【第一章】第五部分
つかさとゆめは、町の小さなデパートで、ふたりでおそろいにしようとしたコーヒーカップを物色していた。
「あたしは、こっちのカメサマカップがいいな。」
「いや、オレはこっちのヨン様ウサギがたばこを燻らせているキモイ絵柄がかわいいと思うなあ。」
キモイ=かわいいという概念は、ニガウリを美味いと思う感覚に似ている。なお、カメとウサギで、根本的に意見が合わないのはいつものことでもある。
「うぬぬ。仲良くしてるのだ。許されない不純異性豪遊なのだ!」
仲良くもなさげだし、豪遊しているようには見えないが、それは主観が判断するものである。
「もう、こうなったら、うりが実力行使するのだ。ふたりはこの世の地獄を見るのだ。」
厳密に言えば、地獄はこの世になく、あの世を居場所としているハズである。
「見るのだ。うりのデジタル変身魔法!」
場面はゆめとつかさに戻る。
「あたし、ちょっとカワヤに行ってくるわ。」
オトメなゆめはトイレという単語を使いたくない。しかし、お花を摘みにいくというフレーズもあまりに知られ過ぎて、もはやトイレにいくという直接的な表現とされているため、カワヤという単語を使うようになった。
「忙しいヤツだなあ。」とつかさが思っていたら、ゆめはすぐに戻ってきた。早かったな。
「人の花摘みに感想なんか、言うんじゃないわよ。」
花摘みという言葉に若干の違和感を得たつかさだったが、どうでもいいことなので、すぐに忘れた。
「つかさ。もうこんな付き合いはやめるわ。今日でお別れよ。」
「いきなり、冗談言うなよ。」
「こんなこと、冗談で言うことじゃないでしょ。」
「たしかにそうかもしれないが、理由を言ってくれよ。」
ゆめは貝のように口を閉ざした。