【第一章】第三十二部分
緋景がメイド服を身に纏った理由。
「最近、お手伝いさんとして、入会してきた赤空ゆめさんが、やけにお兄様に親しげに話していますわ。ワタクシもあんな風に、お兄様にスリ寄ることができればいいのだけれど。」
ゆめの実態とは大きくかいりした解釈であったが、緋景の目にはそのようにしか映らなかったのだから仕方ない。悲観主義は、他人の芝を青々とみせてしまう薄めの毒薬である。
「どうぞ、お入りください、ごきげんよう。」
紺色メイド服のゆめが返事をした。緋景化けはばれたものの、お手伝いゆめは健在だった。しかし、奇妙な語尾はすでに癖として、キープしていた。
鳴志司はゆめの変身魔法を知ってか知らずか、何事もなかったように接していた。
緋景はこわごわ中に足を踏み入れた。
「あのう、お兄様。ワタクシも今日から生徒会に加入して、メイド長をやりたいのですが、よろしいでしょうか。モジモジ。」
緋景は交差させた腕を下腹部で、動かしている。
「なんですと!?あたしより後に入ってくるメイドがメイド長とか、ありえないわ!ごきげんよう。」
「ワタクシは、生徒会長の実の妹、滝登緋景です。だから社会的学校的な地位はあなた、赤空ゆめさんよりもはるかに高いのですから、当然なのですわ?って、当然って言い切れるのかしら?」
にわかに悲観主義が緋景の頭に浮かびあがってきた。
「そうだな。メイド長というのは難しいな。」
「えええ!?お兄様、ひどいわ!」
「まあまあ、会長。そうおっしゃらずに、お手伝いさんお手伝いとしてはいかがですか、ごきげんよう。」
「うむ。長幼の序は重んじなければない。ならばよかろう。」
「えええ!?ワタクシが下賤なメイドの風下に座るっていうんですの?」
ゆめは下卑た表情で、口の端を吊り上げた。




