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カノン伝記  作者: 真喜兎
第八章 曇天の神
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65-1.信念潰える時

 日輪の神はとうとう我慢できなくなった。もう命は僅かしかないのだ。


「その娘を寄こせ」


 カノンを連れ去ろうとする日輪の神に、ドォーンと雷の魔法が落ちた。その音にリオンが目を覚ました。


「新手か!?」


 イースターは魔法を使えない。リオンの泣き声が響く中、誰の仕業かとみんながきょろきょろと周りを見渡す。その間にも魔法が飛び、イースターや他の神にも向かっていく。新天の神は王。戦う力などはない。イースターは新天の神の体を抱えながら、魔法を避けた。


 倒れて動かなくなった日輪の神を見て、クダイ王はその名を呼び、涙を零す。だが止まない魔法の攻撃に、側近達が避難を促した。


「カノンよ! 子供は安全な場所に連れていく! おまえも避難するのだ!」

「ならぬ」


 クダイ王の言葉を、新天の神がイースターに抱えられたまま遮る。魔法を避けるため振り回されたせいで、新天の神の髪は解けている。その長い髪の隙間から、カノンに強い視線を向ける。


 カノンにとってこれは避けられない戦いなのだ。今、この場を逃げても何にもならない。それを知ったカノンはクダイ王に叫ぶ。


「リオンをお願いします! わたしはこの場に残ります!」


 クダイ王もカノンの戦いを悟り、「子供の事は任せなさい!」と再度言って、広間から去った。


 ほとんどの者が避難する中、キコ、竜人達、オステンド国王、鷹常はまだ広間に残っていた。みな側近の者達が避難を呼びかけているが、王達は「この場を見届ける」と動かない。鷹常も何やら笑みを浮かべながら、戦いを眺めていた。






「そうか! この攻撃!」


 イースターはようやく気付いた。


「ディアンダァ! 貴様だな!」


 それにはカノンと青空を映す神が反応する。


「ディアンダ?」

「ディアンダだって?」


 するといつの間にかそこに薄い影がいた。かろうじて見覚えのある姿だとわかる。カノンは震えた。カノンにとって最も会いたくない男なのだ。だがその男は言った。


「カノン! ギネスを呼ぶんだ! ギネスが近くにいる!」

「ギネスは死んだはずじゃ……」


 カノンは掠れた声で呟く。今こんな時だって、その事を思い出すと辛い。でも精一杯、頭を働かせる。もしかしてこの男のように、霊になって出てきてくれるという事だろうか。もしそういう事なら、会いたい。もう一度だけでも会いたい。


「ディアンダァ! まだそんなに魔力を残していたなんてねえ! あたしが喰らってやるよお!」


 青空を映す神がディアンダに襲いかかり、二人が戦いだす。


 カノンは期待に締めつけられるような喉を、なんとか開く。


「……ス、ギネ……ス……ギネスー!」


 カノンは叫んだ。






 宮殿の外で、テロ攻撃と戦っているギネスの耳がぴくっと動く。


「呼ばれてる」


 宮殿の中から広い庭園を経て塀の外へ、本来なら微塵も声が聞こえる事はない距離だ。だがギネスの感性が、カノンの想いを感じ取った。


「カーリン、おれは行く」


 ギネスはそう言い残し、宮殿内へ走った。


「やれやれ、お別れかな」


 カーリンはテロに攻撃しながら、慌てずギネスの後姿を見送った。






 カノンは何度も何度も叫んだ。だが相変わらずディアンダと青空を映す神の戦いが続いているだけだ。諦めて膝が崩れ落ちそうになる。だがそれはこらえた。脅威は何も去ってはいないのだから。


 実際、イースターが近寄ってきていた。イースターは新天の神に囁かれたのだ。


「あの娘の心臓を捧げよ」


 と。もちろん残りの神、青空を映す神と曇天の神を屠ってからだ。


 イースターはその言葉に従おうとしている自分を、ひどく嫌悪していた。だからその歩みは遅い。横目で青空を映す神を見る。青空を映す神はディアンダと同様、魔石と剣を使い戦っている。久々の戦いに浮かれているのか、笑っている。


 目を反対側に動かして、曇天の神も見る。曇天の神は最初に名乗った時以降、何も話さないし、ディアンダの攻撃を避ける以上には何も動かない。妙に落ち着いた表情が、何か言いたげに見えてイースターを苛立たせる。


 そうだ。青空を映す神と曇天の神を殺してから、新天の神を殺せばいい。


 寿命に限界が来ているイースターは、頭の動きも鈍くなっているのかもしれなかった。やっとそんな事に気づいたのだ。だが気づいたはずなのに、イースターはカノンへ向かっていた。


 ディアンダがそれに気づいて、カノンとイースターの間に割って入る。


「親父! 目を覚ませ!」

「親父?」


 カノンは因果律のようなものを感じた。ディアンダは父親で、その親がこの男。


「ハハッ、ただの親子ゲンカか」


 そんな言葉で片付けていいものとも思えないが、今は自嘲せざるを得ない。自分は生まれた時から、この運命に振り回される事が決まっていたのだ。


 ならば戦おう。不思議とカノンは自分を憐憫する気にはなれなかった。敵の姿がはっきりした事で、逆に戦う力が湧いてくる。


「ディアンダァ! あたしを無視するなんて、余裕かましてるんじゃないよお!」


 青空を映す神は戦いに興奮していて、既に目的を見失っている。


「くそっ、二人はきつい!」


 多対戦の得意なディアンダも、青空を映す神とイースターという手練れ二人には苦戦している。カノンはディアンダの隣に立った。許せない男だが、今だけなら肩を並べて戦える。


「わたしには守るものがある。あんたには何がある? 何が残る? 家族すら切り捨てようとするあんたの人生に、何の意味がある?」


 カノンは戦いながらイースターに言葉を投げかける。イースターはそれに動じない。いや、そう見えていないだけで、イースターの頭には徐々にその言葉が蝕んでいた。


 自分でも訳がわからないまま迷うイースターだが、カノンに押されるほど弱くなったりはしない。カノンは思い切り弾かれ、少し後退した。イースターは目に狂犬のような光を湛える。


「家族だと? 何を言ってるんだ、おまえは。そんなものがなんだって言うんだ」


 イースターは剣を振り上げる。カノンの前に青空を映す神と曇天の神を殺さなければいけないという事すら忘れて、カノンを斬り殺そうとする。その時だった。恐ろしくドスの利いた低い声が響き渡った。


「イースターァァ!!」


 イースターが振り向くと、曇天の神の鋭い爪が、新天の神の腹部を貫いていた。


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