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カノン伝記  作者: 真喜兎
第六章 新天の神
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48-2.不安

 この物語はダークファンタジーです。閲覧にはお気をつけください。

 ディアンダが多くの魔人を統括し、魔帝と呼ばれる者になったのには理由がある。それはカミア達が滞在するようになったこの町の争いからカミアを守るためだ。


 その争いに絡んでいた当時の魔族五強を二人倒した事で、ディアンダの名は確固たるものになった。その倒した魔族五強の一人は殺される前にディアンダに頭を垂れた。それが大腕のラガーナだった。


 ラガーナを手足として、ディアンダは争いを操るようになった。そして最終的にはオステンド国と契約して、この町をオステンド国領とすることにしたのだ。


 ディアンダはその最中に正体を隠してカミアに出会った。父親だとの名乗りはあげず、一人の青年として出会った。


 ディアンダは考えていた。既に心から愛した人を喰い、邪法を始めてしまった自分が普通の人間の人生を送れるわけがない。自分を理解できるのは同じ邪法を行っていた父親のイースターだけで、それに近づくためには自分も邪法を続ける必要がある、と。


 しかしそんな考えは、カミアに出会うとどこかへ吹き飛んでいった。カミアは天真爛漫な性格で、暗く重い影を背負うディアンダの心をいつも癒してくれた。


 ディアンダは思った。これで充分じゃないか。こうやって時々その笑顔と出会えるだけで、自分は幸せじゃないかと。


 ただ一つ心配があるとすれば、会う回数を重ねるたびにカミアの頬が紅色に染まっていく事だった。カミアは二十歳頃の若い姿から歳をとっていないディアンダに恋するようになっていた。


「へへ、ごめん。嫌だった……?」


 カミアがキスをした。ディアンダはひどい背徳感に襲われ、心臓が壊れそうだった。呼吸が止まりそうな感覚に襲われ、思わず息を荒くして胸を掻きむしる。


「大丈夫!? そんなに嫌だった……?」

「ち、違う……いつもの発作だ」


 ディアンダはかろうじてそう言った。もうカミアとは会えない。ディアンダは逃げるようにして、その時アジトにしていた屋敷に帰った。


 数日間、気持ちが死んだようだった。遠のいた幸せが、ディアンダを無気力にさせていた。






「よお! おまえだろ? 魔帝ディアンダってのは」


 その男はにこにこ笑顔でディアンダの前に現れた。左頬にある傷は忘れもしない。子供の頃に会ったきりの父親、イースター・ンデスだ。あまりの突然の登場に、ディアンダは口をぱくぱくさせるばかりで声が出なかった。


「実はな、おまえも邪法をやってると踏んだんだ。それでちょっと実験……おっと、協力だ、協力してほしくてな」


 イースターはぺらぺらと喋っていたが、ディアンダはほとんど聞いていなかった。ただ無性に縋りつきたい気持ちに駆られていた。


「お父さん……会いたかった」


 ようやく絞り出した言葉だったが、それはいとも簡単にイースターの笑顔を消した。


「なんだ。おまえ、あの時のガキか」


 ディアンダは子供の時のようにすぐ気づいた。お父さんはぼくに興味を失くした。


 それでもディアンダは背を向けたイースターを追いかけた。


「待って、お父さん! おれを置いていかないでくれ!」


 ディアンダの手がイースターに届こうとした時、ディアンダは拳で吹き飛ばされた。イースターは蔑んだ瞳を向ける。


「気持ち悪いんだよ、おまえ」


 イースターはその一言だけを残して去っていった。ディアンダは泣いた。殴られた頬の痛みなど何の気にもならない。ただまた父親に見捨てられてしまったという絶望の中で泣いていた。






 ディアンダはカミアを抱いた。無茶苦茶な気持ちのまま抱いた。もう何が幸せか分からなかった。






 カミアに子供ができたと知ると、義兄のラフォル達は相手の男に会わせろと再三詰め寄っていた。その前からカミアが恋したという男に会いたいと言っていたのだが、ディアンダは病弱であまり外に出られないとカミアに言わせて、ラフォル達と会わないようにしていた。ディアンダは幼い頃のラフォル達に会った事があり、ラフォル達がディアンダを覚えている事を恐れたからだ。


 ディアンダは「仕事が忙しくなった」と告げて、カミアにも会わないようになっていた。生まれる子供からも目をそらそうとしていた。


 あっという間に五年たった。その間にオステンド国領となった町は活気に溢れるようになっていた。ディアンダはようやくカミアとその子供と向き合う覚悟ができた。そして久しぶりに会ったカミアは涙を流して言った。


「わたし、好きな人がいるの」


 カミアは自分と子供を捨てたと言っても過言ではないディアンダへの気持ちを断ち切り、新しい人生を始めようとしていた。ディアンダは頭がかっとなった。






 自分には何も言う資格がない。頭の隅ではそれはわかっていた。しかし気持ちは止まらなかった。カミアを裏切り者と罵る一方で、おれを捨てないでくれと懇願する。カミアは泣きながらも、必死でディアンダの言葉に耐えていた。頑なにディアンダを受け入れないカミアに、ディアンダはとうとう言ってはいけない事を口にした。


「おれはおまえの……だぞ!」


 それを聞いたカミアは最初はそれが理解できていないようだった。しかし強い不安に襲われたのか、ラフォルのいるところまで駆けていく。ただならない様子のカミアを迎えたラフォルは、追いかけてきた男を見てその名を呟いた。


「ディアンダおじさん……?」


 カミアは理解した。ディアンダが叫んだ言葉は真実だと。カミアの絶叫が響いた。






 カミアは発狂した。嘔吐しながら、転げまわるように苦しんだ。リックの姿を見て叫び声を上げた。強い拒否を示し、そうかと思うとまるですべてのものからリックを守ろうとするかのように、棒や刃物を振り回して暴れまわった。


 ディアンダはそんなカミアから早々に逃げていた。とても受け止めてやれなかった。


「カミア、二年やる」


 何の根拠もない数字を告げて走り去り、顔をぐしゃぐしゃにして泣き叫んだ。そして二年後でなく三年後に再びカミアの前に現れた。


 カミアはディアンダを殺そうとした。ディアンダはそれも受け止めてやれなかった。再び邪法を行う事でしか自分を保てなかった。そしてカミアを追ってきていたリックを連れて姿を消した。


 そもそもこの物語、この世で最も罪深い事は何かという事を、子供の頃に考えたのが始まりだったのです。不快になりましたら、ご容赦を……

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― 新着の感想 ―
よくやるよほんと。取り敢えずもう関わらないでほしい、主人公に
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