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カノン伝記  作者: 真喜兎
第六章 新天の神
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46-2.出会い

「もう一つのニュースっていうのが」と、レイアは話し始めようとした。しかしカノンはその前に立ち上がる。


「ちょっとマクに聞いてくる」

「え? もう一つの話は?」

「後で!」


 カノンは家を飛び出し、マクが住んでいる長屋まで走っていく。マクは仕事でいなかったので、家の前で待つ事にした。しばらく座り込んでいたカノンの前にふと誰かが立った。


 金色の髪をマッシュルームカットにし、少し耳が尖った恐らく魔人の青年だ。カノンと同色の金色の目は寂しげで、少しやつれた顔が一層、青年の存在を儚げにさせていた。


「何か……?」


 カノンはその青年の雰囲気に呑まれて、すぐに立ち上がる事ができなかった。すると青年は膝を折ってカノンと目線を合わせ、にこっと微笑んだ。


「こんなところで一人で座っているから、どうしたのかと思ったんだ」


 青年の声は思ったより低くて男らしかったが、静かで優しげに聞こえた。あまりにもじっと見つめてくるので、カノンは思わず頬を染めて目をそらす。


「父を、待っているんです」


 カノンがそう言うと、青年の目の光が少し潤んだように揺れた。


「お父さん、か。仕事に行ってるんだな。じゃあ帰ってくるまでおれと少しお喋りしようか」

「あ、はい」


 そんなに心細そうに見えたかなと思って、なんとなく頷いてしまう。


 青年は隣に座ると、他愛もない天気の話からし始めた。そして青年はこの国の北側にあるセーゲン川の向こうで生まれ、その後、母に連れられてこの国で暮らしていたのだと言った。母が亡くなり、大きくなってからは各地を旅するようになった。そして今また久しぶりにこの国に戻ってきたのだと言う。青年が身の上を話してくれるので、カノンも自分の話をした。


「そう言えば名前、まだ聞いてなかったな」


 日が落ちかけ、青年にすっかり気を許した頃に、青年がそう言った。カノンは自分の名前を名乗る。すると青年も名乗った。


「おれはディアンダっていうんだ」

「……え!?」


 カノンは思わず後ずさる。あまりにもイメージと違った。こんなにも若くて儚げな眼をした人など想像していなかった。


「びっくりしたか? 魔帝と同じ名前だから」

「え……? あ……」


 ああ、違ったんだ、とカノンは胸を撫でおろす。それはそうだ。この青年はカノンよりせいぜい二つか三つくらい年上なだけだ。ディアンダは立ち上がった。


「そろそろお父さんも帰ってくるだろう。おれは行くとするよ。また……会えるといいな」


 ディアンダは寂しげにも見える笑みを向けて、去っていった。カノンはぼーっとした気持ちでそれを見送った。


 仇である父ではないはずなのに、父に会った気がして気分が虚ろだった。マクが帰ってきても放心しているカノンを、マクが心配して家まで送ってくれた。


「マク、わたしのお父さんってどういう人だったんだ……?」


 家についてからようやくそれを聞いた。






 残酷な男だ。


 マクは憎しみを思い出したのか、顔を歪めながらそう言った。幼い頃には「優しい奴だ」と言っていたのを思い出したが、母を殺した男が優しい人なわけはないと、今のマクの言葉を信じる事にした。


 今の魔帝と父とは違う人なのか? という問いには、マクは「なんだそれは?」と首を傾げた。うまく説明できなくて、レイアがそう言っていたと簡単に言うと、マクも「それはわからないな」と言った。


「でもあいつはどちらかというと、一人でいたがる性格だった。組織から抜けていたっておかしくはないかもな」

「そっか……」


 マクの帰り際にカノンはもう一つ聞いてみた。


「マクは、わたしの父が現れたらどうするんだ……?」


 背を向けかけていたマクは、カノンに向き直って優しくカノンを抱きしめた。


「おれはわかるんだ。おれはどんなに憎くてもあいつを殺せない。でもあいつがおまえに何かしようとしてくるなら、その時は戦う。そして語ってやる。おまえとリックがいて、おれがどんなに幸せだったかを。あいつが後悔して泣くまで」

「ふふ、そっか」


 カノンはマクらしいなと思って微笑んだ。そして夕ご飯は一緒に食べようよと誘った。


「おまえの料理は大味だからなあ」


 マクはそう言いながらも、帰るのをやめて屋敷の門を潜る。


「失礼だな。今日の料理はレイアが作ってくれるよ」

「なんだ、おまえのご馳走じゃないのか」

「ハハ、残念でした」


 マクとカノンは笑いあいながら、家に入っていった。カノンは結局さっき出会ったディアンダという青年の話はしなかった。また会う事はないだろう。そう思った。






「帰ってきて早々なんだけど、カノン、あなた仕事をする気はない?」


 夕食をテーブルに並べながら、レイアはさっきの話の続きはせずにそう話を切り出してきた。


「仕事があるならやりたいな。わたしはもう手持ちがないんだ」


 カノンはレイアが持ってきた仕事なら、変な仕事ではないだろうと簡単に頷く。レイアは食事に手を付けるのをためらっているキョウに、「食べていいのよ」と声をかけながら、話を続ける。


「頼みたいのは護衛の仕事よ。わたし、今はこのカラオ国で仕事をさせてもらいながら、弦の国や北エルフの国と手紙のやり取りもしているの。それでね、カラオの医学博士が、北エルフの進んだ医療技術を勉強させてほしいと申し出てきたのよ。そしたら北エルフの国もこの国と国交を深めたいという事で、調査員を派遣する事にしたらしいの。その人員の交換がオステンド国で行われるの」

「ふうん? オステンド国ってどこだ?」

「位置的にはこのエーア(東側の)地方の真ん中の南寄りかしらね。竜人の国と方向は違うけど、距離的にはそれほど差はないと思うわ」


 レイアはがっつくように食べ始めたキョウの口を拭いた。マクもキョウが落とした食べかすを拾いながら、口を挟む。


「つまりは国の仕事という事だな? 一般の傭兵を雇っていくって事か?」

「いえ、北エルフの国からカノンを指名されているんです」

「なんでだ?」


 カノンは首を傾げる。


「わかるでしょ」


 レイアが「当ててみて」と言うので、カノンは「うーん」と色々考えて、一番可能性が高そうなものを口にした。するとレイアは「そういう事よ」と頷いた。「それがいいニュースよ」とも言ったが、カノンは嬉しい反面、複雑な気持ちだった。


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