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カノン伝記  作者: 真喜兎
第六章 新天の神
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47-1.再会

 オステンド国に向かうのは、カノンとニルマ、その他の護衛もいれて十六名になった。ニルマはそのままオステンド国のさらに東方向にある故郷に帰ると言うので、レイアが特別に同行を頼み込んだ。


「帰るって言っても、一時的にだけどな。おれはもう故郷で生きていく気はないんだ」

「なんでだ?」

「それは……おれんちが葬儀屋だからだ。それもちょっとやばい事に手を染めてる」


 ニルマは詳しい事は言いたがらなかったので、カノンもそれ以上は聞かなかった。


「楽しくお喋りしているところを邪魔して悪いですが、この旅は仕事です。いちゃつくのは控えなさいよ」


 博士団の中では比較的若いラウソンという男が、愛想のない顔でそう声をかけてくる。


「ニルマはただの友達だ」


 カノンが答えると、ニルマも頷く。


「そう見られないようにしなさいという事です。それとわたし達はあなた達より年上ですよ。敬語を使うのを忘れないようにしなさい」

「あ、すみません、つい」


 カノンが頭を下げると、ラウソンは「気をつけなさい」と言って離れていく。


「忠告してくれてるみたいだな」

「え?」


 カノンが意味がわからず首を傾げると、ニルマはそっと他の人達の顔を見るように言う。


「国の兵隊でも、街の自警団ですらもない野良のおれ達の事が気に食わないみたいだ。さっきからすごい目で睨んできてるよ」

「そう……か」


 カノンは確かに眉をひそめてこちらを見ている人と目が合って、軽く会釈をしておく。相手はふんっと言うように目をそらした。


「でも、わたしは別にどっちでもいいよ。やる事は変わらない。護衛の仕事をちゃんとこなすだけだ」


 そう言うと、ニルマは「ハハハ」と笑って、カノンの背中を叩いた。


「おまえ、案外そういうところは肝が太いよな。割と好きだよ、そういうとこ」

「ハハ、ありがとう」

「うおっほん!」


 二人がじゃれあっているところに、ラウソンのわざとらしい咳が入る。二人は慌てて気を引き締めた。






 ローカスはカラオ国の宿の部屋の中で、仰向けにバタンっと倒れた。


「もうダメだ。これ以上食べられない」

「人のおごりだと思って、よく食ったな」


 ディアンダは嫌味を言いながら、食後のお茶に口をつける。


「おまえはいつもあまり食べないな?」

「おれは胃が弱いから、たくさんは食べられないんだ。すぐ吐いてしまう」

「それはかわいそうだ。うん、かわいそうだ」


 ローカスは投げ出していた足を一度高く上げて、ひょいと起き上がった。そしてテーブルの向かい側に座っているディアンダを見据える。


「うまい飯は食べた。これで後は女でもいれば最高じゃないか?」


 ローカスの真剣な目に、ディアンダは呆れる。


「女は呼ばん」

「なぜだ? かわいい子がいいな。金髪の子ならなおさらいいな」

「女は呼ばんと言ってるだろ。ったく、本当はおまえにカノンを関わり合わせたくはないんだ」


 それを聞いてローカスは首を傾げる。


「なぜわたしを呼ぶんだ?」


 ディアンダはお茶のカップを置いて、少し視線を落とす。


「おれを……魔帝だなんて思っていない奴がいい。望んでなった魔帝だが、執着はない。おれは一人の人間として、カノンと生きていきたい」

「ふうん? なんだ、魔帝が代替わりしているって話は本当なのか」

「何の話だ?」


 ディアンダはその話を聞くと、好都合な話だなと思った。その話がカノンに伝われば、カノンはますますおれを父親だなんて考えたりはしないだろう。邪魔なのはマクの存在だが、そこはどうにかしてみせる。


「なんでだかおまえは時々、とても寂しそうな目をするな」

「何?」


 今はどちらかというと、ほくそ笑みたい気分だ。ディアンダは思わずローカスの顔を見つめる。真っ直ぐ見てくるローカスと視線が合った。


「うん、まるで泣きそうだ」

「そんな……事はない」


 ディアンダは俯いた。正体を隠して、カノンに出会う事は成功した。これからも偶然を装って出会っていく。そしてその人生を隣で見守っていくんだ。


「やっぱり女を呼ぼう。おまえの暗い顔は見たくない」

「呼ばんと言ってるだろ」

「なぜだ。女を抱けば、気分も明るくなる」


 呼ばん、と頑ななディアンダに、ローカスは詰め寄っていく。あまりにもしつこいので、ディアンダはすねたようにそっぽを向く。そして言いにくそうに言った。


「おれは……そっちはダメなんだ」

「何?」


 ローカスは面食らった顔をした後、その意味を理解して、また真剣な顔でディアンダに詰め寄った。


「それはダメだな。ほんとにダメだな。美味しいご飯を食べれないことの次……いや、それ以上に不幸だぞ」

「おまえは幸せそうで羨ましいよ」


 ディアンダは思わず苦笑してから、頬杖をついて窓の外の遠くに視線をやった。


「おれは一人でよかった。たった一人、愛する者がいればそれでよかった」


 ディアンダは小さく呟いた。






 ローカスをまたカノンの家に偵察にやり、カノンがまた旅に出たようだという情報を得たディアンダは、後を追うためにオステンド国のアジトに向かった。そこに現れたのは、一番会いたくない相手だった。


「よお! 来てやったぜ」


 相変わらず人当たりのよさそうな笑顔で現れる。最後にあったのは何十年前だ? もう二度と会わないと思っていたのに。


 ディアンダは表情を崩さないようにするので精一杯だった。でもわかる。会うといつもそうなんだ。心が子供の頃に戻る。嬉しくてたまらない。お父さんが迎えに来てくれた!


「実はおまえに頼み事があってな。魔石使いをできるだけ大人数集めてくれないか。それで神を殺せるか、実験したいんだ」

「神……殺し……?」


 イースターは笑いながら、「おれは八大神、特に新天の神を殺したいんだ」と話している。ディアンダは上の空でその話を聞いていた。


(おれの心には魔物が住んでいる)


 父親の愛を焦がれる子供の魔物。


「お父さん……おれはあなたのために働きます。だから、だから……」


 イースターは途端に笑顔を失って、「ちっ」と舌打ちした。


「相変わらず気持ちの悪いガキだな」


 そんな事を言われても、ディアンダはうつむいている事しかできない。


「まあいいぜ。とりあえず利用価値はあるんだからな」


 イースターは非情な言葉しかかけなかった。


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