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カノン伝記  作者: 真喜兎
第二章 朝焼けの神
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11-1.陰謀

 ハマは一度大きくため息をついて、呆れたようにカノンとけやきを見つめた。


「それで……? ミヨ様が誘拐されたという事を知ってどうしたいのだ?」

「わたし達にできる事があれば……」

「そんなものはない」


 ハマはカノンが言い終わらない内に、ピシャっと言い放った。カノンはむっとして、ハマを見据える。


「あなたはどうしてここに来たんですか」

「雑用を押し付けられた。弦の国からの客達に食事の案内をするように言われてきたのだ。弦の国からの客が来ている事を知っているのは少数だからな。面識のあるわたしが行くよう、ブコに言われてきたのだ」

「そうですか。じゃあ鷹常様のところに案内します」


 カノンがくるっと背を向けると、ハマはカノンに近寄り、手の平に乗せるようにカノンの肩より長い金色の髪に触れた。


「髪は結んでおいた方がいい。この国では髪を流しているのは印象がよくない」

「そう……なんですか」

「ああ、女を売り物にしている者に見られる」


 カノンは思わず髪を抑え、「なんですって?」と顔を歪める。


「わたしの話じゃない。そう見る者もいるという話だ」


 そう言ってハマはすたすた先に歩いていく。カノンはハマの台詞に嫌悪感を持ちながらも、けやきと共に小走りでハマについていった。






 旅の道中、カノン達を距離を取って追い、鷹常を陰から護衛していた馬廻衆の獅子ししは、城の前で立ち往生していた。


 北エルフの城は高い石壁に囲まれており、隠密活動を得意とする獅子もさすがに越える事ができない。何より黒髪や丸耳がほとんどいないこの北エルフの国の首都では、獅子の風貌は目立った。


 人混みに紛れるように歩いていても、やはり衛兵の目を引く。城への侵入を諦めていない獅子が夜間を待つべきかと考えていると、城の中から衛兵に声がかけられ、その衛兵が獅子の方を指差した。すると衛兵に声をかけた男が獅子に近づいてくる。


 男は片手をあげて、親しみやすそうな笑顔で名乗る。


「おれはブコ・プリマス・セーシェル。君は鷹常姫の護衛の方、で間違いないかな?」


 目立っている状態で、知らぬ存ぜぬを通す理由もない。獅子が頷くと、ブコは「鷹常様がお呼びですよ、中へどうぞ」と言って鷹常達のいる宮殿内へ獅子を案内した。






 大角のローカスは北エルフの国内の村の一つに来ていた。とある家の中で、ローカスは裸で横になっていた状態から起き上がった。隣には耳の長い女性が毛布で肌を隠すようにして座っている。


「早く出て行って。お父さんに見つかったら、わたし殺されるわ」

「なんだ。泊めてくれないのか」

「あなたが何もしなければ泊めてあげてもよかったんだけど」


 最初こそローカスの頭に生えた大角を見て震えていた女性だが、肌を合わせた後はだいぶ気安くなっていた。というよりも、少し怒っているようだった。ローカスはのそのそと服を着る。


「外は寒いから野宿はきついな」


 ローカスが未練たらしく言うと、手早く服を着た女性がずいっと顔を寄せてくる。


「近くの酒場に案内するわ。宿屋も兼業してるから、そこに泊まればいいでしょ」

「あまり金はないんだが」


 女性はぷいっと横を向く。


「知った事じゃないわ。あなたってホント見掛け倒しよね」

「それは褒めてるのか? けなしてるのか?」

「両方よ」


 女性は服のリボンを締めると、ローカスに外に出るように促す。夜は九時を回っている。ローカスはふわとあくびをし、冷たい空気が肺に入ってきた事に軽く身震いしながら、女性の後についていく。


「今どこかのお偉いさんが傭兵を募っているらしいわ。人間、魔人問わずって話だから、お金がないならあなたも参加してみたらいいんじゃない」

「なるほどな」


 ローカスはどこかの家に泊まらせてもらった時にもらったマフラーに、首をうずめながら返事する。


 酒場につくと女性の言った通り、壁際にある掲示板の前で、華美な装飾の服を着た男が、「腕に覚えのある者はいないか」と声を張り上げていた。


 案内してくれた女性と別れ、ローカスが酒場に入ると、その大角を見てどよめきが起こる。それを気にせず中へ歩を進めていくと、ローカスが声をかけるより先に、傭兵を募っていた男がローカスの前に立って喋りだした。


「君は魔人だな。素晴らしい! 貫禄がある! ぜひ我が傭兵団に参加しないかね!」

「ああ……それなら今日の宿代を奢ってくれないか。そしたら参加しよう」

「ぐ、むむ……い、いいだろう。君には期待できそうだしな、ハハハ」


 乾いた笑いをして、今日の募集はもう終わったのか、男はテーブルの席につき、酒をあおる。ローカスは名前の登録を済ませ、集合地などの説明を受ける。その後、空いた席はないかと周りを見渡すと、傭兵らしき男達の固まったテーブルに呼ばれ、そこに座った。


「すげえな、その角。触ってみてもいいかい?」


 顔が赤くなるほど酔った男が、ローカスの風貌を恐れもせず、ローカスの角に手を伸ばす。ローカスはそれを手で払いのけて、「奢ってくれたら考えてやる」と少し不愉快そうに返す。


「おれはギブソンだ。よろしくな」


 ローカスを呼んだ男がテーブルに身を乗り出して握手を求める。ローカスも名乗りながら握手を交わすと、誰の物か分からないグラスをあおる。


「ああ、おれの酒」

「なんだ。奢りじゃないのか」

「ハハハ、あんたおもしろいな。姉さん、もっと酒を頼むよ」


 ギブソンは笑いながら酒を追加で注文し、ローカスの隣に座っていた顔の赤い男を押しのけ、そこに座る。そして運ばれてきた酒を飲みながら、ローカスと談笑し始める。ローカスも悪くない気分でギブソンと話していると、ふいにギブソンが声を落として、ローカスに囁きかけた。


「ローカス、知っているか。この傭兵の仕事、噂では北エルフの貴族がからんでるって噂だぜ」

「そうなのか?」

「あのおっさんを見な」


 ギブソンは傭兵を募っていた男を指差す。


「丸耳だろう? 北エルフは関係ねえって思わせたいようだが、火のないところに煙は立たずってな。噂通りなら、この話かなりきな臭いものになるだろうぜ」


 ギブソンは「おまえだから話すんだぜ」とばんばんローカスの背中を叩く。ローカスはちびちび酒を飲みながら、「なるほど、な」と返事した。


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