【第一章】第十六部分
翌朝、緋景はつかさの下駄箱に、手紙を豆腐を壊さないような感じで、そっと差し入れた。
『今日の放課後、昨日のヨンリオショップでお待ちかねですわ。』
手紙を開いたつかさは苦笑したが、ビミョーに空気を読めてなさげな文面に興味を引いた。
結局、つかさは緋景を数少ないヨンリオ仲間だと思い、呼び出しに応じることになった。
「ようこそ、いらっしゃいましたわ、喜多見つかさ様。」
「滝登さん、こんにちわ。昨日ぶりだね。」
「アイビキにご賛同頂いて感謝感激ですわ。」
「アイビキ?イビキなんてかいてないけど。あっ、ここで会うことをそう呼ぶんだな。ヨンリオ・スラングなんだろうな。」
『じと~。』
無愛想な着ぐるみ店員がふたりに陰湿な目線を浴びせかけていた。
「ご、ごほん。ボクたち、ちょっと声を小さくした方がいいのかな。」
「そ、そうですわね。」
「これは年代物だね。」
「そうですわ。まぼろしの逸品と言われたフィギュアですわ。」
年代物とは20年前に、落雷があって、工場ラインが止まったときのもの。細かく言えば、ラインが止まった瞬間に生産されたものは、製造ロボットの縫い針が狂って、人形の瞳とその下にに小さな穴を開けてしまい、それが奇妙なリアルさ、つまりまるで泣いているように見えるのである。それはたったひとつしかなく、非売品として、マニアの間では知られていた。
しかし、レア物フィギュアに対する緋景とつかさの反応はビミョーに食い違っていた。
緋景はキモカワイイ。つかさはブキミかわゆいと意見であった。一般人にはその区別がわからない。
「キモカワイイというのが正しい評価ですわ。」
「いやいや、ブキミかわゆいというのが妥当な査定だろう。」
「絶対にキモカワイイです。百歩譲って、きもいけど、かわいいですわ!」
「なんのなんの、千歩譲って、不気味カワユイだよ!」
ふたりの表現では、何も変わらないので、平行線は地平線となるだけ。