その争いの原因は
あるとき女神が眠っている人間の王の夢に現れるとこう告げた。
「魔族のもとに攻め込み魔神を倒しなさい」
同じ頃に魔族の王のもとに魔神が現れてこう告げていた。
「人間のもとへと攻め込んで女神を倒せ」
そうして二つの種族は長い間に渡って保ってきた平和を捨て、血みどろの争いが始まった。
争いは一進一退、戦線は常に動き続け、たとえどこかでどちらかが勝っても別の場所では負け、やがて負けた方が盛り返しを繰り返して一向にどちらが有利になるということはない。
終わりの見えない争いに二つの種族が疲れ切ったとき、不意に二柱の神が再びそれぞれの王のもとへと現れてこう告げた。
「争いを止めよ。もう向こうの神を狙うな」
疲れ切っていた二つの種族は喜んでこの言葉に従い、人間と魔族の間にはまた平和な時間が流れ始めた。
そもそもなぜ神々は相手を攻めろと言ってきたのだろうという疑問を浮かべる者がいないわけではなかったが、きっと人間や魔族には及びもつかない深い理由があるのだろうと自分を納得させて日々の生活に戻っていった。
人間と魔族の争いが終わった頃、神々の住む天界では女神と魔神がお互いに自分の非を認めて謝り合っていた。
ちょっとした行き違いで喧嘩になり拗れてしまったことをお互いに反省したのだった。
その間に犠牲になった人間と魔族のことはお互いに気にしていなかった。
夫婦喧嘩で食器が割れてしまったとしても、よほどお気に入りでもない限りそのことをあとに引き摺らないのと同じことである。
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