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5 厄介事がやってきた 2


 俺の動揺を余所に、彼女は立ち上がると両手を広げた。

 何やらキラキラと光が舞ってる。この感じ、召喚魔法か?


「あるじ~、ちょっと来て~」

『いいよ』


 ちょ、雑だな! 応じる方も軽っ!

 了承の返事を合図に舞ってた光が収束して徐々に人型になっていく。身長は俺と同じくらいだけど結構細身な印象だ。おっと、座ったままじゃ失礼だな。

 へぇ。なんか、見たことあるような無いような服だなぁ。って、うわぁ眩しい。なんだこれ。この美貌はもはや人外。いや、主も迷宮精霊の彼女みたいに人外なのかも。


「僕がシュクロンの迷宮主だよ。初めまして、ケント君」

「はじめまして?」

「ああ、今までのやり取りは全て彼女を通じて見ていたからね」


 とりあえず彼(?)を美女の横に座るように誘導して茶の用意をする。ふぅ、さらさらと落ちる砂時計の砂を見ながら少しだけ精神統一。振り向けば凡夫には過ぎたるキラキラ度。まじで逃げたい。何か出てるんじゃね?


「シュクロンの利用者を増やすためとは言え、君の店の商品を使おうと安易に考えていたことを止めてくれてありがとう」

「いえ、お構い無く」

「はは、君は高潔な人間だね。それに何か手が無いかと一緒に考えてくれるなんて、優しいでは言葉が足りないよ」

「それこそ俗物の私には勿体ないお言葉です」

「そう身構えなくても大丈夫。取って食うことなんかしないから」


 いや、そんなん言われても内心汗だらだらの心臓バクバクなんだけど。やっぱキラキラだけじゃない何かが出てるんじゃ?


「それでさっきの続きなんだけど、今の環境を変えずに珍しい植物を生やすことは可能だよ。ただ、浅い層に生やしたところで。とも思うんだけど、君の考えはどう?」

「そうですね。ある程度の深度は必要かと思います。浅い層では冒険者側も安易に挑戦するものが出て危険でしょうし。シュクロンの5層の血止草の採集が見習い卒業の目安なので、最低でも6層以深が良いのではないでしょうか」


 なるほどねと言い茶を飲む主。そこだけ天上とか言われても納得の光景。量産品の磁器セットが最高級品に見える。って、どうしてこんな事になったんだっけ。

 俺がぼけっと見ていたら目が合った。にっと笑った彼の目を見てなんだか背筋がゾクッとした。これは、危機察知に近い気がする。


「シュクロンの最高到達深度はいくつになっているかわかるかな?」

「えーっと、確か、20層だったかと」

「ふーん。単独で25層到達の人間が居たと僕は記憶しているんだけど?」

「あ」

「その冒険者は十代半ばくらいだったかなぁ。散歩感覚で鼻歌を歌いながら採集をしつつ25層まで到達したんだよ。で、まだまだ行けそうだったけど荷物がいっぱいになったのか呆気なく引き返して行ったなぁ」

「えー、あー」

「ねぇケント君。僕は僕の迷宮のことなら何でも知っているんだよ?」

「こ、公式の到達深度は20層で、非公式なら、俺の、25層です、かね」

「うんうん。だよね。あの時の子がずいぶんと立派になったものだねぇ。さっきまで気付かなかったよ。昔は大剣じゃなくて双剣使いだったものねぇ」


 なんか、遠くに住んでてなかなか会えない親戚に大きくなったなと言われてる気分。ははと口が引き攣ってるのも仕方ないよな。でも、なぜそれを俺に聞いた?


「さて、一番深くまで潜ってる君に聞きたいんだけど、何層をその珍しい植物の層にしたら良いと思う?」

「あ、あー、えっと、浅層なら7か8層ですかね。5層を越えれば一人前とは言え実際実力が足りない者が6層に行ってしまうこともありますし、逆に10を越えるとなるとたどり着ける冒険者が途端に減りますから」

「でも君はその7、8層には植物が生えていないことも知っている。だろう?」

「う、はい」


 何かあるだろって隅々まで探索したからなぁ。

 7層は岩か砂ばっかの荒野で植物の一本、水の一滴すら見つけられなかった。見晴らし良すぎてモンスターを楽々回避しつつさっさと通過するのが基本。倒したところでどこにでもある薬草しか落とさないから旨みも無いしな。

 8層は8層で、破壊不能なツルツルとした壁の迷路で、かろうじて泉はあるもののやはり植物は一本も生えてなかった。ただこちらはモンスターを倒すとランダムで宝箱が出現するからそれなりに人気ではあるけど。と言っても結局は小遣い稼ぎ程度なんだよな。せめて10層を越えられればまた違うんだけど。


「そこまで環境が違うとただ植物を出すだけなのにポイントが嵩むんだよね。砂漠にオアシスを作るようなものだからさ。モンスターに持たせるにしても今がただの薬草な分微妙じゃない? かといって、9層にすぐ出せる珍しい植物は観賞くらいしか価値が無いし、10層はそもそもボス階層だから採集って感じも無いんだよ。うーん。どうしようかな」

「ね~主、単純に層間交換を行えばいいんじゃないの~?」

「そうなんだけどさ。そこそこ下層から持ってこないと役に立ちそうな珍しい植物が無くて。そうすると長くても三日は迷宮内が混乱するよ。モンスターパレードが確実に起きるからね。それがスタンピードなんかになったらシャレにならないんだよ。だって、普段くる冒険者は10層が限界な人間が多いんだもん。それにトラントにもお株を奪うなってたぶん怒られちゃうかな」

「スタンピードは確かに大変ね~」


 確実にモンスターパレードが起こるって、モンスターパレードってあれだろ。迷宮内をその深度じゃあり得ないレベルのモンスターが隊列組んで下層に降りてくやつだよな。見たこと無いけど、隣国のどっかにしょっちゅうパレードが起きてる迷宮があるって聞いたことあるぞ! しかも下手すりゃスタンピード!? この前トラントで大規模討伐があったばっかなんだけど!!

 つーか、これ俺が聞いていいやつ? 秘密を知ったからとか言って消されたりしないよな!?


「交換をしてもモンスターパレードだけで収まってくれることを祈るしかないね」

「そうね~。ちなみに今回の交換は何回になるのかしら~」

「ポイントが足りなくて交換は一回しか使えないね。対象は9層になるかなぁ。あ、そうだ。ねぇケント君。君に頼みがあるんだけど」

「は、はい。何でしょうか」


 何も聞いてませんでしたって言って大丈夫なやつだよな。なぁ!!


「ちょっと冒険者ギルドまでお使いを頼まれてくれないかな」

「へ? は、はいっ! 承ります!」


 責任重大すぎるメッセンジャーを頼まれてしまった。


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