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瞳を見るとBURST HEAT! VS世紀末格闘少女リズと不思議の格ゲー魔法世界  作者: 綾町うずら
あんまり目覚めない力と来たる天の災い編
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第10話 生み出したからには

 (ドオオオオン!)

私の目の前にそびえたつずんぐりとした人形

まるで立派な お饅頭のようだ


でも足と腕があって立ってるから饅頭マン?

いやでも一応セミの羽もあるし・・セミっていう見方も


小さくてもセミの羽さえついていれば

それは分類上セミといっていいのではないかという適当な推測


今まで細部まで細かく作ったセミたちの姿の面影はそこにはなく

形態は元に戻り

ずんぐりとした丸くて太いシンプルな土偶のような単純な造形


(お・・!)

だけどなんとここで

ちゃんと細かくイメージなども調べてみると形態が戻ったもののこれは

一応ちゃんと今まで作ったセミの抜け殻たちの集まりであって

だけどもこれは超集合体になった姿で結晶体のようなものらしい 


つまり・・

これはただ元に戻ったというわけではなかったんだ


今までは中身なしのお饅頭だったけれど

今度は中身が詰まったお饅頭になった・・!みたいな

そう思うとこの変化も捨てたもんじゃないなって

ただしその中身はセミでいっぱいだけど


そんなだから単純な構造であった時は動けなかったずんぐり人形とは違って

中身が詰まったこの人形は新しく動くことが可能になったみたい



それにしても


「・・・・・。」

いやあ立派だなあ・・

どうしようこれ・・


これ捨てる時どうすればいいのかしら

部屋に置くインテリアとしてもちょっとこれは・・


私はただこの世界の普通の魔法を求めていただけだっていうのに

こんなことって・・



「でもね 生み出してしまったからには 責任をもたなければならないの」


(試そう・・!)


だけどだれに・・?

でもこんなの お父様につかってしまったらどうなるんだろうね

ちょっと想像がつかないなあ・・


でもわたしはお父様には健やかに生きていってもらいたい

飯の種だし・・


ていうか お父様は今は抜け殻たちでいっぱいだから・・

かといってメイドさんや使用人さんたちはいい人たちだ


ということはもう


「バゼロお兄様しかいないか・・」


その判断は早かった

わたしは今夜 お兄様の寝込みを襲うことにした



・・・・


夜になり静まり返るクリスフォード家の屋敷内


そして自分の部屋をこっそり抜けだして

バゼロお兄様の部屋の前までやってきたリズ

お兄様はこの屋敷の王様なのでまるで防犯意識がない


この家の中で誰かに襲われるなんて想像したこともないだろう


私のようなかわいい女の子に寝込みを襲われるなんて

お兄様は幸せ者ですね 


(お兄様が起きてる時に試すとバレたら めんどくさそうだもんなあ)


「キィ・・・」

お兄様の部屋の扉をわずかに開けて少し中を確認をする


(スッ)

まずは小さくて精巧な自信作の鳴り虫の抜け殻を先鋒として 

その開いたドアの隙間から忍ばせることにする


リズは就寝用の薄手の余裕のあるサイズのドレスにつまずかないように

ドレスの端を持って慎重に身をかがませてから

手を差し出して丁寧に指先から先鋒のセミをそうっと出す


(いっておいで・・)


「・・・」

・・

そうすると少したってから

リズが放った鳴虫セミがすんなり接触に成功して

お兄様の名前が私の脳に浮かんでくる


(「バゼロ・クリスフォード」・・よし成功ね )


これでなんとなくお兄様が動いていない・・寝ていることは推測できたので

本題に入る


「(いでよ・・饅頭マン・・!)」

(どおおおん)


お兄様

私はどうやら一応ちゃんと魔法少女だったようです

ただ貴族としてはいかんせん私の真の才はどうやら

このようにかわいい虫をたくさん作れて

ついでにこの二足歩行のたくましい饅頭を手作りすることだったようです


認めて下さいますでしょうか


・・

基本的にこのセミシリーズたちはリズ以外の他人から見えることはない

でもかといって道中の障害物をすりぬけさせることはできないらしい


だから先鋒のセミと同じようにもう少し広く扉を開けて その部屋の中に

リズの後についてこさせている大きな饅頭マンを誘導して

そこからスタートしてもらう


誘導された饅頭マンがぎりぎり通れるくらいの開いた扉から

のっしのっしとお兄様の部屋に侵入していく


(いっておいで・・)


「・・・」

(うーん しかしこの目で見てみたいわね

やはりこの饅頭マンの生みの親としては見届けないと)


そう思って私もソッと部屋に入って饅頭マンの後を足音を立てずについていく


・・・

・・

普段から健康体そのもののお兄様のお部屋は

私の部屋と違って大層な魔除けの装飾品とかはないので

普通の屋敷の洋室の雰囲気


すぐ目に入ったお兄様の机の上には勉強をしていたような読みかけの本と

何かの術式を途中まで書き写していたようなノートに

インクと羽のペンなどが散らかっていたけど

それ以外は片付いていた


引っかかるものもないから饅頭マンとしても進みやすいだろう


のっしのっしと堂々と進んでいく饅頭マン 

でも物音は立てていない

私の後ろについてこさせていた時も思っていたけど 

改めてなんなのだろうこいつは


・・

目的のお兄様のベッドまではすぐだった


(  )

侵入してきた深夜の見物人の前で

お兄様はベッドで気持ちよさそうに上向きで眠っている

意外と几帳面だったようで

就寝時用の変な柄のアイマスクを着用していた


(当たり前だけど お兄様も普段結構いいベッドで寝てるんだなあ、へえ・・)


(スピピ~・・)

妙なアイマスク姿のお兄様の鼻のうえには

接触に成功した先遣隊のセミの抜け殻がひっついていて 

ベッドで安眠するお兄様の呼吸に合わせて鼻提灯のように

一定のリズムで上下していた


でもこの時少しリズに不安がよぎった


抜け殻のセミたちは小さいし虫だから楽に這い上れるけど

この大きな体の饅頭マンは

このお兄様のベッドの段差はきついんじゃないだろうかって


すると

ベッドに近づいた饅頭マンは

「ブブ・・ン」

なんと気合を入れて必死に背中についた小さいセミの羽を動かし始めたのだった


(ま、まさかこれでとべちゃうの・・?)


と思ったけど

ちょっとしたら饅頭マンはすぐ疲れて肩で息をするような仕草をして

めっちゃ小さい羽の羽ばたきを止めてしまった

「・・・」


「フン!」

普通に太い脚の力でジャンプしてお兄様のベッドの上にのし上がった 


(ええ・・)

でも物音は立てていない


(へえ・・たいしたものだなあ・・)

ぼんやりとリズは考えていた


「(ここからなんだよね・・)」

リズは小さい抜け殻なら なんとなくイメージがついていたけど

この饅頭マンが寄生するとどのようにどうなるのかっていうのは

あまり想像ができていなかった


(すっ・・すっ・・)

眠りこけている間抜けなバゼロお兄様の前に仁王立ちでたたずむ饅頭マン

なにかのタイミングを押し計っているようにも見える


「(・・?)」

なにかダイブ・・?をする前のような


だけどそんな迷っている様子では

あのお兄様にあなたのことを認めてもらえないわ


だから私はその適切なタイミングを手助けてあげることにした


「(今よ・・!)」

そうビビビっとイメージで教えてあげる


すると饅頭マンは

特にダイブするんじゃなくて

「ぼすううん・・!」

そのままバッタリと倒れてお兄様に覆いかぶさっていた


「(え・・!こうなるんだ・・!)」

私はひとしきり意味もなく感心しているが

この実験で重要なのは寝ている被検体のアイマスクお兄様のほうだ


お兄様のほうから少しくぐもったような声が聞こえる



「あっ・・ピッ・・ピャア・・!」


あんなに大きな饅頭マンに襲いかかられて楽しそうな声をだしているお兄様


饅頭マンはその大きな体でお兄様をしっかりと上から押しつぶしていて

ゴマの飾りかと思っていた胸の中央の五つの点点が

おもちゃみたいにちょっとだけ光っている

(ピっカー)


(ふーん・・)

(でもこの重厚な饅頭マンも寄生魔法からの作成物であるせいか

他の人の目に見えないし

他の人には重さも感じないんだよね 不思議な魔法だ)


押しつぶしているけど押しつぶしてないっていう

でも反応を見る限り

押しつぶしてる相当のなにかは感じていると見て間違いなさそう


(これは勉強になるわあ)

ちょっとやりすぎかもとは思ったけど


でもあの天才的なお兄様にこの魔法を認めてもらうためには

これくらいのことはしなくてはならないはず


(まあ実際これくらいの程度の負荷はよくあることだから)

さんざん施設の実験で電極をペタペタ貼り付けられてきた経験のためか

あんまり他人の体で実験をしていることに抵抗感がないリズ


どうしても分からないことが浮かんできたのなら

それは検証をしてしかるべきだよね 当然よね


「ギャッ・・ピ・・ピウゥ・・・・」

お兄様の言葉はあまり聞き取れなかったけど そう何かを呟くと 

また深い眠りの中に落ちていったようだ


まさか安眠効果もあるなんて 

さすが合体した饅頭マンのパワーは計り知れない


((シュウウ・・))

その時 私の中に饅頭マンが寄生した魔力がやってくるのを感じた


どうやらお兄様と和解して

饅頭マンを魔法として認めさせることができたみたいだ


「これがお兄様の魔力・・?」

お兄様がしっかり安眠したのを確認したので

部屋の中で少し声をだしてみる


お試しの本題だった饅頭マンの吸収の力は抜け殻たちの集合体なだけあって

その寄生先から

体を巡る魔力のざっくり一割程度の魔力を

密かに供給することができるらしい


ここまでやっても一割程度くらいしか取れないあたり

元になったセミの性能がどれだけ低いかがうかがえる


でもお兄様の魔力は量だけはすごいので 

やってくる量はそれでもなかなかなもの


「うーん でもなんかなあ・・」

けどなんだかリズとは魔力の相性がすごく悪いというか・・

すごく扱いにくいといった感じがする

他人の魔力だからだろうか


(一応身内からの魔力なのになあ・・)


私は魔法もほぼ使えないから

普通に邪魔というか極端に活かしにくいといった感じだ


けど使えないにしろ魔力があるっていうのは正直助かる気がする

ないよりはあった方が気持ち的にも違うし安心だよね


「これからに期待ね」

私が連日求めていた普通の一般的な魔法ももしかしたら

魔力の操作さえできればこれでいつか使えるようになるかもしれない

そんな希望が生まれる


お兄様の寝込みを襲った今夜の収穫はとても有意義なものだった


わたしは無事にお兄様と和解した饅頭マンはそのままにして

静かに部屋へと戻ることにした


・・・・

帰ってきたリズの部屋のベッド


「ふう・・」

いいことをしたから今日は寝つきがよさそうだ

私は寝る前に少し寄生魔法を使って

追加の鳴虫たちを作っておくことにする


前から1日20匹くらいは作れるかんじだけど

魔力を得た今ならどうかと思ったからだ


しかし・・


「うーん・・?」

(増えてない、なあ・・)

変化はしていない

前と同じくらいの抜け殻生産ライン手前で限界を感じている私


魔力はある 確かに感じる 

それはリズにとってこの世界で得た新しい感覚だ


だけど得たお兄様の魔力は抜け殻を作ったからといって減っている感じがしない

せっかく寄生をして得た魔力なのにやっぱり全然活せていないっぽい

やっぱり別系統のなにかがある・・?


「どういうことなのかしら・・?」


そうしてその日の手作業はもう切り替えて リズは眠りにつくのだった




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