第81話 招かれる客
(うーん どうしてこうなったのかしら・・)
・・・・
さきほどのハチャメチャな午後の合同講習の後は
今日の授業は終わりだったので
先生やミトラと居残りで後片づけをしていても一応問題はなかった
その後片づけが終わった後のことだ
「はあ・・やっと帰れるわあ」トントン(ノートの角を机の上でそろえる音)
(反省もしたし 今度からは授業が終わったら
なにか先生に呼ばれそうになる前にさっさと帰らないとね)
リズは十分に反省をして
もう時間がたって放課後になって
クラスが解散した後の教室に戻ると 帰り支度を整える
「リズはこれからどこに行くの?」
居残りを一緒にしていたので
その時は一緒にD組の教室まで帰っていた勇者ミトラ
「どこって寮舎までだけど」
(そりゃあ帰るからね)
「わ! じゃあ私たち途中まで一緒ね!」
(な、なんですって~)
勇者ミトラに絡まれてしまうリズ
(極力勇者とは普段は絡まないようにしていたのに~
今日は合同授業のときから調子がくるうわね・・)
(まあいいわ 途中までだしね どうせ今日の腐れ縁よ)
・・・
今日の空中トカゲ争奪戦のことなどを振り返りながら
寮舎への学園の帰り道を一緒に歩いていくミトラと私
「今度は私もうまく運転できると思うのよね」
(トカゲバイクのこと)
「いや ミトラは難しいと思うわ がさつすぎよ あなた」
「え・・でも 運転に関してはリズだって似たようなもんだったじゃないの
ジェットコースターだったわよあれ」
「あれはミトラのめちゃくちゃな出力のせいよ
本当はうまくできるはずだったの
私はただのんびりバイクで空を運転したかったのに・・」
せっかくなので お互いの愚痴を言いながら歩いていく
(まあ こうしてみると勇者ミトラも普通の女の子ね・・
ただ聖魔法とか力がありすぎて注目されちゃって
おかしいことになってるけど)
(あ・・見えてきたわね)
目の前の景色に見え始めたのは
勇者ミトラが下宿しているであろう
遠めでもよくわかる木造のあのボロボロの寮舎である
*(気になった人は「第21話 いい寮とは」からの一連の流れを
読んで思い出しましょう)
勇者ミトラの足取りがそちらの方にいっているのを見ると
(ああ・・まだこんなところに住んでたんだなあ
いい加減あれから他のいいところとかなかったのかな
まあ私には関係ないけどね)
「じゃあ 今日はここまでね じゃあねミトラ 今日はおつかれさま」
(ばいば~い)
そう思って リズは陽気に勇者ミトラを手を振って送り出す
「・・・」
私のあいさつに返事をせず 黙ってなにか考えている様子のミトラ
(ハッ・・! 今日の反省点を早くももう生かす場面が来たわ
ボルティックス先生に感謝ね!)
よからぬ予感にリズはダッシュでその場を去る決意を固めて
その場から走り出そうと・・
がしかし
「(グアシ!)」
(ああ~~!!)
勇者ミトラに軽く手をつかまれるリズ
軽くっていっても それは勇者ミトラにとってはであり
リズをしっかりと捕まえておけるくらいには手に握る力が入っている
「ちょ、ちょっとまってよ 私 今日のお礼がしたいの」
(お、お礼なんていいわよ~ お礼に手を離してくれえ~)
「べ、別にお礼されるようなことはしてないわよ」
「いいじゃない 今日はもう私たち授業も終わってるでしょ
悪いようにはしないわ」
「でも・・!」
「・・・・」
(ぐいぐい・・)
(ああ・・!この子 話を聞いてないわ・・!)
私が何か言おうとすると座った目をして そのまま手をぐいぐい引っ張って
ミトラに引っ張られていく私
「あああ~」
そのまま私はミトラと
そのボロボロの木造寮舎に飲み込まれてしまったのだった
・・・・
勇者ミトラの木造寮舎にて
(どうしてこうなっちゃったのかしら・・)
(しかし相変わらず中身もボロボロね・・
昔ネロと一緒にこの寮の下見に来たときは
もう二度とここには来ないと思っていたんだけど 分からないものね )
よく見ると入り口辺りに多分「風吹き荘」って書いてあった
看板の文字がかすれて消えかけだけどそういう名前だったんだ
中は歩くたびにギイ・・と軋む木の板でできた廊下の床
床に穴が空いて陥没しているところもある
「ごめんなさいね こんなところで 私の後をついてきて」
(ほんとだよ 勘弁してよね)
勇者ミトラはまだ丈夫そうな場所を選んで いびつな経路で進んでいき
私はそれを地雷を回避するように
ミトラの足が踏まれた比較的丈夫な場所を通ってついていく
(普通に歩きたい・・!)
そうして奥の方にあった勇者ミトラの部屋の前までやってくる
「辿り着いたわね・・!」
(辿り着いたってなんだよ・・)
「じゃあ開けるわね よっと!(ぎぎい~~)」
(ひえ~)
今まで何度も繰り返したようにパパっと手慣れた様子で
異様に建て付けの悪い扉を開くミトラ
分かってはいたけど この地点でもう結構帰りたい私
「はいって!」
(・・・)
だが笑顔でそういわれると入らないわけにもいかなくなってしまう
リズは勇者ミトラの部屋に案内されて 仕方なく中に入ったのだった
・・・
「今 お茶を淹れてくるから 部屋で自由にくつろいでて」
「・・・」
そういわれて一番広い部屋に案内されるリズ
そこはたぶん勇者ミトラが普段リビングとして使っているんだと思う
しかし
「(うわあ・・! 畳だあ・・!)」
別に畳が悪いっていうわけじゃない ここの文化で和室と呼ばれるものでも
すごく落ち着きがあって私は好きである
しかし本当にぼろいのである
全面的にささくれ立っていて限度っていうものがあった
さすがにミトラもそのまま直にボロをつかっているわけではないようで
中央の丸い机の下の周りには
小綺麗な女の子らしいカーペットがしいてある
そこはまるで荒れた絶海に浮かぶ孤島のように
そのカーペットの部分が際立っていた
とりあえず私は丸机の周りのカーペット部分に腰を下ろす
(くつろいでっていっても 寝転がったらカーペットの守り範囲から出るから
寝転がるのはやめておこう
はみ出したら服と髪にささくれた畳が刺さりそうよ)
(しっかし この生活感・・)
生活感はすごいものの、全然想像していたよりは悪くない
整頓はきちんと几帳面に行き届いて奇麗にされていて
壁には替えの女子の中等部学園制服などがハンガーから普通に吊るしてあって
学園の教材ノートとかだけが少し散らばっている
(敷布団・・)
丸机の定位置から部屋の隅を見やる
そこにはベッドじゃなくて
白い敷布団が奇麗に折りたたまれて片づけられていて
その上にミトラが普段使っているのだろう枕がポンとひとつのっている
「ガタタ・・」
黙ってじっと待っていると
ボロい和室の部屋の壁のどこかから隙間風の音が聞こえてくる
いやあいくら風吹き荘だからって・・
(何かしらこれ・・)
何気なく見た散らばっている学園の教材に混じって
「 」
リズには見慣れていない本が置いてある
「・・?「勇者になったその日から」?」
(変な題名・・宝くじでも当たったみたいね)
そういえば勇者って特別らしいけど
具体的に何をする人たちなのかしらね
・・
暇だったので その本を手に取ってみてペラりとめくってみると
※一人前の勇者となるために
「・おすすめ!ランクを上げるならこの依頼クエスト!」
「・頼れる仲間とパーティを組みましょう」
「・実力をつけてどんどん勇者ランクをあげましょう」
「・祝福の魔法をマスターしよう!」
「・君は使えるか?!手こずる魔物は封印術で封印だ!」
「・危なくなったら逃げましょう」
「・神秘の力と聖剣を使いこなしましょう」
「・期待に応える民の理想の勇者になりましょう」
とかズラーーっと
いくつかの勇者専用育成カリキュラムの説明が
陽気な命題で細かく記載してあった
(うへえ・・ よくわかんないけど勇者って大変なんだなあ)
(適当に見た「・危なくなったら逃げましょう」とかの項目だと
あなたの助成に国からXXXXXXXバキューン金かかっています
あなたの他にも勇者はいます
無謀はよして作戦から立て直しましょう、とか世知辛いことが書いてある)
(ガラ・・)
そこに勇者ミトラが お盆を手にもって戻ってくる
「あ、それ興味あった?
勇者に選ばれたら聖ソウル法典の本部から配られる本なんだけど」
「いや 暇だったから見てただけよ」
「そう」
(コトリ・・)
丸い机の上にお盆から淹れてきたばかりのお茶と
軽くお煎餅やお饅頭が盛られたお皿が置かれる
出されたお茶はけっこう熱々だった
(魔法でも使ったのかしら・・
そういえば魔法のことも・・
祝福の魔法ってかいてあったわね この本・・)
祝福魔法については学園では主に高等部から履修が可能になるため
中等部の地点ではあまり詳しい記載のある教本とかは見た覚えがないので
ちょっと気になっていた
「そういえばミトラって 祝福の恩恵付与の魔法って使えるの?」
「ん?私はまだそういう高度な魔法は使えないわ・・
聖属性の魔法なら私ならたぶんいけるかもしれないけど
まだ時期じゃないかなって・・」
(ふーん まだ使えないんだ
側近のあの賢者リードは使ってたから もしかしてとは思ったけど)
・・
「(ボリポリ・・)」「(はむはむ・・)」
「(ズズウ・・)」
2人して向かい合い お煎餅とお饅頭を片手にときどき熱いお茶をすすりつつ
だべりながらのお話タイムが始まる
このぼろい部屋の空間の感じも相まって
一見は見た目だけは貴族のように上品な2人だが
全然ケーキと紅茶で貴族のような優雅なガールズトークとかではない
「そういえば・・祝福の魔法ってどうやって使うの?
祝福モードっていうのがあるのは知ってるけど」
(上位の魔法ぽいから難しいと思うけど
将来もし使えるなら使い方くらいは知ってみたいものね )
けっこう前にクリスフォード家の屋敷の庭で
お兄様の祝福魔法を見せてもらったことがあったけど
その時はイヴの腕がざわついて
魔法の使い方とかそんなの頭の中になかったのだった
・・
そのリズの気まぐれな疑問に勇者ミトラなりに教えてくれる
「使ってみたいの?
うーん 説明が難しいけど まず準備段階のモードっていうのは
結界魔法の一種なんだって それでその祝福のモードにうまく入れたら
この世界の力の恩恵が受けられるようになって
そこからの魔法は詠唱自体はほぼ一緒なんだけど
その祝福とつながりながら一緒に魔法を唱えるみたいで難しいんだって
なかなか繊細な魔法みたいで
魔法の腕が未熟だと恩恵はうまく引き出せないし
かといって
魔法の腕があっても自分流で魔法の術式を近代風に細かく改造していたら
それも極端に威力が下がっちゃうみたい
祝福モードの起動も維持も難しいし
それをしたうえで詠唱も完璧にしないといけないからすごく難しいんだけど
それをふまえても まず適性が大きいみたいよ」
「適性・・?」
「この世界に愛されてるかどうか・・らしいわよ
聖ソウル法典の教えによるとだけどね
祝福の魔法が使いたくて魔法を極めたし祝福モードも起動したけど
肝心の祝福にそっぽをむかれて
祝福魔法を使えなかった過去の英雄とかもいるみたい
でも魔法が極まってれば だいたいの人にちゃんと適性はあるみたいよ
その魔法が極まるところまでいく人自体がほんの一握りなんだけど」
(ふーん 適性かあ・・ただ魔法が使えるだけじゃだめなんだ
聖ソウル法典の教え・・
私ってこの世界に愛されてるのかしらね・・?
向こうの世界と掛け持ちなんだけど・・)
「へえ ミトラは博識なのね」
「リズも魔法科専攻なら高等部に上がればそのうち習うことよ
それに私はその本の受け売りだけどね
で 肝心のどうやって使うのかっていうと
準備段階の祝福のモードだと確か、こうやってえ・・」
そういうとミトラは一旦手に持っていた煎餅を急いで口の中に放り込むと
両手の手のひらを向かい合わせて
「祝福モード起動・・」とかいいながら うんうん力を入れ始める
(なにこれ 結界魔法の一種っていってたわね
ミトラの今の魔力の流れで言うと
そういう感じで結界みたいに転換していくのね)
「ガタ・・ガタガタガタ!!」
ミトラが結界のようなものに意識を集中すると大きな力がかかって
部屋の窓枠が激しく揺れ始める
丸机の上のお茶がこぼれそうだ
「あ・・!いいから 実演はしなくていいから
流れはなんとなくわかったわ ありがとう」
「あら そう・・?」
(シュウウン・・)
ミトラの魔力が収まっていく ガタガタ揺れていた窓も収まった
(ほっ・・)
(危ない危ない こんなところで勇者ミトラの祝福魔法なんて
間違っても発動しちゃったら このボロ寮舎ごと吹き飛んじゃうわ)
・・
少し落ち着いたところで
ついさっき最初ら辺に少し気になっていたことを聞く
「そういえばミトラは勇者だけど
勇者って普段何してる人たちなの?」
「え・・、
それは・・
そうねえ 私はまだ修行中の身だから普通にこの学園で過ごしてるだけだけど
修練して一人前になった勇者になると
やっぱりその・・手配された危険な魔物とかを狩ったりして
ダンジョンや地域を安定させる・・とかそんな活動をしたりするのよ」
「ふーん・・そうなんだ
でもそれって高ランクの冒険者の人たちとも同じじゃないの?」
チラッとそんな話を界隈で聞いたことがある
「う・・、まあそうね
今はだいぶ世の中が平和な方だから・・
地方によっては勇者にもそういうお仕事くらいしか回ってないみたいね
だから名声が足りなくてあぶれたら巡業というか・・
商店の武器のアピールとか宣伝をしながらダンジョン巡りをしたり
ファッションモデルも兼任して稼いでいる勇者の人もいるわ」
「ええ・・なんかちょっとイメージと違うわね
こうなんというか世界の平和を乱す魔王を倒します・・!
みたいな悪を絶対許さない戦闘のプロみたいな人たちかと思っていたわ」
リズの独自のイメージは
ゲームをしていたリズの世界の人気のない冒険ゲームの勇者のイメージだ
世界を冒険して悪を倒していくゲームの勇者とは違って
この世界の勇者たちはもっと魔法使い寄りって感じだ
「魔王・・?
たしかに大昔の勇者は
そういう危険な魔物の王と戦っていた人たちみたいだけど
古代の魔王はもうとっくの過去に大英雄たちによって滅ぼされちゃってるから・・
リズも知ってるでしょ?」
「まあね・・、でももう戦う魔王はいなくなったのに
今も勇者の方はせっせと生まれ続けてるのね
飽和しちゃってるから勇者もそういうスタンスになっちゃうのね」
「うっ・・、まあ時代よね・・」
あんまり思わしくないらしい勇者事情
(ミトラもこのまま勇者としてパッとしなかったら
やたら高価な怪しい武器を売りながらドサ回りとかするのかなあ)とか思う
・・
「そういえばミトラってなんで勇者なんてやってるの?
他にも世界に勇者はいるし
この本を見てても すんごいめんどくさそうだし
魔王とかじゃなくても魔物相手でも戦っていくなんて普通に危ないわよね
両親とかに何か言われなかったの?」
「えー・・
うーん 勇者に選ばれるって世間だとけっこう名誉なことなんだけどなあ
でもそういう考えもあるわよね
私は貴族の生まれだけど もう家が廃嫡寸前まで没落しかかってたから
私に勇者の適性があったってわかったときは
私の親はそれはもう喜ぶだけだったわ
勇者は勇者として活動しているかぎり国から支援や補助金がでるから・・
それで一時的に家はまた存続はできてるけど
そしたらまた親が散財するようになっちゃったし
私は上の兄弟にほとんど魔法の才能がないし
それまでは才能が分からなくて 今まで小馬鹿にしてた末の妹の私がこれだから
兄さんたちは私に家の継承権とかを取られて
追い出されるんじゃないかって勝手に思ってるの
・・ 」
・・
(ミトラは少し思い返す)
私に勇者の力があると分かって
聖ソウル法典の全面的な援助を受けて
勇者としての修行を積むために故郷のネスライト家を出る少し前
・・
私の少し上の兄さんたちには以前の日頃から馬鹿にされていたし
もうすでに恨まれていた
だけどこの家で他の兄弟より魔法の才があった一番上の兄さんだけは
他の兄弟が才能に恵まれずひねくれてしまってもしっかりと勉強をしていたし
私にも唯一優しくしてくれた
だから一言だけでも伝えてからこの家を出ようと思っていた
だけど
私がその一番上の兄さんの部屋の前にそっと密かに行った時
少し開いていたその扉の向こう側
頭を抱えたように机に突っ伏した兄の背中だけが見えていて
その言葉は聞こえてきたのだった
・・
「 あいつが・・
俺が継ぐはずだった力を奪っていったんだ・・・ 」
(・・・!)
私にはこの家にもう居場所も
戻る場所もないんだなって
そう思ったんだ
・・
「・・ミトラ?」
「ああ、うん なんでもないわ
それで親からはお金をたかられて 兄さん達からは妬まれてて
もう全然 私はネスライト家では将来ふさがれてるのよ
私が勇者やってるのはこうなった以上
もう勇者をやるしかなかったっていうのもあるけど
勇者をやって そこそこのランクになって
なんとか私の将来の道筋を立てて
あの家から出て行って一人で生きていけるようにしたかったの 」
・・
そんな勇者ミトラの話を聞いていたリズ
(・・・)
「あら・・なんかごめんなさいね そんな事情があったなんて」
(あら 思ってたよりかなり重い・・変なとこつついちゃったわね
でも全世界の平和のため・・!とか言い出されても
それはそれで困ったからよかったわ)
「いいの 私もこんなこと誰にもいえないから苦しかったの」
「・・・・」
「それにね 私は聖魔法は好きでやってるからいいの
国の支援でこの聖セントラル中央魔法学園に通って
魔法の指導を受けられて
好きな聖魔法をいろいろ試せて上達できるなんて勇者さまさまよ
私は自分に勇者の素質があってよかったわ」
そういってもう特に気にした様子もなくケロッとして
手はお皿の次の煎餅に移行している勇者ミトラ
(ふーん 彼女なりにいろいろあったのね)
「聖魔法っていうけど なんなの? 勇者の魔法使いがよく持ってるって聞くけど
それが勇者の特権みたいなもの?」
「聖属性の魔法自体は勇者でなくても適性を持ってる人もいるわ
首都からきたステラやローラって人がそうだったでしょ
でも勇者はなぜか突出して聖属性の適性が高いことが多いわね
逆に聖属性の適性が高いと勇者になりやすいのかしら・・
勇者の特権っていったら それは勇者の聖剣、とかかしらね
その聖剣の力と親和性を持っているのが勇者の選考基準に大きく関わるの
あっ、あとたぶん安定化の力や封印術の力なんかもそうね」
「聖剣ね・・たしか本に書いてあったわね ミトラも使えるの?」
「もちろん使えるわよ
私は勇者だもの」
そういうとミトラは手を広げ始め・・
「いや! いいから ここではいいから!!」
(ここで聖剣なんて出されたらすべては吹き飛ぶわ)
焦る私
「フフフ・・わかってるわ 心配しないで 調整するから」
ミトラは腕を広げたところから
胸の前に戻して手を少しちょこんと前にさしだすと
「ポウ・・」
と小さく光をだした
ミトラの重ねた手のひらの上には つまようじくらいの小さな剣?があった
(ちっさ!)
「え・・これも聖剣なの?」
「そうよ 調整で今は小さいけど れっきとした呼び出した聖剣よ
魔法剣みたいに扱うのよ
私は剣の扱いがいまいち得意じゃないから普段はなかなか使わないんだけど」
「へえ・・かわいい剣ね 持ってみていい?」
「いいわよ あ・・でも・・」
ミトラがなにか言う前に
リズはミトラの手のひらの上の
小さい聖剣の取っ手の方をつまもうとすると
「バッチイイイ!!!」
「うわあ!」
激しい魔力の拒否反応が出て爆発してしまい 聖剣はフッと消えてしまった
(しまった・・!そういえば私たちの相性は最悪だった・・!)
「これも魔力の相性が悪かったのかしら・・?」
「そうね・・、 だけど聖剣は元々認めた勇者の所有者にしか持てないの
だからどのみちリズは私の聖剣を持つことはできなかったと思うわ」
(あら残念・・)
「ふーん だから勇者の特権なのね」
「そういうこと」
「じゃあ 首都からきてた勇者アギトも聖剣を出せるの?」
「出せるはずね それも実績ありっていう話だから
かなり高レベルの聖剣が出せるのかもしれないわ
それか剣捌きとかの力の扱いがうまいとか・・
私は持ってないけど
もっと聖剣メインで活動する勇者は
普段から実体のある特別な聖剣をきちんと持っているわ
まあ実体のある聖剣はもう今の技術じゃ作れなくてとても貴重だから
自分のものじゃなくて基本的に法典からの貸付だし
ランクの高い勇者でないと持たせてもらえないんだけど・・」
(・・・)
(ふーん ってことはよく巷で売ってる勇者の絵本で
勇者が高々と自慢げに持ってる剣とかって実はレンタル品なんだ
なんだかなあ)
「聖剣があると何かいいことがあるの?」
「高レベルの魔法の聖剣が出せるなら
聖ソウル法典の勇者ランクの評価にもなるわね
だけど扱えると普通に便利なのよ
だいたいの魔物にとって勇者の聖剣は弱点だから
この辺のダンジョンの魔物くらいなら一振りでけりがつくわ」
「へえーそうなのね」
「でも聖剣をダンジョンで使っちゃうと
だいたい素材は粒子になって消えるか相当傷ついちゃうから
素材を取る依頼なら使い分けないといけないけどね」
(ふーん・・)
勇者のダンジョン豆知識を知る
「じゃあもう一つの封印術っていうのは?
そっちの方も本にチラッとかいてあったわね」
「封印術は・・大昔に世界には
今の英雄レベルの人たちよりも 遥かに力の強い大英雄がいたっていうのは
リズも魔法史の授業で知ってるわよね」
「うん 知ってるわ 昔の建国伝で
この国の名前の由来にもなった人でしょ」
「そう その人は大英雄で伝説の魔法使いメリクアドラね
でも他にも大英雄はいたのよ
風の大導守ガルフウィンフィとか 刻冥王ウラピコとか
一番力を持っていた刻冥王ウラピコは世界の史実でも有名だけど
魔法使いメリクアドラもよくその対に語られていて
本気を出した刻冥王ウラピコに唯一対抗できたといわれているくらい
とってもすごい魔法使いだったのよ・・!
魔法使いメリクアドラと刻冥王ウラピコは
どちらも女神っていわれている大英雄だったんだけど
お互いにすごく仲が悪くてよく争うから
大海が荒れて人々が交易ができなくなって困り果ててしまって
助けを求められた大導守ガルフウィンフィや
他の英雄たちが仲裁してようやく鎮まったとか
伝承の大英雄たちは基本的によく崇め称えられてるけど
星が見たくて空を割ったとか 魚が欲しくて湖を丸々飲み干したとか
そもそも性格が普通じゃなくて
困った癖のある変な人たちも多くて世界の各地の地域で
よく民話レベルの逸話とかが残ってるわね
・・
それでようやくなんだけど
大英雄の力っていうのは
大英雄たちがある時 今の世界からどこかに去って時間がたって
この世界からは消えてしまったんだけど
勇者として目覚めるのは実はその大英雄の末裔だっていわれてるの
私の家系はね、そのメリクアドラの血統の遠い子孫なの
一部の勇者だけが扱える技は伝承が今も残ってて
勇者になった適性のある人間にその技が伝えられるのよ
それが「封印術」 力の強い魔物を封印する力よ
滅多に使うことはないけど 私も知識として習ったし実際に使えるわ」
(へえ・・道理でミトラは大英雄の話でも
魔法使いメリクアドラの説明の時はやたら熱が入ってたのね)
「で、その封印術はね こう模様を描くように・・」
とそういうと勇者ミトラは・・
(コオ・・)
「あっ、実演はしなくていいわ」
物凄い光を見て 即実演キャンセルをかけるリズ
「あ、そう・・」(シュン)
ちょっと残念そうなミトラ
「へえ・・ミトラはあの大英雄の末裔なのね すごいわね
だから勇者だし封印術も使えるのね」
「うふふ・・、そうなの
だけど封印術は勇者でもあまり使える人は少ないから
実際はよくわからないのよね
封印術ができたっていうのも誰も知らない大昔のことだし・・」
「その大昔の大英雄がいた時代って、どれくらい昔なのかしらね」
「さあ・・おじいちゃんの そのまたおじいちゃんの・・
20~30代くらい前じゃないかしら・・」
(20~30代って・・大雑把ねえ)
「ええ・・でもそんなに前だと・・
なにかしら先祖にみんなその大英雄の血って流れてるんじゃないかしら
勇者だけじゃなくて その辺のみんな英雄の末裔なんじゃないの?」
「そこは・・貴族の血の濃さ、とかじゃない・・?
自信はないけど・・
ああそっかあ・・、それだとみんなもちょっとはあるのかも・・
私が選ばれし末裔なのかもしれないって
ちょっと誇りに思ってたんだけどなあ・・」
・・・
その後もリズがいろいろ知りたかったことを
魔法関連で質問攻めにしたけど
勇者ミトラは全然嫌なそぶりもせずに 知っていることは答えてくれた
(ただ知識がおおざっぱだったけど)
・・・・
私から聞いてばかりも悪かったので受けに回ると
ミトラもいろいろお話したかったらしくて 嬉しそうにしていた
私たちのおしゃべりは続いていく
・・・
「武闘大会の優勝は祝ってもらえたけど・・
ほんとは私も大会で ちゃんとリズと戦いたかったのよ」
「なにいってるの勘弁してよ 勇者相手なんてごめんよ」
・・・
・・
「へえ~ 大会に出てたあの使い魔の子 アスラちゃんっていうのね
それも最初のあの時のスライムの子だったなんてすごいわ
それにそのリズのテイマーの腕輪もいい感じになったのね」
「わかる?そうなのよ~」
腕輪のことを褒められて満更でもない私
・・・
・・
「もう~なんなのよ あの試練のダンジョン・・
勇者である私がいじめられるなんて、、
あの竜はきっと勇者をいじめて楽しんでいるんだわ・・」
「え!あの竜に限ってそんなことはないはずよ
ミトラ あのダンジョンはね
勇気も試すけど人の知恵も試してるみたいなの
あの見た目であの竜たちは攻撃力はそんなにもってないのよ
だからしっかり考えて対策して・・」
「そ、そうかしら・・! じゃあそれなら次こそ!は~・・」
・・・・ ・・・
・・・
なんだかんだミトラといろいろ話し込んでしまった
すすっていたお茶も途中からすっかりなくなってしまった
「いけないわ そろそろ帰らないと・・」
「あら けっこう時間たってたわね」
・・
(パンパン)不可抗力でついてしまった畳のささくれを落とす音
荒れてささくれた畳の部屋に浮かぶカーペットの孤島から
帰り支度をする
「リズ、今日はありがとうね お礼っていってたけど
全然なにも思い浮かべてなかったわ」
「いいわ けっこう魔法のこととか知れたし為になったわ」
(ギギイ~~)
建付けの悪いミトラの部屋の玄関扉を開けて
リズは部屋を出ていく
(一時はどうなる事かと思ったけど
普通におしゃべりして楽しかったわね
まあここもボロだけどそんなに悪くは・・)
「あっ!リズ もう1個大事なこというの忘れてたわ!」
部屋の扉からひょいと顔をだすミトラ
(え・・大事なこと・・?)
ミトラの声に反応して リズが振り返って床を一歩横にずれた瞬間
「ばきい!」
「(ズボオ!)」
(ぬああああ!!)
廊下の床の木の板が突き抜けてリズの片足が穴にはまり込む
「・・・」
「あ・・そこ通るときは中央の比較的新しい一点を一歩で素早くいくか
ジャンプしないと床板が腐ってて抜けるかもって・・」
・・・・
・・
「ごめんね・・」
「もう・・早く言ってよ・・」
(やっぱボロってだめだわ)
「(ぐいぐい・・)」
救助にやってきたミトラに引き上げてもらう
その後は
安全ポイントを知り尽くした猫のようにピンと姿勢のいいミトラの
先行する足さばきの後をピッタリついていって寮舎の出口までやってくる
(もうせっかくだから言わせてもらうわよ)
「ミトラあなたね いい加減こんなところ・・」
「リズ・・ごめんね 私いつも奇麗にお部屋を片づけてたけど
こんなボロだから勇気出して今までお友達とか呼べなかったの・・
呼んだのはリズがはじめてだったの
だからしっかりしたかったんだけど・・」
シュン・・となっているミトラ
(うっ・・!)
説教をしようと思ったけど これ以上は言えなくなってしまったリズ
「・・まあいいわ あなたは悪くないもの
でも今度話すときはここじゃなくて私の寮舎にしましょ
ちゃんとした寮選びの参考になるわ」
「え・・!いいの・・!やったあ!」
(ぐあし!)
(ぬあああ!!)
「ありがとう リズ!」
寄ってきてすごい力で抱き着いてくる勇者ミトラ
(ああ・・!やっぱり私たちって相性最悪よ・・!!)
・・・・
その後
勇者ミトラに揉みくちゃにされて疲れたので
はじめは自分の寮舎に帰る予定だったけど
私の寮舎ではなく近かった風車の家にいって
「おかえり~リズ」
「おかえりず」(ひっくり返ったアスラ)
この状態のアスラに上から手でふっくらお腹を触りにいくと
本能で手と足をはっし!してきて簡単に釣れるんだけども
(はっし)
リビングのカーペットでだべっていた、
だらしのないスライムたち一覧の中から
水色の分かりやすいミスラを探し出して適当に捕まえる
捕獲したミスラには
即席で丁度良い小さいコンパクトな形態になってもらって
「ふう・・」
私のおでこの上にのせて そこで引き続きだべってもらい
私もソファーであおむけに寝転がってだべる
「だらしがないねえリズ」
今までだらだらしていたであろう頭上のミスラから言われる
「いいわ 今はなんとでも・・」
(はあ~ 冷たい)
リズはミスラの冷たさでゆっくり今日の疲れを癒すのであった




