第84話 最終日程開始
~学園でのダンジョン研修当日~
(ワイワイガヤガヤ・・)
「いってきま~す」
「気を付けて」「頑張ってこ~い」
(結構早く来たけど もう出発してるのね・・)
学園の各学年で選抜されて
打ち合わせをしていた合同パーティグループの生徒たちが集まっている
引率の先生や監査の人たちに監督してもらいながら
実力に見合った各ダンジョンに編成されて
「パッカラ パッカラ・・」
早朝から準備が整ったところから学園の正面門から
意気揚々と手配された馬車などに各自乗り込んで
その後馬車ごと学園駅のロープウェイにのって出発していく
私もアスラを連れて
かっこいい腕輪とネロ仕込みの大きなリュックを背負って
朝早くから学園駅の入り口あたりの集合場所にやって来ていた
「スピ~」
(もう・・アスラったら早起きして おねむだからって
リュックの中に入っちゃって・・!)
寝音を立てる不思議なでっかいリュック
昨日準備していろいろ旅路の予定を話してたらワクワクして
眠れなくなっちゃったって 私の部屋に夜遅くにやってきていたアスラ
(一緒にお腹をさすってあげると それからはまあ寝れたみたいだけど)
・・
(私たちの馬車はここね・・、って)
「(うわあ・・!)」
その指定された場所には
明らかに周りとは違う豪華な馬車が停まっていたのだった
(ひえ~ 勇者仕様ってやつね 私ってやっぱり場違いだわ)
ばりばり冒険者って感じのリュックを背負いながら思う
付いてくる監査の人などの専用馬車もあるけど
私たちの臨時勇者パーティは2台編成に別れていて
勇者アギトや勇者ミトラの取り巻きの側近たち男子は先の方の馬車
勇者ミトラと私と首都組のステラとローラの女子学生勢は
後ろの馬車に乗っていくことになる
(はあ~よかった 別に勇者アギトならいいけど
あのジャスパーリードと馬車で乗り合わせることにならなくてよかったわ
勇者アギトは・・まあ頑張って 修行だと思って)
「おはようございます メンバーの方ですね こちらにどうぞ」
近くまでくると馬車の御者の人に案内されて
そのピカピカの馬車に乗り込む
(よいしょ・・)
馬車に乗り込むと
「あら おはよう はやいのねリズ」
(あら・・ステラとローラはもう乗ってるわ)
「ステラとローラも早いのね おはよう」
「おっすー」
乗り込んだ馬車の中はとても広くて
まるでどこかの高級ホテルの一室を丸ごと切り取ったみたい
すでに首都組のステラたちは乗り込んで待機中で
ローブ姿でフワフワの馬車のソファーに座ってくつろいでいて挨拶をしてきた
私が勇者パーティに参加することは前に打ち合わせていたので
やりとりはスムーズだ
「なあにそれ すごい荷物ね」
(うっ・・)
いきなりローラからでっかいリュックにつっこみが入ってしまった
「ダンジョンにいくなら これくらい普通じゃないの?」
リズは正当性を主張してみる
「え?そうなの ステラ」
「うーん?そうねえ・・荷物持ちの人とか雇ったら
それくらいにはなるのかも・・」
(あれえ・・なんか雲行きが怪しいぞ)
「私たちは普段これだから」
そういうとステラは着ているローブのポケットから
なにかの魔法がかかった袋を取り出して見せてくれる
(え・・?)
「わ、たくさん・・」
その袋からはその袋より少し大きいサイズの冒険用の道具とかが
ポロポロ出てきた
(え・・なにこれ どうやって入ってるの)
「魔法の収納袋よ これの容量は普通だけど
それでも見た目の10倍くらいは入るわよ しかも軽いわ」
(な、なんですって~)
「(そ、そんな便利なものがあったなんて・・私は一体・・)」
でもそれからよく聞くと これはある程度上の勇者ランクからの
勇者パーティの特別な支給品で
市場に出回ってはいなくて普通に一般市民が買うとなると
とってもお値段が高いらしい
(うーん どのみち縁がなかったか
ということはミトラは持ってないなこれは)
その収納袋にステラはこのでっかいリズの荷物も入らないか見てくれたけど
もうこのリュックは収納袋の入れ口に対してでかすぎてダメっていうことだ
結局リズは研修の間は
この荷物をずっと背負って持っていくことが確定したのだった
(とほほ・・)
その後もステラとローラといろいろ何でもない話をしながら
馬車の中で座って待機をしている
・・・
「そういえば勇者ミトラはリズと一緒じゃなかったの?」
「ここにくるのは一緒じゃないわ そういえばまだ来てないわね」
時間がだいぶたって
周りの研修の馬車はぼちぼち出発が多くなっていて
学生用の待機馬車の数は今はかなり減っていた
すると馬車のドアがノックされる
(ミトラが来たのかしら・・?)
と思ったけど
「やあ みんなおはよう 彼女はきたかい?」
勇者アギトが朝から爽やかに私たちの馬車の方を確認しに来たのだった
「おはようアギト 勇者ミトラはまだよ
そっちのミトラのメンバーはそろってるの?」
ステラが答える
「ああ 2人とももう来ているよ」
(あれ・・じゃあまだなのはミトラだけ?)
と その時
「ドドド・・!」
(げ、あれは・・)
勇者の全身光アーマーを発動させて白く染まった髪をたなびかせて
いろいろ荷物を抱えて
かなり必死に走ってきている勇者ミトラの姿が見えたのだった
「ちょっと遅れちゃった~!」
馬車の前で急停止をかける
「ズザザザザザアアア!!」
(まあ 騒がしい)
「やあ 来たみたいだね じゃあ僕らも出発しようか!」
やってきた衝撃で癖のある髪が巻き上げられている勇者アギトは
それでも特に気にした様子もなく勇者ミトラを迎え入れる
・・・
こうして最終日程に必要なメンバーが揃い、
私たちの馬車はダンジョンに向けて ようやく学園を出発したのであった
それで私たちの馬車も学園駅出口から
ロープウェイに乗るんだろうなあって思っていたら
「ブアアアア!」
(ええええ~~!)
馬車をひいていた4頭の専属の馬は実は特別な馬だったらしく
翼がニュっと生えてきて
空を飛んで学園駅出口から華麗に飛び立ったのだった
(うおお~ すごいわあ・・これが勇者仕様 これで目的地まで一飛びね・・!)
って思ってたら
「スチャ」
始めは調子を確かめただけで
普通にロープウェイの到着先の辺りで地上に降りて
そこからはパッカラパッカラ歩き始めたのだった
(あれ~)
・・・・
トルマドルマ洞窟ダンジョン探索研修の日程は
それなりに距離があるので
一日目に学園から北東部に向かって馬車で現地に到着してしっかり休んで
二日目にダンジョン探索開始
探索はその日で終わる予定で
休んで三日目か四日目に帰投といったかんじだ
探索が長引いたときの予備日にもう一日取ってあるといったかんじ
日数についてはそのダンジョンの場所の距離によって左右される
だから一週間以上とるところもあれば 日帰りで済むところもある
(一週間以上のところは大変だね)
・・・・
「(ガラガラ・・)」
動き出したダンジョンに向かう馬車内にて
勇者ミトラはリズのソファーの隣側に慌ただしくやってきて
馬車の中で両腕で抱えていた荷物などを少し整頓しながら
「え、リズ その荷物どうしちゃったの すごく大きいわね」
(こ、こいつ・・!)
「それはミトラ、あなたが買い物でたくさん・・」
(はう・・!)
勇者ミトラは自分に非難が振りかかりそうになることを気配で察知すると
「あ!ちょっとごめん まだ着替えてないの
ここで着替えさせてね!」
(あ、逃げた・・!)
といって出かかったリズの言葉を遮ると
(パアア・・!)
来た時から纏っていた全身の白い勇者アーマー状態っていうか
それを解除する
(フサア・・)
勇者ミトラの髪が黒色に戻る のだが
・・・
解除後の恰好がよれよれのパジャマ着であった
「ちょっとお だらしないわよ勇者ミトラ」
私たちと向かい合ったソファーで
だらしない姿勢で小柄なローラがミトラに注意する
「ほんとよ ミトラあなた 全身光アーマーで隠すからって
これで外を走ってきたわけ?」
間近でミトラの薄手のパジャマ姿を見て 私も言うべきことはいう
ステラもなにか言いそうだったけど 言うべきことは言われていたみたいで
黙って整った眉を少し上げて呆れた顔をしている
(ステラはローラと違ってエルフらしい上品な姿勢だ)
「だ、だって 遅れちゃうかと思ったから・・」
そういいながら勇者ミトラはいそいそとパジャマの胸ボタンを
外していき その場で着替え始める
「あれ 着替えどこだっけ・・」
(がさごそ・・)
脱いだ普通のかわいい柄の白のスポーツ下着姿で着替えの荷物を漁っている
(はあ やあね だらしないわ)
「そういえばなんで遅れそうになったの?」
「え・・いや・・それは・・」
「遅れた理由くらいしっかりいいなさいよね~」
(厳密にはあんまり遅れてないけどね 時間ちょうどより少し後くらい)
すると勇者ミトラはしぶりながら
「・・昨日 楽しみで あんまり眠れなかったから・・」
(お前もかあああ!)
「はあ・・」
「いいよいいよ 許すよ なら」
そういってちょっと咳き込んで笑っているローラ
もうね ほんとピクニックじゃないんだから
しっかりしてよね 勇者でしょ
シュン・・としているミトラ
ミトラ一人だけ下着姿で恥ずかしそうにうつむいて座り込んでいると
囲んでいる私たちがいじめているみたいなので早く着替えてほしい
・・・・
・・・
ようやく着替え終わった様子の勇者ミトラ
(ふーん 冒険者って感じの恰好ね 普段は見たことはない
私は制服なんだけどなあ・・冒険者ぽいのもあるから
私も後で着替えようかしらね・・)
そんなかんじでぼんやり考える
私たちの馬車は着々と旅路を進んでいく
のだが・・
(コテン・・)
「ちょっと ミトラそんなに寄りかかってこないで・・って・・」
「スピ~・・」
(・・・・)
勇者ミトラはリズの肩に寄りかかって 隣でスヤスヤ眠り始めてしまった
昨日寝れてないって言ってたのが今ここでやってきた感じだろうか
私としてはたまったものではない
(かといってミトラの寝顔をみると 起こす気にもなれないんだなこれが)
(スピー・・)
よく耳をすませると隣に置いてあるリュックからも
居眠り先輩のアスラのくぐもった寝息の音もかすかに聞こえる
呑気な2つの寝音に挟まれる私
「はあ・・」
「大変ね あなたも」
向かいのソファーで座っているステラも
そのローブ越しの太ももの上に
だらけて寝そべっている小柄なローラの頭がのっている
「いや あたしは寝てないから~ まだ」
そういってローラはステラの太ももにほっぺたをこすりつける
「しかし どうせ寝るならミトラはまだパジャマでもよかったわね」
「ほんとね」
小声でステラとリズで苦労人同士の会話をする
「そういえば そっちのリュックって荷物の他に
なにか入ってるわね」
ステラがちょっと気配に気がつく
(エルフは耳がいいって聞いたことがあるわね ステラも耳がとがってるし)
(ガタン!)
その時ちょうど馬車に小石でも乗り上げたのか 室内が少し揺れる
「うにゅ?」
それでそれまで安眠していた妖精形態アスラがリュックの上の
布の蓋のような部分を押し上げて少し頭を出す
いつの間にか見慣れない風景にアスラの丸い目をパチパチさせている
「ああ 起きたのねアスラ」
「ここは馬車の中よ」
そういいながら隣のリュックから寝ているミトラにはなるべく揺れないように
アスラを抱っこして取り出してリズの膝の上にのせる
寝起きの目をこするアスラ
「あんまりこすっちゃだめよ・・」
「・・・!」
それをちょっとはっとしたような感じで見ているステラ
「私の使い魔・・なのかしら アスラよ」
「にゃむにゃむ」
まだ寝ぼけていてなにかいっているアスラ
「へえ・・かわいいね」
ステラの膝の上で横に寝そべったままで少し頭を起こしたローラ
「そういえば その腕輪だもんね テイマーだったわねリズは」
「そういうわけでもないけど・・まあテイマーもできるわね」
・・・・
そのあと少し詳しく紹介もして
「アスラっていうの!」
アスラが本格的に目が覚めて自分でしゃべって紹介しだすと
ステラとローラの2人ともぎょっとして非常に驚いていた
「隣のこれは居眠りのミトラよ」
「みとら~」
「う、うーん・・」ペタペタ
アスラにほっぺたをムニュムニュつっつかれている勇者ミトラ
「上位種・・?精霊なの?」
ステラがそんなアスラの方を観察するようにじっと見ている
(精霊・・? まあ今は妖精みたいな形態をしているからなあ)
「気になるなら持ってみる? アスラ」
私がそういうと紹介でステラに気を許したのか
ミトラを突っつくのはやめて
私の膝からピョーンとステラの大きな胸の辺りに飛び込むアスラ
「きゃ!」
「ぬわああ!」
ステラは小さく驚いて
ローラはステラの膝の上に頭があってそのすぐ上に
アスラがダイレクトで飛んできたので すんごく驚いていた
そのままやってきたアスラを抱きかかえるステラ
「あ、あったかい・・」
早くもアスラのじんわり感に侵食されているようだった
「・・私、もう少し修行をして一人前の力をつけたら
将来故郷のエルフ族の里でこれくらいのかわいい魔法精霊を呼び出して
使役したいなって思ってたのよ」
ステラはアスラのくるくるの頭を優しくなでている
(へえ エルフ族の里に精霊ねえ ほんといろいろあるのね・・)
ステラの生まれの故郷はメリカドではなくて
エルトフォード魔法王国という大陸の東にある
エルフの様々な種族を束ねた国なんだ
「ふーん でもアスラは普通の魔物の炎スライムだと思うわよ」
「スライム・・?そうね よく見たら精霊とは違うわ・・
でも普通・・ではないと思うけど」
「存在が進化?したらこうなるみたいよ ほら」
(ポウン!)
その場でアスラはさらに妖精形態からネロくらいの大きさの
お子様形態に変わる
「っ!?」
突然腕の中で大きくなったアスラに驚いて
ステラは少し今までアスラを抱いていた腕の力を弱めてしまって
「ぎゃああ~!」
その下のステラの膝の上のローラの顔にもろに
お子様アスラが覆いかぶさってしまった
(あーらら)
・・・
そんなこんなで賑やかに過ごしていたのだった
それから
首都組のパーティでの戦い方などを
戦術とか隊列とかいろいろ参考に教えてもらったりしていたのだが
「あたしたちって前衛がいない勇者パーティだったのよね」
(え・・)
「そうそう アギトも魔法が得意だったから私たち魔法一辺倒だったのよ
だけど前衛がいないから依頼であんまり無茶なことができなくて
私たちのパーティの首都での法典からの評価はいまいちだったのよ」
「え・・でも今は違うのよね?」
「そうね アギトが聖剣も使うようになったから
前衛の役割もできて 私たちも後ろから集中できるようになって
そこから最近一気に評価ランクがあがったの」
「でもねえ・・なんていうか」
「そうね・・」
「・・? それっていいことなんじゃないの?」
「いいことはいいことよ こうして選ばれて留学までできてるんだし
アギトもあなたたちに会えてとても喜んでいたわ
でもそこに上がりつめるまでアギトが無理してるように見えたのよね
特に前衛で剣術を使うときに・・すごいんだけどね
でも今までのアギトを私たちは知っているから・・」
(え・・・)
交互に話していくローラとステラ
「でも最近は普通じゃん
ランクも上がってアギトも落ち着いてきたんだよきっと」
「そうね この前の剣術演習のときは生き生きしてたし 私もそう思うわ」
「ふーん・・」
(なんだろう・・勇者アギトは普通に大剣士のジャスパーとも
打ち合えるくらい剣術もできてたし問題ないように見えたんだけどなあ
付き合いが長いとその辺も分かるんだろうか)
・・
(ギキイ・・)
私たちの馬車が止まる
「どうやら一度休憩する中継地の町に着いたみたいね」
馬車についていた窓から外の様子を見たステラが状況を伝えてくれた
ダンジョンに向かう途中に流れるカヌイル川というメリカド有数の大きな川
その大きな河川の近くに漁港のある町についたみたい
大きな魚の群れが海からカヌイル川を遡上してきて特産品となっていて
地元でもよく食べられて
国外にも輸出されて海ではないけど昔からよく栄えている歴史ある港町だ
それでローラが馬車のドアを開けると
先に馬車でついていた勇者アギトが待っていて
「やあ ここで一度休憩だよ この町は名物のおいしい魚料理があるんだってさ
早くいこう!」
そういって爽やか笑顔で待ちきれないようにせかしてくる
「うへえ~ あたし魚苦手~」
とかローラが駄々をこねている
(こうしてみると全然元気だし 大丈夫そうなんだけどなあ)
出迎えてくれた普通の勇者アギトの様子を見て思う
「ほら ミトラ起きなさいよ」
「ううん?」
まだ私に寄りかかって眠っていた勇者ミトラを
さすがにもう動かないといけないので強めにゆすって起こす
(わあ・・ちょっと楽しみ どんな味がするのかしら)
嫌いな食べ物は特にない私
(しいていうなら施設のまずいスティックね)
・・・
外に出ると大きなカヌイル川の水面が太陽の光を反射して
チラチラ光っているのが見えて
今もシーズンなのか イルカくらいのサイズの一般よりかなり大きい魚たちの
群れの元気な背びれのようなものが
時々その流れに混じって遡って乱反射していた
ここから先の進路は私たちも
この魚たちと一緒にカヌイル川の上流方面に遡っていくらしい
私たちはその中継地のカヌイル川がシンボルの漁港の町に降りて
予約をしていた老舗だという古風なお店に連れられて入り
この町の名物の魚料理を満喫したのだった
・・・
おまけのミトラ編
・・
勇者パーティのダンジョンでの研修ついでの食事休憩で立ち寄った古い港町
賑やかな町を歩いていく勇者一行たち
・・・
・・
「そうなんだよ それで道中でゲロを吐いてしまって・・」
「もう~やめなさいよ~」「アギト、食事前・・」
「!ごめんごめん」
勇者アギトの持ち前の爽やかさでそんな迂闊な言葉をつい口走ってしまっても
中和がされていたけど
でもそれは元々は勇者アギトのせいってわけじゃない
どうも先行の馬車では勇者ミトラのパーティメンバー、
賢者リードが道中で馬車酔いをしてしまい
しかもそれでも研修の進行を遅らせないために我慢をして
「す、すみません・・!いつもはこんなことはうぼあああああ」
「リードおおお!!」
「リ、リード君・・!」
馬車内で盛大にぶちまけてしまって
それはそれは大変なことになってしまっていたらしい
(まあ・・、おぞましい なんていうこと)
それで今は勇者アギトと私たちのグループだけで
先に町で食事をしに繰り出してきていた
「ご、ごめんなさい うちのメンバーが・・」
「いいからいいから」
ついて歩く勇者ミトラ
(・・・)
開幕から寝坊をかましてしまって今日は全然いいところがないと感じていた
監査の人も常時ついているこの状況で
このままでは勇者ミトラ・ネスライトの評価が下がってしまう・・!
「「 」」ばあああん!
突如一行の目の先に立派な料理店
(ハッ・・!立派なお店・・!
あれが多分予約をしていたこの港町の老舗のお食事処だわ・・!
ここは地元に比較的近い出身の私が早めにいってみんなを案内するのよ・・!)
浮かんできた完璧な評価爆上げプラン
勇者ミトラは一人駆けだしていく
「あっ、ミトラ・・!そっちは・・ あ~っ・・」
(大丈夫、止めないでリズ
これは勇者たる私の役目なのよ・・!)シュバダダタタ
リズの静止を振り切って
勇者ミトラはそのお店に素早く突入していく
リズは何かの声を上げかけていたけど
「イヤー楽シミデスヨ~」
「hahaha!」(ガヤガヤワイワイ)
その直後に予約をしてメリカドの港町のグルメを楽しみに観光にやってきた、
まるでサンショウウオのような頭の見た目のでっぷり謎種族と
上品なエルフの人たちが入り混じった団体客たちも
ちょうどそのお店にドシドシ押し寄せていて
先に駆けこんだミトラの姿は
団体客の行列に埋もれて見えなくなってしまったのだった
・・・
・・
(ポカーン・・)
「あら・・あっちのお店に走っていっちゃったわ・・」
残されたリズと勇者アギト一行
「どうしたんだろう そんなにあのお店がよかったのかなあ」
「アギト殿、予定の予約の店はもう一軒先になりますぞ」
そこに声をかけに後からやってきた勇者の付き添いのごっつい警護の人
「やっぱりそうだよねえ」
「どうするう?」
「うーん 人も混んじゃってるけど彼女がそんなにいいなら
みんなでそっちのお店にいってみてもいいかな・・」
そう話がまとまりかける
だが
「まって、アギト よく見て やっぱり・・ここは駄目よ
みてあのお店の看板の・・」
「うーん? ・・、あー そうだね あ~・・、
ここは止めておいた方がいいかもしれないね
ということは彼女もたぶんあの行動は
僕たちに付いてこさせないように気を使ったんだね
うん彼女の好みの問題なんだろうね
やっぱり予約してたお店にも悪いし
そっちに行こうか ただでさえ人数も減っちゃったし・・
彼女たちとは後で合流しようか」
「そうね じゃあ私たちは向こうに行きましょうか」
「まああの子ったら しょうがないわね」
「賛成~」
・・・・
・・
(うう・・なんでこうなっちゃったのかしら・・)
一人カウンター席でサンショウウオみたいなでっぷりした団体客たちに挟まれて
窮屈に座っている勇者ミトラ
周りはカウンター席だけじゃなくてほぼ満席が
そういう団体客で埋まってしまっていたのだった
勇者アギトたち一行が後でやってくるかと思っていたけど
全然そんなことはなく
「!?」
いつの間にか振り向いたミトラの背後列は全部
陽気なサンショウウオと金髪エルフたちのお客さんで埋め尽くされていて
ミトラは並んだ時他に誰もいなかったため
「よ、予約の・・!」
「ああはい、予約の一名様ね!こっちこっち」
スピーディに孤独なおひとり様用のカウンター席に
忙しく案内されてしまったのだった
・・
そうして今もなお誰もやってきていない
(うう・・こないわあ・・
でも予約してたはずなんじゃ・・
このお客さんの量を見て他の所に行っちゃったのかしら・・
い、一旦戻った方がいいのかしら・・)
ミトラが先走りをちょっと後悔し始めていると
(ぴょこ)
「ミトラ!」
「え・・」
なんとそこには馬車でリズが連れていた使い魔の子のアスラちゃんが
ミトラの席のすぐ横にいたのだった
(アスラちゃん、私についてきてくれたの・・?)
(アスラちゃんはきてる・・
と、いうことはリズやステラたちは姿は見えないけど
もしかしてもうどこか別の席に・・?
先にきた私は放っておかれちゃったのお・・)
「くすん・・でも私めげないもの・・」
そんなミトラの膝上に
「ふんふん」
アスラちゃんがのぼってくる
(ポス・・!)
もう両隣の席もサンショウウオのお客にはさまれて埋まっているので
私の膝上しか空きスペースがなかったらしい
「お料理!」
膝の上でじんわりポカポカのアスラちゃんは
ここでのお料理をとても心待ちにしているみたいだった
(そうよ めげないって決めたじゃない
ここは単なる研修途中の休息地
はぶられちゃってもご飯はしっかり食べてこれからに備えなくっちゃ・・!)
「アスラちゃん、お料理注文しよっか」
「わあい」
・・・
・・
注文をしてしばらくたつ
ここはメリカドでも有名な老舗の魚料理店
メリカドの豊かなカヌイル川から直近で港で水揚げされた、
新鮮な鮮魚を使った料理が売りのお店だ
席の近くには生きたまま口の大きな魚が泳いでいる生簀もあって
料理を待っている間はそれを鑑賞してぼんやりと眺めてもいられる
アスラちゃんも生簀の水中で大きな魚が
あくびみたいに口を開けたのを見てはしゃいでいる
「お魚!だ」
(わあ・・使い魔なのにほんとに上手によくしゃべるのねえこの子
これが上位種の使い魔なのね・・)
・・
「お待たせいたしました~・・」
この道を極めてきた職人のような雰囲気の人が料理のお皿を運んでくる
(お・・!)
少々想定外のことは起こってしまったけれど
下調べの時から勇者ミトラもそれは楽しみにしていたのだった
「浜渡りの肉厚尾折鰈!・・」
(まあ!なんて美味しそうな響きなのかしら・・!)
「・・に付いていた寄生虫の大王ゲベジ・ゲジゲジの素揚げにございます」
(な、、な嗚呼ああああ~~~~!!)
「寄生虫!」
アスラちゃんが「お魚!」の時とおんなじように目を輝かせる
「最近の水揚げには大王級はなかなかついてないんだよ
ラッキーだったねえ小さいお嬢ちゃん」
「わあい」
「な・・、ななな・・」
「oh・・ビューティフォー・・・、、」
とか近くの席の外国のエルフのおじさんとかがネイティブな言葉で反応してくる
なぜかすごく羨ましそう
「コトリ・・」(スッ・・)
(どおおおおん)
めちゃくちゃ虫の原型がある素揚げのお皿が目の前いっぱいに
とにかくお皿からはみ出した素揚げのカラッとしたゲジゲジ足がいっぱい
「は、はう・・」
ど、どうして・・確かにお魚の料理って聞いていたのに
(はっ・・!)
ミトラはふと思い返す
・・・
・・
古来よりメリカドの荒れた大地を蛇行するように流れ
その水源を支えていた大いなる川 「カヌイル」
その大きな川の名は古くからの古代語が起源にあって
遥かな昔に蛇のような姿の神代の巨大な竜
「カヌイ」がその腹を這って
荒れ地を削り取ってできたという伝説があり
その竜には一か所だけ腹の鱗に悪魔につけられた傷があり
竜の血がそこから絶えず流れ出ていたため
カヌイルの川にはその竜の血が僅かに混じって流れているといわれていた
メリカドの古の山々の水源から湧き出て
外界の海に繋がるカヌイル川には
毎年海からたくさんの魚たちが力強く遡上してきて
卵を孵したりしてまた海へと戻っていく
このカヌイル川に遡上してくる魚たちの生態は
他の国の普通の川で暮らす環境下の魚たちとは大きく異なっていて
外界の海で
それも人の手の届かない魔力の多い地帯の海底を好んで
回遊する大型の魚たちは
そこで海の栄養と海底の地の魔力を身に豊富に蓄えるのだが
同時に海底で身に蓄えてしまうものがある
それがいわゆる「寄生生物」で
そのほとんどが甲殻類などの魔力に反応する特殊な生態の原始虫である
寄生する虫たちは住処の海底にやってきて
豊かに栄養を蓄えた魚たちに寄生をする
それでも魚たちは魔力を集めながら世界中の海を回遊していくのだが
その時に必ず寄っていく場所がある
それがメリカドの地 カヌイルの川なのだ
魚の種類によっては産卵のために他の川にも遡上はするが
カヌイルの川に遡上してくる魚の数は他と比較しても異様なほど多い
一説にはそれは竜の血が混じるというカヌイル川の水を求めているからだとか
メリカドの地には地中の魔力が多く
その栄養を求めているからだとか言われているが
近代はこうなのではないかと考えられている
魚たちがその「寄生虫」をカヌイル川で落とすためではないか、と
カヌイル川はメリカドの地を入り組むように流れており
その上流へと魚たちは遡上していくのだが
ある一定の上流部までたどり着くと
そこで取れた魚の身には寄生虫が何故か消えていて一切ついていないのだ
それがカヌイル川の竜の血の水の持つ作用なのかは定かではないが
そうやって寄生虫を体から落とした魚たちは
スッキリとしてまた海へと帰っていくのだ
メリカドの地に他地域と違う性質の濃い魔力が集まるのは
こうした寄生虫と魚たちの太古からの生態サイクルの影響ではないか
ともいわれている
・・
そんなカヌイル川にやってくる豊かな恵みの魚たちに目を付けた昔の人々は
ちょうど寄生虫の落ちて安全なちょうどいいお魚が多く取れる場所の
川の途中に港町を作り、そこで漁をしたのだった
・・
そんなこんなで
こうして今立ち寄っているこの古いメリカドの港町のひとつがある
ここでは遡上してきた美味しい身の魚を毎日水揚げしているが
ちょうど寄生虫の落ちている魚をとっている
諸外国には害のある寄生虫のついた魚などはほとんど輸出できないので
加工するにはそういう安全な魚の方が好まれているのだ
寄生虫の落ちた魚は「厄」が落ちた魚として
大変縁起が良く
地元では祝い事の日に魔除けの郷土料理としてよく食べられる
ちなみに底引き網や魔法を使った乱獲漁法は
厳しくメリカドの国のきまりで禁止されていて
伝統の長竿からの一本釣りでしか漁は許可されていない
・・・
だが普段邪魔者扱いの、この魚の寄生虫たち
近縁種だけでもいろんな虫の種類がいて
確かに虫がまだ生きている生で食べるともちろん危険だったり
お腹の中で悪さをしてとても食べられないのだが しっかり調理をすると・・
「美味しいらしい」のだ
栄養豊富な魚に寄生した寄生虫はそいつらも栄養豊富であり
お魚に寄生して大きく育った寄生虫は
エビやカニなどのように
そのお魚にも負けないぐらいその身は美味に育つのだ
しかし一般的には
寄生虫など見た目も悪く
得体のしれないゲテモノ扱いであり
実はおいしいなどと言われても理解はされない
だが世界には一部の不思議な地域の本当のグルメを求める、
食通のマニアたちは存在している
この老舗は・・
そんなどうしようもないマニアたちの舌を満足させるために
港より海に近い下流で獲られた、
立派な寄生虫付きの魚をあえて卸している専門のお店・・
その名も・・
・・・・・
・・
「回遊亭「鮮」」
いや普通に普通のお店だって勘違いするんだけど
でも看板の下には読めないくらい小さく小さく「寄生虫専門店」って書いてある
詐欺じゃないのこれ
でもこれが知る人ぞ知る名店って感じでマニアにはたまらないらしい
「へえ~・・お嬢さん事前に郷土史をよく調べてるねえ 感心だねえ」
「オ~ウ、貴方のお話 素晴ラシイデース
メリカドの食文化はヤッパリ最高デース ハルバル来テヨカッタデース」
「そ、それほどでも・・」(くふふう・・)
いつの間にか口に出ていたらしい
機会があればリズ達にそれとなく話して
勇者ミトラの知的な一面をちらっと出したりできたら素敵よねと思って
覚えていた知識は隣のサンショウウオおじさんとか
外国のエルフおじさんとかに無事披露されてしまった
「ねえ、もう食べていい・・?」
「あ、ごめんねアスラちゃん いいわよ」
「いただきま~す!」(ハムチュ! ムッチュウ~~ ウッチューー
チュッチュ、チュッチュ パキ!)
(わあ・・)
「おいしい!」
ご馳走?を前にお預けされていたアスラちゃんは
私には寄生虫の素揚げの食べ方とかは想像が付かなかったけど
あ、それでいいんだっていう本能のかぶりつき方を示してくれる
(ほんとにおいしいんだ・・)
辺りを見ても
「oh~~!yes!シーハー!シーハー!」って言いながら
超美人の金髪エルフのお姉さんが
白くてほんとに奇麗な両手に虫の足?がいっぱい刺さった串を持って
とんでもない食べ方をしている
(・・・)
お淑やかで上品だったエルフのイメージが勝手にちょっと崩れ去っていく
隣のサンショウウオの人も大きなのっぺり口から虫の触覚?のようなものが
飛び出ていてパリパリ音を出しながら
「ペロリッチ・・」
満足そうに出されたお皿ごと丸ごと呑み込んでいる
(こっちはイメージ通り・・、かも・・? お、お皿が・・)
アスラちゃんが大きい素揚げの塊に夢中で
「噴ふぅう~・・!」って感じで
すんごい野生の顔つきでチュルチュルかぶりついているので
(・・・)
「パキン」
その間に小さい方の塊に生えていた謎の長い脚をちぎってみる
「・・・」
(あれ、柔らかい・・簡単にちぎれた
う、うーん カニの足みたいに見えないことも・・
いやでも カニは殻ごとは食べないような・・)
(でもおいしいんだもんね・・)
「(ハムチュ~・・、)」
偏見は一旦捨てて一口だけ足の先を食べてみるミトラ
(ムッシャモッチャ・・パキパキ)
「!」
(お、意外とこれちゃんと味は海産物の旨味の濃縮エキスって感じよ
・・外のパリパリの殻にちかいところの方が旨味が強いんだ、不思議ね
中身はのどごし爽やかっていうか 食感も癖に・・
素揚げだから特に何もつけないでこのおいしさ
鰈についてたからなんとなく鰈の身の風味も・・ おおいける・・)
なんだか「食べたい」っていう本能が刺激されるような
不思議な味がする
これが寄生虫グルメ・・
勇者たる私の新たなる扉・・
「はむう」(ハッ)
ミトラが持っていた方の塊の素揚げの足に吸い付いてくる食いしん坊アスラ
「ああっだめよ アスラちゃん、私だって~!」
「お嬢ちゃんいい食べっぷりだねえ そうでないとねえ
最近はやけに大漁なんだ どしどし食べていきなあ」
「oh~!イエー!」
賑やかな外野の食通マニアたち
・・
その後はアスラと競い合うようにして
上品な食べ方はその時は特に考えないようして
当初予定していた名物のお魚料理ではなく
もうひとつの隠れた秘蔵寄生虫グルメを一緒に食べ尽くしていたのだった
・・
さらにその後勇者ミトラは
お腹いっぱいで大満足なアスラを連れて
パーティのみんなと合流したのであったが
彼女が大のゲテモノ料理好きとみんなに密かに思われていることは
知る由はなかったのであった




