第97話 脱出後
「(はあ・・)」
それからがかなり大変だった
宿泊していた旅館の施設まで戻って応急手当をする際に
ついてきた監査の人や救援隊の人と少し話す機会があった
救助後に体の怪我の手当を受けて少し休養したら
即ダンジョン研修は切り上げられて
私たちは聖セントラル中央魔法学園に戻らなくてはいけなくなった
それは仕方のないことだと思っていたけど
話を聞くとそれは襲撃を受けた私たちだけではなくて
全ての研修中のパーティが対象だった
「え・・?全世界で、ですか?」
「そうだよ 本部じゃ大慌てだよ」
なんでも私たちが襲撃に巻き込まれた日に
世界中の空の星が輝いて
ダンジョンがある地域に近い上空のいたるところで干渉光といわれる、
強い力の光のオーロラの帯が昼間でも見えるくらいはっきりと観測されて
その光が降り注いだ後、
その光の直下にあった多くのダンジョンに変化が見られて
そのダンジョンの入り口付近に謎のボスモンスターが出現するという
異常現象が発生したという報告を受けたのだという
(ここと同じ・・!)
探索が中断されたのは聖セントラル中央魔法学園の本部からもだけど
今ダンジョン内に立ち入るのは
非常に危険なため厳しく制限するという政治判断で
メリカド魔法共和国政府から直々に緊急令が発令されたからであった
実際に運悪く冒険者たちがダンジョンを探索中に
出口がボスモンスターによって塞がれた例が何件もあって
各地で救出のために討伐隊が組まれるほど事態は大事になっていたらしい
「・・・」
(これが・・クルードがいっていた 兆候っていうやつ・・?)
それでも私たちがいたこのトルマドルマ洞窟ダンジョンでは
早々に入り口にいたボスモンスターは
勇者によって討伐されたため しばらく人の行き来があった
・・
実は私たちが戦いでぶちあけた地下空間の岩石には
たくさんの宝石が含まれていて
ダンジョンは時間をかけて修復されていくらしいんだけど
破壊の規模が大きかったせいで修復が遅くて今その空洞に入っていけば
その宝石を含んだ砕けた岩石がごろごろ転がっていて
取りたい放題になっていたために
噂を聞きつけた一部の冒険者やトレジャーハンターなどが
危険を顧みず殺到し、一時は無法地帯となっていたらしい
でもほとんどのハンターたちはダンジョンの穴が深すぎて
奥地にまでいくのは断念していたみたい
それでもトルマドルマ洞窟ダンジョンの奥地以外でも
ダンジョンからまるで不思議な力が湧き上がったかように
枯渇したと思われていた宝石があちこちで発見されたんだそうだ
「・・・」
(そういえば私も宝石のことは戦いのときに光ってて気づいてたけど
全然取ろうとかは思わなかったわね 必死すぎて)
だけどボスモンスターはいなくても岩盤が崩れた後で危険だし
正体不明の謎の巨大な虫のような魔物の残骸も奥地には残っていて
調査の邪魔になると判断されてこれもメリカド魔法共和国政府の命令で
調査目的以外のダンジョン探索はしばらく禁止令が出されて
宝石ラッシュに湧いていた無法者の冒険者たちは強制排除されたそうだ
そういうことも問題だったけど
私たちの勇者パーティのさらなる問題は今回の襲撃関連のことだった
勇者アギトは長い間 偽聖剣の力の影響を受けていたせいで
別の治療施設でまだ眠っているらしい
付き添っていたらしいステラが教えてくれた
勇者であるアギト・クロスハルトが精神を操られて敵対して
ダンジョン内でパーティメンバーに襲い掛かるという事態に加えて
さらにその原因が聖ソウル法典が適合認定をして
国が与えた勇者の聖剣が真っ赤な偽物で
それも人の精神を乗っ取る邪悪な魔剣だったということになれば
責任の所在というか対応がものすごく複雑になっていて
監査の人たちも自分たちの手には負えない案件みたいで
今は部屋で私たちパーティのみんなは手当を受けていて
そこまでまだ私たちには言及とかはなかったけど
学園まで帰ったらひと悶着ありそうだった
・・・
私は救助されたときでも自力で動けたし
その後にすぐ回復もできたからよかったんだけど
勇者ミトラは救助当時 腰が抜けていて自分で立てなかったうえに
ケガも状態異常も残っていて勇者の力が戻っていなかったので
勇者アギトと同じように別室で応急療養を受けていたので
学園に帰る手筈が整うまでに リズはお見舞いというか
その様子を見に行くことにしたのだった
・・・
・・・・
勇者ミトラの療養別室にて
「どう?良くなった?」
「まだちょっと引っかかるけど・・ほぼ回復して元に戻ったわ」
別室にアスラを連れて様子を見に来たリズ
勇者ミトラは療養していたベッドから身を起こしていた
「そう よかったわ」
「もう飛べるわよ」
ミトラは小さくピョンっと背中に光の翼を出す
「飛ばなくていいから」
リズはそう言ってベッド横の椅子に腰掛ける
ミトラは光の翼をポウ・・と解除する
話を聞くと魔剣に切り付けられた後の異常の状態がよくなかったので
勇者パーティの付き添いの医療班の人が
万が一に備えて国から支給されていた「浄化の希石」っていう
なんかすごそうな(実際すごい)状態異常に対して特効のある宝石を砕いて
ミトラにかけられた状態異常魔法の呪いを取り除いてくれたのだという
・・・
そうやって話をしていると
(ずりずり・・)
「あっ・・!くすぐったい・・」
アスラが勝手に横から勇者ミトラのベッドの布団の中に潜り込む
(これはなんの習性なのかしらね・・?)
モゴモゴと布団の中を少し探検してから
最終的にミトラの胸元の位置に外を向いてすっぽりとおさまる
それをミトラが不思議そうに眺めてアスラの頭を撫でている
「そうだ
お見舞いに余ってたお菓子持ってきたの ちょっと食べる?」
リズからミトラの前にクッキーの袋のようなものが差し出される
「あ、食べ・・」
「うん 食べる」
「あっ・・!」
勇者ミトラが答える前にアスラが答えて
速攻でリズから差し出されたお菓子を両手をピンと伸ばして取ってから
袋を開けてミトラの腕の中でおいしそうに食べ始める
「ふふふ・・」
ミトラは先にアスラに取られてちょっと驚いたような顔をしていたけど
穏やかに笑ってアスラの頭をなでていた
「じゃあミトラはこっちね」
「ありがとう」
ミトラには代わりにドーナツのようなおいしい非常食を手渡しておく
リズも渡したのと同じものを一緒にモソモソと食べる
それから少ししてミトラは
そのドーナツからゆっくり口を離して手を止める
・・
「リズ・・私ね あの時ほんとにもうだめかと思ったの
だけど その時リズとこの子が来てくれて
そしたら私も頑張って戦わないとって・・ 全然役に立たなかったけど」
「なにいってるの ミトラがあのポーション渡してくれなかったら
あの敵にあのタイミングで勝てなかったのよ 負けてたかもしれないわ
そしたらここでこうやって私たち一緒に話せなかったかもしれない
・・ミトラ、助かったわ」
「そうなの・・よかった・・
それでもパーティのリーダーで勇者でもある私がやられて
全然戦えなかったのは変わらないから・・」
「あれは・・相手が悪かったのよ
それにミトラはまだひよっこ勇者なんでしょ 気負いすぎよ
あいつの力は異常だった しょうがないわ」
「ひよっこ勇者・・、まあそうね
勇者ランクが低いだけで才能は自分でそこそこあると思ってたんだけどね・・
あれを見るとね・・
確かにあれは異常だったわ
高度詠唱でも発動できるか分からないレベルの高度な術を
ほぼ無詠唱であんなに繰り出すことができるなんて
底知れない力・・
それでいて体術のレベルも見たことがないくらい高かったし
でもそんな恐ろしい相手でもリズは渡り合ってた
あれが・・リズが持っていた本当に優れた力だったのね
でもあの体術・・?
あの敵の力と似ていたわ・・
リズは・・なにか知っていたの?」
「・・・」
(困ったわね・・そう ミトラは私の戦闘を見ていた
しかも私の力が見えてないわけじゃなくて
私のオリジンの力も敵の力も始めからちゃんと見えてた
ミトラが持つ特殊な聖属性の力・・?それともあの場所が特殊だから・・?
もちろん私のあのイヴの姿で力を使うところも見られている
・・
でも後で話すって あの時ミトラに言ったからね)
・・
「そうね 私の力は・・ここでいうと
とても強いけど普通は目には見えない体術のようなものね
でもその力は 元はこことは違う繋がった世界から流れてやってきた力なの
そしてあの時戦った相手は
たぶんその力でもトップクラスの地力を持つ存在だった
それで私の力はね なんで自分にそんな力があるのか
自分でもまだよくわかってないの
だけどね・・ ・・」
・・・・
ミトラにリズは自分の持つ力について打ち明けていく
ただリズが向こうの世界にもいて意識をかけ持ってる辺りのことではなく
分かりやすいように
この世界で夢のような別の記憶を持つリズ・クリスフォードとしての私として
オリジン由来の力のこととか
シスやクルードに教えてもらった敵に関してのことを話していく
「その夢の記憶の中でのことなんだけど・・」
・・・・
・・・
「ええ・・ちょっと私もよくわからないわ
リズがそんなことになってたなんて・・
それがオリジン・・イヴの力・・それであんな力を・・
どうしよう よく考えたいけど私たちももうすぐ学園に戻らないといけないし
あまり時間がないわよね」
「そうね・・」
「私 そのリズの力のことに関しては
リズが信用できる人にじゃないと話さない方がいいと思うわ
リズがそのオリジンの力を持っていることを知られたら
また知らない敵に襲われちゃうんでしょ?
まだ今は大まかにしか私にも聞き取りのようなものはなかったけど
学園に帰ればまた必ず聞き取りがあるはずよ
問題は・・今の監査の人たちももう全部は信用できないことね
あの襲撃は最初から仕組まれたものだったんでしょう?
それにアギト君は国から聖剣の偽物を渡されたのよ
あのドラグ・バルバロイだけの能力で仕組まれていたとしても
内部にまだ敵が潜んでいる可能性があるわ
幸いというかリズの力を見ているのは私しかあの場にはいなかったから
私が黙っておけばリズの力が大々的に知られることはないわ
アギト君を乗っ取ったあの竜人のドラグ・バルバロイについては
話さないといけないけど・・
最後にリズと話してたあの変な人は途中から味方だった・・のよね?
それも伏せといた方がいいかしら?」
「そうね 彼もオリジンの力を持っているから・・
それになんていうか・・彼、世界でSS級の指名手配をされてたみたいなのよ
捕まった扱いになってるみたいだけど
だから話すと余計に話がこじれそうなのよね」
「ええ・・なにそれ・・大丈夫なの?」
「大丈夫だと思うわ 彼は私たちの味方よ」
「リズがそういうなら 私も信じるわ」
・・・
それからまたしばらく話していると
軽いノックの音がして「ガチャリ」と勇者ミトラのいる部屋のドアが開いて
「よう」(ガッシャン)
勇者ミトラのパーティメンバーの大剣士ジャスパーが
鞘に入った剣を背負って部屋に入ってきた
「げ・・」
「げ、ってなんだよ リズもここにいたのか」
「少しだけね」
「まあいいけどよ 勇者アギトのやつが目が覚めたらしい
まだ安静がいるみたいだが
そのまま馬車で護送する準備ができたから俺たちもそろそろ移動みたいだ
だから伝えにきたぜ お前ももう戻って出発の支度したほうがいいぞ」
「あらそうなの じゃあここまでね アスラ、こっちにきて」
ミトラの腕のところからアスラの両脇を持って回収する
「そうね お菓子ありがとうリズ」
「いいのよ じゃあ私たちの部屋にあったミトラの残りの荷物は
私がなんとかしておくわ ミトラは療養中だからまだここで休んでて」
「うん・・」
私たちはそこで解散して急いで宿泊施設から荷物をまとめて
準備の整った馬車に再びのりこんで
トルマドルマ洞窟ダンジョンの麓の街から切り上げて
聖セントラル中央魔法学園に帰投したのだった




