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カノン伝記  作者: 真喜兎
第五章 星降る夜の神
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37-1.竜人の村①

「竜人の国? ん~竜人の国ねえ。お勧めはしないよ。何しろ奴らときたら、他の人種より頭一つも二つもでかい奴ばっかりだ。プライドも無駄に高くて、頑固で融通が利かないし、乱暴で粗野な奴らだ」


 それを言ったのは、山の麓の村でカノン達が出会った西エルフのミズネという男だ。ミズネはレーク地方(大陸の西側)にある西エルフの国からこのエーア地方(大陸の東側)に、旅して来たらしい。そしてミズネの話によると、どうやら竜人の国はレーク地方の国とはいくらか交易があるらしい。


「ぼくも竜人の国の詳しい場所は知らないよ。行くんなら広大な山の中を探す羽目になると思うね」


 ミズネは細い目がいつもにやついているように見える若い男だ。お喋りで、ぺらぺらと竜人の情報を話してくれる。


「竜人の鱗がなぜご禁制の品となっているか知っているかい? それは二十年前に竜人が国を作ったからだよ。みんな竜人の報復を恐れてる。竜人はそれまで国を持たなかったんだ。竜人っていうのはでかい分、その強さも普通の人間の何倍もあると言われている。それが徒党を組んで襲ってきたらどうなる? 考えるだけで恐ろしいだろう? だから普通は竜人の国なんて誰も探そうとしないのさ」

「あんた詳しいな」

「ハハハ、これくらい西エルフとしてはただの一般教養さ」


 ミズネはその他にも西の様子やこれまで旅してきた知識をひけらかす。カノンや鷹常(たかつね)は興味深げにそれを聞いているが、ニルマは少しうんざりしたように、隣にいるアネネにぼそっと呟く。


「なんか癇に障るのはおれだけか?」

「あたしはとっくに?」


 アネネは竜人の悪口を言われた時点で、既にこの同種族の男に嫌悪感を持った。チョーワを竜人の国に預けた後は、(あたしも見た事もない西エルフの里に帰る方がいいのかな)と思っていた気持ちが、急速に暗くなっていく。


 獅子(しし)が宿の入り口に顔を出す。この辺りは風が強く、羽織っているマントがひっくり返り、獅子の髪も少しぼさぼさになっている。


「山の入り口まで案内してくれる人を見つけてきた」


 それを聞くとカノン達も立ち上がる。


「本当に行く気なのかい? ご苦労な事だね」


 ミズネはそう言いながら、手をひらひらと振ってカノン達を見送った。


「あいつ、しばらくこの村に滞在するんだと。また会うかもな」

「あたしは会いたくないね」


 ニルマとアネネは二人でぶつぶつ言いながら歩く。その時、チョーワが後ろからアネネに抱きついてきた。にこにこ笑いながら「アーウワア」とよくわからない声を上げる。


「なんだい、なんだい?」


 百八十を優に超えるチョーワに対して、百五十弱しか背がないアネネは簡単にチョーワに持ち上げられる。


「そんなに竜人の国に行くのが楽しみなのかい?」

「ハハ、おまえの彼女を取ったりしないよ」


 アネネとニルマはそれぞれ、チョーワの行動に違った解釈をする。実際チョーワがどういうつもりなのかはわからない。ただチョーワはアネネを大好きな事は確かなようで、アネネの頭に自分の頬を擦り付けている。


「ほらほら、行くよ。おろしとくれ」


 チョーワはなかなか離さず、アネネが「よしよし」と頭を撫でてからようやくアネネを下ろした。






 カノン達はアネネや村人の話から竜人のいる場所に大体の見当をつけていた。そのおかげか山に入って三日目には竜人の国への手がかりを見つける事ができた。沢に降りてきていた黒い鱗の竜人を、アネネが見つけたのだ。


 アネネはばちっと目が合って思わず緊張した。こちらに敵意がないという事をわかってもらうために、どう声をかけようかという事はずっと考えてきたはずなのに、いざ出会うと慌ててしまった。


「えと、あの、あたし、えと」


 うろたえているアネネを見ながら、黒い鱗の男はにやっと笑った。


「こんなところで散歩か?」


 男はいい人なのか悪い人なのか判断しづらい不敵な笑みを浮かべている。洗濯に来ていたようで、水に浸していた服を取り上げて水を絞り、服をバサッと広げる。アネネはその様子を黙って見ていた。気持ちは焦っているのだが、言葉がうまく出てこない。


「お兄ちゃんの彼女か?」


 アネネは一瞬言葉の意味がわからなかったが、後ろから「くわあ」と言う声が聞こえて、男はいつの間にかついて来ていたチョーワに話しかけたんだと気づく。チョーワが来た事でアネネの心はいくらか落ち着いた。


「あたし達、竜人の国を探しに来たんだ。こいつ……あ、名前はチョーワって言うんだけど。歳は十五。チョーワを竜人の国で暮らさせてやりたくて。身寄りはない……から、誰か面倒を見てくれる人がいればいいと思うんだけど。あ、あたしは西エルフに見えるだろうけど、チョーワのパパとママに育てられたんだ。竜人に敵意はないよ。鱗も狙ってない。むしろ鱗を狙う奴らからチョーワを守ってほしくて……」


 アネネはとにかく伝えたい事を一気にしゃべった。男はバケツに洗濯物を放り込んだ後、のそのそと近づいてくる。


 アネネはまた緊張した。男はミズネが言っていた竜人の特徴に当てはまっていて、やはり背が高く、二メートル近くありそうだった。それに頬や額に左右対称に鱗がついているチョーワと違って、顔面の左側から右目の下にかけて鱗がついている。男は名をダーダンと名乗った。


「さて、いろいろ喋ってくれていたようだが、おれにどうこうできる事はないと思うね。おれはどちらかというとはぐれ者でね。この鱗の醜いつき方からして、女も寄って来ちゃくれない」


 どうやら竜人は左右対称に鱗がついていて、なおかつ鱗の量が多いというのが美しさの基準らしい。しかも黒い鱗はつき方はどうあれ、そもそも嫌われやすい色らしい。


「でも、黒い鱗なんて、あたしはかっこいいと思うけど」


 アネネがそう言うと、ダーダンは「ハハハ」と笑った。


「そんな嬉しい言葉をもらえたのなんて、初めてだぜ。ありがとうな、お嬢ちゃん」


 ダーダンにぐしゃぐしゃと頭を撫ぜられて、アネネはやっぱり竜人に悪い人なんていないと、安心した気持ちになった。


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