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カノン伝記  作者: 真喜兎
第四章 日輪の神
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34-2.マクとの再会

 カノン達を椅子に座らせて、マクは棚からカップを取り出しお茶を入れる準備をしだす。そしてベングじいさんが持ってきたお茶っぱでお茶を淹れる。ベングじいさんはその間、マクの側でぶつぶつ文句を言っていた。


「本当ならおまえにこの家の敷居を跨がせたりしないんだ。間男め。わしは最初からおまえが気に入らなかったんだ。ディアンダ様がいなくなったのをいい事に、平気でリック様の隣にいやがって。いつかこうなるんじゃないかと思っていた」


 マクはリックと愛し合うようになっていたのを、うかつにもベングに喋ってしまっていた。そのためベングは今までマクにこの屋敷に入らせないようにしていた。


 以前はマクもリック達の世話役として一緒に住んでいたが、今のマクにはもうこの屋敷に住む道理はなかったので、近くの長屋を借りて住んでいる。生活費を得るために仕事もしていて、老人達の介護をする施設で働き始めている。


 マクは自分の話は簡単に済ませ、じっくりとカノン達の話を聞いた。カノンは思い出した順に語るので話は理路整然としていなかったが、レイアが合間に補足説明を入れてくれるので、大体の話は理解できた。


「なるほど、弦の国では北エルフの国へ護衛を頼まれたと聞いていたのだが、その常さんの用事だったんだな」


 マクが言った常さんとは鷹常のことだ。カノンは事前に口止めされていたので、鷹常の身分を明かしてはいない。それでもマクに嘘はつきたくないのか何度か言いかけたが、レイアが上手にごまかしていた。


「それでどうして常さんは今度はこのカラオ国に?」

「わたくしは各国の情勢を調査する調査員を父に持っています。ですからこのカラオ国にも興味があり、カノンに同行させてもらったのです」


 鷹常はすらすらとそんな嘘を口にする。


 鷹常とて父母を失くしたのはほんの一年前だ。それに心を痛めているのかいないのか、鷹常の表情からは分からない。弟のけやきが側にいたならば、鷹常の心情を追求したかもしれないが、レイア達にはそこまでできない。


 カノンの話をニルマも黙って聞いていた。神に会ったという話は半信半疑だが、カノンという人間は理解できた。正直あまり賢いとは思えないが、真面目で義理堅い。母親想いで、育ての親であるというこの人の事も深く想っている。


 実を言うとニルマはもうカノンに復讐しようという気は失せていた。頬に受けた傷はまだ少し疼いている。しかしカノンの飾り気のない性格は、不器用なニルマにいつの間にか好感を与えていた。


 獅子はようやく鷹常様も弦の国に帰る気になってくれるかな、とぼんやり考えていた。その期待はすぐ裏切られてしまうのだが、このしばらく後の出会いにより、弦の国へ帰れる目途は立つ事になる。


 レイアは自分はこの後どうするべきかと考えていた。カノンにはすっかり情が移ってしまっているので、一緒にいたい気持ちはある。しかしレイアは弦の国で次期皇である鷹常に仕えるために、英才教育を受けてきた。カノンの侍女のような役割は、はっきり言うとレイアには役不足だ。それでも弦の国(鷹常)は、魔帝の情報を得るためにカノンの側についておけと言うのだろうか? それがわからなくてレイアは少しため息をついた。






 ベングはカノン、レイア、鷹常には屋敷の部屋を用意してくれ、獅子、ニルマには宿を案内してくれた。レイア、鷹常は早めに部屋に入り、カノンとマクの二人きりの時間を作ってくれた。


 カノンとマクはベランダに置いてある椅子に並んで腰かける。カノンはみんながいる時には言えなかった事、北エルフのハマと言う青年に好意を持たれた事や、ラオに好きと言われた事をマクに話した。


「おまえも男の子とそんな話をするような歳になったんだな」


 マクは少し複雑な気持ちで笑う。しかしカノンは肩を落として続きを話す。ハマはカノンを庇って矢傷を受け、目を覚まさなくなった。ラオは自分が傷つけてしまい、そのまま別れた。


「わたしに関わった人はみんな不幸になるのかな」


 そんな風に思わざるを得ない。マクはカノンの肩に手を回してカノンの肩を抱き寄せる。


「おまえが悪くないとは言えないのかもしれないし、おまえはおまえがしてきた事を反省しなければならないのかもしれない。でも人を愛する事を恐れるな。これはおれの勝手な言い分だが、おまえには幸せになってほしい」


 そう言ってからマクは遠くに視線を送る。


「幸せを……見つけるのは難しいんだ。おれはリックが幼い頃から一緒にいて、もちろんそれで楽しいと思っていたが……」


 マクは少し悲しそうに笑む。言いにくそうにちょっと言葉を濁したが、それでもカノンに話してくれる。


「なんていうか、リックは、その……おれにずっと関係を迫っていたんだ。いつものように顔に笑みを浮かべてはいたが、それでもまるでおれを責めるようにおれに関係を迫っていた。そしておれがそれをためらっている内に、いつの間にかディアンダと結婚していた」


 その時マクはディアンダの指示で、ディアンダの部下の仕事を手伝いに行っていた。二年ほど離れていた後に、二人が結婚して子供ができた事を知った。


 カノンはじっとマクの顔を見つめている。言葉は挟まなかった。マクと母さんの思い出に水を差す事なんてできない。


「リックは、ますます顔に笑みを浮かべていた。それはやっぱりおれを責めているように見えた。なぜなら……リックはまたおれに関係を迫ってきていたからだ。ディアンダはおれと入れ替わるようにこの屋敷から姿を消して、リックとおまえの側にはいなかった。最初は、ディアンダがいない事の八つ当たりみたいなものかと思った。おれを困らせる事で憂さ晴らしをしているのかと……」


「でも、違ったんだな」とマクは呟くように言う。


「おまえが十一くらいの時、ディアンダから連絡が来て、クルド王国に向かう事になったろう? その旅の途中、おまえが寝た後に、初めて関係を持ったんだ。あいつと会うくらいなら死ぬとまで言ったリックに半分脅されるように、あいつを抱いた」


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― 新着の感想 ―
やっぱり、他の人にも賢くはないと評される主人公(苦笑い)近親相姦の影響か賢くはないという感じなのかな。 今日のハイライト、ベングさん。 まじ、本当にその通りですわ、ただの間男です。ただ、その自覚はな…
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