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瞳を見るとBURST HEAT! VS世紀末格闘少女リズと不思議の格ゲー魔法世界  作者: 綾町うずら
序章 導入:追われた日常 行き止まりの向こう側
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第2話 不可解な遭遇 あの日の影


 ・・・

直接対戦要求ダイナミックエントリー(ダイナミックエントリー)・・ね」


直接対戦要求ダイナミックエントリーっていうのはこのゲームで

戦う相手を直接指名して勝負を申しこむ形式のプレイヤー間のやり取りだ


今私がいるこの場所は星が見えている空き地に文字の羅列ばかりで

何もない殺風景な場所に見えるけど

実際にはフリーのプレイヤーがたむろしている待合室のようなもので 

確かにやり取りをすればフリーで戦うことはできるにはできるけど

前線でリーグで戦う人たちの規模と比べると

そんなことをする人間は本当にまばらだ


だってどうせ戦うなら目の前の賞金の出るリーグに入って

アカウントを動かしたほうが断然 金銭面で合理的なんだもの



フリーならほぼ無料で勝負できるっていうけど


オリジンの底辺である追放リーグなんかで浸っている人は

もう脳が焼かれてしまっているどうしようもない人たちなので

勝負で何かを賭けないともう脳が興奮できないんだ


まあこんな掃きだめみたいな所でもゲーム人口だけはすごいから

それなりにフリー試合も発生しているけどね


やるとして休憩中に余興で軽く遊んだり

気が向いたらプレイヤーの小手調べに何回かしてみるかどうかっていうレベル


さしづめ物好きの暇人プレイヤーの休憩のついで辺りに

ちょうどよく私は選ばれたってところだろうか


・・

(まあ・・ 今わたしも暇人になったから別にいいけどね)


そう思ったリズは 

ゲームを仕掛けてきた相手のアカウントをちらりと確かめる

画面は少しぶれた後に切り替わった


「「ヴイン」」


「( 、、人形・・?)」

その対戦アカウントで正面に表示された人物像アバターは一見、

人間ではない突っ立った案山子のような姿をしていて

まるでプログラムの不具合エラーでできたような

顔の情報が一切設定されていない不気味な雰囲気のアバターであった


そしてその変な人形と一緒に気になったのが

その画面の人形の端の方に追いやられて小さく映った

なにこれ ミニデビル・・?


その姿は頭に小さい角と肩のあたりにそういうデビルっぽい羽のある、

黒っぽい悪魔の小さい子供のような見たことのないキャラモデルの姿だった


「  」

その小さな姿はまるで

この場所をひっそりとつぶらな子供の目で覗き見でもしているような

そっと何かを囁いてこようとしているように見えないこともない

まあ言ってはこないけど


そんな一見は風変わりな姿をした相手プレイヤーだったけれど

だけどここではそんな外見は全然あてにならない


可憐な女の子の見た目のモニター表示で

その中身は屈強なオジサンゲーマーでしたという例は山ほどもある


見た目のことは少し気になったけど

そんなことよりも


「ん・・?」

ピピピ・・

(30連勝・・)

このプレイヤー・・オリジンで今30連勝中のプレイヤー・・?


(普通じゃない・・、)

ここで30連勝中のゲーマーがわざわざフリー部屋で連勝0になった私に?

まあさっきまで私もそれなりに連勝はしていたから

もしかしたらそれを見ていたっていうことなのかもしれないけど・・


だけど私が気になったのは そこより違うところにあった



「プレイヤー名・・hustler(ハスラー) kid(キッド)・・?」


・・・

「ハスラーキッド」は

この対戦ゲーム「オリジン」の界隈の最上位に彗星のごとく現れた

伝説的史上最強のプレイヤーだといわれていた


私がいる場所のような、ろくでもない端っこの界隈のリーグではなく


「ワールドプレミアムリーグ」という 

このオリジンの世界の由緒ある最高のトップリーグで

それまで隠し通されていたはずの怪人の性能の引き出して意のままに動かし

名だたる強プレイヤーを破滅させ続けたのち 

未だになおレート上でその頂点に君臨し続けているオリジンの孤高の存在


それゆえにハスラーキッドを(かた)る質の低い偽物プレイヤーも

無数に存在するし、

ここでもそういうプレイヤーはたくさん見てきた



いつもなら何とも思わなかったけど

今その画面に浮かんできた名前だけには

何故か私の中で妙に引っかかっていたものがあった


・・・・

・・

記憶が(さかのぼ)


私の中でいつかのあの日にいたはずの少年の影


光が差しのぼっていく


木漏れ日の路肩に止まっている、

車高は高く見えた、棺の様な黒塗りの車の扉

そこに乗り込こんでいく前の後ろ姿の背中


確か私が8歳くらいの時だ そんなに昔の頃の記憶だけど覚えている

でも自分ではちゃんと憶えていたつもりだったけど

小さい頃の記憶だから

もう忘れてしまっていたのだろうか


その時の私の記憶のその少年の姿は 

いつの間にかもう影がかかってしまったように曖昧になっていた


・・

少年とは言ったけど

当時の私も幼かったというだけで普通に彼は年上だった


当時の小さかった私からすると年上の彼らはもう十分大人に見えたけど

今思うと彼は謎の多い少年だった


「 よお リズ 」


「・・!」

今までいなかったのに

気がついたらたまに目の前にパッと現れてるみたいな、不思議な少年だった


その時は彼は私とは違って時期の違う年長組だったから

今頃は成長して 

あの時とは姿もだいぶ変わっているはずだ


・・

私たちが囲われていた研究組織「ロストオリジ」

いくつもの国に分かれた拠点を持ち、多くの独自研究分野をかかえていたが

そこは人間が持つ潜在的な力

特に人間の子供の幼少期の脳が秘める力に最大の重点をおいて研究していた施設


私たちはいわゆるそういう子供たちだったが

当時から私とは違ってその少年はその子供たちの中で

最上といっていい才能をもって目覚めた子供だった


彼は当時からオリジンの操作に関する能力の観測可能な限界値が未知数であり

外部に明らかにした能力だけでも

シュミレートで最高レベルに設定したオリジンの怪人たちの持つ技に対して

瞬時にその全てに完全な対応し勝利してみせたという

オリジンのプレイヤーとして他に例を見ない才覚を持ち

おそらくは本人の潜在スペック的にも

人間の肉体に持てる脳の性能の最終到達点である、と評価されていた



まだ組織によるランク付けが確定していなかった頃に

一緒に訓練を受けていて 

本当にたまにだけだったけどオリジンの機材置き場で会った時に

遊んでもらったこともある


彼のオリジンでの脳神経の反応速度は常に超越した異常数値域を記録して

その数値は組織の試験体の子供たちの中でもかけ離れていて

突出して異端な存在だった


しかもそんな彼は年下で幼かった私にも 

その対戦のプレイ内容には手心とかはなく一切容赦がなかった


・・


「うははは!リズ~また俺の勝ちだな」

「きい~」

才能を持つ彼に理不尽に対戦で負けて悔しかった私は 

負けず嫌いの気質もあって よくあたり散らしたものだった


でも本当は対抗心とか

誰より優れていたからとかじゃない


私はどうしても気に入らなかったんだ

その嘘みたいに完璧な戦いぶりが


私がどんなにしつこい手、時には卑怯な手を使っても一切通用しない



結局私は彼に一度も勝てなかったのであった



彼の名前はクルード

そうみんなから呼ばれていた


「あらまた!」

彼は組織の研究員からはよく監視が付けられて異端児扱いされていたけど 

私たちの前ではどう見ても普通の年相応の少年だった


そのクルードの大人げない様子に 他の年長組の奇麗だったお姉さんも

「教育によくないでしょ」

とかいって

少年クルードの頭を軽く叩いたりしていた


私たちの間では最高性能の脳みそが入っていても

クルードはいつもその頭が上がらないので

その年上のお姉さんが一番強いことになっていた


・・

当時はクルードの他にも年長組の子供は何人もいて

その年長組の世代から私たちまでの下の世代は

みんなが兄弟のようなものだといわれていた


それは私たちがとある一定の特殊な遺伝子コード識別に似た遺伝子や

それに近いパターンレスを持っているなど共通した特徴をもって

この施設に集められた研究対象の子供たちだからであり


施設内で年長組といわれていたグループは

まだ幼い私やリコやエレネなどの 後発の年少組である私たちに

本当の兄弟のようにお兄さんやお姉さんとして面倒を見てくれて

施設の中の箱庭で遊んでくれたり良く接してくれていた


私たちは隔離されて世間のことは知らなかったけれど

みんなそういう疑似的なつながりの中にあって

それは世間では普通じゃないのかもしれないけど

それなりに私たちは施設での日々を不自由なく暮らしていたような気がする



その時は・・

そんな世界がずっと続いていくと思っていた


・・・

そんなある日

とある臨床実験の合間


厳重な施設の薄暗い廊下の先に

そこだけ看板に何も書かれていない、

ポツンと奥まった場所にある機材置き場の部屋

施設の特殊な電子機材から放たれる妖しい光が浮かぶ画面の前


「  」

(画面の怪人が放った技の光が集中してから途切れていく)


勝手に消灯した暗い部屋に入り込んでオリジンで個人特訓をしていたリズ


(カチ・・、カチャ・・)

実験でもオリジンを長時間うんざりするほど操作するので

消灯中までのめり込むような子はなかなかいない


「  」

でもここにいると一人なんだけど

いつも不思議と誰かと遊んでいるような妙な感覚があったんだ


・・

「・・・?」

(遺伝子識別コード「最終的な人間」・・?)


最初にこの部屋にやってきたとき

前の臨床実験のデータでも残っていたのだろうか

画面に見慣れない少しの文字が残っていたけど それはすぐに消えたので

自分のカードを袋から持ち出して起動する


私はよくこの場所にやってきて

強くなれるようにイヴを使って

NPCコンピューターAI相手に練習していた


だけど他のみんなとは違って 私には全然才能がない

私は能力にムラが大きくて

気分がのっている時しかあまり能力が好調ではないし

他の子たちよりも能力自体も劣っていて なかなかうまくなれなかった


イヴは操作をミスするとすぐに火力が下がったり

暴走を引き起こしてしまったりして扱いがとても難しい

そんなキャラをかたくなにずっと使っているというのもあった


・・

「はあ・・」

(AIにもうまく勝てないなんて・・)


うまくいかず暗い部屋で一人で座ってため息をついていたリズ


・・

そこに別棟からの実験後の帰りなのか 

珍しくその部屋の近くにクルードの影がパッと現れて

廊下から通りがかりに顔を見せてきて部屋の中にいた私に声をかけた


(カラン・・)

「リズ、なのか・・?」


起動画面以外の明かりをつけていなかったため

どうやら向こうからははっきりと私の姿は見えにくかったらしい


クルードの眼の光が

リズの方から見た部屋の入り口の暗闇に浮いていて

その時開いた部屋の入り口の扉から一本の道のように廊下の照明の光が

リズのところにまで差し込んでくる


これは思わぬ練習台だ

リベンジの機会にもなる そう思って 

リズも少し元気を取り戻して声をかけるけど



「リズ この部屋にはあまり長い間、いない方がいい」


「え・・?うん」


少しだけ冷や水を浴びせられたようになる


クルードはリズのいる部屋の中に入ってきて今度はパッと部屋の明かりをつける

暗かった部屋は全体が一気に明るくなった


(ああ・・、集中して電気つけてなかったなあ

暗い中ずっとゲームしてると目が悪くなるといけないし)


そう思って少し反省する


・・

クルードはそのまま近づいてきて

リズがそれまで起動していた画面を覗いてくる


そこには私がさっきAIの怪人に負けたばかりのオリジンの電子画面が映っていた


「・・なかなか勝てないの」


「それでここで練習してたのか・・?

ああ、こいつか・・、お前これ間違えてるだろ 最高レベル設定じゃねえか

ちょっと貸してみろ」


クルードは私のところから勝手にコントローラーを持っていくと


(カチャカチャ・・)


「・・こいつはただのAIじゃない


だが完璧に見えてまだまだ不完全なんだ

AIは機械だが こいつには癖みたいなものがある・・ 」


クルードはそういうと


「よく見ておけ リズ  こいつらとの勝負が分かれるのは一瞬だ  」ス・・


(コオオオ・・)

その瞬間だけ目の前の世界が変化する


何もない暗闇の端からまるで相手と自分のお互いが

遠くからやってきてすれ違う白黒の別々の電車の中にいるように

すごいスピードで一瞬だけお互いの姿が見えるところまで近づく


「「ズギャアアン!」」


「え・・!」


そのあっという間に流れるような交錯が終わると

リズが苦戦していたAIの怪人はもう倒されてしまっていた


「危なかったが、こんな感じだな」

「ええ」


こんな感じって言われても

あんまりにも早すぎて参考にもならないという

目が全然追いつかない


危なかったっていうけど、

私の目にはお互いが重なって見えただけでそれもよく分からなかった


そしてもうコントローラーを返してくる

「っ!」

それを必死でリズは止める


「まだそっち側は持ってて、今からわたしと対戦・・」




「だめだ 次の実験が控えてる すぐ移動だ」


「あっ、そう・・」


クルードから生み出される神経系統の脳波の最新データは

人間の脳の持つ可能性を探っている組織の研究員にとってとても貴重で

消灯中であるはずの今もクルードはずっと重要な研究のひっぱりだこだった

そのため最近はあまり姿を見せることはなかった


「相手はしてやれないが そうだ リズ

俺たちのクランに入ってみないか」


そんな忙しいクルードはまた近づいてきて 

横からスッと腕を出して

今度は私のオリジンのメニュー画面をいじってきた


・・

言われるがままにされている私


(・・・)

顔が近くまでやってくると横顔からのクルードの目が覗ける

クルードの瞳の色は夜空の星を集めて映したような奇麗な黄金色だった


実験施設出身の子供は特定の色素パターンの変化や脱色などの影響が

目の色や体の一部に出ることがあって特徴的な発色していることが多い

私や他の子どもたちの瞳の色も通常ではない、それぞれで違う色をしていた



「・・クルードのクラン?」


「そうだぜ 作ったんだよ」


よく分からなかったので尋ねると

オリジンの機能の中にはクランっていう集まりというか

オリジンのアカウントのメンバーで集まれるようになっていた


「大人の人に作れって言われたの?」


「いやちがう 俺が勝手に作った

俺たち この施設出身の子供だけの集まりだ」


「いいなあそれ・・ 私も入っていいの?」


「ああ」


電子メニューをいじると「ロストオリジ連合」っていう

最近設立したばかりの適当な名前に適当な造りの簡潔な初期クランがあって

もうその中にはすでにクルードをはじめ 

よく遊んでくれた施設のお姉さんたちのアカウントもたくさんいた


そのみんなの集まりの輪の中に入れるのかと思うと 

誘われた私はちょっとうれしくなっていたのだった



「なにこれ 「 Hustler(ハスラー) kid(キッド) 」・・?」


それはクルードが操作していたアカウントのニックネームで

二つ名のような別名の読み方の名前だった


「へへ ちょっとかっこいいだろ

俺の裏のコードネームにするんだ

今はただの「薄汚ねえ勝負師気取りのガキ」だけどな」


(・・・)

「ふーん 変な名前」


・・

手続きはあっという間に済んで


「わあ・・!」

クルードは加入した私のアカウントに、

少しクランの上位権限などを適当にちょいちょいと加えて

他の年少組の子たちを後からリズのアカウントで加入申請できるようにしてくれた


その時、少し私のゲームの戦績画面を見てから

クルードは気が付いたように


「ん・・?お前・・このAIに勝ったのか?」

「え・・?うん 

100回に1回くらい、その時にね、誰にも負けないっていう気分の時があるの」


「!そうか・・」



「リズ お前は一途だからな ・・いつか目覚めるかもしれない 」


「・・?」


ただ クルードは画面の横で残りの作業の手を動かしながら


「 リズ・・ 俺たちのような「コード」を持つ人間に与えられた世界は

普通の人間と同じ世界ではない


そして俺達にはもうあまり残された時間はない」



「え・・?」


クルードの横顔はチカチカと光る画面の方を向いたまま



「・・もうすぐ俺たちの年長組は

組織による能力のランク付けが確定する


ランク付けが済めばここは卒業だ もうここにいることはできない

ここにいる人間はどうあっても はなれ離れだ


そして俺たちは仕事や任務でしか このオリジンには触れなくなるだろう


お前もいずれそうなる


だがそれでも この画面だけには かつてここにいたやつらがいる

そういう証を残したかった


遠くに過ぎていった星もいつかはまた巡ってくる時が来る


それが俺たちにとって気休めだったとしても・・」


・・・

作業が済むとすぐ

今いる部屋に召集のベルが鳴って


「「 コードCL100D2、休憩は終わりだ 何をしている至急持ち場に戻るんだ 」」

「・・!」


リズを部屋に残して

クルードは組織の研究員にすぐ呼ばれて 離れていってしまった


また一人ポツンと残されたリズ


「クルード・・」


・・・

それから何日か経ってすぐ、

組織の年長組の子供たちの能力の正式なランク付けが決まったと聞いた


判定ランクによってさらに対応した育成機関に出向するように振り分けられて

クルードが私に言った通りにみんな はなれ離れになった


「俺たちは先に行っている」


クルードはその卓越した能力から

他の誰とも違う組織の最高機密のランクに振り分けられて

遠く離れた外国の研究機関に行くことになり

私たちの元から離れていった


「じゃあな リズ」


それがリズが見た

あの出向車の開いた分厚いドアの横に立っていた最後の彼の姿だった


その少年は散歩にでも行くように

あまりにもパッと簡単に去っていったので勘違いしそうだったけど


私たちに今まで優しくしてくれた年長組のお姉さんたちが

少し寂しそうに見送りの私たちの頭を撫でて去っていって

その日から私たちのいつもの箱庭に誰もこなくなったとき 


私ははじめて

この施設で生きていく私たちの行く先のことを自覚したのだった



・・・

それから やがて時は流れて


リズたちも年長組になり 組織によるランク付けが決定した


あれからたくさん努力もした

だけど私はやっぱり「下級ランク」判定だった


周りの子はちらほら中級ランク判定だったり

あの上級ランクに選定された子もいてすごく喜んでいた


能力のランクが分かれると育成機関は別なので当然別れることになる


ランクが分かれてリズが見知った施設の子の仲間たちは

みんな離ればなれになった


判定ランクが変われば 

その子たちのその先の将来の仕事も大きく別のものになると聞いた

そして能力の成長期を過ぎて一度決まったランク判定が覆ることは滅多にない


離れていったその子たちが

私と同じ場所で関わることは おそらくもうないんだろう


・・

リズと同じ下級ランクで一緒の子もいたけど 

だいたいは離ればなれとなり


下級ランク相応の育成機関に振り分けられたけど 

その待遇は研究施設にいた頃よりめっきり落ちて


リズにとって厳しい下級ランク待遇の過酷な生活が始まった


・・

それを何とか乗り越えても

下級ランク判定の私のその先は


ろくでもない派遣先でただ賞金ノルマを稼ぎ続けるために

昼夜最底辺のリーグで戦わされて、

ただただ生活のために食いつないでいくためのオリジン


私と同じランク出身の子には

そんな生活に耐えられなかったり

途中で自分が世間の他の人たちとは違うと気が付いて

精神や体を壊してしまった子もいた


・・・



元々オリジンはゲーム起動プログラムとしてデザインされていたが

人間のセンスによって生み出されたゲームではなかったために

人が操作をしやすく感じられるようなアップデートがまだ充実しておらず

当初は純粋なゲームとしての人気はあまり広まってはいなかった


しかし各国の研究者視点では

そのプログラムが秘めたるエネルギーのシュミレート性能と凡庸性の高さから

裏では度々ゲームとは別用途で利用されており


高度に発達した近代電子機械戦争で利用されることを想定した、

私たちのような人間の脳神経系統の研究実験や

高度電子戦に対応できる専用の人材の育成計画など

密かな軍事目的や研究用途で利用するために導入されることがあった



その当時・・

人々が夜になって眠る時にずっと脳内に真っ黒な夢を見るようになり

目や耳などの感覚器にも異常を及ぼし、症状がひどくなると

自分が誰かも分からなくなり人間性の喪失にもつながってしまう

人間だけがかかる謎のストレス性の奇病が

貧富を問わず世界中の国で大流行して重大な問題となっていた


だがそこで当初からすでにオリジンが国民に人気があった新興小国や

組織で研究対象にされていた子供たちは

その奇病には全く発病していないことを突き止めたことで

オリジンに対する世界の見方が変わっていく


各国による奇病の研究がなされ

そのゲームを数時間プレイした後は

人間の脳に抱えるストレスの大半が中和されて消えて凶暴性が低くなり

精神が安定し、さらに奇病への耐性が獲得できるという触れ込みが世界中で広がり

それが確かな治験データとして公表されてからは

奇病への治療予防機器としても広く需要が爆発すると


それに伴って同時期から群発し始めた初期型の通信都市

これはハイコストな建造費で超大容量の電子データネットワークを供給するという

電子構想の元で生まれた機能性の高い開拓都市が栄えだし

人々がゲームに触れる設備環境が整うにつれて

その中心にあった対戦ゲームオリジンは人々の心を次第に虜にしていき

その人気の規模は加速度的に世界中を巻き込んでいっていた



人類のシンギュラリティ研究の偶発から生まれたオリジンは

電子通信業界をになう覇権となり

常時大きな資金が動く世界の一大産業となり

それからはなぜか世界から戦争などの大規模な争いが滅多になくなっていき


そしてある日突然終結を宣言した大国間の戦争を境に

とうとう小規模な小競り合いを除いて世界から戦争が消えた


人は常に争いを起こしていたが

現実世界で戦うことにはもう疲れてしまっていたのだ



代わりに国同士の紛争や

人々の抑圧された闘争本能や激情は

仮想の世界となったゲームの中へと移り込んでいった


戦争では大国間の科学技術が進んで長期化した戦いで

都市は破壊されて文明は困窮し、落としどころを失い

それでなお

痛みの果てに国同士の問題に決着がつくことは滅多になかったが


オリジンの電子の世界でならば

少なくとも勝負には必ず決着がついた



その急激な移り変わりの影響力は


かつては軍事産業にオリジンを導入していた研究組織ロストオリジでも

世界から争いごとが急激に減って全く採算が取れなくなった軍事部門を廃止し

積み上げたそれまでの研究技術のノウハウで

完全に対オリジンに特化する方針に舵を切ったほどだった


・・


そうして程なくして

人類の研究の長年の悲願であったシンギュラリティへの到達


それはありとあらゆる危機管理条項の批准、平和的利用、

悪用や反乱の徹底的な防止策などが施された人による完全制御下の元で

光子学リマスターコンピュータによる到達が観測された

「ウィザード・シンギュラリティ新技術革命宣言」による

新たな時代の幕開けの宣言によってその知らせが世界中に駆け巡った



時代に取り残されたような厳しいリズの生活の横で

その超越した性能に「真の魔法使い」を意味するウィザードの名がつけられた、

最新シンギュラリティの技術によって人類により一層の技術革新がもたらされ

次々と「大通信都市」といわれる、より近未来的で大規模な

新しい新興通信都市が開発されていき


その富によって成り上がった時の権力者たちが生まれては

オリジンで財産とあらゆるものを賭けて戦い

その勝負で負けて身を滅ぼして嘲笑われながら消えていく


かと思えば

勝負に勝利してさらなる巨万の富と権力を手に入れる者も現れていた


そうして成り上がった権力者たちは

オリジンの世界が滅びる前にあったとされる、

設定上の古い文明の言葉のデータから引用して

「強欲な一族」という意味の言葉で「グリゴルン」と呼ばれだし


オリジンによってもたらされた最高の世界では

賭けられない物、勝負で手に入れられないものは存在しないと言われ


時の権力者(グリゴルン)たちが闘いにしのぎを削り 

賭けに勝利した、より強い者こそが

時代の勝利者として全てを得ることができるようになった


が しかしそれは己の力を確信させ

権力者(グリゴルン)へと生まれ変わった者たちの際限のない欲望を加速させた


彼らが戦いを望むほど 

何故か彼らが操るオリジンの怪人たちの力は増していき

最終的に誰もその欲望を止めることができなくなったグリゴルンたちは

前時代から裏で密かに隠し持っていた超兵器の存在を公表し

ゲームの中に収まりかけていた現実世界での争いを再び引き合いに出し

その争いが一度始まってしまえば

人類の技術がシンギュラリティを経た今

それは破滅的なものになるだろうと予測がなされていた



世界がそんなさなかにあった時くらいであろうか




世界がそんなことになって周りが終末の前夜だとうるさく騒いでいても

ただ何もできることなどあるはずのないリズは

いつもの光る画面に向かっていた時だった

・・


「   」

あの日のオリジンの様子は変わっていた


といってもそれは

いつもあったオリジンの背景の星空の色が変わっていただけだったんだけど


(  )

その星空を

あの時の記憶の影の怪人がピューンと飛んでいく



「あれ この名前・・」


今まで世に出ることは一度もなかった超越した異端の才を持っていた少年が

あの時呟いていた変な名前


「 Hustler(ハスラー) kid(キッド) 」


あの日 星空からやってきたその怪人は

欲望と闘争の渦巻くオリジンに生まれた地獄のような最上の世界で

誰も止めることができなかった狂える時の権力者たちの

名だたる強アカウントたちの怪物をなぎ倒していった


そしてその全てを奪い取りながら

そこから何かを取り戻すように次々と押し寄せる敵に対しても

誰もよせつけない容赦ない圧倒的な力をただ(ふる)い続けた



そうして戦いは終わった


それは嘘のようにあっけないもので



その後なぜか保有していた隠し兵器や財産の全てを捨て値でオリジンの運営に

売却・没収されてしまっていた幾多のグリゴルンたちは地に落ちて

世界の危機は去り

その日からは良くも悪くもオリジンには元のようなゲームの秩序が戻ったのだった



(・・・)


あの時世界を救った彼は彼だったのだろうか

あの日見た少年の影



「もう少し・・頑張るかあ」



・・・・

・・・

・・

(直接対戦要求・・)


その名を持つアカウントプレイヤーからのリズへの対戦要求


「ねえ・・リコ 変なのがきたんだけど

これどう思う?」


「・・?見せてよ」

リコは隣から椅子ごとグワーっと寄せてくる


「・・・あのハスラーキッド? 普通に考えて偽物よね

だって彼はもうずっと表には姿を見せてなかったじゃない

それにまずこんな底辺リーグにいるはずがないもの」


「やっぱそう思うよね」


そう そのプレイヤーハスラーキッドは

あの伝説的な戦いが起こった日からは

オリジンでの活動はほとんど途絶えてしまっていて

最近では彼はまだ存在しているのか、その消息すらもが分かっていない

・・


「でも30連勝・・ここの持ち場とはいえ実力はあるのかしら

ていうか30連勝もしてたら賞金ボーナスつくから

ますますフリー部屋でやる理由がないわね


リズ ちょっとこっちのアカウント情報のボタンおして」


「了解」

リズが指でカチリとボタンを押して画面が切り替わり

(シュイン)

アカウントから伝って相手の情報詳細が少しだけ見れるようになって

その文字を目で追っていく


「んー なんか文字がかすれてて読みにくいけど・・

やっぱ偽物ね 本物のハスラーキッドは

あの影シルエットの秘密コードキャラの使用率がほぼ100%だったけど 

こっちは全然ふつうだし


それによく見たらこれ違うじゃない

オリジンのアカウントのHustler kidのつづりの最初の文字が

hで小文字じゃないの ぜんぜん別人よ」


(・・・)

( 「 hustler kid 」・・ )

確かによくみるとそうであった


「あーそっかあ そうだね偽物だわ」


すると

「(bbbbb・・!)」


だいぶ始めに出されていた直接対戦要求から時間がかかっているせいか

オリジンには人が多く来るようになってから

簡素なチャットの機能も導入されているんだけど 

そこから適当な記号が流されてきて

画面の案山子みたいな顔なしの対戦相手からまるで催促されているようにみえた


「・・なんか小物臭まででてきたなあ 

 うん・・偽物か」


「リズったら・・、相手が本物だったら

負けたら全財産どころか()()()()()()()()()っていう話よ


偽物くらいがちょうどいいのよ」


かつてオリジン最上位の世界で「ハスラーキッド」に挑んだグリゴルンは

全てを奪われて破滅した上に 欲望にかられた魂まで取られてしまったから

もう二度と立ち直れないのだ、という噂を少し耳にしたことがある

・・


「とはいえ まあいいんじゃないの?

実力はありそうだからリズの練習相手にはなるんじゃない?」


「それもそうね」


納得したリズはやってきた直接対戦要求ダイナミックエントリーに対して了承した

(カチリ)

指がボタンを押した瞬間 ビビっと電気が走ったような感覚がした


その時


「「   」」



「・・・・?」


「(ザワ・・)」

(部屋の中なのに 少し風が吹いてる・・?)

閉め切っているはずの部屋の中の環境に

リズはわずかな違和感を感じる


「リコ・・?」「 」

隣のリコはなにか虚空を見つめているようにそこで止まっていた

(え・・?)

なにかがおかしい


ロード中と表示されているオリジンの起動画面の文字は いつもと違い

白いランプがチラチラと不規則に点滅していた

(これは・・・故障?)



「まあ・・いいけどね」


今はその異様さよりも私は優先することを決めていた


今の私はもし私の後ろで火事が起こってチラチラと炎が迫っていたとしても

そうしていただろうと思う


長らく仕事でこのゲームの箱部屋に閉じ込められて

煮え切らない感情を持て余していた私の戦闘気質も猛っていたのかもしれない


追放リーグ


ここでの仕事では質の悪い相手に対して

お金のためにとにかく数をこなすことが求められた


安定して稼ぎを得るためには

明らかに強い相手は絶対に避けてなるべく戦わないように

ずっとリズは上の人間に厳しく言われ続けてきた



見放された人間であるお前たちがここで食いつないでいくには

そうすることが当然なんだって


(・・・)


だけどこうしてやってきたこのリーグでは滅多にお目にかかれない強敵

それに今はお金は関係ない勝負


画面には少しやる気の私の淡い目の光がゆらゆらと映っていて

わたしは感覚に従って 

その画面に今は集中することにする



・・・・

・・・


「ズズズズ・・!」

対戦相手はオリジンの怪人「魔人化ドラゴンロードマン」を選択しており


荒廃したオリジンの地上世界の向こう側から

その周囲一帯に縦に幾千もの電流が裂けるように始まり

強い闇の魔力エネルギーで画面上を侵食するようにしてその姿がじわりと現れた



「「 地獄(ジゴク)()トシテヤル・・」」


この怪人が現れた時に高頻度でなげかけてくる言葉

オリジンのキャラたちはおぞましい見た目も相まって

普通に怖いことを言ってくる


それはいつもの仕様のはず・・

なんだけどなんだか普段よりいやに耳ざわりで低く響いてくるような


現れたそのオリジンの怪人は髑髏のような頭蓋と 

ドラゴンと人間が混じった様な邪悪で屈強な造形で牙をむいていた


殺戮と破壊を好み

常に血に飢えているように残忍にして残虐な性質で

その異常な強い魔力エネルギーで地上世界を荒らしている戦闘狂の怪物



「(違うわね・・)」


やはり・・というべきか 

ハスラーキッドが使うと言われている

秘密コードの影のかかった隠しキャラではない


そのプレイヤーは使用率も99.9%

ほぼ純粋に魔人化ドラゴンロードマンしか使っておらず

隠しコードの怪人を使ったような形跡もなかった

ただそのデータを見た時

妙に羅列が込み入っていた上に文字の形の一部が

ぐにゃりと変形しているものがあって

その情報には妙な違和感を覚えて本当に正確なものだったのかは分からない


ほんの少しだけ

私は相手がクルードなんじゃないかと期待していたんだけど・・


しかし魔人化ドラゴンロードマンは

熟練者が使うとされている怪人で けっこう操作に癖がある


とはいえ 私が使うイヴもそうなんだけど・・


イヴは本当は「イヴ・バスタードツイン・デストロス」っていう

かなりいかつい名前をしている


「破滅の右腕」という悪魔じみたパワーの装甲の右腕を持っていて

癖があって攻撃能力と破壊力に偏った性能をしている



「でも君なら・・いいのかしらね?」

私は大味にいくことにしていた 


けして舐めたプレイってわけじゃない


ただ、このなにくわない顔で

この下級の追放リーグにやってきた自称、

伝説のプレイヤー「ハスラーキッド」に

まるで交通事故のようにドカンとぶつけてやろうと思っただけだ


・・・・

・・

「「  」」

集中していた目の前の光る画面が僅かに白黒に切り替わって

その戦闘は開始された気がした


( Fight(ファイト)・・ ! )


「(カカカッ・・カカ)」

私は最速でイヴのコマンドを開始する

私の入力は一見めちゃくちゃにやっているけれど操作は全てつながっている


「ズズ・・オ・・!」

機械仕立てと瞬間強化で一気に肥大化したイヴの右腕に

ありったけの闇の邪悪なエネルギーを即集中させた


「  」

そして相手の反応を見る


まだ動かない

(対策は・・してこない?)


(上位のナメプってやつ・・?)

「まあ・・かまわないけどね」


また一気にリズは入力を済ませる

画面のイヴは一度どんよりとした灰色の異次元の上空にジャンプで跳躍してから

そこから最短距離で弾き出すように


「ゴオオオ!」

翼からエネルギーを放出して 対戦相手に飛び掛かって襲い掛かる


その時 イヴと相対する魔人化ドラゴンロードマンの構えた腕に

一気にエネルギーが送り込まれ 

力が膨張して超強化が行われたのがわかった


(動いた・・!)


「バシュウウウ・・!」

異形の魔人化ドラゴンロードマンの背中の各部から突き出た、

特徴的でいびつな形の噴出口から大量のエネルギーが噴出され

そのまま正面に突進してイヴを向かえうつ体勢をとっている


(対応スピードがはやい・・!

でも先にここまで準備した 

イヴの偏向攻撃を抜けるキャラクターはいないはず・・!)


「ゴゴゴ・・!」

この強化状態になったイヴの攻撃を受けることは

基本的に「オリジン」において愚策だとされている


だけど距離をとるか 受け流すか 

強力ではあるけど 

イヴの強化状態は繊細でもあるため動作を強制キャンセルさせるか、

などいろいろ対策がある


(だけど正面からなんて・・!)



「いいわ・・全部 吹き飛んでしまえ」


(ギュオオオオ・・!)

ためきった無遠慮のイヴの破壊のエネルギーを

そのまま対戦相手に上から一気に叩きつける


((  ))

すると対になった相手の強化されたドラゴンの鱗の腕の中に

渦を巻く危険な魔力エネルギーとは別に

なにか小さい白い光が微かに混じっているのが一瞬見えたのだった


その白い光が近づいたイヴの体の前にパッと分かれて広がって

イヴのところにやってくるのが見える


「(ポウ・・」


(え・・何これ?こんな技知らな・・)

でもその何かの光がイヴの体に触れる前


「ズアアアアア!」

それよりも先に

一気にこちら側のイヴの超エネルギーが解き放たれて放出される


その瞬間 エネルギー同士はぶつかり爆発する



「「ズドオオオオオン!」」


それはものすごい衝撃波を(ともな)うもので 

イヴは強化状態が崩壊しながら後ろにはじき出されて 

少なくないダメージをくらっていたが


「ズシュウウウ・・・プスプス・・」

対戦相手のドラゴンロードマンの方は攻撃が直撃して画面端まで吹き飛んでいて

強化状態も崩れ去って もっと大ダメージをくらっていたようだった


・・・

・・


(ふう ちょっとすっきりしたかも・・)


そんな無秩序に荒れて

そこらじゅうが見事に滅茶苦茶になった対戦画面を見ていたリズ


「だけどC(チャージ)ジャンプをいれただけのイヴの攻撃をまともに食らうなんて

ちょっとありえないわね ・・やっぱりこれは偽物ね」


その時


「ジジ・・」

ほんの少しのノイズのような間を置いてから


オリジンの相手側の簡素なチャットから

リズに対して点滅しながら光の文字が流れてきた



「メチャクチャダ 時間ガナイ 後モウ 少シダケ 」


「 モウ 動キ出シテイル 」



「・・え?」



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