第89話 動き出した運命
「起きてえ! 起きて! リズー!」
リズは地面に倒れて気を失っているようだった
その隣にリズに抱えられた腕から出てきたアスラが
顔の前に移動してリズに呼び掛けている
しかし反応はまだない
「リズ・・」
(ペチン、ペチン・・)少しリズの頬をアスラの手で叩いてみるけど
反応がない でもケガは見当たらないし ちゃんと息はあるみたい
背負っていたリュックは離れてリズのそばに転がっている
(どこだろう・・ここ・・)
「!」
今のところ何もない薄暗い空間
だけど空間に一点だけ
闇の奥に赤く煌々と不気味に光っている場所があった
光自体は揺れていたけど場所は動いてはいない
アスラは立ち上がって
「トーチ・ファイヤー!」
「(ボウ・・!)」
辺りの空間を照らし出すように魔法を発動する
「!!」
その空間から浮き上がってきたのは
(さ、さっきのやつ、だ・・!)
光に照らされて空間の中から「ボウ・・」と浮き上がってきたのは
巨大な重魔導トルマリンゴーレムの姿だった だけど
全体的に一回り大きくて色が黒く、だがスカスカの上半身しかない状態で
胸の辺りに青色ではなく
むき出しの血のように赤い宝石が煌々と光っていた
「ズズン・・!」
「!」
アスラの光で照らされて気が付いて動き出したのかと思ったら
ゴーレムの体から触手のようなものがでて
周りにあった岩をぐるぐる巻きにして地面から持ち上がっていって
それがスカスカの胴体の一部に吸収されて
そこがゴーレムの体の一部として
少しづつ体が出来上がっていっているようだった
「・・?」
どうやらまだ体が完成していないゴーレムで
今は体を優先して形成している最中のようだった
岩を吸収した触手が
「ジュル・・ウジュル・・」地面を這い
「!」
その触手の先に
「「 」」
ぼんやりとそこに小さい魔物の蛇?のような姿
一瞬だけ姿が白く光る
その近くにはその小さい蛇の住処だったのか
小さい石造りの祠が無残に倒れて崩れていてこれもまた触手に巻かれて
バラバラにされてゴーレムの体の一部に運ばれていっていた
(・・!)
アスラが目を向けるとその蛇の体も
このゴーレムの触手に捕まって包み込まれかけていて
その場で絶えずエネルギーを触手によって吸収されているようだった
この大きなゴーレムはこの白い小さい蛇のエネルギーを吸収して
体を形成する原動力としていたのだ
「ウギ・・ピ・・・」
その鳴き声はその力を吸われ続けた小さい蛇の断末魔の苦しみの嘆きだった
「・・!」(生きてる・・!)
思わずアスラはその白い小さい蛇に駆け寄って
その触手を振りほどいて白い小さな蛇を救い上げる
ゴーレムの触手はアスラの手に触れてからすぐ
「ジュワ・・!」と音を立てて
あっさりと解かれて白い蛇は助け出される
しかし
「ウ・・ピ・・・ 」
その白い蛇はエネルギーを吸われ続けて最後の体力の限界だったようで
微かな鳴き声を上げた後
アスラの手の中でちょうど力尽きてしまったのだった
(パアア・・)
白い光が浮き上がって最後の光が消えると
光で白く見えていたその小さい蛇の体の本当の色は黒だったらしく
その黒くて小さい蛇の体も消えていく
「あっ・・ああ・・し、死んじゃったあ・・・」
すると
「あっ!」
触手を解かれてエネルギーの補給源を失ったゴーレムは
今度は近くで倒れていたリズの方に這って触手を伸ばしてきていた
「だ、だめえ・・!!」
「(シュゴォ!!)」
アスラはとっさに口から炎を出して
リズに触れかけていたゴーレムの触手を燃やして追い払う
「(キイン・・!)」
「あ・・!」
触手を燃やされて反応して
ゴーレムの目にあたる部分が起動したように怪しく赤く光る
「ゴオオ・・オオ!」
ボスゴーレムは敵意の咆哮をあげるが まだ体がスカスカでできていない状態で
目の部分の光がチカチカついたり消えたりしている
その未完成の腕を大きく振り上げて
「!」
「ゴッ!」
倒れているリズの近くに岩石が落ちて転がる
「・・っ!」
それを見てアスラは目をキッとして決心して
(あそこが弱点・・!)
「・・グレイト・ファイヤー!!」
異様な未完成のボスゴーレムの中心にある赤い宝石に向かって
アスラは魔法を発動したのだった
・・・・
「ゴッ!」
ズズズズ・・・!
大きな音と振動がする
そこで気を失って倒れていたリズの意識が徐々に戻ってくる
(・・ん? わたし・・確かアスラと穴に落ちて・・ あれ 大きな音・・)
「はっ・・!」
そこでリズははっきりと意識が戻る
(ここは・・!私倒れて・・ アスラは・・ え? 戦ってる・・!?
あれは何・・ボスゴーレム・・!?
もうボロボロだわ アスラがやったの?)
「グレイト・ファイヤー!!」
すぐ近くでアスラの声と術が発動している
そのグレイトファイヤーが向かった先には
(( 血のように赤い宝石が爛々と輝いている ))
ボスの魔物の巨体の中心にあるその塊がアスラの術を受けて
激しく軋みながら膨張しているようだった
「(ドクン・・)」
(なに・・なんなの この胸騒ぎ・・ だめ・・だめだわ・・!)
「アスラ・・!!駄目・・!それ以上は駄目・・!!!」
「え・・?」
リズは意識を取り戻した直後からの立ち上がりで
一度よろけながらアスラの元に駆け寄って
アスラを後ろからギュっと抱きしめる
それに驚いたアスラの術は止まったけど
その瞬間
「パリイイイン!!」
異様なゴーレムの持つ中央の赤い宝石が弾けて
「ズシュウウウウウウ・・・!!!」
赤い宝石を失ったゴーレムは倒され 未完成の体が崩れていき
魔物の魔力の光がはじけて飛散していく
その時 赤い宝石があった中心部から赤い波が円を描くように
赤い魔力の光が広がっていき
それがボス討伐者であるアスラに一斉に向かっていた
「 リズ・・」
アスラはそのやってくる赤い光をリズに抱き着かれたまま
いつものまん丸い目をしながらじっと見ていた
「ああ・・!」
リズはそのやってくる赤い光を拒むようにアスラをさらに抱き寄せる
やってきた赤い魔物の光が アスラに触れたとき
((( )))
アスラを抱きしめたリズの胸元のポケットが光って
「パキャアアアアアン!!」
(これは・・ オジキの木版が・・!)
その赤い光を散らすように虹色の光がリズから広範囲に広がって
(あっ・・!)
木版から少しの煙が出て リズの胸元から光の粒子が少し飛散する
・・・
そしてこの場は収束して静かになった
(シュウウ・・)
後に残るのは崩れて動かなくなったゴーレムの残骸から
少しくすぶった煙がでているだけであった
「アスラ・・!」
「リズ・・ 起きた 大丈夫?」
「私は大丈夫よ アスラは何ともない? 大丈夫だった?苦しくない?」
「ううん なんともないよ 大丈夫」
アスラはいつも通りのけろっとした顔をしている
(よかった 大丈夫そう・・)
その後
付近に他に危ない魔物の気配がないか見てから
アスラにバンザイをさせてみたり
体をよくチェックしたりとかしてみたけど
「・・?」って顔をするだけで
特に異常はなかった
(そうよね ちょっと嫌な胸騒ぎはしたけど・・
オジキの木版が守ってくれた・・?
それにただ魔物をやっつけた時の経験の光を得ただけだもんね
アスラも私も大丈夫 ボスも倒したし 今は先のことを考えないと)
・・
「さっき煙が出てたけど まだこの木版の機能は生きてるみたいね・・
作った人に似て頑丈なのかしら・・」
焦げて煙が出ていたから気になって
リズのポケットから出して手に取っていたオジキの権利の木版
それでも裏面の機能はまだ生きている
「これ食べたら本腰いれて動き出すわよ」
「うん」
アスラに気付けのためのお菓子をリュックから取り出して
自分も立って食べながら辺りを見渡す
「ここはどこかしら・・」
目が覚めていきなり現れたゴーレムにばかり意識がいっていたけど
この地下はかなり広い空間みたいだ
そして
(!これは・・太古の虫の痕跡だわ・・)
トーチの光からぼんやり映る天井や遠いところにある壁には
虫が這ったような跡や虫の甲殻の一部が見え隠れしていた
「!」
(大きい・・!)
天井のさらに端の一角には巨大な昆虫の頭の一部が露出して
垂れ下がっていた
「・・・」
(不気味な場所・・動かないわよねこれ・・
だけどこの太古の虫たちの痕跡があるっていうことは
マギハちゃんからアスラが借りてきた本で見た、
隠し通路からの古い部屋の一部みたいね ここは)
「ということはまだここはトルマドルマ洞窟ダンジョンの中で
そのどこかの隠しエリアに飛ばされた・・いうことね」
木版に記録していたマップの機能を参照すると
前に普通のルートを入力した座標からは だいぶ地下にずれていることが分かった
(壊れてないわよね これ・・?)
(・・・)
(あの時の勇者アギトの様子は絶対におかしかった・・
一緒に落ちたミトラが気になるけど
どうもバラバラみたいだし
出口での異常事態は監査の人たちにも伝わっていただろうから
ここで救援を待つっていう手もあるけど
ここは多分隠れたエリアなのよね・・
救援がなかなか探しに来れない可能性があるわ
木版も生きてるし なんとか上に自力でいって
このエリアは脱出して救助が望める場所には出ておきたいわね)
(よいしょ・・)
リュックを背負い
辺りを調べて上にいけそうな通路を木版にメモして
ここからあとで戻れるように迷わないようにしていく
「上に向かうわよ アスラ
魔物も出ると思うから気を引き締めていくわよ!」
「うん わかった!」
リズとアスラは上に向かう通路のほうに進む
その直後に
「(ゴゴゴゴ・・!)」
地下のどこかで何かの地響きの音がする
(これは・・上の方から・・? 今も何かここで起こっているの・・?)
「少し 急ぐわよ」
・・・・
・・・
第二層目の隠しフロア 勇者ミトラと勇者アギトのいるエリア
「・・やっぱりなあ・・ こいつはいけねえよなあ・・!」
「(え・・?)」
まさか・・という気持ちでミトラは背後を振り返る
「 ソーラー・レイ・・!! 」
勇者アギトは勇者ミトラに対して殺気立った杖を向けて そういい放っていた
魔法の光の後に一瞬見えた表情は不気味で不敵な笑みだった
「ピキャアアアア!!」
大出力光魔法が勇者ミトラに直撃し
広間の空間が残忍な光で照らし出される
(ゴオオオ・・!)キュィイン・・
「まあまあ、だな これが勇者の聖魔法の感触か・・」
・・
その直後
「ピシュウウウ・・!!」
勇者アギトが放ったソーラー・レイの光が途中で遮られて立ち消える
立ち消えた光の中から現れたのは
「どういう・・つもりなの? 勇者アギト」
全身に白い光の装甲オーラを纏って髪が白く変化していて
勇者アギトをにらみつけている勇者ミトラの姿だった
勇者アギトはその余裕の笑みは崩さず
「ククク・・、
まあ勇者なら そのくらいは不意討ちでも防いでもらわないとなあ・・
こっちとしても張り合いがないからな・・」
「(まずい、わね・・)」
ここで勇者アギトと戦うことになるとは思っていなかったミトラ
魔力を張り巡らせて集中していく
すると
「ぐあ・・あ・・やめろっていってるだろ・・!
どうしたんだよ・・!君は僕に・・剣を教えてくれた、じゃないか・・!
それに君は・・僕たちが危険だった、から・・手を貸してくれたんだろ・・!
なら、なんで、こんな・・! やめろお・・!」
余裕だった勇者アギトは突然もがき苦しんでいるようだった
(ど、どうしたらいいの・・!)
「アギト! 気をしっかり持って! 変な人格に支配されちゃだめよ・・!
ステラやローラを思い出して! 私を見て・・!」
「僕・・、は、「あア・・駄目なんだよなあ・・」」
「・・・っ!」
その声は覆いかぶさるように上書きされる
「 駄目だ駄目だ 勇者ミトラ・・お前がいると
こいつが思うように動いてくれねえんだよ・・
俺はお前なんぞほっといてさっさと用を済ませたいのによお
邪魔で邪魔で仕方がねえ むかついてきたんだ
だから俺は今は わざわざ手間をかけて
お前の方を優先してやったんだぞ・・?
せっかくだからアギト、お前にも答えてやろう
お前らが危ないっていったのは嘘じゃないぜ 本当にそこそこ危なかった
ただ・・それだけじゃない
その本命は
俺によって お前らが危なくなるって意味だけどな
闇夜の渡り「ナイトメア・ゲート」 あれはポンコツゴーレムの道連れ技じゃねえ
俺がゴーレムを利用して遠隔起動した転送魔法だ」
「な・・!そんな・・あの技をあなたが・・」
「俺はアギト、お前のようなやつが嫌いじゃあなかった
だから俺の技も教えてやったんだ
だからよ・・これからはその技で
お前の今まで大事にしてきた全てを切り刻むんだ・・」
「ば、かな・・ことをいうな・・!
お前との約束の期限はもう終わった・・!
お前はもう僕の持ち物じゃない・・!聖剣が勇者に干渉してくるな・・!」
「んああ? ああ、そんなのもあったなあ・・
まあ俺には関係ないけどな
なあ・・アギト もういいだろ?
お前の楽しい時間はもう終わったんだ いい夢を見れたじゃねえか
もうお前は、 おしまいなんだよ
お前のことは気にいってたからよお・・
あの学園で他に上物の竜人の素体を見かけたから
期限がきたらメインはそっちに移ってもやってもいいかと思っていたんだが
予定が変わったんだ ただそれだけだ それだけでお前の運命は決まっちまった
期限ってのは俺の力がたまるまでの期限でもあったんだよなあ
じっくりお前の中で力をためたからなあ、
今はもう俺の方が力が強い
俺がその気になればお前はもう意識は持てねえ
今はお情けでしゃべらせてやってただけだ
眠れよ アギト
大丈夫だ お前の楽しい時間は終わって これからはもっと楽しい時間に
なるんだからな」 だ、だめだ・・ミトラ・・逃げてく、れ・・」
ミトラに対して震える声を絞り出した勇者アギトは
そこで俯いて また静かになった
「アギト・・!私の声を・・!」
「ククク もう無駄だぜ」
(ポウ・・)
その起こした勇者アギトの顔の右半分の目元には今までになかった
見たこともないような紋章の黒い刺繍のようなものが
妖しく光って浮かんでいた
「・・っ!」
(だ、だめ・・なの・・? 危険よ 勇者アギトは聖剣に乗っ取られているわ
だれかに伝えないと・・! 今の私が全力でここから逃げて
救援の人たちに伝えられれば・・!)
???「さて・・ 勇者ミトラ・・ 逃 げ ね え よ な ? 」
「(バシュウウウウウウ!!!)」
勇者アギト?は今まで手に持っていた大事によく使い込まれた魔法の杖を
ゴミのように投げ捨てて
「ああ、そうだァ・・、
アギト お前が本当に使いたかったのはこっちだよなあ・・?」
溢れる光の奔流を手のひらから放出しながら
そこから勇者の聖剣の持ち手を掴み それを一気に引き抜いて召喚する
「聖痕を宿すものだけがその手に持てる光の剣・・」
「・・!」
(せ、聖剣を出したわ・・!)
「まあ 逃げてもいいんだ、ぜ・・?
ここで逃げるような勇者は永遠に俺の脅威にはなりえない
邪魔が自分から減ってくれるだけだ」
(これは・・挑発よ こいつは勇者アギトの体を乗っ取ってこれから
何かをしたいんだわ・・! それに聖剣を出したといえども
勇者の身体能力を持つ私が本気で距離をとるスピードには
早々は追いついては来れないはずよ・・!)
「(ピシュウウ・・)」
ミトラは密かに足に光のオーラを隠して集中させて
背中に光の翼を出せるようにタイミングを計る
勇者アギト?はその様子を見て少し目を細めてから
「はーん お前・・ まあいいぜ
そもそも俺は最初から 「リズ」 に用があるんでな
・・ほら、さっさと失せろよ」
「え・・・・」
「・・・・」
(最初・・から? それが、目的・・? リズ・・、 私・・ )
勇者ミトラの目つきが変化する
「おお?」
「・・逃げない
私はここであなたと戦う あなたをこの先へは行かせないわ」
「ほーう・・少しは優先をした甲斐があったな 勇者ミトラ」




