆☆☆回想
俺は孤児院出身だ。両親は木こりだったと聞いている。
父は残酷に殺され、母は誘拐されたか分からない。
衰弱しているところを猟師に発見された。だから飢えへの耐性を身につけたのだろう。
「グフ、その犬歯、怖いから抜きますね」
「院長先生、嫌だよ!」
・・・・・・・・・・
血が呼んでいる。成年してからあの魔の森に好んで入るようになった。
俺は答えた。
「近くて遠い場所にいる。まだ、本物の母親か確信できない。本当の事を話せない。すまない」
「分かったわ」
ああ、早く、オーガの姫、自分の心に決着をつけて欲しい。
願わくば山を降りて生きて欲しい。その時に息子だと名乗り出よう。
と思う毎日だ。
最後までお読み頂き有難うございました。