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カノン伝記  作者: 真喜兎
第四章 日輪の神
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31-2.魔石使いとの再会

 ニルマは北エルフの国で貴族達の陰謀に巻き込まれ、一時は王家に追われる身となった。その際、王家に仕えていたカノンと対立する場面があった。カノンの投げた弓矢がニルマの頬に直撃し、ニルマは傷を負った。


 元々ニルマは容姿の端麗さの割に自己評価が低かった。それはどこか不器用なニルマと違って、女性の扱いに慣れた美形の兄弟に囲まれて育ったからなのだが、顔に傷を負い、さらに付き合っていた女性に振られた事もあってニルマは自暴自棄になっていた。


 せめて自分を傷つけたカノンという女に復讐してやろうと、その行方を仲間だったヤマという北エルフに聞いた。そして南方に向かっている最中、足を滑らせて崖から川に落ちた。


 長い間流され、ずっと意識を失っていたせいか助けられた時には記憶が曖昧になっていた。


 だが今、偶然にも追っていた女を見つけた。記憶がみるみる蘇ってくる。それと同時にカノンに対する怒りも湧いてきた。ニルマは歯ぎしりしながら授与所でお守りを眺めているカノンを睨み、隣の女性に尋ねる。


「この辺りに魔石(くつ)はあるか……!? いや、八大神を祀る神社があるなら近くにあるはずだ……!」


 ニルマを支えていた女性は急に顔つきの変わったニルマを驚いたように見る。ニルマは言葉を続ける。


「魔石は死んだ人の魂。だから魔石は八大神に捧げられるんだ」

「へえ、そうなのか?」


 隣にいた女性ではない男の声が応えたのに驚いて、ニルマは振り返る。そこでは獅子がどこから買ってきたのか、串に刺した団子を頬張りながらニルマを眺めていた。


「あんた神社の人……じゃなさそうだよな。もしかして魔石使いか?」

「ああ、そうだ。いや、今は魔石を失くしてしまってるんだが……」


 ニルマが獅子に受け答えしているのを聞いて、女性はニルマに「記憶が戻ったの?」と聞く。


「記憶?」


 獅子が首を傾げるので、女性はニルマが記憶喪失だという事を話した。獅子は「ふーん」と相槌を打ってから、「それなら」と言い出す。


「魔石を手に入れればもっと記憶が戻るんじゃないか? 魔石窟ってところに行ってみようじゃないか」


「あんたも?」という顔をするニルマに獅子は頷く。


「魔石のある場所は魔石使いだけが知っているって話があるだろう? どういうところなのかちょっと興味があるんだ」

「わたしも興味あるな」


 いつの間にか話を聞いていたカノン達も口を挟んでくる。ニルマは恨んでいるのを気取られないようにしながらカノンに視線を送る。ニルマの隣の女性もカノン、レイア、鷹常を見て、また獅子を見た。


「みんなあなたの彼女?」

「いや、おれはただの護衛だ」


 獅子が真面目に答えるので、レイアは「わたし達、南に向かう旅の途中なんです」と説明する。


「この町の人じゃないのね。じゃあニルマと会った事があるかもしれないわね」


 期待する女性の視線に、カノンは「さすがにそんな偶然ないんじゃないかな」と困ったように首を振る。


 カノンが完全に自分の事を覚えていないと確信したニルマは、カノン達が魔石窟を探すのを手伝うのを承諾した。






 魔石窟については神社の人に聞いても教えてくれなかった。一応この国の決まりでは神社に奉納する目的以外で魔石を取ってはいけないらしい。


「大抵のところはそうだよ。だから魔石使いになりたければ、黙って取るしかない」


 ニルマは歩きながらそう説明する。


「魔石窟を探す当てはあるのか?」

「魔石は山の中の洞穴に溜まりやすい。神聖視されてる場所、一般の人が入れない場所に隠されているはずだ」

「溜まるって事は、さっき言ってたように死んだ人がそこに行くって事か?」

「そう言われてるよ」


 女性はニルマと獅子の会話を聞いて、神社が立ち入り禁止にしている山があるのを思い出す。それをニルマ達に教えたが、自分はそこにいけないと足を止めた。


「わたしはこの町に暮らしてるの。神社に逆らうような事はできないわ」


 ニルマは「うん」と頷く。


「世話になった」

「後で荷物だけ取りに来て。あまり多くないけど、着替えとかあるから」


 女性は名残惜しそうにニルマにぎゅっと抱きついた。


「あなたがいた数カ月、楽しかったわ。本当はずっといてほしかったくらい」

「うん……ありがとう」


 ニルマも抱きしめるとまではしなかったが、そっと女性の肩に手を置いた。


 ニルマと女性が話している間、カノン達は山の様子を探っていた。


「見張りはいないようですね」

「うん。入るのは簡単そうだ」


 鷹常とカノンは人目がないのを確認して入っていこうとするが、レイアは後ずさった。


「わたしはここで待っておくわ。やっぱり神様の領域に入るのは気が引けるもの」

「案外信心深いんだな」

「それはそうよ。この世界の神様だもの」


 別れを済ませたニルマと、それが終わるのを待っていた獅子も山の入り口の階段を上っていく。階段は最初は石造りだったが、途中で丸木を敷いているものに変わり、その後はほとんど整備されてない山道になった。その間もニルマと獅子は話している。


「あんた達、月国地方の人なのか。おれは……ここよりもっと東の方の出身だな」

「記憶が戻ったのか?」

「いや……話してると少しずつ思い出してくるよ」


 ニルマは頭をはっきりさせたいように、こんこんと自分の額を叩く。


「ここより東と言うと、魔界のある方ではありませんか?」


 鷹常が少し振り返ってニルマに問いかける。先頭を歩いているカノンも「魔界?」と聞きなれない言葉の意味を聞くように振り返る。


「魔界……そうだ、魔界。おれのいた町は魔界に通じる森の近くにあった」

「魔界というのは魔人だけが住んでいると言われる場所ですよ。魔人の国があるという噂もありますが、はっきりした事はわかりません」


 鷹常は「レイアのほうが地理や歴史に詳しいので、レイアならもっと知っているかもしれませんが」と説明する。


「そうだ……だからおれは国を飛び出してきたんだ……」


 ニルマはまた何かを思い出したようにぼそぼそっと口の中で言った。カノンは後でレイアに聞いてみると頷き、さらに奥地へ進んだ。


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