STORIES085: 夢のつづきを
STORIES 085
大袈裟なんかじゃなく
朝は戦場だ
洗濯機をまわし始め
息子の忘れ物チェック
娘の弁当づくりを進めつつ
みんなの朝食を用意する
とにかくみんなを送り出して
少しだけ珈琲タイム
そして今日は 少し遠出をする日
.
1年ぶりに訪れた街
あの交差点へ差し掛かる
鼓動が早まる
何度訪れても慣れることはない
その場にへたり込んでしまいそう
ガードレールに手を掛けて
少しだけ目を閉じる
駅へとって返しそのまま東京駅へ
静岡へ向かう新幹線がホームに到着する
あの人の眠る街へ
.
あの頃 あなたはいつも
沢山の仕事を抱えていて
食事なんかコンビニ弁当ばかり
それでもひとりの部屋に戻るなり
毎晩わたしに電話をくれた
2年の間 欠かすことなく
…本当は時々かかってこなかった
忙しくて疲れていたものね
ゆっくり眠って欲しかった
わたしはそれまででいちばん
穏やかな日々を過ごしていた
あの静かな雨の夜までは
.
現実を受け入れられなくて
抜け殻のようになったわたしを
気遣ってくれた古い友人たち
彼もその中の1人
待つよ ゆっくりでいい
でもね 俺が引っ張って進むから
そう言ってくれた彼に
心を許せるようになるまで2年かかった
待つよ いくらでも
でもね みんなが君の幸せを願ってる
そう言ってくれた彼と
家庭を築く決心がつくまで更に6年かかった
そして2人の間に生まれた長女は
昨日 16才になった
.
もう25年も経ったんだね
まだ25年しか経たないのか
どっちだろう
墓前でひとり呟いてみた
今でも忘れることなんて出来ない
大好きだったあの人が
大好きな記憶を残したまま
大好きな気持ちのなかで
突然消えてしまったのだから
夜が明けることすら苦しくて
わたしも消えてしまいたかった
.
いろんなことに必死に向き合うことで
なんとか生きながらえてきた
彼に支えられ 家庭の温かさに癒され
笑顔で日々を過ごしている
でもそれでいいのかな
わたしだけが幸せになって
あなたを忘れられないわたしを
それも込みでいいと受け入れてくれた彼を
わたしは幸せにできているのか
あなたを思い出す時間が
少しずつ減っていく
そんな自分も許せない
でも 人って
いろんなことを忘れていくんだね
悲しくても忘れたくないことだって
世の中にはたくさんあるのにね
.
ここへ来るのは今日で最後にしようと思う
いまのわたしの大事な人たちを
もっとちゃんと幸せにしたい
忘れない
でも、それに縛られない
あなたならきっと
笑ってくれるよね
あなたならきっと




