【第一章】第十五部分
ますます泥沼にはまっていく緋景。まわりの空気も明るい店内が曇ってきた。
仕方なく、あるフィギュアの棚に手を伸ばした緋景。
「はっ?」
「えっ?」
緋景の手が男子高校生の手に当たってしまった。つかさもヨンリオショップに立ち寄りしていたのである。
お互いに紫水晶学園の制服を着ていて、雰囲気的に新入生であることが直感された。
「し、失礼しましたわ。」
「いや、こちらこそ、ごめんなさい。でも、これなんかどうかな。」
つかさが手に取つたのは、真ん中から、からだの左右が白黒に色分けされたウサギフィギュア。腕を背中に回して緊縛され、白目を剥いている。
「とてもステキですわ。」
「うん、そうだね。すごくかわいいよ。お付き合いしたいなあ。」
こう反応したつかさは、たまたま、緋景を真正面に見ていた。
『ドドド、ドキン!』
緋景の心拍数が異常値を計測した。
緋景は、つかさの言葉は自分に向けられたもの、つまりコクられたと勘違いした。好意と恋の区別がわからない妹は、これが恋だと思い込んでしまった。
「お名前は存じ上げませんが、激しい情熱を感じました。ワタクシもお付き合い申し上げますわ。」
「それはいいなあ。一緒に同じ道を歩こう!オレは紫水晶学園1年生の喜多見つかさ。」
「ワタクシは滝登緋景と申します。同じ新入生ですわ。」
つかさは、ヨンリオショップの同志として、ゴーサインを出し、緋景はつかさに、男女交際OKを出したのである。




