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誘いの音

 私の気分とは対照的に、空は晴れ渡っている。

 風は少し冷たいけど肌寒いほどではなく、日向のぬくもりと相まって気持ちがいいくらいだ。

 緑溢れる平日の公園には、まばらに親子連れが居るくらい。

 小さな子供のキャッキャと遊ぶ声に混ざり、微かな笛の音が聞こえてきた。


(どこで吹いてるんだろう)


 立ち上がり、誘われるように音の鳴るほうへ向かって歩いていく。

 細い糸を辿るように、音を頼りに公園の中を歩いた。

 春にはお花見が楽しめそうな、桜の木が立ち並ぶエリアに差しかかる。緑だった葉っぱは紅葉し、赤や黄色や茶色といったグラデーションに染まっていた。

 冬の足音が近づく頃には、これらの葉は全て落ちてしまう。

 移ろいゆく季節を実感し、よけいにセンチメンタルな気持ちになる。

 昔の人は、移ろう気持ちを表現するときに、秋風が吹いたと表現したらしい。もう、キミに飽きてしまった。恋心が無くなってしまったという意味だ。


(ダメ……また泣きそう)


 私は、まだ好き。

 二つ年上の先輩のことが、心も頭も占領している。

 別れを告げられたことが信じられなくて、悔しくて、切なくて、身も心も散り()りになってしまいそうだ。


(私のなにがいけなかったんだろう……)


 うまくいっていると思っていた。仲良く日々を過ごしていると思っていたのに。そう感じていたのは、私だけだったみたいだ。

 未練タラタラで、情けない。

 鉛のように重たかった足が止まり、視界がぼやける。ポタリポタリと、大粒の涙が落ちていった。


「うっ……う〜〜っ」


 手で口元を抑え、その場にしゃがみ込む。堪えることのできない嗚咽。

 まだこんなに好きなのに、心の整理なんてつくわけがなかった。


「大丈夫ですか?」


 様子を伺うように掛けられた声は、耳心地がよい低い男性のもの。

 泣き顔を見られたくなくて、下を向いたまま「大丈夫です」と震える声で答えた。

 男性が、戸惑っているのが気配で分かる。

 それはそうだ。こんなところで泣き崩れていて、大丈夫だと思うわけがない。

 しばらく逡巡し、男性は私に声をかけることなく踵を返した。

 ほどなくして、笛の音が聞こえてくる。


(もしかして、さっきの人?)


 息が続く限り、ひとつの音をずっと吹き続けるロングトーン。一音ずつ音階を変え、高い音から低い音へと移行していく。

 いつの間にか私の涙は止まり、足は自然と音のするほうへと向かっていた。

 笛の音が、ピタリと止まる。

 横笛を唇に当てたまま、さっきの男性が訝しげな視線を私に向けていた。

遠くに居ても、笛の音って響いてきますよね。

全3話です。

またお付き合いください。

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