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カノン伝記  作者: 真喜兎
第二章 朝焼けの神
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17-1.ドムの敗北

 国軍から逃げ出すヤマ達の前に、伏兵が現れ道を塞ぐ。


「どけえ!」


 追われる焦りからヤマは怒声を発し、槍を振るって国兵の剣を弾き飛ばす。ヤマら数名が国兵と剣を交じり合わせている間に、傭兵達は散り散りに逃げる。ヤマも長く国兵の相手をするつもりはなかったが、人数の違いからすぐに包囲されかけた。


 それを打破したのはニルマだった。赤い魔石が炎を発生させて国軍の行く手を阻み、黄色い魔石が衝撃波をまといながら兵士を吹き飛ばす。青い魔石は風を巻き起こし、竜巻が砂埃を上げる。


 ニルマはその三色の魔石の他にも、杖の先端につけられた無色の魔石も持っていた。それは他の魔石の力の増幅装置の役目を果たす。巨大な炎の竜巻が出来上がり、それに驚いた国兵達が足を止めている間に、ニルマとヤマ達は逃げた。






 なんとか逃げ切ったヤマは槍を支えにしながらうなだれた。まさかこんな事態になるとは……と、深く息をつきかけた時、傭兵団の内の一人がヤマの胸倉を掴んだ。


「おまえ、貴族院の回し者だろう! なんだ、この展開は! なんでおれ達が討伐されなきゃならない!?」

「おれもまさかこんな事態になるとは思わなかったんだ!」


 ヤマはさっき考えかけた言葉と同じ台詞を吐くが、もちろんそれは傭兵達の思うところとは別のところにある。ヤマが思ったのはまさか自分とドム伯父さんが貴族院に裏切られるとは、であり、傭兵団が襲われる事はとうに知っていた。だがそれを白状するわけにはいかない。


「これからどうするか……。このまま逃げるか、あのドム・アスアガという貴族を探すか……」


 ニルマがそう呟くと、「おれは逃げるぜ。討伐されるのはごめんだ」という者と、「あの貴族のおっさんを問い詰めなきゃ、気が済まねえぜ!」という者に分かれた。ニルマは頷く。


「おれもこのままこの国を追われるわけにはいかない。あの貴族を見つけて、なぜこうなったのかちゃんと説明してもらおう」


 ヤマはそのニルマの言葉を聞いて、国軍の将軍が述べた口上は、長耳でないニルマ達にはあまり聞こえてなかったのだと気づく。まさか国王誘拐の罪まで着せられているとは思っていない。とりあえずほとぼりが冷めるまで逃げるのが得策だとヤマには思えたが、ドム伯父さんを一人置いていくわけにもいかない気がして、黙ってニルマに従う事にした。






 一方ドムは、国王誘拐の罪を着せられている事に気づいたメザが匿っていた。メザは眉をひそめてドムの前に座っている。


「公にではありませんが、あのハマ・サイエという青年が、ミヨ様の解放前にわたし達がミヨ様の居場所を知っていたということを、ミヨ様らに喋ってしまったようです。それを貴族院の者が聞きつけて、あなたを指名手配した」


 ドムは小さな舌打ちをして、顔をしかめる。メザはすっと頭を下げた。


「わたしの落ち度です。彼がミヨ様に近しい人間だという事を考慮して、もっと先に手を打っておくべきだった」

「メザ殿、顔をお上げください。それよりそれではあなたも危ないのでは?」


 メザは首を振る。


「貴族院の狙いはドム様、あなただけのようです。貴族院の中で、もう市民党設立は容認されているのでしょう。代表であるわたしには何の嫌疑もかけられてはいません……が」

「……このままわたしを匿えば、メザ殿の立場も脅かす事になるかもしれない、ですね?」


 ドムはメザが言い淀んだ先を続けた。メザは頷かないが、その少し伏せた視線はドムの言葉通りだという事を示している。ドムは思考した。メザはドムが貴族院と取引したり、市民団を二つに分け、一つを賊徒とした事など、裏でいろいろ画策していた事を責めてはいない。


 ドムは国王ミヨの子、第三王子ではあるが、ミヨの方針により、王子という特別な者扱いされる事はなかった。勉強を重ね、他の者と同じように試験をパスして公務員となり、今は地方管理局の局員となっている。そのため地方の貴族には顔が効くが、ドムよりずっと年上のメーディールさんがずっと局長で頑張っているせいで、ドム自身の中央への影響力は限られている。


 ドムは決断した。メザをまっすぐ見つめる。


「ビタルート様、メーディール様、レーギンス様らを糾弾します。誓約書がある手前、わたしを首謀者扱いしたのがビタルート様達だとは思えませんし、メーディール様には長年かわいがっていただいた恩もあるのですが……」


 かわいがられていたうんぬんは今のこの際関係ないだろうと少し変な顔をするメザを、ドムは苦笑して見つめ、言葉を続ける。


「わたしも共犯となりましょうが、その代わりに母様誘拐に関わっていた者をすべて暴き出します」

「なるほど……貴族院は混乱するでしょうが、だからこそわたし達市民党が強く発言できるチャンスができる」

「ええ」


 頷くドムを見ながら、メザはまた気まずそうに「そうなると……」と言葉を濁す。ドムの目にはメザへのゆるぎない信頼と期待の光がある。だからこそドムははっきりと伝える。


「わたしは市民党から離脱します。メザ殿もこれ以上わたしを構う必要はありません。メザ殿はメザ殿の道を、まっすぐ突き進んでください」


 少し間を置いて、メザは「わかりました」と答え、それ以上の言葉の代わりにドムの手に触れて頭を垂れ、二人は決別した。






 カノンは少し困惑したような表情で、ハマの待つ宮殿内へ戻ってきていた。今回の戦……戦と呼んでいいものかもわからないが、賊徒討伐はカノンが思い描いていたような戦いではなかった。多勢を持って敵を掃討するのは、戦の定石なのかもしれないが、だが今回のそれはまるで弱い者いじめのようだった。相手に戦う意思が見えなかったせいかもしれない。


 それに……と考えてカノンは疲れたようなため息をつく。自分は将軍の隣にいるだけで、戦わなくていいと言われてしまった。では何のためにわたしは呼ばれたのだ、と混乱し、無用な疲れが湧いてくる。


 カノンは浮かない顔のまま、ハマのいる部屋をノックする。すると随分と気をもんでいたような顔のハマが、勢いよくドアを開けた。


「無事でよかった」


 ハマはほっとしたように少し泣きそうな笑みを見せた。


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