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第118話 変貌する力

 ・・・

(ギュイーーン!)

ダンジョンの奥地に向かって

肩にミスラを乗せてコマンドダッシュの力で全力で駆けていくリズ


「!!」

途中で後ろが光った後に

大きな音が聞こえてきて

少しだけ後ろをはっと振り向くけど すぐに意識を前に切り替える


「(クロージュさん・・!)」


恐らくの予感だけど 後方では先生との戦闘が始まってしまった


(どうして・・、どうしてなの・・シュバルツ先生・・)



「 ボゴオオオオ!! 」


今度は前方の奥地でまた激しい火柱が上がる

場所が近づいたせいで炎の影は大きく見えていた

「っ・・!」



「早く・・!辿り着かないと・・!」


「リズ・・!前!」

「!」


リズの左肩に必死にしがみついているミスラから注意を受ける


その進路の先には進路を阻むように

おぞましい赤と紫色の混じった巨大なスライムの魔物がいた

前に弾け飛んでいたのと同じような巨大で凶暴な変異したような個体だった


「ギュウウルウ・・!」

その個体はこちらに気が付いて

体をいびつに変形させて攻撃態勢になって

リズを捕食しようと襲ってきていた


「あれは、アスラじゃないよ・・!」

「・・わかってるわ」


「 滅拳メギラ! 」


リズは走りながら一気に襲ってきたスライムに向かって近づくと

右腕から滅拳を発動させて


「バギャオオオオン!!」

変異スライムの巨体は一撃で弾けて広範囲に飛散する


スライムを爆散させた後もリズは構わずペースを落とさずに突破する


突破するときに

そのはじけたスライムの肉塊を踏んだズルリとした感触がリズの足に伝わる


「(・・・)」


((その呪いに侵されてしまったアスラ君は

もしや

討伐が必要なほど危険な魔物になってしまったのではないのかな・・))


さっきの先生の低く響く声が

リズの意識を追いかけてくる


(アスラが・・あの子がこのスライムのように

もし変わってしまっていたら・・


私はどうしたらいいの 


もしあの子が見境なく襲ってきたら・・今の、こんな風に・・)


「リズ・・!集中して!」

ミスラから声がかかる


「!・・そうね!」


リズは意識をすぐ切り替える

(そうよ・・!アスラは強い子なのだから


そんな心配をしても無駄よ 今行くわ・・!!)


・・・・

・・・

「ギュウウウン!」


なおも走り続けて

目の前に霧がかった森のない広い土地に出てくる


目安にしてやってきた火柱は前回に上がった後からは

まったく上がらなくなっていた


「っ!!」

そこで気が付く


広い土地に出た先には霧がかかっていたけど


その先には  

・・先がなかった


( 止まって・・!!)

咄嗟にコマンドダッシュに急ブレーキをかける


「ズザザザザザザザ・・!!」


大量の土煙を巻き上げながらリズはなんとかギリギリで停止する


・・・・

(コオオ・・オオ・・)


そこは大きな崖の上の前であった


霧がかかっていたので見えにくかったけど

崖の前には小さい石でできた白い祠のようなものがあって


リズが停止をした白い祠の前の少し先は 大きな落差のある崖になっていて

霧が出ていると視界からそこが崖であると判断がつきにくかった


・・

「崖だね・・」

「そうね・・」

祠の方には怪しいけど特に何もなかったので

そこから数歩近づいてミスラと崖の下を覗き見る


(この下は・・霧で隠れていて見えない・・

音もしない・・ この先が最奥の隔離されたエリア・・!)


だけど・・


(どうしよう・・、私は空は飛べない

イヴの翼が使えればいいんだけど あれは

高度な闘いの中で覚醒して使えるようになる力で

普段使いはできないんだ・・


コマンドジャンプでもこの崖の深さが分からないから

目測が測れない・・)


だけど無理やりいけないわけじゃない


コマンドジャンプをしながらなんとか集中して地上に降りる直前で

適切に2段目のジャンプ起動や直前で地上にタイミングよく滅拳を噴かせれば

怪我をしない程度の衝撃に抑えられるかもしれない

こっちはあんまり自信がないけど

形成した魔法をクッションのように使うっていう手もある


(よし・・!)

私が意を決して崖から飛び降りようとしたとき


「リズ・・!私が下まで運べるよ・・!」

「ミスラ・・?」


ミスラが私の肩から得意の水魔法を発動する

すると

「ちゃぽりん・・」


(うわ・・)

ちょうどシャボン玉のような構造の大きな水の膜が

リズの周りを包みこんでリズは大きなシャボン玉に包まれた姿になる


「わあ・・すごいけどこれ・・途中で割れないわよね」

「うん、これならゆっくり降りれるよ」


「ありがとう ・・じゃあ行くわよ ミスラ、しっかりつかまっていて」

「うん・・!」


ミスラの光る水の膜を纏って

崖の淵に背筋をピンと伸ばして立つリズ

その先の崖の底は見えない


深呼吸をする


「(さすがに少し怖いけどっ・・!)」


(タッ・・!)


リズの姿はふわりとその小さい祠のある崖の上から姿を消した


・・・・

・・・

荒れ狂う大地

それは力を持つ魔法師同士が戦うダンジョンの一角


「 ピキャアアアン・・!! 」



「 この地はかつては

人を阻むもっと強固な古の悪魔の力によって覆い隠されていたのです


もう時は近づいている・・ 」



「「 超位魔法  鋭利なる氷結フロイズン・エンダバール  」」


「くっ・・!超位魔法 「「  切り刻む嵐爪 タービュランス・スランス  」」



「ズシシャアアアア!!!」


一度の術がぶつかり合い相殺するごとに 辺りの地形が変わるほどの

激しい力の応酬が2人の魔法師によって繰り広げられていた


目に蒼い魔力光を浮かばせて対峙して応戦するクロージュと

うっすらと赤い光を宿した目で

杖から強力な魔法を次々と繰り出すシュバルツ・ブラスト


・・

(う、うわああ・・!)

かなり後方の岩場の影に逃れていたネロにも

その余波がやってくる

「キィン・・!」

が、それは直前にクロージュさんがつけてくれた

背中の大きく形を変形させた精鋭骸骨人形によって守られる


「(ふう・・!)」

少しだけ安心する


(な、なんであの2人がこんなことに・・!


マギハちゃんのおじさんとクロージュさんがどうして・・!)


(・・・、だけどこれが本当の魔法師同士の戦い・・


あんなすごい魔法・・見たことないや・・

二人共とんでもない魔法使いなんだ・・!)


「・・っていけない

僕もなんとかしなくっちゃ・・!」


ネロがこの岩陰に離れる前に耳打ちをされたクロージュさんの声を

思い返す

・・・・・


((ぼうやも・・奥のリズの所に向かいなさい))

((え・・?))


((あの魔法レベル・・底が知れないわ

離れていてもここにいたらあなた達まで守りきれる保証がないの


それより奥で合流してあの子たちの助けになりなさい


岩陰についたらそのまま隠れながらゆっくり静かに後退してから

そこからあの子達が向かった奥地を目指しなさい

背中の人形があれば早く移動できるわ))


「は、はい・・!」


・・・・・・

急いでリズから投げ渡された本をリュックにしまって

腕にまだ気絶している妖精形態のキスラを抱えて 

岩陰からの後退を始めるネロ


リュックの背中についている守りの大きな髑髏人形は

地面に足をついてネロを支えてくれていてリュックの重さは感じない


そして移動して丘のような場所の影になるところまでやってきた


(ここまで下がればいいか・・)


「よし・・、ここからリズの所へ急いで走って・・」


(・・・)

背中の大きく形が変形している精鋭の骸骨人形を見る


「そういえば君ってそんな形だったっけ・・?

守護する時は形が変わるんだね

精鋭だっていってたしね

君がいれば早く移動ができるって言ってたけど

それはどういう・・ わっっ!」


しゃべっているネロに構わず 

リュックの背中に張り付いていた髑髏人形が

そのままグイっとリュックごとネロを担いで持ち上げる


「うわあ・・!」

(ドドド・・!)

そのまま荷物のようにすごいスピードで人形に運ばれていくネロ


「これって適当に走っているんじゃないよね・・!

もう少し右に行かないと岩にぶつかっちゃうよ

こっち、こっち!」


ネロが荷物につかまりながら指示をだすとその方向に走る髑髏人形


「ガッシャアア!!」


(コントロールできる・・!)


「よし!そのままだよ 僕たちもリズとアスラの所にいこう!

・・・うわああ!」


髑髏人形が勢いよくジャンプした段差で大きく揺れて

またリュックに必死にしがみつくネロであった



・・・・

・・・


ミスラのシャボン玉に包まれて

ゆっくりと だけど 少しづつ加速しながら崖を降りていくリズ


「あすら・・」

つぶやいて私の肩をキュッと握るミスラ


(もうすぐ霧が晴れる・・この先に・・)


「(ズス・・)」

そして隔離された奥地の空間に入り込んだ直後であった



「「 ボゴオオオオオオオ!!! 」」


「な!!」


大きな火柱がリズのシャボン玉の足元の少し離れた先から

上に突き抜けるように激しく押しあがっていっていた


その火柱は前に見たものよりも大きくて

しかも炎の中心色が白っぽく変わっていて光を帯びていた


「!!」

そして気が付く


私を覆っていたクロージュさんの守りのベールの表面が

僅かに赤く照らされて反応していた


「(呪いの力がきてる・・!結界のベールが反応しているんだわ・・!)」


だけどその反応はこの昇っていく火柱の中心に向かって

強く反応していた



(まさか・・、これが・・!)




「「「 ギュアアアアアアア・・!!!! 」」」



ものすごい高温のエネルギーが渦を巻く、

その炎はまるで悲鳴をあげているみたいだった


「あっ・・あああ・・!」

(ミスラ・・!)

ミスラが小さい手で掴んでいたリズの肩が痛いほど締め付けられる


リズはその炎の中心に向かって声を張り上げる


「アスラ・・!アスラなの・・?! 私よ! こたえて・・!!」


返事はない

ただ激しい炎の渦巻く音が辺りに鳴り響く



「(( ツヨ ク・・ ))」



(え・・・?)


炎柱が一段と盛り上がってその方向を変えた時

わずかな音鳴りの中に一瞬、そんな言葉の音が混じっていたのを

リズは感じた気がした


「ギュイイ・・イン・・!」


その時 昇っていった炎の渦が方向を変えた先で

ダンジョンの白い空に空間が開いて 

((ブオン・・))

真っ黒な大きな穴のゲートが現れる


「あれは・・!」


「グイン・・!!」

その現れた暗闇の穴のゲートの中に吸い寄せられるように

その炎の渦は一気に飛び込んでいく


(ああっ・・!)

「 まって・・!アスラ・・!!」



「「ズシュウウウ・・!!」」 ピシイ・・!ビシイ・・!!


炎の渦が全てゲートの穴の中に通った後

空間に強い力がかかった影響の激しい電流と大きな音を立てて

ゲートは渦のようになって

空間に空いた黒い穴はすぐに小さくなり その空間から消えてしまった



「っ・・・!」


「(アスラ・・!

・・また・・、・・あの子に追いつけなかった・・)」



リズは下っていくシャボン玉の水の膜の中から

呆然と炎が消えた空を見上げる


その時

「あ・・、だめ・・ごめん もたない・・」


肩から弱弱しいミスラの声が聞こえた

「え・・」


その瞬間


「・・パアン!」


「うええっ?!」


炎に煽られたミスラの水の魔法の集中が限界になって

魔法の水の膜が破裂する


「ああああ!」

その途端に重力落下が始まり、ものすごい勢いで崖下に落ちていく


「(え・・!そんな!もう谷底が・・!)」


崩れた体勢が整う前に

もう落下した地面がすぐそこに来ていた


(って・・何これ、ただの地面じゃない・・!

何かの大きな白い・・植物・・?!)


そういえば下は地面だとばかり思い込んでいて

飛び降りた先がまさかの水面だったり

危険な食虫植物の魔物の群生地だったりする可能性を考えていなかったリズ


(やば・・!)

その時は落ち着いていたつもりだったけど 

リズの直感に任せると どこか判断がやっぱり欠けていて迂闊だったらしい


咄嗟に肩のミスラを腕に移して胸の中で抱え込んで

そのままその謎の植物?の上に落ち込むリズの体



「 ボッスウ・・! 」


「・・・」


最悪、植物に食べられながらでも落ちた時だけクッションにはなれば

あとはイヴの力でなんとかしようと思っていたリズ


衝撃を逃せるようにしていたけど 思っていたより衝撃はなくて

すっぽりとリズの体はそこで受け止められていた


(これは・・)


上から落下してきた獲物に植物たちが襲いかかってくることはなくて


リズは上半身を起こして 手にとってそれをよく見ると

それは最初に思っていた植物でもなくて

すごく頑丈でフカフカした動物の白い毛?のようなものであった


腕の中のミスラの無事を確認する

「ミスラ・・、大丈夫? けがはない?」

「うん・・ごめんね・・リズ」

「いいのよ また私の肩にくっついておける?」

「うん・・」


あの時にアスラの悲鳴のような炎の気にあてられて

魔法の集中が維持できなくなるほど

ミスラはすごくショックを受けて意気を消沈してしまっていた


そんなしょんぼりしたミスラを肩にくっつけてリズはその場を立ち上がる

立ち上がるとズムっ・・と

リズのくるぶしまで足がその白い毛の中に食い込む


(これは・・なんなのかしら・・、 あっ・・!)


「!」

「(どおおん・・)」

立ち上がって視界が広がった少し先に

その物体は白い毛の上に大の字のようになってへばりついていた


「あれはアスラの饅頭マン・・!?」


(って・・いうことはここは・・!)


その時


「 ズ、グググググ・・・!! 」


リズの足元が揺れて急に傾斜ができる

立っていられなくなって足元の白い毛にしがみつく

(グワン・・!)

すると足場ごと視界がさらに一気に高くなる


そしてしゃがれたような大きな声がやってきたのだった



「「 ぬうう・・ やってくれおうるわい・・ 

い~・・いてて・・ ようやく去ったか・・

ぬう・・、虫がついておるわ 」」


「!」


すると揺れが少し落ち着いて リズの方に向かって下の方から

白い毛に黒い皮の巨大な獣?猿のような手がやってきた


大きな動作ではあったけど

ちょうどポリポリと指で肌をかくようにその大きな手を向けてくる


「ちょ、ちょっと・・!」

リズは掴んだ白い毛にぶら下がりながら

くるりと翻して躱すと

その指に向かってキックをおみまいする


「バシイ!!」

「ぬ・・!」

リズに蹴られた巨大な指がビクっとして離れる



「 ・・ん・・なんじゃ、人間・・人間か・・それも娘か・・

ということは・・ 」


肩のような大きな白い毛の丘の向こうから

ギョロリとした大きな目がリズに向けられていた


(猿・・だわ・・!)

崖の底にいたのは

巨大な白いまるで猿のような姿をした魔物であった

年老いたような皺のある妖しい猿の顔つきに

おでこには古そうな文様のある金色のリングがくっついていた


リズはちょうどその猿の背中の上の辺りの位置にいて

リズを受け止めたあの白い毛は

この猿の背中の体毛だったのであった


・・

リズが体毛を伝って気合でよじ登って猿の肩にのると

巨大な白い猿はこちらに声をかけてきた


「 わしはこの場所の主、「白鬼猿オオフクロ」という

おぬしが・・リズという娘だな 」


(え・・!)

リズは少し驚いたけど声を返す

「ど、どうして私の名前を知っているの・・!」



「 わしらは・・かつての同志 遠き場所で繋がっている

あの老いぼれた亀がおぬしたちのことを言っておったのだ


閉ざされたわしらの魂を導く者がやってきたと


近く赤い小さき者と人間の娘がやってくると・・ 」



「・・? 私は・・ただその赤い子を追ってきただけよ


何かを導いたりとかは別にしてないわ 

あの子はあなたたちの力を集めてはいるみたいだけど・・


あなたの力はあの子に渡ったの・・?」



「 ・・わしに負けを認めさせることができたら

力を渡してもかまわない、と やってきた小さき者にわしは言った


そうして戦いになった


あの小さき者はすさまじい炎の申し子じゃった


じゃがあいにく わしの古いリングに秘めた力と

この特別な体毛を組み合わせれば魔法の炎など一切通じん


あの小さき者がわしに負けを認めさせるほどの

炎でのダメージは与えられなかった・・ 」


(・・・)

確かにこのお猿には少し焦げたような跡はたくさんあったけど

この白い体毛に防がれていたようだった


「え・・でもあなたの背中には あの子の饅頭マンが・・」



「 饅頭・・?あれは饅頭なのか うまそうには見えんがな


まあ負けは認めることになった


炎を陽動にして・・

わしの・・〇《きん》の玉を殴られてしまってな・・

的確に打ってきおって・・


やむを得ず負けを認め

伏してわしが痛みに耐え忍んでいる間にあれはつけられてしまったのだ・・ 


うっ、まだ少し痛む・・ 」



「・・・・」


(〇《きん》の玉ねえ・・、あー、大きいね・・

だからオオフクロかあ・・

まあそこを殴られてしまってはね・・

私はよくわかんないけどね・・)


白鬼猿オオフクロの〇《きん》の玉はとっても大きくて

体の割合に対して昔の狸の置物についている〇《きん》の玉のように

そこだけつるんとして白の体毛はない立派な袋でとっても大きくて

弱点は丸出しといった感じだった


・・・

・・


「 ぬ・・ ここも、か・・ 」


白鬼猿オオフクロは白い空を仰ぐ

少し白い体毛を逆立てて その雰囲気が変わる


「・・?」



「 その直後だった・・


あの小さき者の様子は急変した・・ 」


「・・!

そうよ あの子・・あの炎の中にいて・・どうなってしまったの?」



「 小さき者の中では今 常に力がせめぎ合っておる・・


膨大な力があの小さき者の中でぶつかり

小さき者の魂はそこでも闘い続ける・・


その力に拮抗するために

小さき者は力が流れくるたびに力を変化させている 


わしらの持つ魔力と魂魄の力は小さき者と繋がった魔力の道を

通じて小さき者に送られる


強くなる世界から集約する呪いの力と拮抗する、

小さき者とわしらの力・・


呪いの力に打ち勝つ最後の最後まで・・終わりなき闘い・・

小さき者の魂は身を裂く苦しみの中で

その意志のためにあの豪火の中で戦い続けている・・



・・ワシはこうして正気をまだ保っておるが

閉じられた悠久の時を時を過ごすうちに

もはや言葉を失い 我を失った我が同胞たちは多い・・


小さき者はその者たちとも血みどろの戦いを繰り広げておる・・


強い子じゃ・・、じゃが不憫な子じゃ・・ 」



「そ、そんな・・」



「  娘よ 

あの小さき者が行く先の最後の最後に救いの手があったなら・・


それはおぬしが差しのべるのだ  」



「・・!」



「 ゆくがいい 娘よ 知っておろう、ここもじきに崩れる 」


「!!」


(ピシイ・・!)

白鬼猿オオフクロが見上げていた白い空には

僅かに異様な黒いヒビが入り始めていた


「  」

その空のヒビの下の辺りには木々に隠れていたけど

前に会った白い巨大亀のところにあったような古い門の柱が

苔に覆われて崩れかけた形で見え隠れしていた


「(そ、そんな・・!

崩壊の仕掛けはもうすでに仕込んであったというの・・?!)」


「ミスラ!水のシャボン玉を・・!」


「え・・私のシャボン玉は上にはいけないよ」


「あっ・・、そうよね」


(ならコマンドジャンプ・・、でもここは崖の下すぎて

2段ジャンプでもそんなに上までは上がれないわ・・!)



慌てている私の様子を見て


「 ・・なんじゃ飛ぶ手段を持たずにここに降りたのか?

ならば少しここに乗れ 


上にはちょうどおぬしの連れの気配が来たようだぞ 」


(え・・、もしかしてクロージュさんがこっちに・・?)


「スッ・・」

白鬼猿オオフクロは背中に立つリズに大きな手を持ってくる


リズは言われた通りに 

そのゴワゴワした白い毛に黒い皮の手のひらに立ちのる


(もしかしてここからこのお猿がジャンプとかして

崖の上まで運んでくれるの・・?)

と、リズは期待して思っていたら



「 わしはここからは出られんからな 」


その手をちょうど自身の猿の立派な大きな〇《きん》の玉の袋の

真上の高い位置に持っていくと


「ええ・・!」


そこで手のひらを返して

まさかの〇《きん》の玉の上にリズたちを落とす

「ヒュウウ・・!」


(ちょっとお・・!)

そこに戸惑いながらバランスを取って宙から両足で奇麗に着地するリズ

着地した足にブヨン!としたお猿のあったかい袋の感触がする


その直後に


「( バイーン・・!! )」


「な・・っ! えあああ!」


ものすごい玉の袋の弾む力でリズの体は

崖の上に向かって勢いよく飛び出していったのであった



「 さらばだ・・ 運命の娘よ 」


白鬼猿オオフクロは飛び出したその姿を見届けると

リズが足から蹴りだして弾き出した立派な玉の袋を

大事そうにさすっていた




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