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カノン伝記  作者: 真喜兎
第二章 朝焼けの神
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13-2.ミヨ国王

 数日後、カノンが庭で体を動かしていると、またハマが現れた。「ブコに頼まれた書類を持っていくところなんだ」と、城に来た理由を語るハマを、カノンは気まずそうに見る。「少し話をしよう」と誘われ、渋々ハマに同行する。


 ハマの話は市民団と王国軍に関する事だった。告白の話を持ち出されるかと思っていたカノンは、少し安堵する。


「市民団を討伐する王国軍の再編成は戸惑っているようだ。賊徒が北エルフ市民団として名を上げた事で、それを討伐と称して一掃しようとする動きに反発する動きもある。貴族院もまだ捨てたものではないな」

「えと……コープルク様……は市民団がどうなればいいと思っているんですか」


 ハマは少し驚いたように横に顔を向けてカノンを見る。カノンはハマの名前をよく覚えてなかったので今まで呼ぶ事がなかった。それで先日レイアに聞いたところだった。合っているかとどきどきしながら、ハマの返事を待つ。ハマはふっと笑う。


「わたしの事はハマでいい。わたしを名字で呼ぶ者は少ないから、少し驚いた」


 そう言ってからハマは前を見て、またいつもの生真面目な顔つきに戻る。


「市民団の要求は、否定するものではない、と思っている。ミヨ様の退位についても、ミヨ様のご年齢を考えれば妥当なものだ。だから市民団と争う事がなければいいと思っている」


 カノンはその言葉を聞いて、この国の情勢は今微妙なところで、賊徒をただ討伐すればよいという自分の認識は甘いものなのかもしれないと感じた。しかしながらこの国の事はこの国の事。カノンがどういう認識を持っていても関係ない。だからただ与えられる役目だけをこなしていこう。そう考えた。






 ハマは一人会議室にいた秘書官のキコを探し出して書類を渡した。同行しているカノンとハマを交互に見て、キコが二人の仲を勘繰ると、ハマは軽く首を振る。


「わたしの片思いですよ」

「へえ、こういう子が好みなのか」


 キコはハマと会話をしながら、書類を確認している。カノンは落ち着かない思いをしながらそこにいたが、ぎいっと会議室のドアが開いたのを聞いて振り返った。


「や! キコの兄貴にハマ」

「ヤマ」


 現れたのは役所にいたブコ・プリマス・セーシェルの弟で、ヤマ・ノシフカ・セーシェルであると、ハマがカノンに教えた。ヤマは兄弟らしくブコと同じような愛想のいい笑顔を浮かべている。ヤマは槍を片手に持っていた。ヤマは槍の名手だと、またハマがカノンに耳打つ。


「何の用だ?」


 キコが尋ねると、ヤマはどかっと手前にあった椅子に座り話し出した。


「おれさ、ドム伯父さんに誘われて市民団に入ったんだよ。だからさ、他にも入団希望者を探して勧誘に来たってわけ」


 ヤマはにこにこしながら話している。


「キコの兄貴にハマ。あとついでにそこのお嬢さん。あんた達も北エルフ市民団に加われよ。北エルフは今、変革の時を迎えてる。市民の介入する政治ってのも見たくねえか?」


 キコは書類を机の上に置き、立ったままヤマに向かって話す。


「ミヨ様は五十年近く前、貴族側ではなく、市民側の代表として王座についた。それは貴族からの反感を買い続ける五十年でもあった。ミヨ様は恐れている。脆弱な市民が貴族院と同等に並び立つのかと。結局は圧力に屈し、貴族主義の社会へと戻ってしまうのではないかと」

「そんなもの、やってみなければ分からないだろ?」

「時期尚早、という考え方もあるという事だ。少なくともミヨ様はそう考えられている」

「兄貴は?」


 キコは少し眉をひそめて、言葉に詰まる。


「ミヨ婆ちゃんももう年だぜ? ぽっくり行っちまう前に、やんなきゃいけねえ改革があるんじゃねえのか?」

「……ミヨ様は自分の意思を継いでくれる後継ぎを決めている。今はそれを突き通す暴君でいたいのだ。近々それを発表する予定だった。それを察した者がその発表を食い止めるため、ミヨ様を攫ったのだろう」

「それが市民団だって? それは誤解だぜ」

「わかっている。敵は内側にいるのだ。それを炙り出す事で、ミヨ様の政権は盤石なものになる。今、市民党という不穏分子を政権に投入して、次期国王の選抜を不確かなものにするわけにはいかない」

「なるほどねえ……。要は交渉決裂って事か。ハマ、おまえはどうなんだ。予知能力を持ってるおまえがおれ達の側についてくれると助かるんだがな」


 ハマに視線を向けたヤマを静かに見返しながら、ハマは答える。


「……わたしは両親を早くに亡くして、ミヨ様に生活の便宜を図ってもらった恩があります。市民団の意見に反対はしないが、ミヨ様の意向にそぐわない事もする気はありません」


 二人の答えを聞いたヤマはしゃあねえ、とばかりに息をつく。そして立ち上がり、くるくると槍を回して鞘をかぶったままの切っ先をキコ達に向ける。カノンはそれを見て、剣に手をかけかけるも、ハマにそれを制される。


「まあいいさ。おれ達はこれから敵同士だ。だがな、市民団がでかくなれば、婆ちゃんも自分の考えを改めざるを得なくなるぜ。それを覚えときな!」


 ヤマはそれだけ言うとさっと姿を消した。キコはヤマが去っていった後を見ながら口を開く。


「娘、カノン、とか言ったかな。あなたに役目を与える。そのままハマの護衛についてくれ。ハマの予知能力が今後も狙われる可能性があるからな。ミヨ様には話を通しておく」

「え」

「ハマ、おまえは役所の仕事は休んで宮殿内に滞在していろ。いいな」

「はい、キコ様」


 キコは手早くそれだけ言うと、会議室を出て行った。


 実を言うと、カノンは予知という言葉の意味が分からなかった。だからなぜハマの護衛が必要なのかの理由も理解できていなかったのだが、自分にはよく分からない政治とかそういうものの話かと思って、意味を聞く事はしなかった。ただまさかよりにもよって与えられた役目が、ハマの護衛になるとは……と、脱力しただけだ。なんとなくハマの顔をちらっと見ると、ハマは嬉しそうににこっと笑顔を見せた。


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― 新着の感想 ―
はて。ハマさんとの繋がりが深くなったのは面白いとして、この二人は果たしてくっ付くのだろうか……
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