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カノン伝記  作者: 真喜兎
第四章 日輪の神
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32-1.邪法と呼ばれる呪術

 魔石窟は思ったより簡単に見つかった。ただその入り口はしめ縄で封印され、立ち入り禁止の看板も立っている。さすがにそこまでしてあると、鷹常も獅子も入るのに躊躇し、中を覗くだけで待っていると言った。


 カノンとニルマはしめ縄を越えて洞穴の奥に進む。いくらも行かない内に壁一面がきらきらとした魔石に囲まれた。天然の魔石は大小さまざまでごろごろとしていてきれいな形をしていない。


 カノンは「わあっ」と声を上げ、洞穴の中を見渡す。


「すごいな、これが全部魔石か」


 ニルマは感動しているカノンの背中を見ながら、今はカノンに復讐するチャンスか? と考えていた。ひどく痛めつけてやろうとか思っているわけではない。ただ後ろから羽交い絞めにして恨み言を吐くぐらいはやってやりたい。


 ニルマの心情など知る由もないカノンは、その辺の魔石を拾う。魔石についた土を払いながら、「魔石はどれでもいいのか?」とニルマの方へ振り返る。


「あ、ああ、いや。魔石は自分の魔力に反応するものじゃないと……」


 ニルマは慌てて睨んでいた顔を取り繕う。


「魔力に反応? どうやるんだ?」

「魔石に語りかけるように、精神を集中させてみるんだ」

「よくわからないな」

「やってみせるよ」


 ニルマは軽く目を瞑りながら、ぶつぶつと呪文のように呟きだす。


「魔石となった人の魂よ、おれに力を貸してください」


 するといくつかの魔石がきらきらと輝きだしてくる。さらにニルマが祈るようにすると、より一層の輝きを放つ魔石が三つ宙に浮かんだ。


「おお、すごい」


 カノンは素直に感心している。ニルマは手を伸ばしてその魔石を自分の元へ引き寄せた。赤、青、黄色の三色の魔石だ。


「あとこれもかな」


 ニルマは足元で光っていた透明な魔石も拾い上げる。


「よかった。以前と同じ色の物だ。後は魔石の形を加工すればいい。故郷にいた時は知り合いの職人が魔石の加工をしてくれたけど、ここにもやってくれる人いるかな……」


 ニルマが悩んでいる間に、カノンは目を閉じ深呼吸した。


「魔石となった人の魂よ……」


 ニルマがさっき言っていた言葉と同じものを呟く。


「な、なんだ、これ!?」


 カノンはニルマの驚いた声を聞いて目を開けた。すると不思議な事に、そこにあった魔石すべてが強い光を放ち始めている。


「た、試しに真似してみただけなんだけど」


 戸惑うカノンの肩をニルマは興奮して掴む。


「すごいぞ、おまえ! すごい魔石使いの才能があるのかもしれない!」

「いやー……浮かせる事はできないみたいだ」


 ニルマが「もっと試してみよう」と言って魔石を拾い上げた時だった。魔石から強い光が失われた。洞穴の奥まであった魔石も僅かな光を反射するのみで息を潜め、洞穴内はたちまち暗くなった。


「あれ? なんでだ?」


 ニルマは魔石を撫ぜたり、こんこんと叩いてみたりする。カノンも魔石を覗き込んで見ていたが、不意に衣擦れの音が聞こえた気がして洞穴の奥を見た。光の届かない暗闇の中に、人の影があるような気がした。


「そうだ。前にもこんなことが……おれがケガした時、魔石の力が消えて変な人が空に見えて……」


 ニルマがぶつぶつ言っている後ろで、カノンは人の影らしきものに目を凝らしていた。


――邪法の娘よ、時は近い――


 女の人の声が微かに響いた気がしたが、カノンはほとんど聞き取れなかった。そしてその影は闇の中に溶けるように消えた。






 青空を映す神はばっと顔を上げた。


――新天の神だ! 気配が現れた!――


 川で水浴びをしていたイースターはその声に顔を上げる。そしてばしゃばしゃと水を蹴り飛ばしながら、青空を映す神に近づいていく。


「どこだ!? どこに現れた!?」


 イースターの体は鍛錬を欠かしていないのであろう筋肉質に締まった体をしている。


――あんたねえ、レディーの前で隠すくらいしたらどうなんだい?――


「ふん、勝手に眺めていたくせに何を言う。おれは下品な女は嫌いなんだ」


 そう言いあってから、「そんな事よりも」と二人同時に同じ言葉を言った。言葉が被った事にひどく嫌そうな顔をしながら、イースターは再び「どこに現れた?」と聞く。


――そこまではわからないよ。ランバルト国とかノイヒメル国とかオステンド国辺りがあいつの支配地域だしその辺りじゃないか?――


「何もわかってないのと一緒じゃねえか」


 青空を映す神はしようがないだろと言いたげに肩をすくめる。


――だが何かが変わった事は確かだ。新天の神を()るチャンスはきっと巡ってくる――


「面倒だがその辺りの国の神社とかを回ってみるか。現れるなら奴が祀られている場所だろうしな」


――それってあたしもお誘いしてくれてるのかい?――


 青空を映す神がにやりとしながら体をくねらせると、イースターはふんっと鼻を鳴らす。


「バカ言え。おまえとつるむつもりはない」


――残念だねえ。でもま、何か収穫があったら教えておくれよ――


「つるまねえと言ったろ」


 イースターは言いながら川から上がる。水の上からそう離れられない青空を映す神は、どうせまた会う事になるとわかっているのか、にこにこしながら後ろでバイバイと手を振った。


 着替えて歩き出したイースターは青空を映す神の目の届かないところまで来ると、ふっと息を吐きだした。顔がにやついている。


新天の神(あの女)がとうとう……!」


 イースターのその表情は恋する少年の顔にも似ていた。






 無事に魔石を持って帰ってきたニルマは魔石を加工してくれる職人を探した。しかし神社に断りもなく取ってきた魔石を預かってくれる職人はいなかった。


 ニルマはカノン達がまだ南方の国に向かうという話を聞くと、自分も一緒に行くと言い出した。


「なんでだ?」


 首を傾げるカノン達を前にニルマは少し言い迷う。カノンへの復讐のため? それもある。ただニルマは元々葬儀屋だった家業が嫌になり、かつ好きだった人が兄と結婚して失恋したという事が重なって故郷を飛び出してきたのだ。どこへ行こうという明確な目的はなかった。


「南の国に興味があるんだ」


 とりあえずそう言っておいた。


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