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8 迷宮にやってきた


 シュクロンへの道中、簡単に経緯を話す。


「あのべっぴんさん、迷宮精霊って言われて納得した。確かにあれは人外だ」

「ふーん。利用者を増やすために9層と22層を入れ替えるなんて迷宮主っていうのは随分と人間くさいのね。

 で、20層を越えるにはどうすればいいの? 22層の依頼が来たってことは突破できる目処が立ったってことよね?」


 ノエルは落ち着けば理知的で話しやすいんだよ。さっきのあれが初見だとうわぁって避けられがちだけど。ギムリと仲良いやつは一度はあれ食らってるんだよな。ほんと拗らせすぎだって。

 昔はさ。ギムリが天然タラシ鈍感野郎で、ノエルなんかベテラン引きこもりだったんだ。それが今じゃ片や超過保護な恋人溺愛彼氏で片や街で有名な冒険者パーティーの姫なんてな。

 こんな二人をくっ付けたアニーの手腕はとんでもないな。何故か俺には使ってくれないその特技。ハァ。


「20層のボスはとりあえず魔法で牽制してーの崖を登って上からの力技で突破できるって」


 俺が突破方法を言えば、二人の気配が止まった。不思議に思って振り替えれば、二人とも難しい(似たような)顔。


「どうした?」


 ノエルが一つ大きく息を吐いた。


「あんたが“非常識”なの忘れてたわ。アレはそんな簡単に倒せないからそこでみんな足踏みしてるんじゃない。ケントだって20層に挑んだことくらいあるでしょ?」

「俺は19層までしか下りてねぇからボスについて詳しくは知らんが、その突破方法だと魔導師はともかくトドメは一流の軽業師が剣も一流ってぶっ飛んだヤツでもない限り無理だろ。てかその作戦に俺要るか?」

「そんな大層なもんじゃないから。言ってもシュクロン20層だぞ。トラント20層のがよっぽどだって。それにギムリも居てくれないと手数が足りなくて時間的に困るし。夜までには帰らないと明日は安息日だからな。その点、ノエルが来てくれて大助かりだ」


 ギムリには悪いけどほんとノエルが来たのはラッキーだなぁ。俺一人じゃ深夜越えて徹夜確定、ギムリが居れば夜半頃、ノエルも居れば夕飯過ぎには帰れそうだ。


「──ねぇ、まさかとは思うけど、21層に行ったことあるでしょ」


 ノエルがジットリとした視線とともに核心を突いてきた。


「いやいやいくら“非常識”のケントでもそれはないだろ。シュクロン攻略はギルド公式で20層止まりだぞ」

「いいえ、絶対に20層を越えているわ。だって『トラントの20層ほどじゃない』って具体例を出しているもの」

「あー、確かにノエルの言う通り突破してるヤツの発言だな。実際どうなんだ」

「まぁ、あれだ。アハハハ。今日は実積を足そうかと思って。一人より三人のほうが質問責めされにくいだろ」


 シュクロンに到着するまで、二人の視線が痛かった。


 迷宮に足を一歩踏み入れれば、空気がガラリと変わる。


「このメンツで20層挑戦なのよね。ウチのパーティーでも突破出来なかったのに。今さらだけどシュクロンだからって安請け合いしたかしら」

「冷やかしでも20層に下りとけばよかったか。わりぃが19層からになるぞ」

「大丈夫大丈夫。このメンツなら19層からでも明日のデートまでには余裕で帰れるって」


 誰も何も言わずとも入り口すぐのエント・ゲートへ向かう。この部屋は入った人の中で一番浅い到達層から5層までの任意の層へ転送してくれる場所。到達深度が5層未満の者にはウンともスンとも言わない。トラントやラヴィーンにもあるが、向こうは深くても31層までしか転送してくれない。シュクロンがどうかはまだ不明だ。


 部屋に足を踏み入れるとそこにはあのキラキラな迷宮主が。


「シュクロンへようこそ!」

「へ?」「え?」


 二人の驚きはわかるぞ。だって開いてるエントは基本的に無人だもんな。まぁ、正体知ってる俺も普通に驚いた。


「あー、二人とも。この方が噂の迷宮主だ」

「やぁ、シュクロンの迷宮主だよ」

「ど、どうも」「えっと、初めまして」


 くふくふと笑う迷宮主におろおろする二人。本来は殺伐とした迷宮の中なのになんかほんわかした空気になってる。


「すいません。迷宮主がこちらにいらっしゃるのは何故でしょうか」

「ケント君たちは今から22層まで行くんじゃないかな? だからちょっとしたサービスをしようと思って」


 バッチリとウインクを決める迷宮主。さすが人外の美貌。めっちゃサマになってる。


「サービスですか?」

「そうだよ。見たところそっちの彼が一番浅くて、でも19層までは何度も行ってるからとりあえず20層に送ってあげようと思ってね。20層のボスを今回だけ弱くっていうことは出来ないけど、まぁケント君が居るから大丈夫でしょ。それと20層から22層までの階段を連続してあるから。あ、そっちの二人は21層に片足だけでも踏み入れておいてね。あとは22層の珍しい植物も出してあるよ。あ、珍しい植物は幻惑の果実の成る木だね。出現場所はそんなに深部ではないと思うんだけど、こればっかりはランダムなんだ。ごめんね」


 サービスって、とんでもない優遇じゃんか。しかも幻惑の果実って、この辺だと隣国の迷宮でしか確認されてないヤツ! ヤバ!


「い、いろいろと気を遣っていただき、ありがとうございます」

「いいのいいの。ケント君のおかげでシュクロンを改善出来そうだからこれくらいはね」


 にこにこの迷宮主。って、これ失敗したら俺の人生詰むんじゃね!?

 いってらっしゃいと明るく送り出す迷宮主に行ってきますと言った俺の口もとはたぶん引き攣ってたと思う。


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