第65話 鉢合わせ
(うーん・・どうしようかしら 一応対戦拒否もできるのよね)
そう 対戦は強制ではないのだ
気に入らなかったりすればオリジンでは対戦を拒否できる
「ボルン・J・ジョイガー」
ボルンという男はリズたちの仕事部屋の運営組合のメンバーで
与えられた仕事は同じだが施設から派遣されてきた下級ランクのリズたちとは
立場が違う存在であり 居合わせた仕事場では逆らうことができなかった
それを利用して会社に納めるお金を回収するときに手数料として
しょっちゅうリズの勝ち分から引いて 遊び金として盗っていった男だ
リズにとっては極力は関わりたくない男であった
(しかしまあなんで
こんなにオリジンには他のプレイヤーもいるのに
こんなドブの中の縁の住人同士でぶち当たってしまうんだろうなあ
はーやだやだ )
(・・・)
「でも私は今は登録はいつもの名前じゃなくて「イヴ」なのよね・・」
(仕事を休んでるのにここで「リズ」としてあの男と当たったら
めんどくさいことになるところだったわ 変えておいてよかったわね)
「あら・・?」
ボルンのアカウントはリズの反応が悪いことを悟ると
「ピピピ・・」
賞金の額の設定を上げてきたのだった
掛ける賞金のボーナス額の提示を自身のプール資金から手動であげれば
普段から少額の動きしかないことが多い下級のリーグでは
当然相手プレイヤーの欲望を刺激し食いつきがよくなる傾向にある
定められた健全なレート額を超えて
賭け勝負をすることは本来は違法だが
自身の責任で賞金ではなく「ボーナス」を上乗せして勝負することには
違法性はない、ということになっている
(そういえば私も結構今日はたまってたわね
これのせいだったか)
今は連勝が21もたまっていたので
その累積ボーナス賞金額もその分大きくなっていた
・・
そして私は知っていた、ボルンという男がこの挙動をするときは・・
(自分が戦うんじゃなくて同僚の中級ランクの実力をもつ男に替わってもらって
下位リーグで連勝して賞金を稼いでいる相手に狙いをつけて
賞金をもぎ取る作戦だわ・・)
厳密にはそれは賞金をかけた対戦ではプレイヤー規定違反行為なのだが
あの連中はここぞというところで使って見て見ぬふりをする
今のようにコツコツと連勝を伸ばしていく戦い方もあるが
「エントリースナイプ」といわれている、
連勝ランキングにのったプレイヤーに対して
直接対戦要求を出し直接対戦を申し込むような戦い方もできる
「ピピピ・・」
賞金額はまだあがっていく
「(あらあら・・絶対勝てるもんだからって額がこんなに上がっていってるわ
こんなに金欠のあのボルンに払えるのかしらね
なにか急用でまとまったお金でも欲しいのかしら
どうせろくな用途じゃないでしょうけども)」
「ふうん・・」
(どうせ今日は元々休みでリフレッシュも兼ねて調べもの優先のつもりだったし
このネットカフェの利用料金くらいなら もうある程度勝った時から
先にアカウントカードで支払っておいたわ
これも降って湧いたお金・・ 余興に使えるならいいかもしれないわね)
「それに今日は私は調子がいいから
中級ランク相手でも目がないわけでもないわよ」
「ポチ」
「ピコン!」
(やっちゃった・・!)
ボルンとの対戦が了承される
「なんだ今度は額が多いな」
連勝が続いて反応が薄くなってきたようだったけど
オリジンの手がかりのために画面はちゃんと見ていた様子のゲンゴ
・・・
「ウポポオオオ」
対戦相手は謎の呼吸管のような器官の飛び出た分厚いガスマスクに
大きな蛸のような足を持つ吸血虫の装甲細胞で生成された、
「オクタブラコ」という不気味に蠢く巨大な生体ハンマーをもち、
その異様なハンマーの超重量を支えるために肩幅が広く
それでいて宙に浮くような全身に
網目のように張り巡らされたぐにゃぐにゃの筋肉繊維によって
生々しく自在に体を動かす人外型のキャラクター
通称「軟体怪鬼ドゴム」という怪人キャラクターを選択してきた
その生体武器「オクタブラコ」は
汚染された高エネルギーの泥の墨を大量に吐き出し敵の動きを止め
さらにイヴの偏向攻撃を足止めしやすい「ノックダウン」という
状態異常性質ももっている
その宿主である軟体怪鬼ドゴムは
破壊耐性も高く非常に嫌らしいキャラでアンチイヴの対策に使われやすい
「!・・・」
(露骨すぎ・・最初からボルンが普段使ってないキャラなんて)
(まあいいわ 私はそれでもいつも通りよ)
ここまで連勝を積み上げてきたリズ
迷わず選択したイヴがその軟体怪鬼ドゴムと向かい合う
「Fight!!」
「お手並みを拝見ね・・!」
が・・
(どういうこと・・?これが組織の中級クラス相手・・?)
「バキ・・!」
見え透いた手癖の悪い攻撃を軽くさばくイヴ
(これも・・)
「ズワアアア!!」
相手の振りかぶった大きなハンマーでのチャージ攻撃
(これもわかるわ・・)
その攻撃を見てからカウンターコンボをフィニッシュぎりぎりまで奇麗に入れる
(でも反応からみると動きが悪いわけじゃないわね・・
確かにぎりぎり中級ランクにかかるかなっていうレベル)
中級クラスの実力を確かめたくて
相手の連続攻撃でHPゲージを削られながらも効率のいい防御を目指してしてみたり
「(ふむ ここまでは大丈夫なのね・・)」
カウンターの反応ラインがどこまで有効か確かめようして回避しながら
たまに攻撃を食らったりして
イヴのHPゲージ残りがミリ単位になってしまう
「あら いけないいけない」
それでチョン・・とジャブを1発入れる
「あ・・」
「イヴ player WIN!!」
(勝っちゃった・・!)
「お 増えたな」(シャリーン)
リズの獲得賞金の数字が跳ね上がる様子を見ていたゲンゴ
その後にさらに
「(え・・また?)」
同じボルンのアカウントから すぐさまもう一度対戦が申し込まれた
(あれえ なんでかしら・・ゲージをミリで残したから
ギリギリの戦いだったって勘違いしちゃったのかしら)
「ピピピ・・」
(うわあ・・)
相手はさっきの負け分を取り返すような金額の上げ方をしてきた
「おい リズ またさっきのやつから来てるぞ」
「知ってるわ、 ゲンゴ 私がこれに勝ったら何か注文してもいいわよ」
「おお いいのか」
ゲンゴはリズにダメっていわれて一旦仕舞っていたメニュー表をひこずってくる
「ピコン!」
リズがボタンを押して対戦が成立する
対戦相手はさっきと同じ「軟体怪鬼ドゴム」
今度は気合を入れなおしたといったところだろうか
(さっきの対戦で癖がわかったところだから 同じにしてくれて助かるわあ)
「まだ検証が足りてなかったなあって思ってたのよね
続きをしてくれるなんてありがたいわ」
・・
気合が入ってくると
確かにこちら側にとって嫌な位置で道連れ的に応対させるような
実にドブの中の住人らしい嫌らしい感じの攻撃がやってくるんだけど
それでも別にやられてしまうほど
形勢を崩されるわけではない
むしろそんな状況にあえて付き合って
今度は体力ゲージの半分くらいまでドロドロの攻撃の応酬で
お互いに体力をすり減らしたあと
相手の怪人の必殺ゲージが溜まっていて必殺技をだすことができるんだけど
それをタイミングでうまくガードして受け流す練習
「ガキュイイイン!!」
(うん やっぱり中級クラスは使ってくるタイミングが的確ね
勉強になるわ)
とはいえ怪人の必殺技なので しっかり守っていても体力は削られる
なんだかんだまたHPがミリ残しになってしまった
(おっといけないわ)
そこで思いついて是非入れてみたかった即席コンボ攻撃を入れてみる
「コポオオ」 パタン
するとコンボの途中で相手のHPゲージが尽きてしまった
(あら残念)
「イヴ player WIN!!」
・・・
「ピコン!」
「え・・・?」
さすがに私ももうないだろうなって思っていた
あのボルンでも流石にもう懲りただろうと
(また・・なの?)
そこにはまたボルンからの直接対戦要求の催促
「(いや・・さすがにもう残り資金がないでしょ)」
と思っていたらなにか即席チャージされたらしくて
「ピピピピピピ・・・」
(え~・・うわあ・・)
今度はもうなんというか破滅的な額の上げ方をしてきた
(まあ・・くれるっていうならいいけどね)
・・・
まさかの3度目の試合が開始される
「じゃあ今度は勘違いされないように圧倒的に終わらせましょうね」
「「 」」ゴオオ!
溢れるような泥の墨を四方八方の大地に大量に吹きかけながら
発狂したように自身もその泥をかぶり、
「キエエエエ!!」
汚染度MAX!の全身真っ黒な状態になって絡みつこうとしてきた対戦相手
「ザ・・!」
そこに相手の仕掛けてくる動きの癖を利用して出鼻をくじいた後に
「 」
(・・私はもう泥にはたくさんまみれてる
だからそれは遠慮しておくわ )
「滅拳!」
「ズガアアン」
ぶち抜く
(・・!)
「これは・・お前が使っていたやつ・・だな」
「そうよ 滅拳よ」
そのあとリズがコンボを入れた後に
「む・・!」
(ブワア・・!!)
「ギイイイイイン!!」
黒く変化した状態を維持したままの怪人がリズの攻撃をぐにゃりとかわして
即座に上空から仕掛けてくる
「 」
相手の体がぐにゃりとした動作をした瞬間
今日のこの勝負の中では唯一だった不穏な予感を察知する
それはある種の執念のような、
怪鬼ドゴムの得意とする凶悪な生体ハンマーの力で
ノックダウンからの起死回生の一撃を狙っているようで
相当な力がこもっていて食らってしまえばさすがに危ない
(そういえば私ってあの技をまだ使えてないのよね)
(あの時のゲンゴはともかく・・
最初に会ったオジキにも確か不発されてしまったわね
どうもあなた達 風魔の人たちと私の技って巡りが悪いのかしら)
(でもここなら関係ないわ)
「(コマンドPためからの最適なタイミングでPと←↑↑↑よ!)」
「対空強ナユラ砲昇破・滅!!」
今までの幾多の失敗経験を経て
今度こそコマンドは完璧に入力された
「ズギャアアアアアアア!!!」
画面中のイヴの力をためた邪悪なオーラを纏う腕が振りあげられた瞬間、
イヴの反った背中の機械化した翼たちも広がっていき
圧倒的な拳撃と共にその翼から上空に幾重にも
イヴのえげつない軌道の破壊ビームが全体的に拡散発射されて
そのいくつかのビームが敵影を捕えながら
その軌道を変化させ
「ビギュウウウン!!」
上空からやってきていた怪鬼ドゴムを串刺しにしていく
・・・
「イヴ player WIN!!」
「勝ったわよ!ゲンゴ!」
振り向いて無邪気にガッツポーズをするリズ
「お前・・、これを俺に撃とうとしてたのか・・?」
「え・・、まあ・・そうなんだけど・・あの時は熱くなっちゃったの・・」
「ふざけたやつだなあ・・」
・・・
それからさすがに4回目の勝負を挑まれることはなかった
(あら・・)「ピ」
よく見るとボルンのアカウントにはオリジン超過債務者のマークが出ていて
「 」
これは債務が完済されないと
それまでアカウントは使用できませんよっていうゲームからの警告マークだ
(うわあ これは何か担保にしてレバレッジをかけて無理やり資金を作ってたのね
これだともうアカウントで仕事できないんじゃないかしら
まあ私には一切関係のないことね)
・・・
リズの獲得賞金と連勝が爆上がりして
それを目の当たりにした追放リーグ界隈の有象無象の虫の如きプレイヤーたちが
さらに大勢「プレイヤー・イヴ」に対戦を仕掛けてきて
「ピコン!ピコン!」
リズは今まで体験したことのないモテモテ状態であった
(あんまり嬉しくはないけどね)
リズがモテモテ状態で連勝を重ねる横で
ゲンゴは何食わぬ顔で四角いメニューから
「これは見たことがないな」
といいながら注文チャンネルの使い方をリズから教えてもらって
ボタンを押して注文してやってきた色んな種類の料理を食べていた
適当に安価な塩ラーメンとか注文して
「これはうまいな」って
器用に箸を魔法で浮かせて動かして美味しそうにチュルチュルすすっていた
(満喫してるなあ・・)
「(ゲンゴは他の人には姿が見えないから
これって全部私が食べてると思われてるのかしら・・)」
空になっていくお皿の山を見て私はちょっと思う
ただ私もジュースやポテトを注文していて合間に飲み食いして
大変行儀の悪いことになっていた
(いけないわ・・気が付いたらなんだかんだ
リズ・クリスフォードお嬢様としてやっていた節制できてない感覚が
でてきてしまっている
まあ・・今日くらいはいいけどね)
「ピコン!」
連勝はもう50連勝を超えていて
連勝が重なるごとに賞金ボーナスが増えるのと
途中の絡んできたボルンの法外なブーストもあって
その日の獲得賞金で贅沢・・じゃないけど普通の生活をしても当面の間は
資金が尽きないくらいには膨れ上がっていた
たださすがにそれくらいになってくると
逆にこいつには勝てない、みたいな認識や
下級プレイヤーを装って違法に上級からきた初心者狩りプレイヤーではないか
みたいな疑いの視線から
空前のモテモテ状態からなかなか対戦が成立しないようになってきた
(短いモテ期だったなあ・・)
(まあ私もちょっと疲れたし
今日はこんなもんで終わっておきましょうね)
「シャリーン」
リズはアカウントカードを取り出して賞金リーグを精算して
連勝記録を「0」に戻す
ついでにこのネットカフェの飲み食いの会計もその場で済ませる
かなり飲み食いしたはずだけど(ゲンゴが)
会計を済ませる前の残高の数字を覚えていなかったため特に実感はなかった
・・・
「大漁ね・・」
アカウントカードの両端を両手の指でつまんで
通帳でも眺めるように盛られた数字をじっとみている
このアカウントカードはオリジンの賞金口座とは別に
リズの個別の預金機能もあって
そこに今日の勝ち分の多額の獲得賞金が振り込まれていた
・・・
(この分なら帰ったらリコにも
たくさんいいものを食べさせてあげられるかしら)
帰り道にまた食料品のお店に寄ってリコが好きなフルーツとか
保存がきく食料もいろいろ買いだめをすることにする
ついでに雑貨店にも寄って
足りてなかった日用品などもどんどん購入していく
「大漁♪大漁♪」
大量に買い物をして思ったより結構重くなってしまった分は
ゲンゴの風魔法で見た目より軽くしてもらったり支えてもらって
リズが寝泊りしている組織の施設までしっかり抱えて
持って帰っていくのであった




