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1 べっぴんさんがやってきた

ようこそいらっしゃいませ♪

リアクションいただけると嬉しいです(*^^*)

それではどうぞ!


 ある日、俺の店の前に、この世の者とは思えないべっぴんさんが居た。


「あのう、どちらさまでしょうか?」

「名乗る程の者ではないわ~」


 思わず変な質問を投げてしまった。普通に考えて開店前の店の前にいるんだから客だろうに。


「あ、そうですよね。えっと、何かご入り用ですか?」

「ここってドルディ商店よね~? 少しお店の中を見せてもらえないかしら~?」

「あ、すいません。今開けますね」


 そりゃそうだろって突っ込みを世間様から頂く程に無意味なやり取りを続けてしまった。

 急ぎ解錠して彼女を招き入れる。


「すいません。すぐに照明を点けますね」

「朝早くからごめんなさいね~」


 これが小汚ない野郎だったらイラつく案件だが、べっぴんさんだからなぁ。朝イチから美女。うん、今日は良いことがありそうだ。

 彼女を視界の端に置きながら開店準備を進める。順に棚を見てるみたいだけど、何か欲しいものでも探してるんだろうか。


 暫くしてすいませんと声が掛かる。よしきた! と食い気味に対応を初めてしまったのは仕方がない。


「ここのお店の商品はどちらから仕入れているのかしら~?」

「この街で契約している職人からも仕入れていますが、それぞれ店を持っているのでここには見本程度で、だいたいは王都の本店からの納入も含めドルディ一族で作っている物です。まぁ、貴重な物や手に入れるのに時間のかかる材料なんかは他所から仕入れることもありますけど」

「なるほど~。家族経営ならぬ親族経営のお店なのね~」

「なかなか珍しい形態ですよね」


 仕入れ先の確認って、変な質問だなぁ。まぁこの国に住んでりゃだいたいみんな知ってる事なんだけど。


「ケント兄おはよー! って、お客様!? いらっしゃいませー! 気付かなくてすいません!」

「ふふ。朝から元気ね~」

「はい! 元気が取り柄ですからー! ゆっくり見ていってくださいね! ケント兄、あたし裏に居るからね!」

「おう。あ、昨日エミが帰ったあと頼んでた炎燕草が入ってきたから下処理したってジョニーが言ってたぞ。まだ確認してないからそれもよろしくな」

「はいはーい!」


 嵐のように現れたエミが嵐のように去っていく。


「今の可愛らしい方はあなたの妹さんかしら~。彼女も何か手伝っているの~?」

「ああ、今のは親戚の子です。あんな幼い子ですけど歴とした薬師で、中でもポーション系のエキスパートなんですよ」

「なるほど~。ドルディの良く効くポーションは彼女が作ってたのね~」


 なるほど。彼女はポーションが欲しいのか。

 うーん、怪我をするような職業に就いてるようには見えない。全く焦った様子が無いから身内に病人や怪我人が居るようにも見えない。医者か、もしくは看護師か。いや、これだけの美貌だ。高位者の従者の線もあるな。とにかくここは売り込みだ。


「ウチのポーションは“買った時が出来立て”って売り文句で有名なんですよ。裏の工房から時間停止のこのケースまでほぼゼロ距離ですからね」

「へぇ~そうなの~」


 あれ? あまり食い付かない? ポーションが目的じゃない?


「そう言えば炎燕草と聞こえたけれど~、この辺りで採れるものかしら~?」

「ここ周辺では手に入りませんね。一番近くて三つ先の港町まで行かないと」

「港町ねぇ~、ここからなら馬車で往復十日ほどかしら~」

「採取を含めたらそれ以上かかりますね。そこまで長いこと店を閉めてはいられないので、流石にギルドへ発注します」

「なるほど~。依頼は冒険者と商業のどちらのギルドかしら~?」

「基本的には冒険者ギルドですね。国が変わるような依頼は商業ギルドに依頼しています」


 何か、質問が変だよな? この美女はただの買い物客じゃないのか? 一体何が目的だ?


「ケントはよー、って、わりぃ、お客さんか。いらっしゃい」

「お気になさらず~」

「ひぁー、こりゃまたべっぴんなネェちゃんだなぁ」

「ふふ。ありがとうございます~」

「おいギムリ、失礼だろ!」

「美人は素直に褒めるもんだ。ケントだって鼻の下伸ばしてたんだろ? それよりこれ、親父からお前にって。今度は大事に使えってさ」

「折りたくて折った訳じゃ無いって一緒にいたお前は知ってるだろ」


 得物折るなんてまだまだ未熟って言いたいのかもしれないけどな、あんな馬鹿デカイ牡鹿が突然崖上から襲ってこなけりゃ折れる事もなかったさっ! その分素材は良いものだったけどな!


「ハハ。さてと、この前大規模討伐があったから矢がだいぶ減ったな。矢尻と軸も少し足しておくか。小手は相変わらず豚革製が売れ筋と……」


 柄を握り剣の重量を確かめ、少し鞘から抜き出した。はぁ~。この鏡面のごとき輝きにいつもながら惚れ惚れする。大剣を斬ることに使うのは俺くらいって言われたけど、元々の得物が得物だからなぁ。


「あら~、あなたは大剣を使うの~? 人は見掛けに寄らないのね~」

「ええ、まぁ」

「ハハハ。こいつはこんなひょろっちいなりだが、「おい」今この街の若者で一番の剣士なんだよ。そんで料理の腕もピカイチときた!「まぁ!」だから旨い携行食が欲しけりゃウチで買って行ってくれ。じゃあなケント、また午後な」

「おう。オヤっさんにもよろしく。あ、換気終わったからドア閉めて帰ってくれ」

「へーい」


 午後はギムリとトラントでモンスター系の素材収集の予定。今日は何が獲れるのか楽しみだ。一緒に行くと何か加護でも持ってるのかやたら貴重なものに出会えるんだよ。その分危ない目にも合うけどな。


「今の方も親族の方なのね~?」

「そうです。あいつの家は鍛冶屋なんですよ」

「そうなの~。それで、美味しい携行食ってどれかしら~?」

「この辺りが携行食ですね。ウチでは素材や製法に拘った通常より柔らかい乾燥肉(ジャーキー)と、とことん味を追及した固形食料(レーション)を扱っています。あとは金額高めなんですが、ちょっとした料理やパンの缶詰、お湯で戻す乾燥料理(フリーズドライ)、湯煎で出来立ての味を楽しめる袋詰料理(レトルト)があります。後半のものは災害時の備蓄に重宝するみたいで、領館にも納めてるんですよ」

「初めて聞く商品ばかりだわ~。このお店の限定なのかしら~?」

「特に限定品では無いんですけど、たぶんこの街くらいしか無いと思います。専用の珍しい魔道具がないと作れないので」

「その魔道具もこのお店の商品ってことね~?」

「その通りです」

「なるほど~」


 彼女がふいっと棚に視線を戻したので、俺は一旦説明を終わりにした。


 そろそろレイトがボナさんとこの修理を終わらせて来るか。あー、そう言えば今日アニーたちが防護服の素材の件で相談に来るって言ってたな。でもなー、ナンシーのやつ朝弱いからなー。俺が店に居る内に来るかな?


 突然カランとドアベルが来店を告げた。


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