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カノン伝記  作者: 真喜兎
第五章 星降る夜の神
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40-2.竜人達の攻撃

「おー、よしよし」


 メヤーマは泣きじゃくっているカノンの頭を撫ぜる。苦労してここに辿り着いて、しかも歓迎されていなかったこの緊張感の中で、その優しさは身に染みた。腕が痛いのもあって、思いがけず涙が次々に溢れてくる。それを見て、ゴーデンはきまり悪そうにぶつぶつ言う。


「そ、そんなに強くしたつもりは」

「あんたはバカだから、力の加減ってものを知らないでしょ。ほら、彼女を背負ってやって」

「は? なんでだ?」

「見なよ。彼女達疲れてるんだよ。これ以上歩いていかせたらかわいそうでしょ」

「はあ? こっから城まで何時間かかると思ってるんだ。牛車はねえのかよ。おい! 誰か手配してないのか!?」


 後ろの竜人達もカノンが涙した事に委縮してしまったのか、少し気まずそうにしながら首を振る。


「お、おれが行ってくる」


 そう言って一人の竜人が駆け出していった。


「ほら、彼が一番疲れてる。彼も運んでやりなさいよ」


 メヤーマが膝をついたまま動けなくなっているニルマを指す。ニルマは余計なお世話だと言う顔をするが、疲れていて声も出せない。


「おいおい、おれはもう一人背負ってるんだぞ」

「こんな小っちゃい子達、あんたなら二人くらい担げるでしょ」


 ニルマも獅子も百七十からその半ばくらいの身長はあるのだが、竜人族から見るとそれでも小さく見えるらしい。何しろ女性のメヤーマでさえ、百八十を超える身長があるのだ。むすっとしているゴーデンを見て、代わりに魔石使いのディーバンがニルマに背を差し出す。


「やれやれ、おれはパワー型じゃないんだがな。だが同じ魔石使い同士、背中ぐらい貸してやろう」


 ニルマが動かずにいると、メヤーマが後ろから持ち上げてディーバンの背中に乗せた。


「お、おい! 無理はするなよ!」


 メヤーマが何かする度、ゴーデンはなぜか慌てる。


「こんなの無理の内に入らないでしょ」


 ディーバンの背中に乗せられたニルマはメヤーマにポンポンと背中を叩かれると、まだ眉間にしわを寄せたままだが、ゆっくりと目を閉じた。






 気がつくと、辺りは暗くなっていた。竜人達が持つ灯りだけが道を照らしている。


 牛車の荷台にはニルマが寝かせられている。獅子はその隣に座って起きてはいるものの、目を開けているのが精いっぱいというように顔をしかめている。


 カノンはゴーデンに背負われたままだった。鷹常もまたダーダンに背負われている。ダーダンもさすがに疲れているのか、何度も鷹常を負ぶい直している。


「だからおれが代わってやるって言ってるのに」


 グラーンがそう言うと、獅子がキッとグラーンとダーダンを睨む。


「仕方ないさ。そこのお兄ちゃんが許しちゃくれないんでな」


 ダーダンは顔だけはにやりとしたまま答える。すると後ろから鷹常の声が聞こえた。


「あなたはわたくし達を陥れたのだから、このくらい当然の報いです」

「起きてたのか」

「今しがた。でもこの方達が襲ってきた時にも意識はありました」


 鷹常は「降ろしてください」と、荷台の空いている場所に腰を下ろす。ダーダンはようやく鷹常のおんぶから解放されて、「ふふん」と言いながら体をこきこきと鳴らした。


「獅子の洞察は正しい。あなたでしょう。この方達がわたくし達を襲うように仕組んだのは」

「ふふん」


 ダーダンは肩を竦める。


「あなたは竜人達の怒りの矛先をわたくし達に向けた。それでどうします? わたくし達を公開処刑にでもしますか? それで竜人族の怒りが治まると?」

「なになにー? なんの話ー?」


 鷹常が真面目に話しているというのに、グラーンは軽い調子で口を挟んでくる。


「話すところもすっごいかわいいー! 頭もよさそうだし、プライドも高そうでぞくぞくしちゃうなー!」

「グラーン、おまえこの前は女はバカなのがかわいいとか言ってなかったか」

「言ってた、言ってた」


 他の若い竜人達がグラーンを囲んできて、あの時の彼女はどうだったとか、その前の彼女はどうだったとかお喋りを始める。するとグラーンは慌てて「ちょっと、ちょっと!」と、若い竜人達の口を塞ぐ。


「誤解しないでよ! おれこれでも一途だからね! 二股とか絶対した事ないし!」


「でもあの時は」とかなんとか喋りだそうとするのがいるので、グラーンは「わあ、わあ!」と大声を出して言葉を続けさせないようにする。


「うるせえぞ、グラーン!」


 ゴーデンに怒鳴られて少しは大人しくなったが、二十歳前後の若い竜人達はまだお喋りを続けている。鷹常は少し不思議そうな顔をして、そんなグラーン達を見ていた。


「不思議ですね。彼らはあまりわたくし達を敵視していないように思えます」

「この里に元々いた者や、若い連中は竜人狩りの恐ろしさを知らないのさ」


 ダーダンが答えると、グラーンがくるっと振り向く。


「おれ達だって竜人狩りなんて許せないと思ってるよ。そんな奴らとは絶対戦うし。でもだからって戦争したいわけじゃないんだ」

「そうですか」


 鷹常は少し考える様子になる。その顔が可愛らしく見えて、グラーンはますます興奮したようになった。


「やっばい、おれマジではまっちゃったかも! もう君しか見えない」

「うるせえなあ、グラーン」


 とうとう仲間内にまで呆れられるが、グラーンは聞こえていないようにうっとりした目で鷹常を見つめていた。






 竜人は半農半兵で個人主義だからなのか、役目を終えたと思った何人かの竜人は途中で別れて家に帰っていった。城の門らしき場所を通る時に、カノンはぼそっと呟いた。


「わたし達はどうなるんだ……?」

「なんだ、起きてるなら言え!」


 カノンを背負っているゴーデンは喚くが、カノンを下ろそうとはせずそのまま歩いていく。


「トーランが決めるよ。あれでも王だもの」


 メヤーマが答える。カノンは厳しい人だったらどうしようと思う。ゴーデンはカノンをおんぶしてくれてはいるものの、友好的になった様子はない。鷹常が何度かゴーデンやその他の大人の竜人達に声をかけてみているが、その態度が頑ななまま変わらないのがカノンを不安にさせた。鷹常も少し考え込んでいるようだ。


 カノン達は牢の中に入れられ、鷹常はまたも少し不機嫌になった。


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