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10 探索対象層にやってきた


 俺たちは21層へ向けて階段を下りている。


「22層はどんな感じなんだ?」

「林と言うよりは密林って感じのかなり木が多い層だな。主モンスターは猿系」

「猿系っていうことは、上からの攻撃に注意する必要があるわね」

「ああ。あと猿系は集団で来るからお互い離れない方がいいと思う」

「うわぁ。俺、集団戦苦手なんだよなぁ。得意な弓は最初しか使えねぇし、短剣だとかなり接敵しねぇとだろ。その点ケントは良いよなー。遠距離の魔法使えて、近接になっても敵と距離取れる大剣か近付かせねぇほど滅多切りにできる双剣だもんなー」

「遠距離で魔法はまぁ得物を持ち変えない分楽だけど、魔導師と違って短縮詠唱も無詠唱も使えないから微妙だぞ」

「いやいや、あんだけ激しい動きしながら同時に詠唱できてりゃ上等だし。てか遠距離じゃなくて近接で魔法を使ってる上、距離無い分必中とかブッ飛んでる。ホントお前“非常識”だよ」

「非常識ってなぁ。お、着いたか」


 迷宮主に予告されていた通り、21層のセーフ・エリアに上り下りの階段が並んでる。通常なら帰還陣とテントが五、六張りに焚き火する場所もあるそれなりに広いスペースが、階段しかない狭い空間だと変な感じだ。

 ギムリたちは21層へ足を踏み入れすぐに戻ってきた。今日の本命はここじゃないからな。


「とんでもなく広くて暑い荒野だった」

「あれは7層の荒野の比じゃないわね。隠れるものが何もない場所をモンスターが闊歩する光景に絶望した記憶が甦るわ」

「本当にあれはノエルの言う通り絶望そのものだったな。そう言えば9層も林じゃなかったか?」

「そう言えばそうね」

「へぇ。浅層なんて滅多に行かないのによく覚えてるな」

「まだまだ駆け出しだってのにいきなり荒野、迷路って続いて次の層だぞ。なかなか忘れらんねぇだろ。やっと頭おかしくなる場所を抜けたと思ったら、狼が群れで襲ってきて死ぬかと思ったわ」

「うわぁ、随分と間が悪かったんだな」


 その頭おかしくなりそうな荒野と迷路を何泊もして隅から角の隅まで探索したって言ったら、また変態って言うんだろ。さすがに分かるわ。


 なんのかんの言いながら、俺たちは22層に到達した。


「とりあえず真っ直ぐ深部に向かっていんだよな」

「ああ。それでいいと思う」

「そう言やケントは幻惑の果実って見たことあんのか?」

「うーん、一応図鑑で見たことはある。確か色は橙色と深紫色と深緑色のマーブルで、大きさは成人男性の拳大だったか。けど、実物は刻まれて乾燥されてるヤツしか見たこと無い」

「は!? それをこっから探すってことか!?」

「仕方ないだろ。この辺だと隣国の迷宮でしか取れないんだから」

「ちょっと黙って、来るわ。右前三、左回りに回り込もうとしてるのが二。全て上ね」

「モンスターのくせにいっちょまえに挟み撃ちってか。ケント、後ろは任せた」

「はいよ」


 俺はギムリの指示通り回り込もうとしてるヤツに向けて牽制の水魔法(ウォーターウィップ)を放つ。火魔法のが使い勝手がいいが、木が多い場所ではさすがに自粛せざるをえない。

 うーん。牽制程度じゃ大した攻撃になってないな。でも真っ直ぐ俺に向かってきた。もうちょい近付いて、いや、こんなとこで二人と離されたらシャレにならん。もうちょい引き付けてからだな。

 あのモンスター二匹にバレットじゃたぶん過剰な気がするし、いやそもそもモンスターの堅さはどんくらいだったっけ。とりあえず肩慣らし的にもショットにしとくか。上手くすりゃショットも要らないかもな。

 モンスターが双剣の攻撃範囲に入るまでの待ち時間で水魔法(ウォーターショット)を用意する。


「おいケント! アイツ猿のくせに斧持ってんだが!?」

「んなわけあるかっ!」


 ギムリに叫ばれ視線を向ける。


「わお、マジで持ってる!? ゴブリンじゃないよな?」

「猿だな!」

「だよな!?」

「ケント、後ろが来てるわ」

「え? ヤバっ」


 ノエルに言われて振り返れば間もなく攻撃範囲に入るところだった。後ろからはギムリが一射目を放った音が聞こえた。そっか。俺が先制したからこっちのが近いんだな。

 一匹目に切りかかる。首を狙った二撃は微妙にずれて肩に入った。あまり堅く無いが微妙に速いってとこか。微妙に速いってのがまたいやらしいな。同時に放っていた魔法は二匹目の顔面に命中したのか光に変わるところだった。

 一匹目が怒りからかキイキイとけたたましい鳴き声を上げて襲い掛かってくる。さっきより少しだけギアを上げれば難なく首を落とせた。


「こっちは終わった!」

「っく、手伝え!」


 二人の方へ振り向けば、斧持ちの猿と肉薄するギムリと鞭で一匹拘束しているノエル。もう一匹の猿は急所を外した矢で針山になっているがまだ息はあるらしい。とりあえず瀕死のヤツの息の根を止め、決定打の無いノエルの代わりにトドメを刺し、ギムリの相手に水魔法(ウォーターショット)を頭上から叩き込んだ。


「ハァハァ。これが、この層の普通なのか!? だとしたら俺は足手まといなんだが!! 木が邪魔で急所には当たんねぇし、かといって競り合いにも勝てねぇし!!」

「私も攻撃手段があまり無いからちょっと無理かもしれないわ」

「いつもギムリの指示は適切だし、ノエルの索敵も助かる。次からはできるだけ回避してどうしても無理そうなら俺がやるから。

 あと、あの斧のヤツはレアだから気にしたら負けな気がするぞ。ほら、アイテムとして斧が落ちてる」

「本体と一緒に消えないって言うことは、そう言うことね」

「はぁぁぁ。猿が武器を扱うスキル持ちだと俺の手に余るっつう事がよぉくわかった」


 スキル持ちモンスターは滅多に居ないのにギムリの引きはホントすげぇよ。その勢いで幻惑の果実も見つけてくれ。


 初戦以降はなるべくモンスターに遭遇しないようにノエルに睨みをきかせてもらい、俺とギムリで幻惑の果実を探している。どうしても遭遇する敵は俺が先手を取って倒した。

 22層にきてそこそこ時間が経ったな。そろそろ見つかってくれないと明日になるぞ。


「そんな簡単には見つかんねぇな」

「だな」

「図鑑には植生のヒントとか書いて無かったの?」

「これっぽっちも思い出せない」

「使えねぇ」

「結構昔の話だから勘弁してくれ」

「せめて木成りか蔓成りかだけでも分かればいいのに」


 ノエルの呟きにハッとした。


「なあ、迷宮主は幻惑の果実が成る木って言ってたよな」

「そう言ってたわね。と言うことは木成りね!」

「木かぁ……」


 おいギムリ、周り全部木だろとか言うな。一気にやる気無くなるわ。


「ハァ。そろそろ一回戻ろう。いつもと違って精神的に疲れた」

「あはは。まぁ、かなり奥まで来たしそうすっか」

「それなら今の道から少し離れて違う道にしておきましょう。もしかしたら帰りに見つけるかもしれないじゃない?」


 半分くらい戻ってまさか見つかるとはなぁ。ハハハ。

 俺たちは脱力感に苛まれながら木の位置を記録しつつ22層のセーフ・エリアまで戻り、帰還陣を使って迷宮を脱出した。


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