11 報告にやってきた 2
ミランからミレイアの話を聞いている最中、ギルマスが部屋に入ってきた。
「ようミラン、その辺にしておけ。それにしても早かったなぁケント。お、ギムリが来るのは珍しいな。なるほど。だから早かったのか」
「ちなみにマスターはいつから私の話を聞いていたのですか?」
ほんとソレな。
「ミランの後ろの不穏な会話あたりだな」
「ほぼ全てですか」
「ああ。お陰で発端がやっとわかった。なんなら俺が外で聞いてるのに気が付いてわざと途中から全部話しただろ」
うん? 聴取とかしてなかったのか?
いや、労使交渉だったから出来なかったのか。え、つーことはこれって密告じゃん。だとしてもギルマスはそれをどこで聞いたか分からないって、策士だなぁ。俺はまんまと転がされたのかぁ。
「ふふふ。なら私から言いたいこともわかってますね?」
「ああ、募集はかけてるんだが応募がなぁ」
夜勤務の募集か。んで、応募者無しと。てか基本夜勤務で就いたミランが稀で大多数は夜勤務を避けるんだろ。俺だって夜は寝たいし。
「まぁ、応募が無いだろうことはわかってはいるのですけれどね。さて、では私はこれで」
ミランは諦めたように微笑んで、部屋を出ていった。
それ、野郎に見せる表情じゃないだろうに。俺らじゃ眼福ご馳走さまとはならんぞ!?
「ぃよっし、んじゃお前らの話を聞こうじゃないか。なぁ、未成年未報告で20層攻略済みのケントに史上二人目攻略者のギムリよぉ」
ギルマスがミランが座ってた席に着いて本題に入った。ギムリがノエルも一緒だと言えば、姫も一緒かそりゃ早い訳だと笑う。
「20層のことも聞きたいが、先ずは22層だ。どうだった?」
「行く前に報告した通りに密林だったけど、記憶より鬱蒼としてた。モンスターは猿系を基本に少しだけ植物系って感じで、植物系は強さ堅さは別にして今の9層に出るやつとほぼ同じ種類だったな」
「なるほど」
「猿系は厭らしい連携する。俺らいきなり挟み撃ちにされたし。あとすばしっこい。ギムリが魔弓で針山にしても絶妙に急所をずらして絶命しないくらいにな。すぐにはレベル調整されないって言ってたから、少しの間は初心者を入れない方がいいかもしれない」
「そうか。ギムリの腕でそれってことは中級以上が確実で、まぁ暫くはそれ以上になるだろうな。で、珍しい植物ってのはどうだった」
「ギルマス、幻惑の果実って生で見たことある?」
俺はマジックボックスから幻惑の果実を取り出し机の上に置いた。
「幻惑の果実か。乾物や商品になっている物でしか見たことがないが、コレがか?」
「そ。ヤバいだろ?」
「ああ。確かに、どうするか」
「なぁ、なんでヤバいんだ?」
今まで大人しくしてたギムリがわけわからんと疑問を投げた。
「どう考えてもヤバいだろ。ギルマスすら生モノ見てない素材だぞ?」
「でも隣国の迷宮で採れるっつってなかったか?」
「でも生だぞ! ってあぁ悪い、ギムリは畑が違った」
ギムリは薬師じゃないから知らんよなー。
「まず幻惑の果実の実は身体を騙す効果があってな、睡眠薬なんかと混ぜて外科手術で使われる麻酔が出来るんだ。麻痺薬と睡眠薬を混ぜた麻酔と違って内臓への負担も少ない良い薬だから特に切開が必要な重い出産の時に重宝される。
これは俺も何度か作ったことあんだけど素材の乾燥具合でレシピが多岐にわたって頭こんがらがって だからみんな同じ問屋のヤツを使うのかって納得したもんな 出来上がったときの達成感はハンパないけどこんなん二度とやりたくないって毎回思うんだよ でも生なら乾燥具合を自分の好きに調整できて、あ」
うあー。ギムリもギルマスも全然興味無いよな。そうだよな。
「んん。んで、生だからこそ採取できる果汁にはな、精神を騙す効果があるんだ」
「うわぁ、なんか聞いただけでヤバそう」
「いや、別に違法って訳じゃないからな。有名なのは惚れ薬。それに興奮剤やらなんやらを混ぜて媚薬。副作用も依存性もほぼない安心安全なやつが出来るんだ。それ、誰が使うと思う?」
「全然想像つかねぇよ。いやあれか、娼館とか?」
「政略結婚しまくりのお貴族様だよ」
「ふぅん、媚薬でも使わねぇとヤれねぇってか」
「いやそこまでじゃないと思うけど、ほら愛人囲ってお家騒動とかになる前にさ、結婚相手を好きになっときゃなんも問題ないじゃん。そんな使い方なんだ。場所によっては婚姻の儀式で互いに飲んだりするとこもあるらしいぞ」
「うはぁそんなん聞きたくねぇ」
「ははっ、つーわけで幻惑の果実の生実は領主様案件でギルド的に取り扱いが激ムズでヤバいってこと。勝手に採るのはダメだし、伐採なんてもってのほかだし、かといって迷宮の中のことだから常時監視するわけにもいかないし。無許可で製薬なんかされたらマズイから薬師ギルドにも声掛けて、あとは違法取引とか考えたら商業ギルドもか」
「なるほどなぁ。なら隣国の迷宮のも制限かかってんだな」
「そう。だから刻まれて乾燥されたのしか見たことないんだ。たぶん出回ってるのは果汁の搾り滓なんだろ。それでも素材としては普通に使えるからありがたいけどな」
俺の説明にギムリが何かを考えてる。ギルマスはどこから手を付けるかって考えてる顔だな。
「なぁ、それよぉ、今のまま22層にしてもらった方がいんじゃね? そこにたどり着ける奴が少ねぇ方がいいだろ」
「いや、ギムリは見ただろあの21層。あれを越えるのが大変なんじゃん。俺も越えんの結構時間かかったし」
「20層のソロ突破もたいがいだが?」
ギルマスに突っ込まれてうっと詰まった。
「とりあえず、20層の方も話してくれんか」
「話もなにも、昼間ギルマスに言った通りのことを分担してやっただけだぞ」
「その分担内容を話せと言っているんだ」
俺は今日のボス戦の作戦内容と結果を伝えた。
「そもそもその効率無視魔道具を第一武器として扱える金持ちが限られてるからな。他の手段で補おうとすると最低十から十五人は必要か」
「へぇー、結構な大所帯になるんだなー」
「お前な」
「なぁギルマス、岩に登って上から叩き落とす要員は絶対入れた方がいい。今回俺らにはノエルが居たからアレだったけど、タイミング合わせて攻撃すんのは結構ムズそうだった」
「ギムリは心配性だな。それなりのジャンプ力があれば誰でもいけるっしょ」
「ハァ、みんながみんなケントみたいに動けると思うんじゃねぇよこの非常識が」
「うぐっ」
「とりあえず今貰った意見も踏まえてギルドの方で対策と推奨メンバーの案内を作る。ああ、やっと20層は越えられる壁になったのか」
ギルマスが感無量な感じで言った。ちょっと居心地悪いな。
「なぁケント」
ギルマスが一つ長く息を吐いて俺を見た。何かめんどいこと言うやつだこれ。
「迷宮主には会えるか?」
「たぶん?」
「普通にシュクロンに行けば会えんじゃね? 俺らがエントに入ったら待ち構えてたじゃねぇか」
「そう言えばそうだったなー」
「そうか。なら一つ頼みがある。入れ換える層を21と22に変更して欲しいと伝えてくれ」
「──はぁ。わかったよ。でもそれ、明日でいいよな?」
まためんどくさい事を頼まれてしまった。でも今日は閉店だ! 店仕舞い!!




