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カノン伝記  作者: 真喜兎
第八章 曇天の神
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63-2.脅威

 ハマは遠い北エルフの国から、カノンのいるオステンド国の方向の空を見上げていた。


「カノン、わたしにはおまえの運命からおまえを逃がしてやる事はできなかった。だが祈っている。おまえの道が開ける事を」


 そこへきれいな女性が静かに歩いてきて、寄り添うようにハマの隣に並んだ。ハマは軽く微笑んで、その女性と歩いていった。






 オステンド国ではテロ騒動があった事で、最終日に予定されていたパーティには参加せず、早々に帰国した国々も多かった。だがそれでも充分すぎるほどの人数がパーティに参加する。


 カノンは初めて各国要人が集っていた宮殿の内部まで入る事になる。○○の間と名のついた部屋や回廊は広かったが、それでも庭にも人が溢れていた。渡された配置図に従い、カノン達カラオ国は庭に面した回廊にいる。


 ちなみにパーティと言っても、カノンはドレスではなく、カラオ国の軍服姿だ。あくまでクダイ王の近習という(てい)なのだ。


 紫竹と紫野はいつもよりはきれいな服を着ている。ただ子供を連れているせいか、中々周囲の視線が痛い。


 今日ばかりは派手な王族の衣装に身を包んでいるクダイ王が声をかけてきた。


「後で大広間……新天神の間に呼ばれるようだ。それまでは自由にしていなさい」


 そう言ってくれたので、カノンは紫竹、紫野と共に立食形式になっている食事を摘まみながら、リオンの世話をする事にした。


 リオンの顔立ちはギネスに似ている。髪の毛もギネスと同じ銀色だ。目はカノンの金色の目を継いでいる。まだ一歳にも満たないが、離乳食をもりもり食べる程には大きくなっている。はいはいだって上手だ。時折つかまり立ちをしたり、庭に出たりしては機嫌よさそうに遊んでいた。






 途中、北エルフの要人達がクダイ王に挨拶に来た。北エルフの筆頭はキコという男性で、カノンも面識がある。その護衛、槍使いのヤマもカノンに「よっ」と挨拶する。クダイ王に先に挨拶の終わったキコは、カノンにも声をかけてきた。


「朝焼けの神の予言で、今日は重大な発表があるらしい。それはあなたにも関係する事だと。それゆえにあなたをお呼びしたのだ」

「はあ」


 カノンは思わず間の抜けた返事をした。なぜ国の代表達が集まるような場での発表に、自分が関係あるのか。その詳細はキコ達にも知らされていないのだとキコは言った。


「パーティ中に参加者に危険があるような事はないと朝焼けの神は申していたが、ただ何が起ころうとも成り行きに任せよとも仰っていた」

「はい……わかりました」


 カノンはディアンダという男が死んだ事をカーリンから聞いている。イースターという男も一度なぜかカノンに関係を迫ってきたが、ディアンダが死んで以降は気配を見せていない。


 もうカノンの人生に影を落とす物はないのだ。そう思っていたのに、ここに来て薄気味悪い影が迫ってきた。


 いつかの折り、イースターは人を喰うと言う邪法により、人は神になれるという事を喋っていた。ディアンダもその邪法をしていた。繋がりはよくわからない。だがもしかして、カノンにとっての本当の脅威は神というものなんじゃないだろうか? そんな予感が襲ってくる。


 キコは「また後程」と言って、去っていく。


 カノンは足が震えて、自分の人生を呪いたくなった。だが負ける訳にはいかない。リオンを見つめてそう自分を奮い立たせた。






 大きすぎる運命が降りかかろうとしている。だがカノンを支えてくれるであろうギネスとの運命はまだ交差しない。


「ギネス、ちょっと」


 カーリンがギネスを呼ぶ。カーリンとギネスは弦の国の鷹常皇に頭を垂れた事でその腕を買われ、鷹常皇の護衛としてこのオステンド国に来ていた。だが宮殿内に護衛として入れる人数は決まっている。ギネス達はさらなるテロへの警戒を強めて、宮殿外で警備していた。


「やはりこの最終日を狙って、何がしかの動きはありそうだ」


 カーリンはいつもの派手なピエロ姿から、似合わない忍び装束姿になっている。ギネスも弦の国の正装である袴を穿くように言われたのだが、慣れなくて動きにくいと言って断った。なので警官隊のような服を着ている。


「これ窮屈なんだよな」


 長身のギネス用にあつらえたものだが、そもそもこんな固い服装が苦手らしい。とうとう上着を脱いで、上半身はワイシャツ一枚になった。


「ま、いいけどね。不審者に間違われないようにしなよ」


 カーリンは動きがあったらまた知らせると言って、どこかへ行った。ギネスは宮殿の上の空を見つめた。


「この仕事が終わったら、また旅に出るか。何かを見つけなきゃいけないって気持ちが消えないんだよなあ……」






 宮殿の中ではクダイ王のお供でカノンは弦の国の皇、鷹常に会いに行っていた。クダイ王は「有意義な議会でした」と鷹常に挨拶を交わす。それに応える鷹常はカノンと共に旅していた頃より威厳があり、それでいて冷徹に見えた。


 でもカノンに向き直った鷹常は一度だけ柔らかい笑みを見せた。


「また会えて嬉しい」


 そう言って手を握ってくれた。鷹常の後ろには豹、獅子、そして竜人のグラーンもいる。グラーンに竜人の国も来ているのかと聞くと、「もちろん」と頷いた。


「トーランは来てないけどね。ちょっと血気盛んなおじさんが今は代表なの、聞いた? 竜人の鱗の流通を完全禁止にする条約に賛成しない国もいて、ガチギレしてたみたい」


 グラーンは「その辺は信用できるいい人だよ」と言っている。


「おかげで雰囲気は最悪でしたよ」


 もちろん議会に出席していた鷹常は「ふふふ」と笑いながら言う。ただその笑みは何かを企んでいるような含みがある。


「鷹常は……いや、鷹常様は何かが起こるのが楽しいみたいですね」


 今の鷹常の立場に敬意を持った言葉でカノンがそう言うと、鷹常はまた珍しくころころと笑った。


「ふふふ、あなたは時々、鋭いですね」


 鷹常はにやりと口を細い月の形に歪ませる。


「この日、何かが起こる。それは世界を手に入れるチャンスになる」


 そう月夜の神の神託が降りたのだと言っていた。






 そしてとうとう新天神の間に全てが集まる時が来た。各国の代表が集まる中、八人の神が姿を現す。


――この世に本物の王が顕現する。邪法の娘よ、我が贄となり、神子を捧げよ――


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