【第一章】第三部分
つかさは、気持ち悪いヨンリオグッズに目移りしていたのであるが、思春期女子はそう思わない。
ほかの女の子のヨンリオを気にするつかさ。ゆめはつかさが浮気目線だと思って警戒する。しかし、奇妙なことに、嫉妬してるというよりは、付き合ってる以上、浮気を責めなければいけないという、義務感で動く自分がいた。
『ビュー!』
突然、強い風がつかさを襲った。
「うわあ。からだが勝手に動く!」
『ガン!』
つかさは、郵便ポストに軽く激突して、わずかに額から流血した。
「フンだ。風魔法の力をナメないでよね。」
ゆめが魔法を使うのはこんなことぐらいだった。アナログ魔法は原則使用を禁止されており、使えるのは、こんな些細なことであった。
「おや、こんなかわいいヨン様ウサギはめずらしいなあ。」
つかさはドス黒いウサギ人形を手にしていた。風が他の女子が持っていた人形が飛ばされてきたのだ。顔の半分が斜めに千切れていて、鼻がぶら下がっている。不気味さしかないのだが、ヨンリオファンはこれをかわいいと愛でるのである。
「きゃああ、ウサギ~、それもめっちゃブキミ~!」
ゆめは髪を掻き回しながら、慌てふためいている。赤いリボンが外れかかっている。
「クククッ。うりはヨンリオ否定するオンナを許さないのだ。これがデジタル魔法の威力なのだ。」
自称『うり』の電柱の影に隠れているのは、黒く長い髪の小柄な紫の和服美少女。着物の上からでもわかる巨乳を誇る。着物はなぜか、ヨンリオデザインの、首なしウサギが、血みどろで、指のない前足を舐めているイラストが背中にデカデカと描かれていた。
デジタル転移魔法で、ウサギのデータ位相を可能としたのだ。アナログでは物体自体が移動するが、デジタル魔法は情報移動と再現である。移動できるものはデジタル技術を使ったものという条件があるが、世の中の製商品は、ほとんどがデジタル技術を用いたものである。
なお、情報の移動を行っただけなので、元となったウサギ人形現物はそのままあり、再現された情報はやがて消えてしまう。
この日のつかさとゆめははぎくしゃくしたままだった。