第77話 学園の監査
「それは聞いておりませんな」
聖セントラル中央魔法学園の中枢にあって
最も厳格な場所の一つであるここは
この学園のトップであり学長であるゼキスバード学長の執務室であった
魔法の調度品や装飾で質素によく整えられた、
中央の大きな応接用の仕事机にかまえて
モサモサの白髭を携えてゆったり座っているのはゼキスバード学長その人であり
その横には氷魔法の権威であるグフタフ・アーマード魔法教授が立ち
学長を補佐していて冷たい笑みを浮かべている
その部屋は今は来客の姿で騒がしくあった
・・・
「ですから この度の不祥事に関して
この学園に国から監査団を派遣させていただくというのです」
学長らが応対しているのは
国から派遣されたという国家魔法指導師の役員たちである
(・・・)
「不祥事・・というのは
この度の祭事及びセントラルド武闘大会のことですかな
あれは確かに不手際ではありましたが
警備の体制はあなた方にも一任していたはずで
そもそも「大滅の日」前後に起こった異変を受けて
前日の星誕祭の日程から今期の大会を取り止めとした判断を尊重し
我々学園の運営は今期における大会は延期ではなく行わない予定でした
今回延期開催の決定を下し大会を行ったことは
あなたがたの直接の意向でありましたが・・」
補佐をするアーマード魔法教授は困ったように弁明する
ゼキスバード学長は口を閉ざしたまま黙ってその様子を眺めている
それに憤った様子で貴族のような役員の一人が
「何ですかな 我々の責任であるとでも?
主催したのはあなたがたこの学園ですぞ それは最終的に
あなたがたゼキスバード学長ら学園上層の判断によって行われたはずだ
途中でいなくなったとはいえ あなたが出席しておきながら
あれほどの騒ぎを起こしてだんまりで済むとでも思っていたのですかな
・・
祭事は民の祈りを捧げ納める場
それをきちんと遂行できることは我が国として大きな意味を持つこと
延期してでも再開催の意思を示すことは当然の判断です
それを
二度にわたって大会が中断に追い込まれたばかりか
よりにもよって法典の目であるメサイヤ司祭長殿の前で
あのようなことが起こっては法典の顔にも泥を塗りたくられたようなもの
国を代表する貴族や聖ソウル法典の来賓方が危機にさらされたことが
どれほど重大か、よくお分かりでないようですな
何者かの襲撃時に来賓席が突然暗闇になり
隔離されて周りの視界と音が全く分からなくなったと聞きましたぞ
全く事前の説明もなかったと」
「どういうことなんだね?」
「あれは・・その 万が一の場合に備えて来賓方を保護するために
法典の方々には事前通知する前に即時起動していた結界魔法の内部機能でして
その点は正常に作用していたものと
あのような襲撃の最中にあって来賓の方々全員が御無事で何よりでした」
「・・まあそうですな そういうことにしておきましょう
ただこちらとしても責任者の処分もせず この程度の監査で手をうつのは
極めて穏情な方だと思いますがね
よいですか 貴族の子息も多く預かるこの学園は
常に最高レベルの安全、安心 諸々の信用の上で
成り立っていることをお忘れなく」
それに珍しく苦い表情を隠さずにまた応対するアーマード魔法教授
「そもそも学長が途中で欠席なされたのは
首都の法典側から直前に通告された会合がですなあ・・」
(スっ・・)
「ふむ・・わかった 国の監査を受ければよいのだね」
補佐をするアーマード魔法教授の話を手で静止して一度遮り
白髭をいじりながら応じるゼキスバード学長
「学長・・よろしいのですか」
「(ふむ・・この者たちは国の意向を伝えに来ただけだ
ここでワシらがなにかいっても何も変わらん
それに監査はしたという口実が欲しいのだろう
上層部を黙らせるためにも)」
「(そうだな・・)」
部屋の中の学長ら2人は隠密魔法で密かなやり取りをする
・・・
「では決定事項ということで 持ち帰らせていただきます
監査の内容に関しては日を追って
近いうちにまた人員を派遣させていただきますぞ」
(ドタドタ・・)
慌ただしく部屋を後にする国家魔法指導師の役員たち
「ふむ・・ひとまず法典の目は躱せたか・・ だが困ったことにならねばいいが 」
役員たちが去り、
静かになった部屋でゼキスバード学長はつぶやくのだった
・・・・・
・・
「え、首都から この学園に学生が国内留学にくるんですか?」
「そうなんだよ上の先輩が言ってたんだ 監査だから事情が特殊なんだけど
高等部にもそういう名目で監督生としてくるんだってさ
短期だから・・留学というよりは交流会に近いかもしれないね」
テイマーサークルの事務所で
用意された椅子に座りながらアーノルド先輩と話しているリズ
この事務所のような部室は託児所?ってわけじゃないけど
室内だけじゃなくて放牧場も併設されているので
テイマーの学生が授業に連れていけない時などに
使い魔を預けることができるそうで
今日はアーノルド先輩とフクロウの使い魔のフウロが一緒にいた
「ぎゃーす!」「ああ~うまくいかないよ~」
(うわあ・・)
部屋の奥には暴れる使い魔とテイマーの多分、
交信術の魔法にチャレンジしている苦学生もいるけど
うまくいっていない様子
(あの術は・・結構むずかしいよね)
アーノルド先輩と私が話をしている間に 別の部屋の向こう側では
リサ先輩に私が今日は連れてきたアスラが捕まっていて
「ああ~ん アスラちゃん・・」
(むぎゅ・・)
スキンシップ?をとっている
(あんまり預ける気ではなかったけど 今日は預かっていてもらおうかなあ)
アスラを預かってもらえるかその場で先輩に聞いてみると
「ああ構わないよ リサも喜ぶだろう」
リズに置いて行かれるとはつゆも知らないアスラが
リサ先輩に抱き枕にされている
・・・・
アスラを預かってもらってリズは自分の教室にいる
リズはセントラルド武闘大会で少しクラスで有名人になったので
はじめはいろいろはやし立てられていたけど最近は落ち着いてきた
その時にクラスメイトの勇者ミトラにも声をかけられて
どうも私のことで心配されていたようだ
「大丈夫よ ミトラこそ大会優勝おめでとう」って返しておいたけど
「そ、そう ありがとう・・」
「・・?」
どこか煮え切らない反応だった
・・・・
今日は担任のルージュ・ライアルド・如月先生が
ちょうど噂の監査のことで
教室で私たちクラスメイトに向けて話をしている
・・
「中等部でも首都の学校から選抜された監督生がくることになったから
みな気を引き締めるんだぞ クラスは分けられているが
ここのクラスは勇者ミトラがいるから当然よく見られることになる
それに向こうもそれを考慮して「勇者」を監督生として混ぜてきている
最近力をつけてきていて頭角を現してきたそうだ
参考になることも多いだろう
向こうはまさに学生の手本となる存在としてやってくる
一週間後だ みな失礼がないようにな」
「ええ すげえ勇者がくるのか」
「首都の勇者かあ・・楽しみ~」
(・・・)
「勇者、ね・・」
(へえ・・中等部でもくるのね・・しかも勇者って
比べられてうちの勇者は大変ね)
でも特に関わることはないだろうと思って他人事なリズ
・・・・
その日の授業も終えて
なぜかちょっと不機嫌になっていたアスラをテイマーサークルから引き取って
風車の家にいくとネロがご飯の準備をしていて
自然とここでも学園にくる監督生の話になる
「へえ ネロがいる初等部でも監督生がくるのね」
「そうだね どんな子がくるんだろうなあ
全部の学年でくるみたいだし大掛かりだよね、 一週間後かあ
先生の指導法もよくチェックされて
学園の警備体制や防衛設備なんかも見られるらしいね
大会の影響の監査らしいからそっちがメインなんだと思うけどね」
「ふーん
でもどういう風になるのかしら 共同講義とか特別実習かしらね」
「そうかもね いつもとはまた違う感じになるのかも
それにしても生徒のお手本なんて大変そうだよね」
「そうね まあ私には関係ないけどね
多分うちは勇者関連ばっかりっていう話だから 勇者の彼女に任せておくわ」
「そうなんだ」
この時はまだリズは気楽に考えていた
・・・・
そして一週間と少しの時が経ち
短期留学の形で首都から派遣された監督生たちや監査員の人たちが
徐々に聖セントラル中央魔法学園にやってきて
学園都市の構内は少しにぎやかになっていた
・・
「キャッキャ、ウフフ・・」
(あ・・、あれは見慣れない制服ね
監督生の人、かしら・・?っていうことはもう一週間たったのかあ・・
あの子は小さいから初等部に来た子かもしれないわね)
学園の道を歩いていると たまにそういった見慣れない格好の人を見かけて
一週間の時の流れを感じるリズ
・・・
(ワイワイ・・ガヤガヤ・・)
すると先の方にひときわ騒ぎの大きい人の集まりができている場所があった
「(ん?なにかしら?あれ・・)」
その集まりの中心は移動しているようでだんだん今いる道に沿って
リズに近い方向に近づいてきていた
「見えるかしら・・」
特に自分から進んで見に行く気はなかったけど あっちの方から来るのなら
見てみようかなと思う気持ちがわいてくる
人だかりが近づいてくるとグループは微妙に2手に分かれていて
最初のグループがやってきたのが見え始める
(まあ・・奇麗な子たちね あれは例の留学生ね)
・・・
「ちょっとどいてくれる? 前が見えないの」
そういったのは大きな杖を持った、
白に紫のラインのまじった魔法のローブを着た
エルフのような見た目の奇麗系の女学生と
「やっほー」
これも大きな金属の棒のようで角ばった雰囲気の杖をもった、
こっちは白にオレンジのラインが若干はいった魔法のロープを着ている
小さめでかわいい系の女の子
「俺が学園を案内します!」「俺がしますよ!」
どちらも容姿が端麗で女子学生2人に集まる人だかりはよく見ると
浮かれた男子学生の姿が多かった
その様子を見てリズは
(まあ・・嫌になるわねえ 節操を持ちなさいよね
いきなり監査の減点対象になりそうじゃないの)
ちょっと思う
続いて後ろの人だかりが見えてくる
(ひとり・・?)
近づいてきたその人だかりは 前の女子学生2人の集団よりも大きかった
その中心には
「(これは・・?)」
聖属性をまとった白の立派な被り物をしていて
大きな杖が目の前で浮いていて
最初の女学生と似たような白に紫のロープをしている
だけど体格は完全に男子学生であった
「カパ・・」
その立派な被り物を不意に脱ぎ去るその集団の中心の人物
「(へえ・・)」
その被り物の下からは癖のある長めの黒髪が
眉にかかっていて 覗き見えた甘い眼差しの目にも少しかかっていた
肌の色は少し濃いめで勇者ミトラに似た金色の輪っかが額に見えていて
その表情はちょっと困ったかんじを出していたんだけど すごく整っていて
その男子学生はいわゆるイケメンという部類の顔つきをしていた
「きゃ~」 「かっこいい~」 「勇者さまこっちよ~」
被り物を取った途端に沸き上がる黄色い歓声
よく見るとその人物の囲いのグループはキャピキャピしている女学生が多かった
「ちょっと君たちやめてよ
僕たちは道案内だけ頼んだだけじゃないか」
そのイケメン男子学生は女学生たちに囲まれて困っているようだった
(ふーん 顔がいいと大変そうね・・
そして ああこっちもなのね 節操が・・まあもういいわ)
リズはもう監査とかどうにでもなってくれという気分になってきた
「・・・」
(ていうか勇者様って聞こえたわね ということはこのイケメン君が
首都から派遣されたっていう勇者とそのグループ・・なのかしら)
(最初はあの見た目の恰好だったから勇者っていうよりは
賢者か魔法使いってかんじだったけど
勇者なのね うちの勇者みたいに魔法偏向なのかしら
男の勇者って剣を使ってそうなイメージがあったけど分からないものね)
(・・まあ 関係ないけどね 私は大人しく監査期間はやり過ごしましょ)
この人だかりを見て
彼らと関わると留学期間は大変なことになりそうだなあと思ったので
リズは大人しくしておく決心をする
(どうせこの人たちも勇者ミトラにしか用はないはずだわ)
リズは颯爽と淡い色の髪をたなびかせて
その人だかりを後にする
もうその集団には背を向けて歩きだしていたので
リズは気が付かない
・・・
「・・・・!」
その勇者はそのリズの後ろ姿を少し振り返って見ていた
「きゃ~ 勇者さまが私を見たわ~」「私をみたのよ!」「きいい」
「こっちも見て勇者アギト様~」
(・・・)
そのアギトと呼ばれたその勇者は小さくつぶやく
「 (・・お前は俺のことは知らないかもしれないが
だが俺はお前のことを知っているんだな
・・リズ
だが 今はまだ力をためないとな・・) 」
勇者はすぐに進行方向に向き直ると何事もなかったように進んでいく
だがその顔には不敵な笑みが一瞬だけ浮かんでいた
「!・・あれ今一瞬意識が・・どうしちゃったんだろう僕」
勇者アギトはハッとしたような顔になる
「(また彼のせいかな・・まあいいさ
もうすぐ「聖剣」とはお別れだしね)」
・・
その日に首都から留学にやってきた勇者アギト一行が
無事セントラルに到着したと学園の本部に伝達されたのであった




