7 食事処にやってきた
ギルドの用事はとりあえず終わった。たぶん召集はかかるけど、これから話詰めて明日以降だろうな。それに今日の行き先はシュクロンに変更しなきゃか。急に変えてギムリはなんて言うか。ま、いっか。
ああ、腹減ったな。今の時間ならどっかで食っても待ち合わせに……ギリ間に合わないか。でも腹減った! 俺は昼飯を食ってから行くぞ! 普通に旨い飯が食えるのに携行食なぞ食わん!
ふう。さて、どこに行こうかな。そうだ、レイトが修理した魔道具の確認ついでにボナさんの料理屋に行くか。魔道具修理はアフターケアが特に大事って爺ちゃんが言ってたしな。
「ボナさん、こんにちは」
「あらケント君、いらっしゃい。すぐ片付くからちょっと待ってね」
カランとベルを鳴らしてドアを開ければ、食欲をそそる匂い。そこまで広くはない定食屋だから少しずれたとは言え昼時の今並ばずに座れるのはラッキーだ。メニューは日替わり一本と何とも潔い。一人で回すにはしょうがないって言うけど、そろそろパートナーが出来そうとは買い物に来るマダムたちから聞いた話。
片付けられた席に着くとカウンターのオヤジ二人組や窓際のご老人グループ、俺の後ろに座ってるニイチャンらなんかの話に耳を傾ける。つーか他はみんな一人客でしゃべってない。盗み聞きは申し訳ないとは思う。でも待ち時間も情報収集に使わないともったいないからな。
ほうほう。オヤジ組はこの前の大討伐の話ね。じいさまたちは領主様のお嬢様の話か。へぇ、後ろのニイチャンは新婚なのか。そんで魔法鞄を奥様にねだられてると。どうぞご贔屓に。
「お待たせ。朝からレイト君を送ってくれたお陰で本当に助かったの。と言うか、改めて見てもそっくりね」
「それ誰に会っても必ず言われるんですよ。あ、失礼なことはありませんでしたか。って、言いにくいですよね」
「ふふ、ちょっと個性的だなぁとは思ったけど失礼な人とは思わなかったから大丈夫よ」
「はは。それは良かった。後で修理した魔道具見させてもらえませんか? 兄は魔道具士見習いなんで、最終の作業確認をしたいんです」
「そう? じゃあ後でお願いね」
牛肉を厚めに切った焼き肉に舌鼓を打つ。添えられた野菜を見るに本当は牛肉の煮込みになる予定だったのかもな。これはこれで旨いんだけどボナさんの煮込みを逃したのか。ちょっと残念だ。
食事を終えてキッチンにまわり、レイトの仕事の確認をする。もちろんキッチンに入る前には魔法で身綺麗にした。
うん。報告書の通りにちゃんとやれてるな。あぁ、ここが少し甘いか。ま、こんだけできてりゃ上等だな。
「ボナさん、ちょっとだけ弄りたいんですけど今は大丈夫ですか?」
「あら、そうなの? どれくらいで終わるかしら」
「微調整と仕上げの固定だけなんで数分ってところですね。すぐに悪くなるわけじゃないので後日でも大丈夫ですよ」
「そうねぇ。今日は人の出が少ないから今お願いしちゃおうかしら」
「はい、お任せください。なるべく早く終わらせますね」
ボナさんが食器を洗っている間に終わらせようと急いだ結果予想以上に素早く作業を終え、請求書を渡して俺は食堂を後にした。
店に帰ると不穏な気配を感じドアをそっと開いた。期待通りと言っていいのか俺の帰りを待ってたであろうギムリが何でこの場に居るのか分からないノエルに詰め寄られてる。アニーはやれやれって感じで、あ、エミは珍しく野次馬してないのか。あぁ、昼から勤務のジョニーは修羅場を避けるように気配を殺して棚整理をしてる。そこ、午前中暇すぎた俺が片付けたけど……とりあえずカオスな店内を見なかったことにするべく静かにドアを閉じようとしてドアベルを鳴らしてしまった。
ギンッと音が鳴ったと錯覚するほどのギムリからの視線がこっちにきた。
「遅い!」
「悪い悪い。つーか何があったんだよ」
恐ろしい形相のノエルは見なかったことにしてギムリに聞いた。
「ケント! またギムリを独り占めにする気なんでしょ! ギムリはわたしの彼氏なのに!」
「いや、えっと、じゃあノエルも一緒に来るか?」
「ダメだ!」
冒険者の試金石と言われるラヴィーン30層のボスにも匹敵するノエルの気迫に思わず同行を願い出たが、ギムリが空かさず却下する。
相変わらずの過保護だねぇ。でもさ、ぶっちゃけギムリよりノエルのほうがいろいろ強いんだ。さすがに空気呼んで言わんけども。
「えぇっと、ノエルは遠征からいつ戻ったんだ?」
「昨日よ! だから今日はギムリとデートしようと思ってたのに!」
「明日が安息日だからデートは明日って今朝約束しただろうが」
「でも! 今日もデートしたいの!」
あー、犬も食わないやつー。午前中のごたごたがなけりゃどーぞどーぞ行ってこい。なんだよなぁ。
「あのさ、さっきギルマスにシュクロンに潜ってくれって頼まれたから、ギムリに手伝ってもらいたいんだ」
「ギルドからの依頼が今さらシュクロンなのか?」
「ああ。詳細はここではちょっと。行き先が駆け出し迷宮だからノエルなら自衛も余裕だよな」
結局ノエルに押しきられ根負けしたギムリ。彼女はふんふんと上機嫌に鼻歌を歌いながらギムリの腕をとって店から出ていった。
「あれは一月会えなかった反動かしら? 束縛とはまた違うけど、ギムリはしばらく大変ね」
「はぁ。俺は彼女がほしいなー」
期待を込めてアニーを見れば、俺の肩に静かに手を置いて微笑んでから出ていった。泣きたい。