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カノン伝記  作者: 真喜兎
第五章 星降る夜の神
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38-2.竜人の村②

 ダーダンは村長とかち合う前に、カノン達を連れて出発した。


「村長に怒られるのはあいつ(バートル)に任せるさ」


 カノン達はバートルも同じ事を言っていたなと思いながら、肩を竦める。


 ダーダンはアネネとチョーワに家で好きにしていていいと言ったが、その話をカノン達にはしなかった。昨日から心配だなと言いあっているカノン達に、ダーダンはにやりとした表情で言う。


「この山の中の人探しはおまえ達には無理さ。その話はあいつ(バートル)にしたんだろ? ならあいつがなんとかしてくれる」


 それを聞いたカノン達は僅かに安堵した表情を見せる。


 実を言うと、ダーダンにはアネネとチョーワの事を隠す理由は全くなかった。ただのダーダンの性質で、物事を隠す癖があるだけだ。ダーダンはカノン達がなんとか道とわかる道を歩いていく。


「次の村の村長はまだ話がわかる方だな。臆病とも言うがな。揉め事は好まない」


 ダーダンの言う通り、カノン達が一日かけて歩いた先の村ではカノン達は拘束されなかった。ダーダンがトーラン王のところに向かっているところだと説明したからだ。日が暮れるまでの僅かな間に、村人達がカノン達を見物にやってくる。レイアならば、「わたし達はあなた達に危害を加えません!」と、声高にスピーチを開始したかもしれないが、鷹常やカノン達はそこまでしない。


 鷹常はカノンが感心するくらい堂々としており、カノンとニルマはちょっと気まずそうに竜人達の視線に耐えている。その時一人の子供がパチンコで石を飛ばしてきた。それが鷹常に当たる。母親は慌てて子供を抱え込むが、大人達の中にもそれに乗じて土を投げる者が現れた。


「おれは親父を殺されたんだ」

「わたしは弟を殺された」


 鷹常はにやりと笑った。


「竜人は鱗を狙う者とそうでない者の区別もつかないのか?」


 恨みと恐れの混じった竜人達の瞳に囲まれて、鷹常は続ける。


「仇を討つべき者とそうでない者の区別もつかないのか?」


 鷹常は決して叫んではいないのに、その声はよく通る。


「だ、黙れ! 人の罪はその種族の罪だ!」


 鷹常はその反論は気にせず、声を張り上げる。


「わたくしは国交を開くために来た!」


 竜人達は一瞬静まり、それから嘲笑の声がもれた。大人達から見れば、鷹常はまだ子供に見えたからだ。鷹常と村人達はしばらく言い合いをしていた。ダーダンは後ろで「くっくっく」と笑った。


「とびきり面白いのが来たな。だがこれはおれ達の問題だ。他人に言われる筋合いじゃないぜ」


 カノンはなんとなく気まずくなって謝る。


「なんか、すみません」

「いい薬さ」


 ダーダンはにやりと口を歪めた。






 翌日、また次の村へ向かう。カノンは途中、休憩したところでダーダンに赤い鱗の話をした。


「わからないね。そいつは子供を殺したんだろう? それなのになぜおまえはその男にそんなに肩入れしてるんだ?」

「それは……」


 カノンはその赤い鱗の男の言葉で狂気から救われた事を話す。ダーダンはそれでも「わからないね」と言う。


「死に際の戯言だ。それで竜人という種族自体に優しさを見るなんて馬鹿げてるぜ。……あの赤毛のお嬢ちゃんもそうだったなあ」


 ダーダンはにやにや笑いながら、アネネの事を思い出す。アネネも竜人に育てられたというだけで、ダーダンの事を信用しきっていた。


「赤毛……って、もしかしてアネネの事では?」


 ここで鷹常が初めてダーダンに不信感を持つ。最初の村で鷹常達に気を使ってくれたバートルが紹介した男なので、無条件にこの男を信頼していた。


「さあて、どうだろうな?」


 曖昧な返事をするダーダンを、カノンも少し警戒したように見る。ニルマは魔石をダーダンに向けた。武器は返されていたので、カノンも思わず剣の柄に手を置く。


「アネネとチョーワは無事なんだろうな?」


 完全に攻撃も厭わない姿勢を見せているニルマにも怯まず、ダーダンは座ったまま答える。


「飯を食わせて、家に泊まらせてやっただけだ。お節介だったか?」

「なぜそれを早く言わない……!?」

「さあなあ?」


 カノン達はダーダンという男が理解できなくなったが、案内役を辞めさせるわけにもいかず、黙ってダーダンについていった。






 アネネとチョーワは仕事が入ったと言って出かけたダーダンの家で、掃除をしたり、畑から野菜を取ってきたりしながらのんびりしていた。


 ダーダンの家はまったく大きくはないのだが、置物や飾り物があちこちに積まれている。ダーダンの友人だという男、バートルが来て、「あいつは物を溜めこむ癖があるんだ」と言っていた。


 バートルはついでにカノン達の事も教えてくれた。どうやらみんな無事らしい。なんでだか王様に会いに行く事になったと言っていた。置いていかれたのかな? なんて事もちょっと考えたが、自分達の事をひどく心配していたというので、何か事情があるのだろうと考え直した。


 アネネは沢に水を汲みに来た時、一人の男を見つけた。高い草の奥に座っているのでよく見えないが、竜人ではないようだ。短い金髪の男で、左頬に傷があるように見える。男は一人でぶつぶつ喋っていた。


「いくらおれでもこんな山の中を当てもなく彷徨ってたら死ぬぜ」


――珍しく弱気だね?――


「弱気もくそもあるか。大自然に勝てると思うほど驕っちゃいねえ」


――ハハ、あたしらは自然を超越しちゃったけどねえ?――


「フン、浮かんでいる以外の事ができるようになってから言え」


 アネネはその男に声をかけるべきかどうか迷っていた。漂う雰囲気はなんとなくアネネに寒気を感じさせた。もし鱗を狙っている者なら、竜人の村と反対方向を教えなければならない。幸いチョーワはダーダンの家で遊ばせたままだ。


 アネネが意を決して声をかけようとする前に、その男がアネネの方に振り向いた。


「ガキがいるな?」


 男は服が濡れるのも構わず水の中を歩いてきて、アネネに近づいた。そしてその顔を覗き込んできた。


「西エルフだな。なんでこんなところに?」


 アネネは慌てて何か答えようとするが、言葉がうまく出る前に、その男はにこっと笑った。


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