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カノン伝記  作者: 真喜兎
第五章 星降る夜の神
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37-2.竜人の村①

 アネネとチョーワが、ダーダンという黒い鱗の竜人と出会っていた一方で、カノン達は竜人の兵隊に囲まれていた。


 カノン達は敵意を示さないように手を上げていたのだが、竜人達は乱暴に身体検査を行い、カノンが赤い鱗を持っているのを見つけ出した。竜人達の目の色が変わる。竜人達は口々に「処刑だ!」「報復だ!」と叫び始めた。


 カノンが「それは拾っただけだ!」と必死で説明していると、鷹常がゆらっと竜人達の前に立った。鷹常はにたにたっと妖艶な笑みを浮かべていて、額から角が生えている。どうやら体をまさぐられた事に相当憤慨したらしい。普段は見ないような笑みで怒りを表現している。


「トーラン王にお会いしたい」


 鷹常がそう言うと、竜人達はざわついた。竜人の王の名はミズネから聞いた。僅か十五歳の時に、鱗を狙われる竜人達を取りまとめ、国を作った竜人族の英雄だ。


 竜人達はぼそぼそ話し合うと、カノン達に縄をかけて連行した。それなりに標高のある山の中、カノン達が道と分からない道を歩いていく。


「アネネ達は大丈夫かな?」

「獅子もいるし、大丈夫だろう」


 カノンとニルマはこそこそっと囁きあう。獅子はちょうどその場を離れていて、竜人達には見つかっていなかった。竜人が乱暴な声で「何か言ったか!?」と言いながら、縄を引っ張る。竜人に手荒いところがあるのは事実のようだ。


 カノンは竜人には深い優しさがあると思っていたのは間違いだったかなと、自分の考えの甘さにうんざりする。ニルマも縛られた両手が痛いようで、終始しかめ面をしていた。






 人里が見え始め、駐在所のような場所にカノン達は連れてこられた。とりあえずといった感じで、中の一部屋に押し込められる。


「不愉快です。逃げましょう」


 とっくに怒りのピークを通り越して、逆に冷静になった鷹常が言う。


「逃げたら、余計疑われるんじゃないのか……?」


 カノンが心配そうな顔をする。しかし鷹常はなんとか縄を外そうともがく。


「獅子、獅子、そこにいますね?」


 鷹常は窓に向かって声をかける。すると少し間を置いて、「ここに」という獅子の声が聞こえた。鷹常がわたくし達を解放しなさいと言うと、獅子は声を低くして答える。


「もうすぐ日が落ちます。まだ人目があるので、それからの方がよろしいかと」

「わかりました。それまでは待ちます」


 今度は窓の近くにいたニルマが獅子に声をかける。


「獅子、アネネとチョーワはどうした?」

「おれは知らない。捕まってはいないと思う。おれは鷹常様を追うので精一杯だった」


 獅子はそれだけ言うと、「人が来た」と言ってそこから消えた。ニルマとカノンはそれぞれ心配だなと口にしたが、よくわからない山道を歩いてきたので、探しに行くのは難しそうだと頭を悩ませた。


 それから夜になると、辺りは真っ暗になった。その前に食事が与えられ、用も足しに行かせてもらえた。だが部屋には明かりも入れてもらえない。


「揉め事を起こしに来たわけではないのに……」


 まだカノンは逃げ出す事に躊躇していた。ニルマも「確かに」と返事するが、鷹常はカノンに顔を近づけた。


「わたくし達は犯罪者ではない。そうでしょう? ならば正々堂々、まっすぐトーラン王に会いに行きましょう」

「そ、そうか。そうだな」


 そう答えた後に、カノンは「ん?」と首を傾げた。


「なんで王様に会いに行くんだ?」


 カノンは鱗を竜人の故郷に返しに来ただけ、アネネはチョーワを預けに来ただけだ。どこから王様に会いに行くという話が出てきたんだろう。


 暗闇の中、鷹常がにたりと笑った気がした。しかし聞こえる鷹常の声はいつもの落ち着いた声だ。


「この国に異人種であるわたくし達が入り込む事、ご禁制の品である鱗を持ってきた事、アネネとチョーワの問題にしても決して簡単な事ではありません。特にアネネに関しては特例を設けてもらわなければ、この国に住めない。それら全てを認めてもらうには、王に直接談判しなくては」

「うーん、そうか。なるほど」


 カノンがなんとか納得していると、ドンドンっとドアが叩かれ、ドアが開かれる。


「明日、早朝から城に向けて出発する。充分休んでおけよ」


 そのままドアを閉じようとした竜人の男に鷹常は声をかける。


「城は遠いのですか?」

「ここからだと明日出発しても、着くのは四日後だな。村を二つ通るが、道中はほとんど山道だ。慣れてない奴にはしんどいぞ。城には飛脚を走らせているから、途中で使いと鉢合わせれば城まで行かずに済むかもしれないが」

「兵がいたので、城が近いのかと思っていました」


 鷹常がお喋りを続けると、男は壁にもたれて答える。


「みんな半農半兵さ。有事の際は基本的に自分達でなんとかするのがおれ達のスタイルだ。だが今回は村長の判断で、おまえ達の処遇をトーラン王に任せる事にした」

「村長?」

「おまえ達を捕まえた中にいたんだよ」


 男は名をバートルだと言った。そしてこの村に限らずこの国では夜にほとんど灯りをつけないという事も教えてくれた。それは村の位置を外の人間達に知らせないようにするためだ。


「わたくし達にはまだ仲間がいるんです。西エルフと、この国の者ではない竜人です。彼らが心配です。探してくれませんか?」

「ほう、いいよ。村長に話しとくよ」


 バートルは不意に思いついたようにカノン達に近づいてくる。持っていた小さな灯りを床に置いた。


「縄は外しといてやるよ。村長は女子供に不安を与えないように縛っておけと言ってたんだがな。だがおまえらも子供だし、話した感じ、危険もないと思う」

「あ、ありがとう」


 カノンは思わずお礼を言う。縄を外した後、縛られた箇所をさすっている鷹常やニルマを見て、バートルはすまなそうにした。


「痛かったか。悪いな、気が利かなくて」


 バートルは最後にドアを閉めながら笑った。


「ハハハ、外の人間と話をするなんてガキの頃以来だぜ。楽しかったよ。おまえ達、逃げようなんて考えるなよ。この山の中で迷子になったら、探すのは困難だからな」


 カノンは鷹常を見る。鷹常はバートルには聞こえないように、「いえ、逃げますよ」と呟いた。


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