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カノン伝記  作者: 真喜兎
第六章 新天の神
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47-2.再会

 イースターの実験は結果的に失敗した。ディアンダが招集した百名余りの魔石使いに囲まれても、新天の神の体は実体化しなかった。


――気は済んだか? 愚かな男よ――


「くそがあああああ!!」


 イースターは苛立って、そこにいた魔石使い達を次々に殺した。その隣で青空を映す神が笑う。


――ハハハ、こいつらの魔力はあたしが喰らった。力がみなぎってくる。くたばれ、新天の神!――


 青空を映す神も、新天の神に攻撃を仕掛ける。しかしその攻撃はたやすく新天の神の体をすり抜けた。神同士でもその体に触れる事はできないのだ。


――ちくしょう! これでもダメなのかよ!――


 青空を映す神が悔しがっている後ろから、イースターが青空を映す神に剣を振り下ろす。


「おまえもやっぱり実体化してねえな」


 体をすり抜けた大剣を見ながら、青空を映す神はイースターに向き直る。


――躊躇なくあたしを()ろうとするなんて、ずいぶんじゃないか――


「ふん、おまえとつるんだ気はないぜ」


――体さえあれば、あんたも殺してるとこだよ――


 睨む青空を映す神を無視して、イースターは考え込む。


「むかつくが、結局想定内だ。こんな事で貴様らが実体化すれば、月神や朝神に剣が届いた事に説明がつかねえ。もっと根本的に何かを見落としているのか……?」


――ふん、方向性は間違ってないと思うけどねえ。いつもよりは触った感触があったよ――


 青空を映す神は苛立った表情のまま答える。


――愚かな――


 新天の神は静かに声を発する。


――愚かな男と、愚かな女よ。貴様らはしょせん私の駒。駒なら駒らしく、その使命を果たせ――


 イースターの目が明らかに怒気を含んだ獣のような光を放つ。青空を映す神も同様だった。しかし今、攻撃しても無駄な事はもうわかっている。


「おれに何をしろと言っている?」


 イースターは怒りのあまり、笑みすら浮かべていた。新天の神は王族の衣装をまとっている高貴な雰囲気を持った女性だ。その瞳に冷たさはない。むしろ目的を見失わない強い信念が、暖かい熱を持っているようにさえ見える。


――八つの神は多すぎる。この世を統治するのは私一人でいい――


 イースターと青空を映す神はその言葉の意味するところを察して、思わず笑い声をあげた。イースターは新天の神の瞳の色にぞくぞくしたものを感じた。


「神殺しを行う男。貴様がくれた名だったな。やってやるさ、神殺し。そして必ず貴様に辿り着く」


 イースターがそう宣言して、新天の神に背を向けると、青空を映す神もふわっと浮いた。


――思い出したよ。あんた、確かにあたしにも同じ事を言った。あんたも探っているんだ。どうすれば神を生み出すほどの力を持つ一族を滅ぼせるのか。そしてどうすればあんたがこの世の王に返り咲けるのか。あたしは王という地位に興味はない。だから協力してやるさ。ただその裏でいつでもあんたの寝首を掻く隙を狙っているという事を忘れるな――


 イースターと青空を映す神の姿が見えなくなると、新天の神は呟いた。


――探っている、か。確かにそうだ。私はいまだかつて誰も成し遂げなかった事を成そうとしているのだから――


 新天の神は天を見上げた。


――邪法を完成させ、この大地に新たな世界を造る。その時が来るのを私はずっと待っている――






 ディアンダは遠くの離れた崖の上から、イースター達を見ていた。


「神殺し……それが親父のやりたい事」


 ディアンダは笑いたくもないのに笑った。


「ハッ、そんな事。そんな事のために、おれを苦しめるのか」


 ディアンダは涙を浮かべながら笑っていた。






 イースターは新天の神のいたオステンド国の街中を歩いていた。通りの前方に十数名の集団がいて、通行の邪魔になっていた。広い通りではあるので、通る人はその集団を避けて歩いている。


 イースターは何も街中で暴れたりする無法者ではない。邪魔だなと思いつつも、現状急ぐ用事もなかったので歩みを止める。ぱっと見、護衛をつけたお偉いさん方だ。たぶんこの国の人間じゃない。


 何の集団かと興味が沸いて、ちょっと眺めている事にした。立ち止まっているイースターも通行人の邪魔になっていたが、イースターが大剣を背負っているせいか、人はイースターを避けて歩いていく。


 どうやら集団の向こう側で、一人が集団から抜けようとしているようだった。お偉いさん方はあからさまに面倒そうな顔をして、その別れを眺めている。


「それじゃあ、ニルマ。またいつか会おう」


 金髪の女が大きく手を振って、長髪の男を見送っている。集団の隙間から、手を振り返しているその男の顔が見えた。イースターは思わず声を出した。


「おいおい。偶然もここまで来ると偶然じゃないぞ」


 見えたのは北エルフの国で出会い、また竜人の国でも見かけた魔石使いだ。いくら旅をしている身だって、何度も偶然に出会っていい距離じゃない。


「朝神の時も、星神の時も、あいつがいたな? 名前はニルマ・バジリアとか言ってたか? 月神の時はわからないが、あいつが鍵な可能性は充分あるな」


 イースターは距離を保ったまま、ニルマに歩調を合わせて歩き出す。


「新天の神の気配はまたどこかに消えた。こういう時に限って、青空の神はいないと来てる。あいつが本当に鍵かどうか確かめる術は今はないか。だがどういう素性の者か、調べてみる価値はある」


 イースターはそのままニルマが向かう先まで、ニルマをつけていく事にした。






 ニルマと別れたカノンは、また今の旅の仲間に渋い顔をされていた。なぜなら対面を果たした北エルフの集団の中から、懐かしい白髪に近い髪色の青年が出てきて、カノンに抱きついてきたからだ。


「ハマ、よかった。目覚めたんですね。傷はもういいんですか」


 カノンが北エルフの国にいた時に、カノンを庇って矢に刺された青年だ。その時からなぜか目を覚まさなくなっていた。


「そんな他人行儀な言葉は使わないでくれ。わたしはおまえと添い遂げるために来たのだから」

「あの……その、気持ちは嬉しいんですが……」


 カノンはその先を言えなかった。ハマがあまりにも嬉しそうにいつまでも手を握って離さないので、口ごもってしまった。


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― 新着の感想 ―
いや。ラオの事は野良犬に噛まれたとでも思って忘れましょうそうしましょう
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