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カノン伝記  作者: 真喜兎
第四章 日輪の神
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31-1.魔石使いとの再会

 憎しみと狂気に身をゆだねていたドーレンだったが、死ぬ間際にカノンに深い優しさを見せた。多い言葉ではなかったが、カノンを狂気から救おうとしてくれていた。


 カノンはドーレンを火葬にした炎を見ながら、虚無感を覚えていた。


 カノンは地面に落ちていたドーレンの赤い鱗を拾い集めた。そして男達が残した馬を引きながら、次の宿場町を目指す。その道中レイアが竜人について語りだす。


「各地にいた竜人は、数十年前から姿を見せなくなったと言われています。それは竜人の鱗を狙う人間が急増したためで、竜人は竜の背にある隠れ里にみな姿を消してしまったのだと言います」

「竜の背?」

「この大陸を東と西に二分する山脈の事です。個々の山に名前はありますが、山脈自体に名前はないので通称そう呼ばれます。ちなみにわたし達のいる東側のエーア地方の方が西側のレーク地方より倍以上広いです」


 レイアは説明してから「クルド王国にいる時にお勉強したでしょう?」と言う。カノンは「そう言えばそうだっけな」と頭を掻く。レイアは何か説明する時は敬語になるようだ。


「竜の背ってここから近いのか?」

「いえ、まだずっと西の方よ」

「じゃあなんであの人はこんなところにいたんだ?」


「たぶん……」とレイアが言いかけたところで、鷹常が乗っている馬を引いている獅子が口を出す。


「あの男達は鱗を狙っていたと言っていた。他の竜人が狙われないように隠れ里とは反対の方向に逃げて来たんじゃないのか」

「なるほど……」


 ドーレンは命の危険を冒してまで自分を追う男達から仲間を守ろうとしていた。


 ドーレンが子供を殺したという事は、何かの間違いじゃないのかと思えてくる。


 少なくともドーレンは家族を想って死んだ。憎しみで顔を歪ませていた男よりドーレンの最後の生き様の方が、カノンの心を締め付けた。生きるのならそっちの方がいい。魔帝に対する恨みの炎は消えないが、そう思う自分もいるのに気づいていた。






 町に入ったカノン達は馬を売り、数日その町でゆっくりする事にした。


 四人はまず髪を切りに行く事にした。理髪店から出てきた鷹常は不満げに唇を尖らせている。お尻よりも長くなっていた髪を、肩よりも少し長いくらいの長さに切られてしまったからだ。


「少し切ってくださいと言っただけなのに、こんなに短くして」


 外で待っていたカノンに愚痴っている。カノンと獅子はもう切ってもらった後だ。カノンは肩ぐらいに、獅子は鷹常と同じくらいの長さでいつも通り後ろで髪を結っている。


「おれももう少しで刈り上げられるところだった。この辺りでは男も女も短いのが当たり前のようだな」


 獅子は肩をすくめてみせる。月国地方や北エルフの国などでは、男も女も髪が長い者が多い。その中でラオは短髪、レイアはおかっぱボブと、周りに比べて短い方だった。


 カノン、獅子、鷹常が話していると、「カノン!」と声がして、カノンの後ろにレイアがぶつかってきた。


「おお?」


 不意を突かれたのでカノンはよろける。そのカノンに縋るようにして、レイアが涙目で見上げた。


「ど、どうしたんだ、その頭」

「ひどいわ! 少し短くしてと言っただけなのに!」


 レイアも鷹常と同じような目にあったらしい。ただその髪はずっと短く、ショートカットになっている。「ぶっ、くくくっ」と獅子が吹き出した。


「ひどいわ! 笑うなんて!」

「すまない」


 獅子は謝りながらもこらえきれないように笑っている。


「さすが双子だけあって、そこまで短いとそっくりですね」


 鷹常もくすくすと笑う。鷹常の言うのはもちろんラオの事だ。ラオの事を思い出すと今までは後悔に苛まれていたカノンだったが、今はそれも少し受け入れられるようになってきていた。


「ハハ、似合っているよ、レイア」


 カノンは笑顔を見せながらレイアの髪に触れる。レイアは久しぶりに見たカノンの笑顔に気を取られ、怒っていた事を忘れた。逆に嬉しくなって可愛らしく、いーっと口を広げて笑って見せる。


 和んだ四人は旅に入り用な物を揃えつつ、町を観光する事にした。






 民家もまばらな林の奥に、神社があった。そこにニ十歳前後の若い男女が来ていた。


「ここは八大神の一人、新天の神様を祀っている神社なの。分社だけどそれなりに大きいでしょう」


 女性は説明しながら、ぼーっとした顔つきの青年を支えるように歩いている。その長髪の青年は端正な顔立ちをしているが、右頬には痛々しい矢傷の痕があった。


 女性は拝殿の前に来ると手を合わせる。青年もそれを真似て手を合わせる。


「ニルマの記憶が早く戻りますように」


 女性がそう呟くと、その青年ニルマも祈るように目を閉じる。「何か思い出せそう?」と問う女性の言葉に、ニルマは首を振る。女性は「そう」と残念そうにしてから、再びニルマの背に手を添えて歩き出す。


「あなたが川岸に倒れていた時はびっくりしたわ。きっとどこかで川に落ちちゃったのね」


 女性とニルマはそのまま神社の中を散策する。そこへカノン達も通りがかった。観光に来たならこの神社に寄るといいと人に言われたからだ。


「神社かあ。わたしなぜか神様と縁があるからな」


 カノンは大してありがたくもなさそうに言う。


「そう言えば月夜の神様に会ったわよね。あの時はただ驚いてたけど、よく考えればすごい事だわ」


 カノンはレイアの言葉で、レイア達は朝焼けの神や青空を映す神に会っていない事を思い出す。


「実はわたし、他の神様にも会ったんだよ」

「ええ? 本当に?」


 カノンはそれぞれの神に会った時の事を話す。


 レイアは「そんな偶然あるの?」と驚き、獅子は「本来なら眉唾物の話だと思うが、おれも月夜の神を見てるしな」と答える。鷹常は「神様に会う能力……何か利用できるかしら」と真剣に考えている。


「この神社でも神様に会ったりしてね」

「ハハハ、まさか」


 信仰心があるわけではないが、土地の神に挨拶する慣習は知っているので、四人は参拝を済ませる。レイアはお守りなどを置いている授与所を覗き込んでカノンを呼ぶ。


「カノン」


 その声はニルマにも聞こえた。ニルマは思わず振り返って、カノンを凝視した。


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