6-1.逢引
戦場に魔帝ディアンダが立っていた。ディアンダは十八個もの魔石を周囲に浮かせている。ディアンダの魔石は三個を一組として三角形を作り、それぞれから放たれる魔石波はシールドを作ったり、攻撃波を放ったりしている。
カーリンは二本の柱のような黄緑色の魔石を両側に浮かべ、あぐらをかいた姿勢で自身をその魔石波により浮かせている。柱のような魔石を横にして照準を合わせると、膨大な量の魔石波が放たれる。大砲のような威力を誇るその衝撃波は、容易に人垣を崩す。
「なるほど。多勢には有効だな。直撃するとやばそうだ。だが直線的で攻撃の軌道は読みやすい」
ディアンダは呟きながら左手をかざし、魔石を正面で丸く並べる。
「大砲のような真似、おれもできないではない」
全ての魔石から魔石波が放たれ、それが中央で一つになり、カーリンの大砲に負けないほどの衝撃波を放つ。カーリンはそれを避けるも、その威力に驚く。その攻撃を受けた者達は倒れて動かなくなっている。
「思ったより早く決着がつきそうだな」
ディアンダはまた左手を上げて、魔石の力を溜め始めた。
それが一年以上も前の戦いだった。魔族五強と呼ばれた道化のカーリンが魔帝の手に落ちた事によって、弦の国は半の国を制圧し、統治下においた。月国地方で弦の国以外に残ったのは新の国だけとなっていた。
新の国は弦の国の北部に位置し、東側の国、特に北東にある北エルフの国、モルゲン王国との交易が盛んな国だ。新の国の皇家も月夜の神の血を引くと言われているが、その証である角付きはもう何代も生まれていない。それがゆえに揺るぎがちだった庶民家臣の忠誠心を回復させるため、十三人衆という政治役による盤石な政治体制を敷いていた。
新の国と弦の国はこれまで友好的な関係を築いてきた。新の国の皇の弟、秋明菊会寧が、角付きの生まれていない新の国と、角付きの治める弦の国との関係を対等に保つため、尽力してきたのである。
その新の国の秋明菊会寧が、弦の国の皇、緒丹薊秋草が崩御した事を知った。
会寧はもう四十半ばになるような歳だったが、幼少の頃から秋草を知っており、十一も歳が離れている秋草に恋慕の情を抱いていた。そのため、秋草の夫である翔葉を快く思っていなかった。その翔葉が秋草を連れて死んだ。その怒りと悲しみの矛先は、秋草と同じく角付きとして知られていた鷹常に向いた。
「緒丹薊鷹常姫を捕らえ、保護せよ」
それが秋草が死んだと聞いた会寧が最初に出した命令だった。会寧は秋草に恋心を抱いてはいたが、同時に政治の人でもあった。秋草の死を機会に、弦の国の皇を政治の実権力から引き離し、政治体制の盤石な新の国が、弦の国を支配してしまおうと考えたのである。
秋草皇による独裁制を取っていた弦の国は、新の国の要求に混乱していた。領土面積こそ弦の国には劣るが、強国である新の国の提案に従うべきではないかという意見と、鷹常姫を筆頭に新体制を作るべきだという意見が対立していた。新体制派が弱くなってるのは、鷹常の意思が弱い事にあった。
鷹常はこんな時も自分の庭と呼んでいる場所に来ていた。離れたところで御付きの者が待機しているとはいえ、ただ一人で城外に出ているのである。危機意識が低いと見られてもしかたがない。そして鷹常が城外に出ているという情報を、新の国の者もキャッチしていた。
ラオ、レイアは山桜桃梅家の屋敷で、祖父の雪割から事の顛末を聞いた。秋草皇が病死|(という事になっている)し、鷹常姫が新の国に狙われている。雪割は新体制派だった。鷹常姫を新の国に渡すわけにはいかないと考えていたが、新体制を組むのに鷹常姫の意思が弱いのは問題であると思っていた。
話を聞いてラオ、レイアは廊下に出て庭を見ながら、二人で話す。
「鷹常様の身が危ない。おじい様は鷹常様を一時どこかに隠すべきだと考えているようだ」
「けやき様と共にこの山桜桃梅家に……?」
「いや、それはすぐばれるだろう。鷹常様が城外に出ているという情報も流れてるくらいだ」
会話をしていた二人の前に、けやきが現れる。
「今の話、本当ですか?」
「これは……けやき様。聞いておいででしたか」
二人は頭を垂れる。
「やめてください。ぼくに頭を下げる必要なんてありません。それよりも本当ですか。姉上、いえ、鷹常様が危ないという話は」
「……はい、そのようです」
いつものように剣の鍛錬をしていたカノンは、ラオ達のやり取りを庭から見つけていた。けやきのただならぬ雰囲気を見て、近づいていく。
「助ける事はできませんか!? 姉上は城外に出ているのでしょう!?」
「わたし達ではなんとも……」
「護衛の者はついていると思います」
けやきは苦しそうに顔をしかめ、視線を落とす。
「……これ以上、家族を失いたくない……」
カノンはそんなけやきの言葉に反応した。カノンはあまり詳しい事情は知らされていないが、けやきが鷹常の腹違いの弟だという事は聞いていた。
「……様子を見に行く事はできるんじゃないか?」
カノンがぼそっと口を出す。けやきはカノンに気づいていなかったようで、驚いて振り向いた。
「鷹常姫が行っている場所なら、わたし達は知っている」
「カノン様、何言ってるんですか!? あそこに無断で立ち入ると罰せられると聞いたでしょう!?」
レイアがそう言っている後ろで、ラオは顎に手を当てながら「いや」と声に出した。
「鷹常様の御身を守る事が優先だ。場所を知っているぼく達も様子を見に行ってもいいかもしれない」
「本気!? 鷹常様が許してくれるとは思えないわよ!?」
「けやき様がいるだろう。鷹常様はけやき様を守ろうとしてた。けやき様まで罰するとは思えないよ」
その言葉を聞いて、けやきも必死に訴える。
「ぼ、ぼくが……! 責任を取ります。姉上が罰を与えようというのなら、ぼく一人にしてもらえるようにします。だから、お願いします。姉上をお守りして、そして外に出ぬようお諫めしなければ……!」
「そこまでおっしゃるのなら……」
レイアは渋々承知した。そしてカノン達は鷹常と最初に出会った山の中の池に向かった。




