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カノン伝記  作者: 真喜兎
第二章 朝焼けの神
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19-1.小魚達の襲撃

 城の東棟にある東の海に開けたバルコニー。そこの祭壇の前の床に古い文字が円になって描かれ、周りにはかがり火がある。祭壇の上と床には、大小さまざまな形の魔石も置かれている。そして太陽の昇る方向に体を向け、司教らしき男が何やら経文のようなものを唱えている。


 時間は朝日が昇る前だ。だんだんと水平線が明るくなり、朝焼けが見れる頃、魔石がきらきらと輝きだす。司教はぴくっと体を震わせて振り向いた。


「朝焼けの神が降りて参られます」


 ミヨ国王と、トウを含めたミヨの子らは、司教に向かって頭を垂れる。司教はトランス状態になり、ゆっくりと口を開く。


「尋ねよ」


 ミヨは司教の言葉に重なって、朝焼けの神の言葉が聞こえた気がして、少し気を引き締める。


「王家の者、貴族の者が、身勝手な謀略により陥れられた傭兵達の恨みを買ったようです。既にわたしの息子が襲われました。そして次に狙われる者がいるようですが、その犯人がはっきりしないのです。襲われたわたしの息子の話では、傭兵達の中に自分を襲った男はいなかったと」


 司教の後ろから風が吹く。その風にあおられて、薄絹のような光が祭壇の奥に光っている気がした。ミヨは思わず目を細める。


――獣――


 司教も口を動かしたが、それ以前に確かに司教以外の女性の声が響いた。トウ達もそれに気づいて顔を上げ、祭壇の奥を凝視する。そこには霞のような人型のものが浮かんでいる。


「あ、朝焼けの神……!?」

「お姿が……!」


 薄くでも姿が見えた事で、感動のあまりトウ達は両手を合わせて祈りの言葉を口にする。こんな事は今までなかった。司教も驚いて朝焼けの神とトウ達を交互に見る。


――わた……姿……見える……。あの……が、近く……せいだ――


 はっきりとは聞こえないが、確かに朝焼けの神の声が聞こえる。朝焼けの神はさらにぼそぼそと何か言ったが、ミヨ達は聞き取れない。ミヨは司教に再度、朝焼けの神の言葉を伝えるように言う。司教は頷き、再びトランス状態になる。


「朝焼けの神はこう申しております。獣が現れた。獣はイルカ達に牙向く。憐れな小魚達はそれに翻弄されるだろう、と」


 司教の言葉はいつも通り抽象的な言葉だ。朝焼けの神は小さく首を振ったように見えた。まるで言葉が正確に伝わらないのがもどかしいかのように。司教はさらに言葉を続ける。


「一番目のイルカの前で小魚達は鳴く。獣はいつでもその牙を研いでいるだろう」


 やはり朝焼けの神はもどかしさを感じるかのように、ため息をついて肩を落としたように見えた。






 ハマははっと白昼夢から目を覚ました。ハマは先日、カノンが賊徒捜索に当たらなくてもいいように、国軍の者に訴えた。それがトウに伝わり、カノンはトウの護衛をするだけでいいとなった時は、カノンが襲われる夢を回避できたとほっとした。


 しかし今また予感がした。あの夢は今日、現実になる。トウが何者かに襲われて、悲鳴を上げる夢を見た。


 外に出るとまだ日が落ちるまでに時間はあるのに、辺りは薄暗かった。空には厚い雲が立ち込め、遠くの東の空だけが少し顔をのぞかせている。東の空だけが晴れている事はこの国にはよくあった。朝焼けの神が地上を覗いているからだと、人は言う。


 夢の中の景色は街中だった。ハマは急いで馬車を手配し、それに乗り込んだ。






 公務のため領事館に訪れていたトウは、城に戻るため馬車に乗り込んだところだった。空が薄暗いせいか、護衛兵以外の人はまばらだ。トウが座席に座り一息ついた時、外が騒がしくなってきたのが聞こえた。


「何事だ!?」

「何やら護衛兵の方が、不審な集団ともめているようです」


 御者がおろおろと騒ぎの様子を見ながら答える。トウは身震いした。朝焼けの神の言葉が思い出される。一番目のイルカとはミヨの長子である自分の事だろう。


「何者もわたしに近づけるなと伝えろ! ええい! 早く出発してしまえ! 早く! 早く!」

「し、しかし頭を抑えられていて……!」


 トウは帽子のつばを引っぱり、少しでも自身の体を隠すように縮こまる。


「やはりわたしが襲われるというのは、本当の事だったのだ。恐ろしい、恐ろしい。ドムのようになるのは嫌だ」


 外では傭兵達とヤマが、護衛兵達ともめていた。何もない時ならば、傭兵達の直訴ももう少しすんなり行ったかもしれない。だが護衛兵達もトウが襲われるという情報を知らされていて、ピリピリしていた。


 らちが明かないと踏んだヤマは、槍を持っている方の手で護衛兵を突き飛ばし、無理やり突破する。そしてトウの乗る馬車のドアを荒々しく開いた。


「トウ様! 話を聞いてくれ!」


 ヤマの声は、女性のように甲高い声で鳴いたトウの悲鳴にかき消された。


「殺さないでくれえ!」


 トウはドアを開けたヤマの顔を見る事もせず、逃げ場のない馬車の中で逃げ場を探すように、馬車の壁をひっかいていた。


「トウ伯父さん、落ち着いてくれ! おれだ!」


 ヤマは悲鳴を上げ続けるトウの背中に訴えかけるが、トウはまるで聞こえていないようだった。ヤマがなんとか気づいてもらおうとする前に、ヤマは馬車のドアの前から引きずり離された。


 ヤマを引っ張ったのはカノンだった。バランスを崩しかけたヤマは数歩下がって体勢を立て直す。護衛兵もカノンも既に剣を抜いていた。


「トウ様に近づくな!」


 カノンは剣を向けながら、目の前の青年が以前少しだけ会ったヤマという者だと気づく。ヤマもカノンをどこかで見たような女だと思ったが、焦っている頭では思い出すまではいかなかった。思い通りにならない苛立ちから、ヤマは槍の穂先にかぶせてある鞘を投げ捨てる。


「ガキがいっぱしに護衛兵を気取ってるんじゃねえぜ! そこをどきな! おれ達はトウ様と話してえだけなんだからよ!」


 ヤマがそう叫んでいる間に仲間の傭兵の一人が悲鳴を上げた。護衛兵に腕を切りつけられ、血が飛んでいる。ヤマと共に直訴に声を上げていたニルマは、魔石を浮かせて魔法を発動させ、ケガをした男と共に一度距離を取った。


 ヤマの心が不安とショックでざわついた。


すいません。日曜休みとしてましたが、都合により月曜休みにします

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