第9話 抜け殻たちとリズ
・・・
私の目の前には
あの荘厳で人格者である お父様バーゼス・クリスフォード
(・・・)
普段は寡黙だけど あまりにもだらしのない私生活を送る私に見兼ねて
とうとう説教を始める決意をさせてしまったらしい
リズ・クリスフォードである娘の私に 心のこもった説教をしてくれていた
でもそれとこれとは話が別
(さあいっておいで 寄生セミの抜け殻1号・・)
お父様のありがたいお説教をを聞いているうちに
抜け殻はカサカサとお父様の上質な仕立ての服の胸の辺りに登り
「ピト・・」
一旦そこで動きを止めた
(やはり見えていない・・、お父様は気が付かない・・)
(そして名前がわかる 「バーゼス・クリスフォード」・・うんそれだけだけど)
名前はもう知っているからこの行為に意味はない
意味はないんだけど
そして抜け殻経由で極々かすかに感じる お父様の質のいい魔力
寄生してあんまり魔力がとれてしまうようなら
この家の当主であるお父様が体調を崩したりしてはいけないから
やめようと思っていたんだけど
(このぶんならもう少しはいけそうかなあ)
ならば
(さあ いっておいで 寄生セミの抜け殻2号から5号・・)
この間にもお父様からありがたいお説教をくらっていて
リズは心から反省していた
「(ピト・・)」
2号から4号の抜け殻たちはいずれもお父様の服の辺りで止まっていたけど
5号のアグレッシブな抜け殻は
お父様の顔面までよじ登っておでこに達していて そこで止まっていた
「・・・」
(はあ・・・気が付かないもんなんだなあ あのお父様でも・・)
リズはおでこに虫が張り付かせながら淡々と説教をしているお父様の
その様子を見て無心にぼんやりと考えていた
お父様から寄生して送られてくる魔力は少しだけ増えたけど
やはり意識しないと分からないほどそれはわずかなものだ
「・・・・」
「リズよ・・お前は昔からなあ・・」
ああ、なんてありがたいお父様の熱の入った言葉 心にしみる
(さあいっておいで 全てのセミの抜け殻たち)
ぞろぞろと精巧なセミの抜け殻たちはお父様に向かっていく
・・・・・・
どうしよう 凛々しいお父様の顔が抜け殻で見えなくなってしまった
でも お説教をしている声は聞こえるから
全然いつものお父様だ 間違いない
「・・・」
(だけどここまでやっても魔力はあんまり来てくれないんだなあ・・)
少し残念な気持ちになる
ここまでセミの抜け殻を作ってきた労力とは全然見合っていない気がする
セミをつけることで名前が重複するわけでもなかった(それはそうか)
(わかったのは今はこれくらいかな・・)
じゃあこの辺で、と思ったけど
このお説教 終わる気配がない
お説教をするお父様は精鋭のセミたちの波状攻撃を受けていても
逆に若い時を思い出しているように生き生きとしていた なんということか
でも一時のお父様は
まるで抜け殻になってしまったかのように
元気がなかった時期があったから それならまあいいか
(あれ・・?)
というか・・
お父様は魔法使いとしての力は落ちてしまっているとは聞いていたけど
極少量とはいえ お父様が持つ魔力の質自体はこんなにも高いのに
じゃあ一体なにが原因でお父様はそうなってしまったんだろうか
そのことについて お父様の口から
娘の私に教えてもらったことは今まで一度もなかった
・・
・・
この後リズはしばらく
お父様の終わる気配がないありがたいお説教を聞いていて
部屋に戻るのは夜遅くになってからだった
・・・・
・・
また朝が来る 今日は私は普通に起きて来ている
昨日言われたばっかりだったから
さすがに朝食は時間通りに食べに行こうと思った
朝食が用意されている食卓の席へと向かう
・・
「リズか 今日は時間通りだな しっかり食べなさい」
ん?あれは・・
お父様? そんなまさか、ちがうわ あれは・・・
お父様はなんと顔がほぼ昨日のセミの抜け殻たちで覆われていた
一瞬セミの怪人かと思った
お父様は今日は早めに来ていて
朝食のソテーか何かを食べているけど
セミの抜け殻の方が口に入りそうで見ているこっちがハラハラする
「はい お父様 おはようございます 」
一緒にもう席についていたお兄様の方は
お父様の変貌に気が付くことはない
私が朝の時間通りに来たため特にいうことはないのか
フン!という鼻息を強くしただけで食事にもどっていた
そんな朝のクリスフォード家の食事だった
・・・・
部屋に戻ったリズ
「あれは・・不意討ちだったなあ・・」
ベッドに寝転んで無責任にそんなことを思う
いや不意討ちでもなんでもなくて私が昨日やったんだけど
「セミの効果の関係であの感じのお父様を10日間
毎日みさせられることになるのかしら・・
考え物だなあ この抜け殻の魔法・・」
かといって解除する気はさらさらないリズ
「やっぱりお父様も私のことを思って夜遅くまで説教をしてくれたのだから
私からも感謝の気持ちを返さないとね・・」
しかしあんなに群がられて顔がムズムズしたりしないのかしら
まあ娘の手作りのものをプレゼントされて悪く思うことはないだろう
手料理みたいなものだよ
それはそれとして
「なにか私の魔法で別のことができないかなあ・・」
(・・そういえばなんで私はセミの抜け殻にこだわっているんだろう)
まあそれは思い付きの一発目が気に入ってしまったからなんだけど
そう思い改めて その後いろいろ試してみたんだけど・・
試す内容は 今までのセミじゃなくて
動物系
象とかさ、かわいいウサギとかをこねて作ろうと思ったんだけど
(・・・・)
「(バーン・・)」
全部・・アニマルたちは最終的にセミの抜け殻になる
手癖の精密さの関係なんだろか
丁寧に作ろうとすると ある程度段階を踏んだ地点で
いつの間にか つい手癖が邪魔をして象の胴体にセミの足がついている
(いやあ 困るなあこれ)
(あれ・・)
それで胴体の方もいつの間にか 理想のボディラインを追求していくと
つい形がすり替わってセミになってる
不思議だなあ
うーん・・本当にセミの造形自体はうまくはできてるんだけどなあ
・・・・
・・・
それから何日か経って
アニマルを作ることはもう早い段階で諦めて
実験のためにセミをことあるごとにストックしてたくさん作っていたリズ
特にたくさん作ることで意味があるわけじゃなかったんだけど
一つ一つ丁寧に作り込んでいくことで
精細さというか抜け殻を作る腕が上がっていくのを感じるのが
少し楽しくて続けてしまった
元々向こうでオリジンのボタン操作なんかもコツコツやり込んでいたから
オリジンができなくなった今、
ちょうどよくそういう作業がリズにすっぽり当てはまったのだった
それになんというか
丁寧な動きを繰り返して手先の指の器用さも上がっていっている気がする
・・・
そのうち
熟練してきたのか作っているうちに能力に感覚的な新機能を見つけた
それは
(ん・・?「ファンシーモード」・・?)
「えっ!新機能!」
と リズはテンションが上がって早速その新機能を使ってみたんだけど
精巧でリアルだったセミの抜け殻が
(ポワン!)
「・・・・」
デフォルメ化されてちょっとキュートな見た目になっているだけで
機能面の追加とかは全くなかった
(うーん 意味はないか・・)
でもそんなファンシーになったセミの抜け殻もドアップにしたら
毛穴とかはビッチリ見える
(でも私は本格志向だから この機能は使うことはないわね・・残念ね)
そうして見つけた新機能はすぐにオフになった
注釈
(※リズは本格派なので今後も精巧なセミの抜け殻しか扱わないので
虫が苦手な人は勝手にキュートなファンシーモードに変換してください)
「・・・」
じーっと出来上がったセミの抜け殻を見ているリズ
ぼんやりとしたことを考えていた
本当にくだらないことだ
「わたしの右手に そう さっきできたセミの抜け殻」
「そしてわたしの左手に その前につくったセミの抜け殻」
ポアン!っと私の手にひとつづつ、さっきつくって収納した抜け殻を取りだす
今の私は両手にセミを持っている状態
「・・フュージョン・・・・」
そういってリズは両手をお互いにゆっくり近づけていく
「(キュウキュウ・・!)」
初めて鳴虫君が必死に鳴いたのを聞いた気がする
なんだかセミの抜け殻たちが
いやよいやよって動いて逃げて抵抗してるみたいだった
だけどそれは間違いなく気のせい
わたしは無常にその手を合わせる 祈りを捧げるように
すると・・・
(コロン・・!)
「ん? なにかしらこれ」
変身失敗だろうか
でもそうとも言い切れないような
合わせたセミの体積2匹分くらいの
なにか四角のような規則的な形をしているパーツのようなものができた
見覚えのない謎の文様のようなものが刻まれている
見た目はまったくセミの抜け殻ではなくなっていた
(あー・・)
せっかく苦労してあのセミの形に精密に仕上げたのに・・、
まるで意味がないんじゃ
と思わないこともない
そういえば作った抜け殻の効果時間って見えるようになったんだよ
いつも10日くらいだよねって特に気にするとこもなかったんだけど
わたしが持ってるのって その期限10日のスタンダートな抜け殻だけだし
でも今度のそのパーツをみると
効果時間20日って私の脳内イメージに感じられる
あれ・・・でもパーツはそのままだと全然動かないし 使えない
呼びかけてもスンともいってくれない
「うーん・・?」
私は試しにパーツの数を増やすことにする
だけど私がさっき感じていたことは気のせいじゃなかった
(この抜け殻たち・・)
「シャカシャカ・・!」
「・・・」
合体させようとすると逃げる 割りと素早い
それも私がわざわざ おいでって言った時に くるときよりも早い
「主に逆らうとはちょっとありえないわよね 私の魔法なのに・・」
働きたくない、そのままの姿で寄生をし続けるんだという意思をかんじる
・・・・。だけど検証のためだからね
ちなみにパーツになれるのは
細かく作られた形の質のいいセミだけだった
簡単にすぐ作れる単純な丸い形や人形の形では動くことはできないし
パーツになることもできない
・・
逃げる抜け殻たちを苦労して手でつかまえて
寄せてよせて強制的に合体させて1こづつパーツを作っていく
出来上がったパーツ自体はさすがに逃げることはなかったため
それをさらに合わせていく
「む・・」
その倍くらいの大きさのパーツができる
効果時間も増えている 単純に足した分が延長して増えていくみたい
今度は40日だって
だけどまだそのままではつかえない
どういうこと?
4個合体させたものに2個合体させたものを混ぜるのも可能みたい
(・・・)
ここで少し考える
今までは元から以前の私がまがいなりにも使えていた寄生の魔法
今は前とは違って
少し進歩したデザインの魔法のセミを作り続けていたけど
この今生産中の変な合体生成物は
私の意識がこの世界で目覚めてから寄生デザインを
セミに変更することによってできた、
いうならば私の新しい完全なオリジナルの領域にある魔法っていうこと
(つまりゲーマーな一面も目覚めた私が
魔法の才のないお嬢様リズをしっかりと魔法サポートして支えてあげることで
役に立たない魔法なんかじゃなくて
ようやくその先にある、
念願の実用的な本来の私のキラキラした真の魔法をゲットできるということなのよ
やったわ)
これは始まり
不思議少女リズの天才魔法使い編の始まりといったところね
「これは行きつくところまでいってしまうか・・!」
・・・・
私は謎のテンションと気合を入れて
黙々とかなり時間をかけて逃げるセミをつかまえては
合体を繰り返していく
そのうち合体した抜け殻の体積がどんどん増えていき
「・・・」
(あ、あれ これもしかして終わりがないんじゃないの・・)
ってちょっと焦り始めたときだった
その合体を完了させた時
「それ」はもうかなり大きくなっていて
(これ以上・・大きくなるといい加減邪魔だから一旦ストップだなあ)
と 手を止めかけた時
だけど
((・・・))
次の合体で何かが完成する予感があった
「 スッ・・ 」
だからその感覚に従って
その1回だけ最後に合体させることにする
(パアア・・!)
すると合体させた瞬間、ほんのわずかに光を放ってそれは大きく変化した
そして・・
「これは・・・」
((ドオオオオオン・・!!))
見上げるようにリズの目の前に完成した合体した大きな物体が現れる
「(ええ、なにこれえ でっかい・・)」
抜け殻を100匹以上使った気がするよ
見た目でいうと
それはでっかい饅頭みたいなものを縦に立てたかんじで
それにサイみたいにぶっとい足がついて自立している
ぶっとい腕もついているよ
饅頭の体の中心の胸?の部分には
五つの点で等間隔に円で囲んだ黒い点の模様があって
なんだろうこれは仕上げに饅頭にゴマでもふったのだろうか
元のセミの抜け殻の要素は背中についた虫っぽい羽・・くらいだろうか
でも体の体積に対して小さすぎて飛べなさそうだから
意味があるのかはわからない
縦になって仁王立ちしている身長は立った私より頭2つ以上は高い・・
ほんとわたしはなんてものを・・
(あ、あれえ・・おかしいなあ
私の思い描いた奇麗でキラキラした魔法は一体どこに・・)
というか
ん
待ってほしい
この見た目の形のこれって・・
(・・・)
そう この物体の見た目こそは大きくはなったけど
以前からセミを作る前にリズが何気なく作っていた、
ずんぐりとしていた最初の人形の姿のフォルムとほぼ同じであり
どこかの貴族令嬢がものの2秒で考えてできたようなデザイン性の
単純極まりない構造をしていた
つまり・・
最初に戻ってしまったのだった
(ど、どうしてぇ・・)
つまりどういうことかというと
わざわざ今までリズが苦労してセミを作り 量産したそれらをかき集めてまで
淡い期待を寄せていた新魔法は
とくになんということもなく
大きくなった一番最初の形の人形を手に入れただけだという
(あ~ん・・)
なんで私ってこうなのかしら
要領も才能もないとこういうことになってしまうんだろうか
「はあ~・・」
ただただ大きな見た目に変化して ふりだしに戻った最初の人形の姿を見て
しばらくリズは呆然と困っていたのだった




