3 冒険者がやってきた 1
ガイウスさんとカウンターで微妙なやり取りをしていたらドアベルが来店を告げた。
「邪魔するぞー。おぉ、ガイウスも居たか」
「おう、一昨日振り」
「おはようございまーす」
「ペインさんにライエルさん、いらっしゃい。あれ? ソルジュさんは今日は一緒じゃないんですか?」
「ああ。これから行くところが相性悪くて今回は二人だけなんだ。あいつはこの休みで家族サービスするらしい」
「一番下のお子さんは特に目に入れても痛くないってやつですもんね」
「ははは、そうだな。はぁ。この休みが終わったらまた仕事したくないとか言い出すんだろうな」
「まだ赤ちゃんだし念願の女の子だもん仕方ないよ。まぁ、男の子ばっかり五人のペインにはわからないか。そんなことより食料は三日分で足りる?」
「いや、三日籠る予定だから移動込みで最低五日、今回は二人だし念のため七日分持ってく」
「そっか。どれにしよ。ソルジュいないからレーション多めでいいよね?」
「ああ。ライエルのスクロールはピア姉のでいんだよな?」
「うん。あ、ヒールも消えそうだから買って」
「あー、そっちもか。ヒール二枚はでかいな」
「ペインのもだったんだ。あ、ジャーキーに新味出てる。ケント君この味見ある?」
「後ろにあるのでぜひどうぞ」
「ありがとー。へー、ちょっとピリッとして美味しい。入れちゃおー」
ガイウスさんが銀貨を確認してるカウンター越しに二人の買い物を眺めながら少し考えてみる。
ソルジュさんは重戦士だから、敵が軽くてすばしっこいのが苦手か。あとは金属鎧の装備が不利で籠る。そっか、なるほど。
「ソルジュさんが相性悪くて三日籠るってことは、行き先はラヴィーン57層の氷銀鉱山ですか」
「さすがケントだな。その通りだ」
「ありがとうございます。それならさっきガイウスさんから納品されたばっかりの火炎のオーブ買っていきます?
あ、そうだ。ガイウスさんに同行依頼したらいいんじゃないですかね。お暇みたいだし」
「おいケント!」
「ははは。ガイウスは新しい弟子の相手が……いや、まさか?」
「そのまさかだそうですよ」
「ぐぬぬ」
「おいおいマジかよ。なんてツイてるんだ!
ライエル、ガイウスとギルド行って同行依頼掛けてきてくれ!」
「うんわかった」
「おい、こちらの都合は聞かないのか?」
「どうせ次が見付かるまで暇なんだしいいだろ?」
「うっ……はぁー、仕方がないな。ギルドへ行く前に一度家に寄らせてもらう。あと食料なんかは当然お前ら持ちだからな」
「当たり前だろ。ただ、レーションでも文句は言うなよ」
「レーションならチーズとサラミがいい。プレーンやキャロでも良いがチョコは甘いから好かん」
「しっかり注文つけてやがる」
「えー、チョコだっておいしいのに」
「ふんっ、じゃあなケント。また魔法具の注文あったら送っといてくれ」
「またきまーす」
「ありがとうございます。お二人とも気を付けてー」
俺は手をヒラヒラと振ってガイウスさんとライエルさんを見送った。
ライエルさんは相変わらず庇護欲そそる容姿だよな。あれで妻子持ちとかどんな詐欺だよ。しかも娘さん成人間近とか誰が思うか。しかもしかも俺より年上って言うか俺の父さんと歳が近いなんてほんと意味わからん。
うーん。どう見てもちょっと華奢で背の高い美青年なんだよな。余裕で俺と同年代に見えるし、頑張れば二十くらいサバ読めるんじゃ? この前娘さんと一緒にいるとこ見たけどそっくりな兄妹にしか見えなかったな。
見た目がザ・オヤジ☆なペインさんと居ると親子みたいな年齢差に見えるけど、ペインさんのがちょっとだけ年下なんだよな。もう不思議通り越して神秘。みんなが伝説のエルフなんじゃって言うのも頷ける。
そういやペインさんとガイウスさんは同い年なんだっけ。ガイウスさんも見た目若いよな。結局ペインさんの見た目だけが年相応なんだよなぁ。なんて言ったらいいのか。世知辛い? 違うか。
つらつらとどうでもいいことを考えながらさっき納品されたばかりの魔法具を整理して陳列していると、ペインさんが購入商品を入れたカゴをカウンターに置いた。
「じゃあケントこれで。あと魔法鞄の魔力補充も頼む」
「はい承ります。お代はいつも通り口座からの引き落としでいいですか?」
「ああ、それで」
「かしこまりました。すぐに明細を用意しますね」
魔法鞄を専用の魔道具にセットして魔石をはめる。よしよし、良い感じ。
「そうだ。この前のサンプルどうでした?」
「あぁあれか。レトルトと違って温めは簡単だし味は普通に旨かったが、野営で食うにはちょい手間だったか。こう、机が無いと不安定で掬い難くてな。もう少し大きくなるか固くなるといい気がすんだが」
「うーん。器のサイズを大きくすると加熱ムラが出るんですよね。改良するのでまたお願いしても良いですか?」
「おう。ケントのは試作でも旨いから大歓迎だ」
「そう言っていただけるとありがたいです」
この街で一流の冒険者パーティーに太鼓判を貰えれば、商品として安泰だな。有名人からの口コミは拡がりやすいし。
「はい、明細です。内容と金額を確認してサインをお願いします。いつも通りだと翌営業日引き落としですが、今回は明日が安息日で銀行が休みなので明後日ですね」
「おう、いつもありがとよ」
「こちらこそ。そう言えば、氷銀なんて何に使うんでしょうね」
「さすが商売人。気になるか?」
「俺の好奇心的にはそうですね。でも下手に突ついて死にたくは無いですよ?」
「はは。あれだ、今度領主様の下の嬢ちゃんが十になるだろ? 洗礼式で渡すプレゼントの為の素材だそうだ」
「なるほど。貴族の洗礼と言えば銀のスプーンですね。確かに氷銀で作ったら美しい逸品が出来そうです」
「だな。今回のはただの指名依頼だし、別に知ったところで死にゃしないから気にすんな。逆に理由を知った上で祝えと言われるくらいなもんだ」
「確かにそうですね。うちも何かやろうかな。小公子の時はまだ店が無かったんであれですけど、上のお嬢様の時はセールしたんですよ」
「お! それ良いな! 期待してるぞ!」
「ははは。今度みんなに聞いてみます」
「あの~、ちょっと聞いてもいいかしら~?」
魔力補充の待ち時間にしゃべっていたら、美女がペインさんに話し掛けてきた。