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カノン伝記  作者: 真喜兎
第四章 日輪の神
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33-2.大樹の森

「ギャア、ギャアア!」


 少し静かになったかと思った翼人の声が、再び騒がしくなる。カノン達が恐る恐る建物から顔を出してみると、翼人達の視線の先には黄色と黒の縞々の大きな獣がいた。


「ト、トラだ!」


 トラは臭いを嗅ぐようにしながら悠然と歩いてくる。柱に前足を置いて立ち上がり、柱の上に止まっている翼人を狙っているのか、カリカリと爪で柱を掻く。


「お、思ったより大きいぞ。魔法で追い払えるか……?」


 透明の魔石を握るニルマの手を抑えるように、カノンが手を乗せる。


「翼人もだけど、トラも傷つけないようにしてくれ。トラを怒らせると危険なんだ」

「難しい事を言うな……」


 トラはカノン達の気配に気づいたのか、建物の周りを回りだす。その隙をついて血気盛んな少年のような顔をした翼人が、バサバサと翼を動かしながらトラに足の爪を向ける。しかしトラは軽く体をしならせ、ドーム状の建物の上に飛び乗った。そして攻撃し損ねて地面に降りた翼人に飛びかかる姿勢を見せる。


「やばい!」


 カノンはとっさに翼人に飛びつき、抱きかかえるようにしながら地面をごろごろと転がる。


 突然現れて獲物を奪っていったカノンにトラは唸り声を上げる。ニルマは慌てて建物から這い出て魔石を操作しようとするが、その時向こうの方からガンガンガンと何か金属を叩くような音が聞こえてきた。


 トラは「グルルルル」と唸っていたが、その金属音がだんだん近く大きくなってくると、ぷいと背中を向けて森の中に消えていった。






 木々の間の道から、十数名の人が歩いてくる。その内四名は銅鑼をガンガンと打ち鳴らしている。トラ除けなのか、辺りに危険がない事を確認すると、音を鳴らすのを止めた。


「こんなところで何をしている」


 こんがりと日に焼けたような肌に、眉毛と髭の濃い顔立ち。南人と呼ばれる人々だ。


 レイアはカノンがカラオ国の出身だと言うので、カノンのような色白金髪のような人々を少しイメージしていたのだが、そのような人は一、二人いるくらいだ。ついでに言うと少し耳が尖った者や、猫のような尻尾の生えた魔人もその集団の中に混ざっている。言葉は訛りがあるが、ちゃんと通じる。レイアは少しほっとしながら、ここにいる経緯を説明した。


「翼人が騒がしいと思ったら、おまえ達のせいか。森の奥に入るなど、翼人に殺されても文句は言えないぞ」

「すいません……」

「こいつら捕まえましょうか?」


 レイアは謝るが、魔人達が指を鳴らしながら前に出てくる。


「いや、森に入った事に罰則はない」

「ハハハ、怖いのは翼人より自警団のあんたらだな」


 その人達は軽く笑いあいながら、カノン達に側に来るように声をかけた。






 このカラオ国のある日輪地方は半島になっており、南の海側の方にも南人の別の国が二つある。


 大陸内部からこの半島に来る入り口は、大陸一の大河、セーゲン川と大樹の森で塞がれており、湾の向こうの南西の国から船で来る以外は、普通セーゲン川を渡るしかない。


 そんなカラオ国は、全てを受け入れる事で発展してきた。人、物、特に言えば、魔人もだ。この国では魔人も市民としての権利を与えられ、差別を受けない。そのためこの国に入ってきた人々は、この国を第二の故郷と考え、大切にする人が多い。


 構成員に魔人の多い自警団が、時に国の警官隊より活躍する場面があるのは、それだけ人々が町の治安を守ろうとする表れだ。


 セーゲン川の渡し船から二人の男女が降りてきた。二人ともフードを深く被り、あまり顔が見えない。だが若い十代半ばくらいの少年少女のようだ。二人が船を降りると船頭が手を振った。


「この国に着いたらそんなフードなんかいらなくなると思うぜ」


 二人は自分達の正体をその船頭に教えてなどいない。だが自分達のような人が時折いるのか、船頭はそう言った。


「なんだい、この国は」


 少女は思わずそう言い放った。なぜなら入国手続きの際、顔を見せてと言われて仕方なくフードを取ったら、入国審査官がわあっと顔を輝かせたからだ。


「あなた、西エルフね! 西エルフが来るなんて何年ぶりだろう!」


 入国審査官は後ろに並んでいる人がいるというのに、「最近の西エルフの国はどうなの?」と、興味津々で聞いてくる。


「おーい、早くしてくれよ」


 後ろに並んでいる人が声をかけてくるが、怒る風ではない。


「あたしは西エルフだけど、西エルフの国から来たんじゃないんだ」

「なんだ、そうなの?」


 入国審査官はそれでも色々聞きたい風な雰囲気だったが、さすがにそこまで詮索する気はないようだ。次に少女の後ろにいた百八十を超えていそうな少年に、フードを取るように声をかける。少年は「くわあ」と返事なのかなんなのかわからない声を出す。


「こいつは……ちょっと勘弁してくれない? 事情があるんだ。ちょっと……これでね」


 西エルフの少女は指を頭の上で回す。※侮蔑的な表現ですがご勘弁ください※


「顔を見るだけよ。ほら、フードを取って」

「頼むよ、また追われる羽目に……」


 少女が懇願している間に、後ろにいたおせっかいなおじさんが少年のフードに手をかける。


「ほらほら、ちょっと見せるだけだ。おじさんが隠してやるからな」


 おじさんは背も足りていないのに横に立って、少年のフードを取った。大きな図体の割に子供っぽい顔をした少年の額や頬には、鮮やかな緑色の鱗がついていた。


「蛇鱗人……? いえ、もしかして竜人!?」


 入国審査官は思わず立ち上がって声を上げる。そのため周りの人間もどよめきの声を上げた。


「わあ! わたし竜人見たの初めて!」

「竜人だって!? 最後に見たのは二十年も前だぞ!」


 他の入国審査官まで混じって興奮気味に少年の周りに集まってくる。少女はまた少年の鱗が狙われると危惧して舌打ちしたが、数分するとまた、「なんだい、この国は」と言っていた。


 そこにいた誰もが友好的な笑顔を見せていた。少年に握手を求め、興奮のあまり少年に抱きつく者もいた。


「ようこそ、歓迎するわ」


 その台詞をその騒ぎの間、何回も聞いた。


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