第71話 もうひとり
・・
その言葉を聞いても よくわからなくてリズは脳が混乱していた
「クルード・アドバンスト・・?
でもさっきクルードは処刑されたって・・
それで組織の施設でコールドスリープされて・・」
ネロに似た小さい男の子は
リズに諭すように答える
「そう でもそれはもうひとりの存在なんだ
君たちをここに連れてくるようにいったのはクルード・アドバンスト
そして処刑されたのが この世界のクルード
どちらにも重なってる分かれた存在がある人っていうのは特殊なんだけどね
でも君だって向こうにいるんでしょ?
ただクルードは敵の送転門の罠によって受けた爪痕の傷で
戦いの運命から逃れられなくなって敵からも逃れられなくなっていたから
向こう側の世界のクルードも
あの時 同時に怪人カーニバル・ジャッジが放った仕手によって炙り出されて
ただでは済まなかった だからあんまり今は動けないんだ」
「もうひとりの存在・・わたしと同じ・・」
それがもうひとりのクルード・・?
(怪人カーニバル・ジャッジ・・
さっきのおかしな対戦でも見たけど・・
あの時の武闘大会で現れた怪物が私に向けてきた、あの強制直接対戦要求の光も
確かに同じものだった・・)
「そういえばあの「カーニバル・ジャッジ」って何者なの?
私のことも・・狙ってるの・・?
ただのオリジンプレイヤーじゃない気はしてるけど・・」
「表のシティで出てた情報のことは君たちも知っているだろうから
僕の力で読み込めたもっと裏側のことを話すね
カーニバル・ジャッジは・・
その手段は定かではないけど超次元的な手法で自身の肉体を魔改造して
「脳の力」の一部においてオリジンの怪人たちと同等、もしくは
それ以上の超越的な肉体強度にまで高めることに成功した男なんだ
その超人的な脳の肉体強度で
人間にはまだ誰もフルスペックでの装着不可能といわれていた
究極型強化電子マシーンへの肉体での常態アクセスに成功して
そこから特別なネットワークを繋いで
向こうの世界の「楽園」にも間接的に干渉してコンタクトを取ることができるんだ
それで今の楽園にある世界の根幹システムの重要な動向を掌握したり
自分でかき集めた古いシステムの欠片の一部を動かしたりして
力をつけているんだ」
「え・・!まってどういうこと・・?
あの怪人みたいな人が超絶的な脳筋だったってところだけは
かろうじて理解できたけど
そこに楽園とかシステムとか
そもそもそれってこっちの世界とは違うものの話なんじゃないの・・?
そんなネットで簡単みたいに繋がっちゃって・・」
「繋がることは簡単じゃないよ けど
この世界と向こうの世界は
類似した因果が重なり合っているから果てしなく遠くにあっても
その重なり合う周期の時だけは
そこに近づいていくこともできる世界なんだよ
君たちのことは力で少しずつ位置を絞り込みながら追っていたはずだよ
君たち襲われたんじゃないの?
向こうのコードの力が先に送転起動までしてたのに不発するなんて
すごく運がいいよね君たち
でもさっきもいったけど カーニバル・ジャッジ側の捕捉はもう切れてる
君たちの力は彼らにとって不都合なんだよ」
「!あなたが私たちのことを狙ってたんじゃないの・・?
あなたは私の味方なの・・?」
「別に僕自身は君たちを狙ってないよ
味方かどうかはクルード・アドバンストが君たちの味方ならそうなんじゃないの?
僕はクルードによって楽園から切り取られた ただのシステム
言われたことをこなしてるだけだから・・」
「システムってやつは言われたことに答えるのか?
リズの力がやつらにとって不都合だと・・どういうことだ」
「・・・・」
私に代わってゲンゴが続けざまに
そう問い詰めていくと男の子の反応が悪くなる
言われたことに答えないシステム
「おい・・」
「うーん 僕お腹減っちゃったなあ・・」
ネロに似た小さい男の子は人差し指を口元にそっと添える
「・・?」
「僕は少し頼まれるだけって聞いたのに
もう通知もほとんど終わったのに
君たちばっかりいろんなこと聞いてきて
僕ばっかり通知事項以外の余分なことをいっぱいしゃべっちゃったから
お腹減っちゃったなあ・・」
ちょっと不満気でいじけたように少し体をくねらせる男の子
「・・なにか食べたいの?」
「うん」
「・・・」
リズは少し考える
(確かシステムって この子言ってたなあ)
「・・・ソウルポイントでいいの?」
「え、くれるの?」
「え・・まあいいけど いっぱいあるし」
(あれ これじゃなかったの?)
「じゃあ適当にもらうね」
「(ポウ・・)」
男の子がモニターの画面に手をかざすと
リズのアカウント内に移されていた大量のソウルポイントから
数百単位でソウルポイントが減っていっていた
それでも全然減っていないほど量があるけど
「ふう・・」
ネロに似た小さい男の子がポウ・・っと
少し吸収した?らしいソウルポイントの青い透明な光に包まれる
(食べた・・?のかしら)
「満足した?」
「え、これは君からソウルポイントをただもらっただけだよ
こんなもので お腹が満たされるわけないよね」
(あっ・・!この子したたかね)
「普通の食べ物がいいの?
でもあなたはシステムなんじゃないの?」
「うん システムだけど いっちょ前に人の形をしているからね
人が食べている食べ物も食べられるんだ」
「そうなの・・でもここにはないわ
私の施設に帰ればあるけど」
「大丈夫 僕ついていくから」
(あっ・・ついてくるつもりよ この子 大丈夫かなあ)
「ゲンゴ・・」
少し振り向いて確認する
「・・まあいいんじゃないか? どうやら敵ではなさそうだ」
・・・・・
やってきた男の子を連れて リズ達は一旦仕事部屋を後にしたのだった
・・
しばらく一緒に帰り道を歩いていて リズの少し後ろを男の子が
黙って確かについてきていたけど
「・・・」
リズに少し追いついてきたかと思うと
「(はし)」
(あっ・・手繋いできた この子・・まあいいけど
寂しかったのかな)
リズは優しく その小さい白い手を握り返す
(ふーん システムっていうから機械みたいなもんかと思ったけど
普通に体温があってあったかいわね)
「・・そういえば あなた名前はあるの?」
「・・ないよ 僕には名前がないんだ」
(ないんだね・・)
「・・じゃあ私がつけていい?」
「くれるの?」
「そうよ」
「じゃあもらうね」
「うーんじゃあ・・そうね じゃああなたは 「シス」ね シス君ね」
「わかった」
「お前・・それってまさか」
肩のゲンゴがなぜか疑問を持ったように聞いてくる
「え・・この子がシステムっていってたから・・」
「まあ・・そうか こいつがいいなら俺はなにもいわん」
・・・
やがて町外れの小高い丘の麓にある、
いつもの組織運営の支援宿泊施設に帰りつく
・・
「リズ・・?なにこの子 攫ってきたの?」
施設の部屋の前で出迎えたリコは 訝しげにリズのことを見ている
いきなり人聞きの悪いことである
「別に攫ってないわ ほらいい子にして手つないでるでしょ」
「それはそうだけど・・どうしたの?」
「ちょっとご飯が食べたいんだって」
「ふーん・・でもこの子身なりけっこういいじゃない
親御さんとかいるんじゃないの?」
「いないよ」
男の子が答える
「・・・・」
「・・・」
ちょっと気まずい雰囲気が流れる
ただ私たちも全然親とか分からない実験施設出身の人間であったから
「そう・・つらかったね・・」
とかリコが勝手に納得し始めて
(親がいないのはシステムであって人じゃないから、 らしいんだけどね)
それでスムーズにシス君は受け入れられることになった
・・・・
リズたちの食卓にはたくさんのお皿と料理たち
「シス君 これも食べる?」
「うん食べる」
(もっしゃもっしゃ・・)
「おいしい?」
「うん すごくおいしいよ」
リズから男の子の名前を聞いて リコはもうシスを名前で呼んでいる
そして速攻食卓に居座るシス君
「・・・・」
(まあ・・システムとやらのくせにやたら食うわね
こういうとこもネロにそっくり・・
エネルギーをよく使うのかしら・・)
リズがワールドプレミアムリーグで有名配信者に勝って
投げ銭を大量に得ていたので
リズたちの食事の事情は食卓に十分な料理を並べられるくらい良くなっていた
ここのところ疲れて痩せていたリコの血色が最近よくなってきたので
リズにとっても それはうれしいことだった
(・・・)
今日はいろいろショックなことがあったけど
そんな風景を眺めていると 少しだけ気持ちが和らいだ気がする
・・・・
そしてその日の夜
「うん 満足したよ」
シス君はご飯をたくさん食べて満足したようだった
今はリズのベッドのある殺風景な個室にいる
「ふーん・・じゃあ質問に答えてくれるのね?」
「限度ってものがあるけどね 僕は一部だけなんだ
僕が知らないことだってたくさんある
ただでさえ僕はもうやることは ほぼやったんだよ
それにご飯を食べたから もうすぐ眠くなってくるよ」
(まあこの子は・・)
「じゃあ・・簡単にするね?」
「うんそうして」
(くっ・・なんか生意気 まあなら答えてもらうわよ)
「私たちが狙われていたのは私たちの力が不都合だからっていったけど・・
一体なにが不都合なの?
あの人たちの本当の目的・・なのかしら
「ウィザード」のコードを手に入れてオリジナルを取り戻すって
、それに何か関係があるの?」
「それは僕は知らないよ 彼らが不都合だっていってたじゃん
だからそうなんだって僕は思ってた
目的のことだってそうだよ
だから詳しく知りたいなら
僕じゃなくてクルードか怪人カーニバル・ジャッジ本人に直接聞いてよ」
「・・・・」
(うっ・・かわされたあ・・、まあ知らないなら しょうがないけど)
かわされてしまったリズ
「うーん でも君も「ウィザード」っていう言葉自体は
知ってるんじゃないの?」
(、それは・・)
「魔法・・使い?」
「うん でもそれはそのままの意味だよね
彼らの言う「ウィザード」はこの世界で
「ウィザード・シンギュラリティ」に到達した
人を超えた光子学リマスター・コンピュータの本体基盤に名付けられた
人工機械頭脳の通称
「真の魔法使い」のことだよ」
(・・!)
「魔法使いだと・・!そのコンピュータってやつはまさか魔法使いなのか?」
(あらー)
この世界のコンピュータのことは
ゲームの事でちょっと話したけどまだあんまり理解はしていないゲンゴ
「そういう名前なだけよ
今の新技術を生み出してるコンピュータの機械が
人の脳には理解不能であんまりにもすごかったから
まるで魔法使いのようだ、って例えられた意味だったの」
「ふむ・・」
「でもそれが真の魔法使いって・・
たしかそのコンピュータが生んだいろんな新技術に
今のいろんな国が関わってきてるって・・
その特別なウィザードのコード・・?
それがどうして私たちがいたオリジンに関わって・・」
「「ウィザード」マシーンは今は人間によって完全に制御されていて
制御下では「コード」って呼ばれてる一度きりの使用期限の
人に解読できる電子情報羅列を発行しているんだ
これによってウィザードは人間に
解析して発見した新技術を提供しているんだけど
賢いウィザードは実は自分で独自の永久のコードを発見していて
自身の自由な分身と共に
電子の世界のどこかにそれを隠しているんじゃないかという
都市伝説があるんだ
それでどうやらあのカーニバル・ジャッジは
それがあのオリジンの中に存在しているんじゃないか、と
思っていたみたいだよ」
「え、どうして・・?
だってオリジンって
そのシンギュラリティが起こる前にもうできてたゲームなのに」
「さあねえ・・
っていうか君さあ 最初から言葉が難しいんだけど
ちゃんとお子様に話すように吟味してる? そういうとこだよ
僕だってこの世界のコンピュータのことは最近知ったんだ」
「うっ・・」
なんかプンプンしたお子様にいわれているリズ
「じゃあお前がちゃんと知ってるお前のことを話せよ
お前はシステムだっていってたな」
次はゲンゴが聞く
「それは具体的じゃないし あんまり簡単じゃないよね?」
「・・・・、」(・・・)
(コホン)
「まあ いいけどさ
クルードは怪人ハスラーキッドとして力を使って
ここではない向こうの世界の超上層部である「楽園」の
エリア領域にちょくちょく侵入していたんだけど
ハスラーキッドの持つオリジンの力を使って
楽園の通知システムの機能の一部を切り取ってそこから持ち帰ったんだ
それが僕の原形
はじめは全然形になっていなかったから僕は全然しゃべれなかったし
機能もおろそかだったんだけど
クルードは超上層部に侵入を繰り返してちょうどいい一部をまた持ち帰って
僕を元の形からアップデートしていったんだ
それで今の僕になったんだ」
「うーんよくわからんなあ」(鳥頭ゲンゴ)
「クルードはなんでシスを切り取ったの?」
「さあ・・でも便利だからじゃないかな
ソウルポイントは必要だけど それで僕の力を使えば
楽園の力が及ぶ世界のあらゆるところへのアクセスが簡単になるから・・」
「もしかしてクルードはシスのことを切り取ったから
あの怪人カーニバル・ジャッジに目を付けられたの?」
「それくらいじゃカーニバル・ジャッジには気づかれないよ
そもそも怪人カーニバル・ジャッジにも
楽園の領域エリアは表に見えている一部しか動向を掌握できてないんだ
それに君たちの力は正確にはあの世界とは分かれている力だから
向こうの世界のシステムの力を利用しても
別次元の力を正確に捕捉することは本来不可能なんだよ
クルードは何か他の要因で目をつけられていた、
それは僕には今確かなことは答えられないよ」
「・・もういいかな?」
淡々と質問に答えてシスは早々に話を打ち切ろうとしてくる
「え・・シスに聞きたいことは いっぱいあるんだけど・・」
リズにはまだ聞きたいことがたくさんあった
「・・もうあまり今からは答えられないから言っておくけど
リズ 君の力は最初一時的に怪人カーニバル・ジャッジではない存在に
狙われていたんだ
まあそれはその時君を動かすには力が足りなさ過ぎたから
どのみち失敗していたんだけど・・
でもそれで君の存在がもう
敵に気づかれていることを知ったハスラーキッドは
君の世界線上の意識を敵に捕捉されて
敵の手の内の君じゃない他人の誰かに強制的に繋がれてしまう前に
向こうの世界にいる君の元に自身の手で繋ごうとしたんだ
それをなぜか直前に怪人カーニバル・ジャッジに察知されて
ハスラーキッドは捕捉されてしまったんだ
この世界のクルードはカーニバル・ジャッジの手に落ちてしまったけど
向こうの世界のクルードも敵の手に落ちかけたけど
なんとか密かに敵を出し抜いて生き残ったんだ
それで僕を動かすことができた
それでしばらくたって向こうで
敵の力に察知されかけた君たちの捕捉を解くために
僕の力を使って向こうの世界から
こちらの世界に君たちを送転して繋ぎ直して
さらに君たちにここでの情報を託すために
僕を君たちに会わせるようにここに来させた
僕はその時にクルードに言われたことをこなしている
それはもうほとんど終わった
あと1個だけなんだ」
「1個・・だけ?」
「そう」
「君たちを向こうの世界に送り返すことだけ・・」
「ジジジジジジ・・・」
「!?」
そういうとシスの顔が突然フッとなくなって そこから白い光が出始める
「おい 切り刻むぞ」
低いトーンのゲンゴの声
「ジ・・」
しぼんでいく白い光
「・・・」
顔が戻るシス
「やめてよ・・僕の性なんだよ・・システムとしてのさ
やること残ってると落ち着かないんだよね」
「ねえ・・その顔が急になくなるの びっくりするから
他のにできないの?」
顔が急になくなるのは リズの心臓にあんまりよくなかった
すると
「え・・だって顔がついてたら目とか・・光で眩しいし邪魔になるじゃん・・」
「だったら手とかでいいじゃない ここに来た時最初にやってたでしょ」
「うーん・・それもそうか じゃあ今度からそうするね」
「そうしてねシス
そういえば白い光がくるとき 時間が止まったような感じになったり
変なかんじの風がきたりしてたんだけど さっきはしなかったわね」
「それは・・僕がアップデートされたから・・
人を動かすのにさ、 ちょろちょろ動かれたら掴みにくいでしょ?
性能がまだ低いかったころだから
ソウルポイントの燃費は悪いけど
周りの空間ごと止めたり動かしやすい環境に整えなきゃいけなかったんだ
まあでも君はなぜか極端に効きが悪かったけどね」
(・・!)
「え・・じゃあ 今まで私に起こってきたそれってシスがきて
密かにやってたことだったの?
でも貴方の姿じゃなくて
別の子供とか庭師のおじさんとかゲンゴとかだったよね」
「俺?俺か・・?」
どうやらゲンゴは私と初めて出会った時に
一回後頭部に顔みたいなものが付いていた事があったことは知らなかった様子
今思うとその時浮かんでいた子供の顔みたいな特徴が
今のシスに若干似ていないこともなかった気がする
「そうよ 一回この辺に顔みたいなのがついてたことがあるわ
この辺にね」
そういってよく分かるように説明するために
鳥人形ゲンゴの小さくて細かい羽毛の後頭部をぐりぐり指で触る
(グリングリン・・!)
「おいこら、リズ
これが見よしに羽毛をいじってくるな、 お前なあ・・」
それを認めるようにシスは
「全部じゃないはずだけど・・そうだね
クルードにいわれてそうしたんだ
そのときは僕の性能が悪いから全然君の手がかりがつかめないし
そもそも僕は通知用のシステムだから
異世界での人探しなんか得意じゃないんだ
ただでさえ強い結界があの世界は多くて入っていけないし
力に阻まれて見つけられないし
見つけても全然しゃべれないし
光だけの存在で他人の体を借りないといけなかったんだ
それに体を借りても強い力の存在が近くにいるとあまりその場で維持できないし
そういう存在になぜかしょっちゅう邪魔されちゃうし・・
僕もけっこう大変だったんだよ」
「ええ・・そうなの・・
でも私もずっと怖かったんだからね ほんとやめてよね
あんなのホラーじゃないの 絶対やめて」
「うん・・わかったよ でも今はアップデートしたから
そういうのはしないと思う・・」
「そう・・よかった・・
でも突然送ろうとするのはやめてね」
「なんで? 僕は真剣なのにさあ・・戻りたくないの?君たち」
不服そうな顔をするシス
(そういえばそうね・・私はともかくゲンゴは向こうの世界の住人だし・・)
「戻るにしても緊急じゃないなら
もう少しゆっくりしてからでもいいと思うのよ
まだ調べ物もあるし・・
今日は休んで
明日からでもシスから聞きたいこともいっぱいあるし・・」
「そう・・」
「でももう だめなんだ」
「え・・・?」
「僕はもう自分のシステムの中で決めてある
僕は君の眠り、人間の君の持つ夢のつながりを利用して世界を繋ぐ
第一に用事を済ませ君を、君を待つ向こうの世界に送転する
それは僕が君たちを見つけてから通知を済ませて その日僕が眠りにつくまでって
それは変えられない それが僕のシステムだから」
「・・!」
(私の夢のつながり・・?それが向こうの私と繋がっているの・・?)
「なんだと・・?」
ゲンゴが振り返る
「君たちはもう僕に会った時に捕捉してある
別に白い光を浴びなくても
僕が眠たくなって寝ればそれは発動する それは君たちにはたぶん止められない
僕を壊さないといけないから」
そのシスからの冷たい声がそれが冗談ではないことを告げていた
「おいどうする・・?リズ」
「どうするって・・」
(私はここに戻ってきた・・だけど 私は・・)
(リコ・・・)
「ねえ リコも一緒に連れていけたりしない・・?」
「リコ・・? ああ、あのさっきいたお姉ちゃんのこと?」
「そう」
「それはできないよ あのお姉ちゃんは向こうに世界が繋がっていない
君たちとは違うから今の僕の力では送れないよ」
「そう・・」
「・・・・」
・・・・
「シス・・!まだ寝ないでね!」
(ドタパタ・・)
リズは慌ただしくハンガーに掛けてある上着をバサリと羽織って
外にいく準備をし始める
その様子をシスがもの珍しい顔で見ている
「・・なにするつもり?」
「リコがここでお腹いっぱい食べて生きていけるようにしないと・・
いまから急いで仕事の部屋までいって
私のアカウントからオリジンの賞金を
今のうちにリコの口座に全部移しておくの・・」
「そこまでしなくても またそのうち戻る機会はあると思うよ」
「でも・・私はまた眠っちゃうんでしょ
また一人で心配させちゃうから・・」
「ふーん・・君のオリジンアカウントカードは今持ってるの?」
「持ってるわ」
「貸して」
「え・・?」
「いいから」
上着のお財布から取り出した私のオリジンアカウントカードをシスに渡す
「あのお姉ちゃんの口座番号教えて」
「え・・」
「いいから」
「〇×××〇・・」
リコに送金などをするときに使っていたメモ書きを見る
「全部でいいの?」
「え・・」
「君はそればっかりだなあ」
「リズ 送っても2割くらいは自分に残しておけ」
ゲンゴが現実的な忠告をしてくる
「じゃあ8割・・」
「(シャリーン!)」なぜかその場で響くオリジンの電子決済音
「え・・!」
「はい返すね あのお姉ちゃんのところに「8割分」送ったから」
見ると私のオリジンアカウントカードから
大量の残高が確かに8割ほど減っている
それでもなお 残金は大金だけど
(まあ・・確かに便利ね・・これは切り取られるわけだわ)
「じゃあもう僕寝ていい? たくさん食べたから眠くなってきたから」
(この子・・食わせるべきじゃなかったかしら)
・・
そういってシス君は目をこすってモゴモゴと
勝手にリズのベッドに潜りこんで寝ようとする
「ま、まってよ!」
(ズボッ!)
リズのベッドのもぐりこんだ毛布から シスを両手で引っ張り上げる
ベッドの骨組みは以前のボロのままだけど
枕と布団と毛布はフカフカのいいものに新調してある
「うーん?」
「送った後 シスはどうなるの? 一緒に私たちと向こうの世界に転送されるの?」
「僕のこと・・? 君たちだけ送るんだから僕はここで寝たままだよ
それで明日の朝に普通にここで起きる」
「ええ・・じゃあ その後シスはどうするの?」
「どうって なにか呼ばれるまでは この世界をぶらぶら歩いたりしようかなって」
(あ、危ないわ・・この子危機意識がない
ネロに似たかわいい子が一人でこんな荒れたクソみたいな街を歩いていたら
すぐに攫われちゃうわ)
(あ・・そうだ)
「あのね シス
それならしばらくここでリコと一緒に暮らしてくれないかしら
私の部屋を使ってアカウントから お金も好きに使っていいから」
「あのお姉ちゃんと・・?」
「そう 嫌かしら」
「別に嫌じゃないけど・・」
「それにシスは食いしん坊だから
私のお金がないと一人だと飢えて死んじゃうわよ
それにここは シス一人じゃ危ない街なの」
「うーん・・ならいいけど」
「ありがとうシス」
「じゃあもう僕ねるね」
「・・・まって!!」
「ゲンゴ・・ちょっと この子見張っておいて」
「わかった」
「もう・・」不満げなシス
「(スルスル・・)」
するとその場で今度は急いで服を脱ぎ始めるリズ
「お、おい 突然脱ぐな・・」
すぐ下着姿になったリズにうろたえるゲンゴ
「なによ 下着だけじゃない ゲンゴのえっち!
いいから見張ってて」
(全然整理できなかったわ・・でもこれくらいは)
軽くリズは洗面台で顔を洗って 下着姿で全身を軽く濡らしたタオルで拭いて
買っておいた新品のいいパジャマに着替える
それから髪を梳かしてきれいにする
喉が渇かないように 水も少し口に含んで濡らして飲んでおく
(ドタドタ・・!)
それから急いで最低限の身の回りを奇麗に整頓しながら
紙とペンも準備する
整理が一通りすんだら
机の代わりになりそうな分厚い本と紙とペンを持って
リズのベッドに向かう
パパっと布団シーツや毛布の端を奇麗に直して
「シスはここね 私の隣」
シスをベッドの少し横に寄らせて
リズ自身もベッドの毛布の中に入ると 上半身を起こして
持ってきた分厚い本を下敷きにしてリコに宛てた書置きの手紙を書き始める
(・・・)
気になったのか
シスも身を起こしてその様子を見ている
「手紙・・?ことづてなら僕が明日になったら お姉ちゃんにいっておくよ」
「ううん・・自分で書きたいの」
「ふーん・・なら待ってあげるね」
「ありがとうシス」
「・・ゲンゴも一緒に寝る?」
リズは自分の隣に毛布で小さいスペースを作る
「いや 俺はここでいい」
ゲンゴはベッドのリズの上の毛布の中央辺りに座っている
ゲンゴはいつもそこで寝そべることはなくて 座って休んでいた
「そう」
リズはリコに宛てた手紙を書き綴る
「字は奇麗なんだな」
座っているゲンゴがちらっと様子を見ている
「器用だからね」
・・・
リコ宛ての手紙は書き終わった
書き終えた手紙を枕元にそっと置いておく
「こんなもんか・・」
ペンは本と一緒にベッドの横によけておく
「終わったんだね じゃあ僕寝ていいんだね」
「ちょっとまって・・今日は私と一緒に寝ようね」
「うん」
「ゲンゴ 電気消してくれる?」
「おう」
ベッドにちゃんと入り リズは枕にしっかりと頭を添える
「消すぞ」
「うん おやすみ」
ゲンゴの遠隔の風魔法で電気が消えてリズの部屋周りはフッと暗くなる
シス君はだいぶ寝るのを我慢していたようで
リズの隣でぴったりくっついて すぐに静かに寝音を立て始める
すると
「ポワア・・」
と白い光がリズの体の周りを包み込み始めた
(( ))
(本当だったみたいね・・)
リズはゆっくりと目を閉じる
「(ここでやり残したこともある
だけど向こうの世界で何かが私を待ってる・・?)」
「(リコ・・急ぎでごめんね・・だけど・・私また行ってくるね)」
「(おやすみ・・私)」
白い光に包まれてリズは意識を手放していった
・・・・・
・・・
・・
朝になる
リズの簡素な部屋に小さな朝の光が差してくる
ベッドがもぞもぞとして目覚めたシスが起き上がる
目が覚めたのはシスだけだ
ベッドの毛布の上の昨日の夜にゲンゴ人形が座っていた場所には
手のひらくらいのこんもりとしたへこみがあるだけだった
(君たちうまくいったみたいだね いってらっしゃい)
「ふう・・僕の仕事もひとまず終わったみたいだね」
「うーん でも確かここで暮らせって・・」
・・・
「リズ~ 入るわよ~」
朝になってリコがリズの部屋に入ってくる
最近私もしんどかったし忙しかったけど リズにもつらい報告が続いてた
それなのにあんまり私は付き添えてなかった
だから今日くらいは
よく最後まで一緒に付き合ってあげようって思っていた
「あれ・・?シス君だけ? おはよう、昨日はしっかり寝れた?
リズはまだ起きてないのね」
「うん 僕はよく寝れたよ
でもお姉ちゃんはもっとよく寝るんだって 」
「え・・・?」
「リズ・・? 起きて・・?」
反応はない
( )
整った寝相で奇麗な顔で静かに吐息をつくリズの姿
その枕元にはリコ宛ての手紙が置いてあった
リコはその手紙をそっと手に取る
・・・・
シスは今日はどうしようか考えていた
(せっかく仕事も終わったしなあ お金も自由に使っていいって言われたし
どうしようかなあ)
「あれ・・?」
リコといわれていたお姉ちゃんが一人残されたように手紙を持って
ベッドの横で静かにさめざめと泣いていたのが見えた
それはまるでリズを起こさないように気を使っているみたいだった
(分からないなあ・・ただ寝てるだけなのになあ)
今日はいい天気だった




